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ゲート・オブ・アミティリシア・オンライン 作者:翠玉鼬
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第106話:GAOを創った男1

 
 ログイン108回目。
 ドラード狩猟ギルド直営食堂の一番奥の席。そこで酒など飲みつつ、俺は時間が来るのを待っていた。
 目の前にはウィンドウが開いていて、カウントダウンが表示されている。あと2分、ってところだな。
 何があるのかと言うと、ゲーム雑誌『オンラインゲームズ』による【カウヴァン】社長への生放送インタビューだ。インタビュー自体は動画サイト【喜怒哀楽動画】通称【エモーションズ】にも公式に転載されるそうだが、せっかくだから生放送で見よう、と思ったわけだ。GAOを創った男、光信世護(せいご)。この頭がおかしい(褒め言葉)ゲームを作ったのがどんな人物なのかには興味があった。名前こそ分かっていたが、メディアに顔を出したことは今までなかったしな。
 カウントダウンが終わり、画面が切り替わる。お、始まったな。
 画面に映ったのは、どこかの屋敷の応接室に見える部屋。今回のインタビューはGAO内の特設空間で行うという話だったから、そのために構築した部屋だろう。
 既に座っている男が1人いる。腕章を着けているのでこれが雑誌の記者だな。
 そして、部屋にあったドアが開き、1人の男が入ってきた。
 年齢は40代半ばくらいに見える銀髪の男。どこにでもいそうな中年男性といった顔立ちだが、目には強い輝きが宿っている。姿は金の装飾をあしらった黒の板金鎧。演出のための装備なのかと思ったが、意外と使い込んでいるようにも見える。おろしたてでないのは明らかだ。
 画面に文字が走った。今回のインタビューは動画サイトのお約束でコメントを入力できるようになっているわけだが、流れたコメントは『お前かーっ!』『あんた社長だったのかよっ!?』『セーゴさん!セーゴさんじゃないか!』等々。どうもこの社長、ちょくちょくGAO内に出没していたようだ。
 光信社長はそのまま、空いていたもう1つの席に腰を下ろした。記者と挨拶を交わした社長は、こちらを見て言った。
『GAOを良識ある人間としてプレイしてくれている異邦人諸君、初めまして。一部の人には久しぶり。【カウヴァン】の社長、光信世護です』
 しかしこの挨拶。まともでないプレイヤーを意図的に外してるな。さすがは犯罪者プレイヤーをキャッシュバックしてでも退会させようだなんて考える人だけはある。
『さて、まず皆さんに申し上げなくてはならないことがあります。たった今、皆さんのログアウト機能を凍結しました』
 沈黙が落ちた。
 何を馬鹿なことをと思いつつ、反射的に開いたメニューには、ログアウトボタンはちゃんとあった。触れると確認のメッセージもちゃんと出る。なのに『デスゲームだとぉっ!?』『嘘だろ!?マジでログアウトできねーぞっ!?』等といったコメントが画面を埋め尽くした。ああ、つまりそういうことなのか。
『いやいや、皆さんノリが良くていいですね。いわゆるお約束のネタということで、やってみました』
 あちらからもコメントは見えるんだろう。ニッコリといい笑みを浮かべる社長。
 そしてここまでは予定どおりだったのか、何事もなかったかのようにインタビューが始まった。
『VRMMOの中でも群を抜いてハイクオリティなGAOですが、どうしてここまでのゲームを作ろうと思ったんですか?』
『ゲーム、というよりは、世界を創りたかったんですよ。我が社ではVRの旅行ソフトを開発・販売しています。実際にそこを訪れたことのある人にも本物と変わらないと言ってもらえる程のクオリティで、実際に現地へ行けない方や、旅行ができない身体の方々にも好評です。ですがそれらは、この地球上にある、現実の世界なわけです。そうではなく、まったく新しい世界を創りたかったんですよ。ですから、GAOはゲームというよりはワールドシミュレーター的なものを目指して開発していきました』
 へぇ。以前スウェインが言ってたけど、本当にそうだったんだな。ゲームにしては作り込みが半端なかったのは事実だし。
『そうしたい、と思った理由はあるんですか?』
『そうですね。私も若い頃は色々とファンタジー系の小説を読んだりゲームをしたり。TRPGなんかもやっていたことがあります。もしこんな世界があったら、そんな世界に自分が行ったらどう行動するだろうか。そういう厨二力(ちゆうにちから)が原動力ですかね』
 社長もテーブルトーカーだったか。そういや道具屋に10フィート棒あったもんな。そのせいか?
『ということは、異世界召喚ものとかゲーム世界転移ものとかデスゲームものとかが好物だったわけですか?』
『ええ、大好物でしたね。デスゲームを作りたいと思ったことはないですけど』
 あははと画面の向こうで笑う社長の前を『嘘だっ!』『ほんとうかー?w』等のコメントが通過していく。それが見えたのか、顔の前で手を振りながら続ける。
『いやいや、本当ですよ。技術的に不可能っていうのもありますけど、ゲームで人死にとか勘弁です。さっきネタにした私が言っても説得力はないかもしれませんがね』
 あ、画面が草地になった。俺も植えたけどさ。
『それを実現してしまったわけですね。GAOのリアリティがとんでもないことになっているのは、やはり世界を創るという部分があったからですか?』
『はい。目指せ異世界旅行、って感じで。表に出ない部分もかなり作り込んでいますよ』
『普通にゲームを作る場合もワールドの設定等を考えたりしますが、世界となるとその作業も膨大なものになると思いますが。どこからそんなにアイディアが出てきたんですか?』
『色々と影響を受けたものはありますが……』
 そこで社長は咳払いをして、視線をこちらへ向け、言った。
『実は、アミティリシアという異世界は実在する! そして私は、アミティリシアに召喚されていたことがある! つまりGAOのデータは私が異世界から持ち帰ったものだったんだよ!』
 何故かどこからともなく、ドーン、的な効果音が聞こえた、ような気がした。
 再び沈黙が落ちる。俺は無言で仮想キーボードを叩いた。
 数秒後、画面のほとんどが『な、なんだってーっ!?』で埋まった。残りは『ワロスwww』とか『コーヒー返せw』とか色々。
『いやいや、みんな本当にノリがいいですね。ありがとう。ありがとう』
 と上機嫌に笑う社長。いや、ノリノリなのはあなただろう、と。
『まあ土台は私が作りましたが、スタッフ達のアイディアも結構反映されていますよ。1つ1つを挙げていくとキリがないですけどね。それにネタの考案よりデータ化する方が大変でした。AIもどれだけの数を作ればいいのかってレベルですからね。常にアクティブなNPCだけでもかなりの数ですから。本社ソキウスの協力がなければ実現不可能でしたよ。それ以前にこんな企画にゴーサイン&全面協力をしてくれたソキウス首脳部が頭おかしいげふんげふんじゃなくて素晴らしいわけですが』
 いや、そんな企画を立ち上げた社長も相当だろう。『お前が言うな』とか『つ鏡』とかが弾幕となって画面を覆う。
『ソキウスからVR技術やAI技術を転用しているという噂がありましたが、事実なんですか?』
『そうですね。GAOの開発と運営で収集したデータをあちらにフィードバックして、あちらでの開発の素材に使ってもらっていますし。GAOを利用して技術を高めていっているのは事実です』

 

『ではそろそろゲーム内の話題に移りましょうか』
 しばらく開発の裏話や現実でのあれこれの話題が続いた後、記者が話題を切り替えた。『自己紹介の時点でもいくつかコメントが流れていましたが、社長はGAOによくログインしているんですか?』
『それなりに、ですね。私用のアカウントですから、システム上の優遇措置とかはまったくないんですが。GM権限等を持つアカウントは仕事専用ですので。空いた時間を使ってコツコツレベルを上げてますよ』
『しかし裏側を知っている身としては、色々とアドバンテージがあると思いますが?』
『確かに誰も知らないネタはたくさん抱えていますけどね。ただ、それでズルをする気は毛頭ないんですよ。ですから、レア系素材や隠しスキルを自分で開放することだけはないですし、プレイヤーが未踏の場所は行かないようにもしています。普通に狩りをして、毛皮を剥いだり肉を食べたり。住人達と楽しく語らいながら酒を飲んだり。川で泳いだり海で釣りをしたり。悪人がいたら懲らしめたり。ログインをして、その場その場で起きたことを、出会った人達と一緒に楽しみたいわけです。いちプレイヤーとして、毎日がイベント、という気持ちでログインしていますよ』
 直接会ったことがあるらしいプレイヤーがいくつかコメントを書き込んでいる。『グロテロはやめてほしかったです』『次に飲むときは負けん!』『あの時は助けてくれてありがとう!』とかだ。開発者も結構フリーダムに遊んでるんだな。というか発言やコメントから察するに、社長も【解体】を持ってるようだ。
『イベントと言えば、GAOはイベント告知をしませんよね。あれは何故です?』
『いつ何が起きるか分からないからいいんじゃないですか。それに情報自体は割とあちこちに出ているんですよ。魔族の襲撃なんかは別にして、少し前から兆候があったり、住人が噂していたりと。ツヴァンドのネクロマンサー襲撃なんて、森にアンデッドが出没していることはプレイヤーも気付いていましたし、住人が話題にしていたり、調査の依頼が出ていたりと、これから何か起きるかもしれないという空気はかなり濃かったと思います。口を開いて餌を待つより、自分で餌を探しに行ってほしいですね。きっとその方が楽しめますから』
 『んなの分かるか!』とか否定的なコメントも出てるが『情報収集は基本』『あの時の調査依頼受けたよー!』『あれだけ話題になってたのに何故知らない奴がいる?』といったコメントも見られた。
『ああ、そういえばツヴァンドのイベントって、アインファストの時と比べて随分と偏りがありましたよね。防衛戦のはずなのに、離れているエルフの村が関わってたりと。一部のプレイヤーだけがそっちで動いていて』
『ああ、あれですか。あれはこちらも意外でしたね』
 と社長が頭を掻く。
『実はあの時点で、エルフと接触するプレイヤーはともかく、村に関わるプレイヤーが現れることは想定外だったんですよ。村まで案内してもらえる理由がないので。そのプレイヤーが何をどうしてそうなったのかは避けますが、本来の予測なら、エルフの村って壊滅していたはずなんです』
「げほっ!?」
 むせた。今なんつったこの社長!? やめろお前ら、俺の名をコメントに書き込むな!
『で、ネクロマンサーが一時撤退した後、逃げ延びたエルフ達がツヴァンドに駆け込む流れになっていたはずです。そこでネクロマンサーに連れ去られたエルフ達の救出依頼が出され、アジトにプレイヤー達が乗り込む、と。でも、ああなってしまいました。それにしたって彼、フィスト君でしたか。彼がログインしていなければ壊滅したでしょうし、ツヴァンドにいなければ、いても襲われているのに気付かなければ、救援に向かわなければ、やっぱり壊滅していたでしょう。彼が【シルバーブレード】に声を掛けなければ、駆けつけていても物量に潰されていたでしょう。その【シルバーブレード】にしても聖属性を持っていなかったら恐らくアジトを強襲しても全滅したでしょうし』
『先程から聞いていると、どうもイベントそのものを運営側が管理できていないように聞こえるのですが?』
『完全な管理なんてしていませんから。こちらから干渉することも当然ありますが、基本的にはGAO内で起きたことは、大半が個々のAI達の自律行動と統括AIの誘導の結果です。それを最終的に統括AIがイベント判定しているようなものでしてね。実はツヴァンドの件に限らず、こちらが予測した流れがプレイヤーの存在により変わった事例は他にもたくさんあるんですよ。そしてそれは、異邦人と住人との繋がりによって起きた影響の結果です。だから異邦人諸君には、もっとGAO内の住人達と交流を持ってもらいたいですね。それが何に繋がるかは分かりませんが、それによってGAO世界がよりよい方向へ向かう可能性は高くなりますから。GAOはそういうゲームです』
 ぶっちゃけたな社長。まさかイベント関連もほぼオート仕様だったとは驚きだ。そんな状況を作り出せてるGAOが化け物じみてるんだろうけど。
 でもこれ、逆に言えばプレイヤーがイベントを起こせる、ってことだよな。それも世界に関わるレベルで。
『しかしそれだと、プレイヤーの悪意次第ではより悪い方へと進む可能性もあるのでは?』
『それはあります。ですが、理性と良心を持ったほとんどのプレイヤーがそれを許しませんよ』
 悪意をもって国に干渉することもできるし、色々と揃えば国盗りだってできるかもしれない。それを阻む仕様が存在しないんだから。でもAIが独自に判断するなら、その支配がまともなものでないなら受け入れないだろう。それに達成できなかったら騒乱罪とか国家反逆罪とか適用されそうだし、社長の言うとおり、まともなプレイヤーならそんなことを許さないか。
 それにしたってかなり博打な運営方法だと思う。ほとんどがまともなプレイヤーだなんて保証はないんだし。プレイヤー数が増えれば尚更だ。本気でゲームとして成立させる気があるんだろうかね? まあ賞金首システムがある限りは、跳ねっ返りが大半になることはないと思いたい。
 

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