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意外! ソニーのテレビが欧米で復活していた

東洋経済オンライン 9月8日(火)18時15分配信

 2014年末ぐらいから北米におけるソニー製テレビの売り上げが急伸しているという情報が入りはじめ、当初は戸惑った記憶がある。大型テレビの4K化という流れの中、ソニーがテレビを売りやすい環境にはなっていたものの、当のソニーは高付加価値モデルにフォーカスし、「数より収益性」という方針を打ち出していた。とてもではないが、売り上げ台数が急伸するとは思えない。

【グラフ】欧州でのソニーのテレビ出荷台数が急伸中

 ところが1月に全米をカバーする唯一の家電量販専門店であるベストバイに行ってみると、そこには多数のソニー製品が並んでいた。一時はサムスン電子やLGエレクトロニクスなどの韓国勢に席巻されていた売り場をソニー取り戻したのは、販促予算をベストバイ系列に集中させ、主要350店舗にソニーブランドの「ストア・イン・ストア」を作ったからだった。

■ ソニーがベストバイで行ったこと

 テレビ事業のマーケティングを行うソニービジュアルプロダクツ・TV事業部商品企画部統括部長の長尾和芳氏は次のように勝因を分析する。

 「ソニー専用スペースで、画質の良さやサービスとの連動性、各種アプリケーション体験を深く知ることができる場を作った。4K画質の良さ、色再現の良さなどが帆と目でわかる。結果、ベストバイにおける4Kテレビのシェアが急伸し、ライバル(サムスン電子)に肉薄できた」

 もちろん、どの店舗でも売り上げが伸びるわけではない。そこで、「なぜ売れたのか」という分析を徹底し、店舗に配置する販売応援員とのミーティングを重ね、ソニーテレビが”売れるパターン”を共有していく作業を進めたという。

 今さらそんな地道なことをやっているのか、とあきれる声も聞こえてきそうだが、言い換えれば、ソニーはそうしたマーケティング面での施策が、これまでは甘かったのである。

 同様の手法によって、米国市場以上に成果を挙げているのがソニーヨーロッパだ。

 ソニーヨーロッパ社長には、インドでソニーブランドを伸ばした玉川勝氏が就任。「システムが出来上がっていない新興国において一からマーケティングとセールスの仕組みを作り上げた経験がヨーロッパで生きた」(玉川氏)。それまで欧州各国ごと、個々にバラバラだった組織をひとつにまとめ上げた。各国で情報を共有しながら売れる製品、売れない製品、売れ場所、売れない場所を分析し、常に調整を進める手法だ。

 その手法はデータの徹底した分析と現場主義に基づいている。データを掘り下げて問題を発見し、現場を視察して原因を究明。改善結果をデータで検証するという正攻法を繰り返したという。その徹底ぶりについていけない幹部は去り、欧州現地法人のトップは、この3年を経て、"現場で汗をかく人間"に入れ替わった。

 ソニーを扱う販売店の選択も進めた。もっとも販売効率が高い販売店に重点的にソニー製品を置き、費用対効果を高めるといった手法も取り入れている。

■ ソニーのテレビ出荷台数が急増

 その成果が最初に出ているのがテレビである。2013年は前年比で67%も出荷台数が伸びた。続く2014年も同33%増。しかも4Kテレビや高付加価値のフルHDテレビにフォーカスした結果、平均売価も上昇している。

 前出の長尾氏は「マーケティングにおける分析の徹底により、製品開発へのフィードバック面でも良い影響が生まれている」と話す。顧客ニーズを正確に捉える努力をすることで、製品の機能やターゲットとする価格帯、デザインなど、さまざまな面で「売れる製品」を作れる情報が集まるようになったという。

 現場・現実主義は、これまでのソニーのイメージとはかなり違うものだ。これまでのソニーは、多様な製品を結びつけ、プロフェッショナル分野からエンドユーザー製品、映画・音楽まで幅広いジャンルをカバーする強みを生かすことを目指しており、実際、それが機能した時期があった。グループ全体で新技術・新規格の早期立ち上げを進め、先行者利益を取りに行くのが、ソニーらしさだったともいえる。

 その意味では、このマーケティングの取り組みは、ソニーらしくないものの典型だ。しかし少なくとも数字の面では、その成果が現れていると言えるだろう。

 このソニーとは対照的で、かつてのソニーらしさを彷彿とさせているのがLGエレクトロニクスだ。

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最終更新:9月9日(水)1時0分

東洋経済オンライン

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