派遣法改正案:参院可決 期間上限を「撤廃」

毎日新聞 2015年09月09日 10時49分(最終更新 09月09日 12時49分)

労働者派遣法改正案を賛成多数で可決した参院本会議=国会内で、藤井太郎撮影
労働者派遣法改正案を賛成多数で可決した参院本会議=国会内で、藤井太郎撮影

 企業が同じ職場で派遣労働者を使える期間の制限(最長3年)を事実上撤廃する労働者派遣法改正案は9日午前の参院本会議で採決が行われ、自民、公明などの賛成多数で可決した。施行日などが修正されたため、法案は衆院に回付される。与党は週内に衆院本会議で可決、成立させる方針だ。

 現行の労働者派遣法は、企業が同じ職場で派遣労働者を受け入れることができる期間を原則1年、最長3年(通訳など専門26業務は無期限)と定めている。改正案は、専門26業務を廃止し、派遣期間の上限を一律に3年に設定する。ただし、現在は3年を超えて同じ仕事で派遣労働者を使えないが、改正案は、労働組合などの意見を聞いて人を入れ替えれば使い続けることが可能になる。企業側にとっては、期間の制限なく同じ仕事を派遣労働者にさせることができるようになる。

 一方、同じ派遣労働者でも事業所内で働く課を変えれば、さらに3年働ける。また、派遣労働者が、派遣会社に無期雇用されている場合は、派遣先で期間の制限なく働ける。

 改正案には労働者の雇用安定措置も盛り込まれた。派遣会社に対し、派遣期間が3年に達した労働者を直接雇用するよう派遣先に依頼したり、自ら無期雇用したりすることなどを義務付ける。派遣労働者のキャリアアップのため計画的な教育訓練実施も求める。

 また、届け出だけで労働者派遣事業を開業できる「届け出制」を廃止し、厚生労働相の許可が必要な「許可制」に一本化。事業者の質の向上を目指すとしている。

 施行日は当初、9月1日だったが、日本年金機構の加入者情報流出問題などの影響で審議が大幅に遅れたため成立が間に合わず、同30日に延期された。

 派遣法改正案は昨年の通常国会と臨時国会に提出されたが、条文のミスなどで2度、廃案となり、今国会で3度目の審議となっている。

 また、派遣労働者の待遇を改善するため、同じ職務の労働者に同じ賃金を支払うことなどを求める「同一労働同一賃金法案」は、自民、維新、公明などの賛成多数で可決、成立した。【堀井恵里子】

 ◇解説 「臨時」原則なし崩し

 1985年に制定された労働者派遣法は、改正を重ねるたびに対象が拡大されてきた。当初は専門業務に限って労働者派遣事業を認めていたが、99年には原則自由化された。2003年には物の製造への派遣も解禁された。さらに今回の改正案で、派遣期間の上限が事実上撤廃される。企業が正社員の代わりに派遣労働者を使うことのないよう、派遣は「臨時的・一時的」とされてきた原則までも、なし崩しになっている。

 際限のない緩和の背景には経済界の意向がある。経団連は派遣制度を「有用な労働力需給調整機能を果たしている」と評価。7月には経団連、日本商工会議所、経済同友会が連名で、改正案の早期成立を求める声明を出した。経済を最優先する安倍内閣の成長戦略にも位置づけられ、政府は今国会の重要法案の一つとして審議を優先してきた。

 しかし、簡単に解雇されない正社員と違い、派遣労働者は契約が終われば職を失いかねない不安定な雇用形態だ。実際、08年のリーマン・ショック後には製造業を中心に契約の打ち切りが相次ぎ、「派遣切り」が社会問題になった。

 政府は、改正案に雇用安定措置が盛り込まれていることから、「正社員を希望する人には正社員の道を開く」(安倍晋三首相)と繰り返してきた。だが、実効性には疑問の声が上がっている。

 改正案には、派遣労働者が増えた場合には速やかに対応を検討するとの規定も盛り込まれている。改正案成立後も、労働者に与える影響を注視し、必要な対策を取ることが求められる。【堀井恵里子】

最新写真特集