情報社会になり、ビッグデータがトピックスになっています。そこには人々の知識や知恵など多くの情報が集まり、「集合知」という言葉が用いられるようになりました。我々はこの新しい「知の集合体」をどのように理解して、扱っていけばよいのでしょうか。今回は東京経済大学教授、情報学者の西垣通氏をお迎えして、情報学的な視点から、集合知の理論、可能性、限界をわかりやすく解説していただきます。
専門家が知識を駆使するより、
一般人の多数決のほうが正解に近づく
東京経済大学コミュニケーション学部教授。東京大学名誉教授。1948年、東京生まれ。東京大学工学部計数工学科卒業。工学博士(東京大学)。株式会社日立製作所と米国スタンフォード大学でコンピュータを研究した後、明治大学教授、東京大学社会科学研究所教授、東京大学大学院情報学環教授を経て、2013年より現職。専攻は情報学・メディア論であり、とくに文理にまたがる基礎情報学の構築に取り組んでいる。近著として『ネット社会の「正義」とは何か』(角川選書)、『集合知とは何か』(中公新書)など。『デジタル・ナルシス』(岩波書店) でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)を受賞。
武田 私は、1997年に出版された『思想としてのパソコン』を読んで衝撃を受けました。ITやソーシャルメディアのルーツを教えて頂いたと思っています。今回は、念願が叶って対談をさせていただくことになりました。よろしくお願いします。
西垣 ありがとうございます。あの本には、パーソナルコンピューターの誕生にまつわる主要な論文をできるだけ集めたつもりです。実業家の武田さんにそう言って頂けると、あの本が本来の役割を果たしているようで嬉しくなります。私も武田さんが最近、マーケティングジャーナル(日本マーケティング学会の学会誌)に寄稿された消費者コミュニティについての論文「消費者コミュニティとコ・クリエーション」を読んで非常におもしろいと感じました。メモもたくさんしましたので(笑)、今回の対談では、そのお話も伺いたいと思っています。
武田 ありがたいお言葉です。ではさっそく、本題に入りましょう。最近、先生がいくつも著作を書かれている「集合知」の話からお聞きしていきたいと思います。「集合知」とはそもそもなんのことなのでしょうか。
西垣 広義には「生命体の群れのなかに宿る知」のことですね。これは人間にかぎらず、アリやハチが集団で生きていくために駆使している知恵のようなものも含まれます。ただ、私が研究しているのはもっと狭義の、人々の「衆知」、見ず知らずの他人同士が知恵を出し合って構築する知のことを意味しています。
武田 集合知は「みんなで作る知恵」なのですね。先生の著作では集合知の例として、教室に集まった56人の大学生に、大きな瓶のなかに入ったジェリービーンズの数を推定させるという実験結果を紹介されていましたね。
西垣 はい。正解は850個だったのですが、56人の学生全体による平均推定値は871個でした。これより正確な推測をした学生は1人だったといいます。何回実験をおこなっても、集団の推測のほうが、個々のほとんどの推測より正確だったのです。