かなり初心者にも優しい系おすすめサイバーパンク小説リスト
「サイバーパンクとか、
どうでしょう。」
■そこまで小難しくないサイバーパンク小説を読もう。
 ニンジャスレイヤーの人気がズンドコ上がっておりますなー。上がりまくった結果としてアニメ化までされちゃうし、CGアニメの楽園追放も人気を博し、その流れに乗ってか長らく絶版だったウィリアム・ギブスンのクローム襲撃が復刊されたりもしてマジかーって昨今。サイバーパンクもちょいちょい人気が上がってきてジャンル者としては嬉しいやら何やら(わりと複雑)な一方、言及以前に「何読んだらいいんだろう」との言もたまに見かけます。
 そりゃそうだわ、三十年前のジャンルだし。
 だいたいの本は中古じゃないと買えないし、高価いし。
 んでまあ、そういうのキッツいよねーと思ったので、おもむろにブックガイドみたいのを書いた次第です。あと「ニューロマンサー難しくてわけわかんない」とか、よく見かけるしね……! 入り口になってると見せかけた代表作が癖ありすぎという極悪なアレだもの、致し方ない。どころかネットで検索してもニューロマンサー以外でオススメな本とかそういうのがどれもこれも全ッッッッッ然アテにならないっつうのはいかがなものか!
 そんなわけで、ラノベを中心に読みやすいのを紹介していきたいと思いまする。
 できるだけワクワクできるやつを。
 なかにはそれはどうなのって本もあるんですが、できるだけ中立的に……!
 ちなみに挙げた本のなかには絶版のもあるけど、Amazonのマケプレやブックオフを使うとフツーに買えます。それもお安く。気になったのがあったら読んでみてねみてね。

ペロー・ザ・キャット全仕事
吉川 良太郎
徳間書店
2001-05

ボーイソプラノ
吉川 良太郎
徳間書店
2001-09

 オススメ度:★★★★☆
 吉川良太郎著、ペロー・ザ・キャット全仕事/ボーイ・ソプラノの二作からなるポップなサイバーパンク長編小説シリーズ。近未来、第三次世界大戦後のフランスで巨魁パパ・フラノが取り仕切る、黒い治外法権域<パレ・フラノ>を舞台としたライトハードボイルドなシリーズです。
 第一作のペロー・ザ・キャット全仕事は、アウトロー気取りのへっぽこ兄ちゃんがサイバネ猫ちゃん憑依マシン――アヌビスを手に入れたことから、思いがけぬ冒険と陰謀の渦中に飛びこむことになる、というお話。犯罪組織に首輪をはめられそうになったり、抗ってみたり。自由を求める猫のような主人公が走り回る筋を、ピカレスク小説っぽさやスパイ物の要素というサイバーパンクの典型的スタイルをとりつつ魅せてくれる小説なのですなー。小洒落てキュートな文体も読みやすく、アクションもたっぷりでサイバーパンクの入り口にはぴったりな一冊。
 第二作のボーイ・ソプラノは、第一作にも登場する眼帯の私立探偵を主人公としたハードボイルド・アクション。聖歌歌手の少年による依頼で神父を探すことになったことから、パレ・フラノの統治をあざ笑うような正体不明の殺人者を巡る戦いに巻きこまれていく、というお話。探偵物としてのスタイルを強調しつつ、やはり謀略の気配を漂わせるものとなっております。こちらは元警官のオッサンが主人公ということもあって、前作よりは抑えめなテンションながら、オタクっぽい設定で魅せてくれる。
 ちなみに番外編としてシガレット・ヴァルキリー、ギャングスターウォーカーズという作品もあったり。前者は人工島を舞台にし、セクシーな職業的犯罪者vsマフィアの殺人者という構図のバトル物、と針を一定方向に振り切ってる面白いやつ。もしパレ・フラノシリーズがお口に合えばこちらもどうぞ。後者は……まあ、うん。

鬼哭街 (星海社文庫)
虚淵 玄
講談社
2013-10-11

 オススメ度:★★★☆☆
 虚淵玄著、二〇〇二年にリリースされたビジュアルノベルのノベライズ版。
 サイバネティクスの怪物がうろつく近未来の上海を舞台に、妹を嬲り殺しにされたチャイニーズマフィアの元暗殺者が復讐の幽鬼となってひた走る、というお話。虚淵玄のギラついた(そしてごみごみした)文体がもっとも合致した、ハードボイルド・アヴェンジングなサイバーパンクです。と、言っても実際はそれほどサイバーパンク色はありませんでして。電磁発勁なる技をもって生身のままサイボーグに対抗できる男が修羅の如き歩みでマフィアの幹部を殺し、妹の魂を分割注入したガイノイドを強奪する……そういう、わかりやすい浪花節な内容なのですな。あれだ、香港電影の世界。
 しょんぼりな復讐劇はニンジャスレイヤーに直結できるし、単純に武侠小説、香港電影フォロワーとしても楽しいのでオススメです。

オーギュメント・アルカディア
東出祐一郎
朝日新聞出版
2013-03-19

 オススメ度:★★☆☆☆
 東出祐一郎著、ディストピア風味のサイバーパンクライトノベル。
 日米露中の企業が支配する日本の都市を舞台に、私立探偵が謎の少女・ディを守って大立ち回り、というお話。ディを守って追いつ追われつをした果てに、都市の中心軸を巡る戦いが露呈していく、とかまあそんな感じ。
 昨今の作品らしく、サイバー描写で仮想現実と並行してAR――拡張現実を多用しているのがこの作品の特色で、それを活かしたバトルが見ものとなっています。また、アクションが露骨に映画的で作者の趣味を反映しているほか、鬼哭街っぽいバトルが始まったり、ヤクザキャラが露骨にアイエエエエエ!?なセリフを言ったりと「フォロワー」としての雰囲気が出ていたりします。ジャンルへの入り口とするほか、既視感がありつつ気楽に読みたいときにいいかもしれません。このご時世に書籍でそういう演出やっちゃいますか……と若干微妙な気分になるページがあるものの、読み味そのものはかなりライトで陽気。


 オススメ度:★★★☆☆
 桜井光著、近未来――電脳の「コマンド」によってゆるやかに統制された海上都市トーキョー・ルルイエを舞台としたサイバーアクション。
 都市に潜むメカ怪獣をたった一人で狩る少年(眼鏡っ子)が謎の不思議ちゃんと出会ってしまったことで電脳アカウントがおかしなことになり、さらには都市の孕む陰謀に巻きこまれていく――と、かなりわかりやすいお話。TRPG「シャドウラン」などの世界観を援用した風合いに目新しさはないものの、ラノベらしいラノベとしてのスタイルで読みやすいサイバーパンクといえばこれでしょう。続刊は小説としてのデキがイマイチながら、第一巻はそこそこな内容となっております。カバーすべき要素は全部カバーしてあるので入門に最適。
 ただ、読みやすいというのが、この作品の場合は文章の薄さにつながっているので、そこは好みが分かれるかもしれません。サイバーパンクはディテールを楽しむ小説という面も持つため、ビジュアルノベルライターらしくさらっとした、言い換えれば薄めな文章は食い合せがそれほどよろしくないのですな。どうしても。


 オススメ度:★★☆☆☆
 深見真著、サイバーボインボインビアンねーちゃんが悪党をボコるサイバーパンク警察小説。
 治安が悪化の一途をたどる二〇三〇年の東京を舞台に、凶悪化する組織犯罪を追うSP上がりと軍隊上がりの女刑事二人組がテクニカルな手際による猟奇殺人に遭遇する、というお話。作者が筋肉/レズビアン/暴力を好むこともあってボインボインと人殺しに特化した小説にござます。電車のなかで読めないくらいボインボインなバディが銃撃戦&格闘の嵐を繰り広げ、暴力/暴力/銃器/セックス/暴力/そして死という感じ。まず特殊作戦のシーンからはじまる点からも、作品の方向性がお分かりいただけるかなと思います。
 なによりページ開いて即目にはいるのがディープキスしてる挿絵だし!
 かと思えば、清水建設の超高層建築ネタ、イメージ画像化技術(いわゆる脳機能イメージング)、サイボークの格闘におけるフィジカル云々などサイバーパンクっぽい要素もちらほら。ちょいおっさん臭い性的な描写(セックスやレイプ)と残酷描写が大丈夫なら楽しく読めるB級サイバーパンクです。



 オススメ度:★★★★★★★★★★
 冲方丁著、機械化された少女たちが舞い踊る軍事サイバーパンクシリーズ。
 近未来、少年兵が合法化されたオーストリアはウィーンを舞台に、身体障害やネグレクトで人生が壊れてしまった女の子たちが憲兵隊や公安警察に未来を掴みなおすべくしてイデオロギーの怪物やその裏に潜む武器商人との戦いにひた走る、というお話。正味、今現在のサイバーパンクとしては最大級の火力と物量を盛った作品です。萌え、外挿、バトル、諜報、政治など様々な要素をブチこむフットワークの軽さで語られるのは、一貫して「生き抜く」ということ。これが他のサイバーパンクと異なっているのですな。すべての要素を凝り固めた先に、冲方丁の「生き抜いて未来を掴む」ということへの愛がつまっている、という。
 また、各巻でのお話が、
・墜落した衛星を追う軍事アクション
・ダイハード2めいた空港占拠事件
・洋ドラの24を意識したリアルタイム対ウィルステロ活動
・ダルフール紛争の軍事法廷警護
 と、かなり起伏に富んでいるのも印象的。これらの話を通して現実と地続きの問題を扱うエクストラポレーションと、エンターテイメントとして消化のしかたが小気味よいのです。一方、「――」、「/」、ルビを多用した特異な文体は好き嫌いがはっきり分かれるため、その点で「読みやすさ」は個々人の差異が出るかもしれません。ただ、愛と異形と情報活動と軍事作戦が合体した、紛れもない傑作軍事サイバーパンクなので筆者としては超オススメです(THE贔屓目)。

ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1
ブラッドレー・ボンド
KADOKAWA/エンターブレイン
2012-09-29

 オススメ度:★★★★☆
 ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ著、ニンジャをフィーチャーしたサイバーパンク。
 よく考えたら忍殺ことニンジャスレイヤーに触れたことがない人がいる可能性もあるのですな。それを考慮して一応、含めておきます。
 舞台は鎖国状態日本、大企業によって人々が圧迫される近未来都市ネオサイタマ。ニンジャ抗争によって妻子を失い、自らもまた死の淵に立たされたサラリマンに謎のニンジャソウルが憑依し、破滅的な復讐劇がはじまる、というお話。もっともこれはメインプロットであり、お話自体は時系列をシャッフルし、ときには市井の人々や善き心をもつニンジャの視点からも語られていくという珍しいスタイルをとっています。また、「アイエエエエエ!?」に代表される忍殺語や、ダンス・ミュージックの音の反復を思わせる言語の反復、間違った日本観(サイバーパンクではお馴染み)、ニンジャ設定など、奇特なてんこ盛りもいいところのヘンテコな小説。
 ただ、ヘンテコに見せかけて実のところはわかっててやっている絶妙なさじ加減が楽しませてくれます。なんだろう、こう、ニンジャスレイヤーを使ってあらゆる物語の形式を試してる感じ。見かけと変な文体、物量に騙されず書籍版の一巻だけでも手にとってみて欲しい次第。望外の楽しさがあります。こと初期エピソードには。


 オススメ度:★★★☆☆
 CGアニメ「楽園追放」の公開に合わせて刊行された傑作選。
 読みやすい作品でちょっぴり肩慣らしをしたら、本格的なものもいかがでしょ。 さすがに収録作がほとんど翻訳物なので国内の作品とは手触りが違うものの、ジャンルの感触を知った後ならサイバーパンク今昔もなんとなしにわかるのではないかしら。ギブスンの傑作短編「クローム襲撃」を筆頭に、スターリングやウィリアムズ、ストロス、さらには藤井太洋のテクノスリラーっぽいポスト・サイバーまで、たっぷりと味わえる一冊です。



 読んで字を追っててもイメージがあんまり頭に湧かないとき、補ってくれる大傑作もあるのですよ! それがこの二作。
 攻殻機動隊は警察/情報機関/軍事/官僚趣味をサイバーパンクと合体させた最強のメディアで、それは言わずもがなとして「サイバーパンクらしさ」の具体化が抜群にうまいのです。キヌ六もそうで、ヒネた形になってしまった日本の描き方やテクノロジーの変異、機械化された人体の身も蓋もない頑丈さをもって楽しい世界を具体化している。そんな二冊を読めば、本を読んでても曖昧な部分や雰囲気への脳内補完がかなり効くはず。

 と、ひとまず入手難度が低くて読みやすいのはこんなところ。
 ここからサイバーパンクを気に入って、翻訳物のサイバーパンク(翻訳物こそ鉱脈なのですな)にステップアップして読んでくれる人がいれば嬉しいなと思いますぞい。
■ステップアップする先。
 上記の作品を楽しめた人は、様々な作品のベーシックとなっている、より濃厚な以下の翻訳物に手をつけてみてはイカガでしょう。

重力が衰えるとき (ハヤカワ文庫SF)
ジョージ・アレック・エフィンジャー
早川書房
1989-09-15

 すべてが変転を迎えた時代、イスラーム世界の暗黒都市――ブーダイーンを舞台にした電脳探偵小説。ヘボチンな探偵役がうろうろしたりジェームズ・ボンドと戦ったり。


 サイバーパンクの古典にして、千葉/ニューヨーク/イスタンブール/そして宇宙を練り歩くハードコアなピカレスク小説。文体や筆致がクールだけど人を選ぶのが玉に瑕なのですなぁ。

クローム襲撃 (ハヤカワ文庫SF)
ウィリアム・ギブスン
早川書房
1987-05

 ニューロマンサーの前日譚である「記憶屋ジョニイ」などを収録した傑作短篇集。

ハードワイヤード〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
ウォルター・ジョン・ウィリアムズ
早川書房
1989-04

 ホバータンク乗りの運び屋とへっぽこ姉ちゃんが活躍する商業サイバーパンクとしてガチなバトルアクション小説。ホバータンクでの大暴れからエースコンバットまでゴツい奴。

スノウ・クラッシュ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)
ニール スティーヴンスン
早川書房
2001-04

 仮想空間メタヴァースの大物、黒人剣士ハッカー(!?)のヒロ・プロタゴニストが新種のデジタルドラッグを巡って大活躍したりしなかったりなポップ冒険小説。

グローバルヘッド
ブルース スターリング
ジャストシステム
1997-07

 80年代サイバーパンク運動の大ボスによる、サイバーパンク以降のイマジネーションを拡張する短篇集。サイバーな雰囲気の話から文学っぽいのまで幅広くフォロー。

 中古価格がちょっと高めの本も混じってますがどれも楽しい本ですぞ!
 興味が出たら細かいことは各自で調べてみてね!
(詳細を書く体力がなくなってきた)
(というところでこの記事はオシマイ)

for TEXT ARCHIVE