挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本一冊で事足りる異世界流浪物語 作者:結城 絡繰

初めての引用編(書籍化該当部分)

9/197

静夜の振り返り

第一章のダイジェストのようなものです。
 なだらかな丘に臨む草原。
 吹き抜ける風を肌で感じつつ、遠くをぼんやりと眺める。
 パチパチと焚火の爆ぜる音が闇夜に小さく響いた。
 とても静かで落ち着く夜だ。
 俺は溜息を吐き、満点の星空を仰いでいた。 

「ミササギさん? どうしたんですか、こんな時間に」

 自分の名を呼ぶ声に気が付き、ゆっくりと振り返る。
 発言の主は、不思議そうに小首を傾げていた。傍らの焚火に照らされた瞳がじっと俺を見つめている。なんだか吸い込まれそうな魅力を感じるな。
 俺は彼女に微笑みかけ、隣に座るよう勧めた。

「ちょっと眠れなくてさ。トエルこそどうしたの」

 そう言って尋ねると、少女は膝を抱えたままぽつりと答えた。

「私も寝付けなくて……一緒ですね!」

「そうだねー」

 数瞬の沈黙。二つの視線が交錯する。
 妙な間に耐え切れず、俺の方が先に吹き出した。
 それを見た少女―――トエルもすぐさま屈託のない笑みを俺に向けてくる。その場の空気を自然と和ませられるのは、ある種の才能だと思う。
 落ちていた枝を折り、それを焚火の中へと放り投げた。

「―――ミササギさんと出会った日も、こんな風に喋っていましたね」

「おぉ、そういえばそうだったなぁ」

 唐突なトエルの言葉に思わず苦笑する。
 俺も今まさにそのことを考えていたからだ。脳裏には『この世界』に来てから目にしたいくつもの光景が浮かんでは消えていた。

 交通事故で死んだかと思えば、神によって剣と魔法のファンタジーな世界に転生させられ、世界に点在する書物を回収を依頼された。
 そして、右も左も分からないうちに冒険者となり、あれよあれよという間にトエルが仲間になっていた。エルフと獣人のハーフである彼女は、細く尖った耳に狐の尻尾を持った魔法戦士。控えめな性格だが、いざという時にも頼れるメンバーだ。
 ぱたぱたと尻尾を振るトエルを横目に、さらに焚火に枝をくべる。

「あの時はアルさんもいませんでしたよ」

「俺とトエルでさえパーティーを組んでいなかった時期だからね」

 懐かしそうに目を細めるトエルは、どうやら思い出に浸っているらしい。
 俺たちのパーティーにはもう一人仲間がいる。
 トエルと一緒に受けた護衛クエストで出会ったアルバート・ラウーヤという冒険者だ。今は近くのテントで眠っているであろう彼は、屈強な肉体と冒険者としての豊富な知識を経験を兼ね備えていた。そのため、戦闘では絶大な信頼の置ける人物である。
 大剣を片手に魔物を蹂躙する光景は、かなり非現実的だったりするのだが。

「……いやぁ、三人であれこれやらかしたよねー」

 そう昔の出来事ではない数々の体験を振り返る。どれも俺にとっては新鮮で、心に刺激を与えてくれるものだった。
 ニコニコと笑いながら、過去を思い出す。
 すると、こちらを向いたトエルが一気に詰め寄ってきた。

「あれこれって! そんな簡単に流せることではないですよっ」

 なんだなんだと思っていると、拳を固く握ったトエルにまくし立てられる。どうしていきなり怒鳴られたのだろうか。
 理不尽な仕打ちに素で驚いてしまった。
 トエルを宥めつつ、落ち着いて疑問を投げかける。

「ちょっと落ち着こうよ、ね? まず、なんで怒ってるか教えてほしいかな」

「怒ってないです! もう、あの時だってミササギさんは能天気で……」

 今の言動は悪手だったらしい。凄い剣幕で叫ばれてしまった。どう見ても怒っているのは、俺の気のせいなのだろうか。無論、ここで本音を口に出すのは火に油を注ぐ行為であるので大人しく黙っておく。
 それから、トエルにこれまでの俺の問題行動を次々と指摘された。

 嫉妬や妬みで襲ってきた冒険者を皆殺しにしたこと。
 巨大な地下迷宮を攻略し、入口をド派手に爆破したこと。
 凶悪な魔物をゴーレム化し、チェイルという名で仲間にしたこと。
 近道のついでに盗賊のアジトを壊滅させたこと。
 トエルを攫おうとした貴族を拷問の末に惨殺したこと。

 どれほど危険な行為をやってのけてきたのかを力説され、そのたびに俺が彼女に謝る羽目になった。別にそこまで掘り返すことではないと思うんだけどなぁ。なんだかんだで最終的にはこうして上手く生き残っているのだし。
 俯いて拗ねるトエルの頭をぽんぽんと撫でる。

「まあ、今後はできるだけ自重するよ。うん、できるだけ……」

 ところが俺がそう呟いた途端、トエルがバッと顔を上げた。先ほどまでとは打って変わり、得意気な笑みを浮かべている。

「本当ですか!? その言葉、絶対に忘れませんからね!」

 トエルは勢いよく立ち上がると、今度は俺の頭を撫でてきた。髪を梳かすように指で優しく触れてくる。
 機嫌を直してもらうためにも、しばらくはされるがままにしておいた。

「よし、朝も早いことだし俺はそろそろ寝ようかな」

 トエルが満足したのを見計らい、さりげなく腰を上げる。
 明日は武闘大会の予選に出場する予定となっている。国の中心地である帝都に赴くついでに参加しようということになったのだ。
 だから、さすがにこれ以上の夜更かしは行動に支障を来たすかもしれない。常に万全の体調を保つことも冒険者としての務めだからね。
 ロングコートを脱ぎ、自分のテントの中に投げ込む。
 トエルもぐっと伸びをしてテントに入ろうとしていた。

「トエルも早く休みなよ。それじゃ、また明日ー」

「はい、おやすみなさいです」

 お互いに挨拶してから、それぞれのテントに戻る。数時間後には日が昇り、トエルに元気よく叩き起こされることになるのだろう。朝の弱い俺には恒例の一日の始まりである。
 身体を横にして大きく息を吐いた。

(我ながら本当に奇妙な人生を歩んでいるよな……)

 目を瞑って感慨に耽る。
 こうして別の世界で生きていること自体が異常なのだ。そして、自身の目的のために数多くの命を奪い、『今』を謳歌している。トエルにはああ言ったが、これからもきっと同じことの繰り返しだろう。
 もちろん、躊躇するつもりは一切ない。ここはもう前世のような平和な国ではないのだから。下らない博愛の精神を大事にしていては、いずれ足元を掬われる。

(さて、明日は何が起こるか楽しみだね)

 枕元の拳銃に触れ、薄笑いを浮かべた。
 俺は神様からとある頼みを受け、完遂するための力も貰った。
 この世界には溢れんばかりの未知が存在している。俺はそれらを好きに見聞きして感じることができるのだ。
 こんな最高の幸せを噛み締められることに感謝しなくては。
 俺を転生させた神に心の中で礼を言ってから、そっと意識を手放した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ