〈人気女子アナ不倫SEX写真〉を掲載したフライデーの刑事責任は?

園田寿 | 甲南大学法科大学院教授、弁護士

写真は本文とは関係ありません。(写真:ロイター/アフロ)

〈リベンジポルノ〉とは、元恋人や元配偶者が嫌がらせのために公表し、あるいは他人に公表させた性的な画像です。このような行為は、平成26年に制定されたリベンジポルノ防止法(「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」)によって処罰されています。

フライデー2015年9月18日号
フライデー2015年9月18日号

今、フライデーが「人気女子アナ不倫SEX写真」として掲載した写真が、この法律に触れるのではないかということが問題になっています。リベンジポルノ防止法ができる前ならば、このような写真の公表が名誉毀損罪となることは難しく、犯罪の問題とはなりにくかったのですが、今やこのような行為は犯罪という視点から問題となるのです。

〈リベンジポルノ〉とは何か?

リベンジポルノ(私事性的画像記録)の多くは、元配偶者や元恋人に対する恨みに突き動かされた行為であることが特徴ですが、必ずしも「恨みを晴らすため」といった動機は必要ではありません。撮影時に公表されないことを前提に撮影に同意したものであって(私事性の要件)、次の1~3の画像データや写真であれば、法の規制対象となります。

  1. 性交又は性交類似行為に係る人の姿態
  2. 他人が人の性器等を触る行為又は人が他人の性器等を触る行為に係る人の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
  3. 衣服の全部文は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位が露出され文は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

たとえば、第三者に見せない約束で撮影を許可した画像やいわゆる自画撮り、恋人による隠し撮り、第三者による盗撮などについて、「私事性」が認められます。私事性は撮影時点において問題となる要件なので、撮影対象者が撮影時点において画像の公表について承諾していれば、その後、その承諾を撤回したとしても私事性は否定されます。

フライデーに掲載された問題の写真を見ますと、全裸になった男女が明らかに性的行為を行っている場面が写っていますし、撮影時にこのような画像を公表することについてはふつう同意があったとは思われませんので、〈リベンジポルノ〉に該当するように思います(もちろん「同意」があったことを証明すれば犯罪にはなりません)。なお、本件の場合は、電子データではなく、「写真」ですので第2条2項の「私事性的画像記録物」に該当します。

では、リベンジポルノ公表罪が成立するのか?

リベンジポルノ防止法は、第3条1項から3項にかけて処罰される行為を規定しています。

第1項は〈リベンジポルノ〉をネットなどを通じて拡散させる場合で、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。電子的な情報は容易に拡散しますし、性的画像もいったんネットにアップロードされれば、瞬時に拡散し、完全に消去することは不可能です。そこで、このような被害の発生、拡大を防止するため、私事性的画像記録(物)を不特定または多数の者に対して提供したり、公然と陳列したりする行為に対する罰則が定められました。

第2項では、「私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列」する行為が処罰されており、法定刑は同じく3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。販売も「提供」の中に含まれますので、フライデーについてはこれが問題となります。

第3項では、公表させる目的で〈リベンジポルノ〉を提供する行為が処罰され、法定刑は1年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

ところで、公表罪が成立するためには、〈リベンジポルノ〉が「第三者が撮影対象者を特定することができる方法で」(第3条1項および2項)公表されることが必要です。どこの誰だか分からないならば、写っている人のプライバシーが侵害されることがないので、これは当然の要件です。

「特定することができる方法」とは、撮影対象者の顔や服装、持ち物、背景として写っている物など、公表された画像自体から撮影対象者を特定することができる場合のほか、画像公表の際に添えられた文言や掲載された場所など、画像以外の部分から特定することができる場合も含まれます。

耳介(赤丸部分)にもボカシが
耳介(赤丸部分)にもボカシが

この点、本件の画像は、ギリギリの限界事例だと思います。顔はもちろんのこと、耳の内側・耳介(じかい)にまでボカシがかけられていることから、撮影対象者の特定性については周到に配慮されているように見えるものの、服装や歯ならび、顔の形や笑ったときの口の形、経歴に関するコメント、絵馬に書かれた筆跡や内容などから、かなりの確率で撮影対象者を特定できるように思います。

だとすると、フライデーの行為は公表罪に該当するのではないかと思われます。ただし、公表罪は、被害者の告訴(処罰の要求)が必要な親告罪(しんこくざい)ですので、被害者が処罰を望まなければ犯罪として立件されることはありません。

マスメディアとしての責任

表現の自由は、民主主義にとってもっとも重要な権利の一つであり、私たちの社会は自由な情報の流れの上にさまざまな制度が創り上げられています。表現行為によって個人が傷つくことがあっても、公共性が認められ、公益を目的とし、その内容が真実ならば、侵害される個人の利益よりもより大きな社会全体の利益がもたらされるので、それは違法行為ではありません。性的なことがらについても、ふつう、それはプライベートの最たるものですが、たとえば著名な政治家や社会的に指導的な立場にある人など、一定の場合には性的なことがらであっても公共性が認められる場合はあります(月刊ペン事件)。〈リベンジポルノ〉の場合にも、公共性が認められるケースはあると思います。

しかし、「人気女子アナ」の性的なことがらはどう考えても公共の利害に関する問題ではありません。今回のフライデーの行為がリベンジポルノ公表罪に該当するとすれば、表現の自由の逸脱だと言わざるをえません。講談社には優秀な法務部がありますが、フライデー編集部は事前に法務部に相談をしたのでしょうか? (了)

リベンジポルノ防止法(条文)

月刊ペン事件(性的なことがらに公共性が認められた事例)

園田寿

甲南大学法科大学院教授、弁護士

1952年生まれ。関西大学大学院修了後、関西大学法学部講師、助教授をへて、関西大学法学部教授。2004年からは、甲南大学法科大学院教授(弁護士)。専門は、刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、青少年有害情報規制などが主な研究テーマである。現在、兵庫県公文書公開審査会委員や大阪府青少年健全育成審議会委員、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)諮問委員会委員長などをつとめる。著作に、『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『インターネットの法律問題-理論と実務-』(2013年新日本法規出版、共著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)などがある。

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