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本一冊で事足りる異世界流浪物語 作者:結城 絡繰

異世界武闘大会 予選編

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血夜の振り返り

二章のダイジェスト風のSSです。
 ひどく居心地の悪い場所だ。
 床には数え切れないほどの肉塊が落ちているし、苦しげな呻き声がBGMのように室内に響いている。
 尤も、自分がこの光景が生まれた原因であるが故に、そうそう文句も言えない。
 帝都某所にあるボロ屋敷の一室、俺は人間だった残骸を眺めていた。

「あーあ、血生臭いなぁ」

 顔を顰めつつ、死体の間を跨ぎ歩く。既に見慣れた光景とは言え、血と臓物とその他諸々が入り交じった部屋で寛ぎたくはなかった。
 適当な死体とその遺品を拝借しながら、俺はその部屋を後にする。

「……少し休むか」

 閉鎖感溢れるボロ屋敷内を散策すること約数分。比較的汚れの少ない、無人の部屋を見つけたので使わせてもらうことにした。
 ここに来るまでの部屋はほぼ例外なく死体に占拠されていたからな。血塗れの廊下を歩くのにも辟易し始めていたので助かった。
 手頃な椅子に腰を下ろし、ゆっくりと息を吐く。

「ふぅ、疲れた」

「うんうん、いい殺戮ぶりだったよ。襲撃された側にとっては堪ったものじゃないけどね」

 俺の呟きに答える背後の誰か。
 振り返るまでもなくそいつの正体は分かっていた。

「神様が俺に何の用なんだ?」

「いや、深夜に君が気まぐれで町中を徘徊していたからさ。これは楽しいものが見られそうだなぁと思ったら、案の定だったよ」

 俺の胡乱な視線を一切気にせず、神様はそう言ってのける。
 こんな奴だが、あまり邪険に扱うわけにはいかない。現代日本で事故死した俺は、神様の手によってこのファンタジーな世界に転生したのだ。色々とうざい言動が目立つものの、一応感謝はしているからね。
 隣の席に座ろうとする神様への文句を、そっと飲み込む。

「それにしても、ミササギ君は国の中心地とか関係なくやらかしているよね。神様びっくりだよ」

「犯罪組織を潰すことに何ら問題なんてないだろ。むしろ、治安改善に貢献したんだから感謝してほしいくらいさ」

 わざとらしく肩を竦める神様に、おどけた調子で返答してやる。今まで俺は盗賊を始め、欲深い冒険者やダンジョンの主、果ては悪徳貴族まで結構な数の命を奪っていた。今更他者を殺すのに躊躇なんてものはない。
 だからこそ、こうして帝都の一角にある犯罪組織の巣窟に奇襲を仕掛けたりしているのだ。
 俺の言葉に満足したのか、神様は嬉しそうに笑みを浮かべる。

「いいね、問題ナッシングだよ! よくよく考えるまでもなく、君はそういう人間だからね。この前参加してた武闘大会の予選も、最高の戦いだったよ」

「あぁ、あれか……」

 手を叩いて喜ぶ神様に苦笑しながら、俺はあの波乱に満ちたイベントを心の内で振り返る。

 なんとなしに参加した武闘大会の予選。まさか、一回戦から大規模な殺し合いをさせられるとは思わなかった。
 朝の訪れない広大な森の中で、二チームによる壮絶な拠点の奪い合い。序盤から一緒にしたメンバーが皆殺しにされたり、延々と夜の森を歩き続けたりと散々な目に遭っている。

 さて、この一回戦を語る上で忘れられない二人の人物がいた。
 一人目はソフィアという名の修道女だ。どこかの神を信仰しているらしく、普段の言動から察するにかなり熱心な信者のようである。いや、アレをこの程度の言葉で表現するだなんて生ぬるい。
 彼女を端的に紹介するなら「イカれた狂信者」がぴったりだろう。敵陣に突っ込み、モーニングスターを振り回す血染めの修道女にはお似合いである。

「ソフィアさんも大概だけど、もう一人の子にはもっと手こずったよねー」

「あれは本当に厄介だった。ったく、二度も仕留め損ねたからな……」

 神様の嘲りを否定できず、俺は小さく悪態をつく。実質的な苦労でいえば、ソフィアさんとは比較にならないレベルだったからな。

 二人目の忘れられない人物は、エヴァという名の魔女である。
 妖艶な魅力を持つ彼女は、強力な魔法を駆使して俺を攻め立ててきた。予選一回戦の序盤で出会って以降、終盤までの妨害や襲撃は記憶に新しい。
 いくらファンタジーな世界観だからといって、個人でメテオ攻撃とか本当にやめてほしいものだ。
 あの意地の悪そうな笑顔を思い出し、苦々しく唇を噛む。

(というか、予選一回戦だけで内容が濃すぎだろ)

 大会予選は全部で三回戦まであった。
 一回戦だけでこれだけ過激なメンツに会い、様々な出来事に巻き込まれたのだ。時々、自分の運の悪さに真剣に悩んでしまうのも仕方のない話である。

「逆に二回戦はあっさり進んでたよね」

「その後で一悶着あったけどな」

 ニコニコと上機嫌な神様に苦笑いを返しておく。
 こいつはすべて把握している上で、癇に障る発言をするんだよな。さっきから俺の心を読んで、普通に会話を成り立たせているし。
 神様の質の悪さに半ば呆れながら、脳裏の情景は闘技場に移りゆく。

 続く予選二回戦は、打って変わって一対一の決闘だった。結界で囲われた闘技場で相手を倒す。単純なルール故に個人の実力が問われるものとなっていた。
 この決闘に関してはあまり語ることはない。俺たちのパーティはそれぞれ力を発揮して予選二回戦を突破した。自身の目標を改めて認識するいい機会になっただろう。

 問題はこの後だ。決闘で無事に勝利を収めた俺は、近くにあった森へと出向き、偶然ゴブリンの住む洞窟を発見した。
 ファンタジーの常識なのか、ゴブリンは弱い。現代兵器で蹴散らし、好奇心の赴くままに奥に進んだ結果、親玉であるホブゴブリンに遭遇した。
 青い肌に灰色の長髪を垂らしたその姿は、他の個体とは明らかに違う。実際に戦ってみれば想像以上の力で、単純な技量勝負なら俺は負けていただろう。
 結局スキルによる機転で殺せたものの、なかなか魔物も侮れないと感じた出来事だった。
 まあ、報酬としてホブゴブリンの死体で作ったゴーレム『プライ』が手に入ったのは大きかったが。

「三回戦はもう、ねぇ……」

「あれは死ぬかと思った」

 そうして予選のラストを飾った三回戦。
 内容は『如何に早く帝都に辿り着くか』というシンプルなものである。もちろんそこで普通の競争が展開されるはずもなく、道中は参加者同士の熾烈な戦いの連続だった。

 しかし、移動そのものは大したものではない。大抵の奴らは楽々と無力化できるし、高性能な改造軽トラに乗った俺たちのスピードは、他を圧倒するレベルだったからだ。
 問題は遙か彼方に目的地の帝都が見えた頃である。

(改めて考えても、よく生き残れたな……)

 順調に突き進む俺たちに襲いかかってきたのは、スケルトンの軍勢と一体のデュラハンだった。雪崩のように迫るアンデッドたちは、数の暴力で街道を追跡してくる。
 追いつかれていれば、まず致命傷を負っていたことだろう。
 そんな中、俺たちは銃火器による反撃に打って出た。

「やっぱりガンアクションはかっこいいよね! ミササギ君たちの銃撃はなかなか様になっていたよ」

「まあ、あれは楽しかった」

 走行する軽トラの上で、背後から接近するスケルトンを迎撃する。ファンタジーではあるまじき現代兵器で蹂躙するのは、かなり盛り上がったのではないかと思う。

 尤も、そんな気持ちで楽しんでいられたのは、スケルトンを殲滅するまでである。
 ボスともいうべきデュラハンによる能力により、俺は悪夢に閉じこめられる羽目となった。
 過去の記憶をさまよい、惑わされ。果てには夜の砂漠に放り出され。
 精神世界で翻弄され続けた挙げ句、俺は覚醒した。いやぁ、人間死に物狂いで頑張れば、なんとかいけるものだね。
 極限まで追いつめられた俺は、結果的にデュラハンを抹殺した。

「とにかく、無事に帝都に来れてよかったじゃん!」

「……無事とは言い難いけどな」

 強引に話を締めくくった神様に、冷静なツッコミを返す。
 尤も、内容はあながち間違いではなかった。デュラハン討伐後、俺は悪夢から脱出し、さらなるトラブルに見舞われることなく帝都に到着できたからだ。
 ちなみに現在は、武闘大会の本戦開催を待っている状態である。暇つぶしに地域の犯罪組織を消すなんて、我ながらなんて心優しい人間なのだろう。
 懐に入れてあったガムを噛みながら、俺は少し自慢げに微笑んでみる。

「うーん、思い出に浸っているところ悪いけど、僕はそろそろ行くよー。時間があったらまた遊びに来るからさ。ミササギ君も帝都の生活をエンジョイしてね!」

「んー、了解」

 例の如く消えてしまった神様に驚くことなく、俺は席を立った。好き勝手に喋って、満足したらさっさといなくなる。それがあのいい加減な神様のスタイルだ。ああいうのは適当に流すに限る。

(さて、俺もそろそろ帰るかな)

 死体だらけの場所に長居したいとは思えないし、そのうち帝都の巡回兵が進入してくるかもしれない。無駄な犠牲者を出す気にもなれないので、ここはさっさと退散するべきだね。
 そう結論を出した俺は、使えそうな物資だけを頂いてボロ屋敷をあとにした。

「ふむ……楽しむ、ねぇ」

 ざっと観光した印象では、帝都は多種多様な施設と人々が集まっている。国の中心地は、あらゆる面で退屈しなさそうだ。
 この分なら、時間を持て余すこともあるまい。
 明日からの生活に期待を募らせつつ、俺は夜空を仰いだ。
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