政府と沖縄県が1カ月にわたって続けてきた米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐる集中協議は、物別れに終わった。

 これを受け、政府は近く、中断していたボーリング調査を再開する方針だ。

 しかし、政府が一方的に工事を再開すれば、政府と県の間にようやく開いた「対話の窓」が再び閉ざされ、政府と県の亀裂はいっそう深まりかねない。

 政府に求める。

 工事再開は断念し、より幅広い観点から改めて県と協議を続けるべきだ。

 日米両政府による普天間返還合意から19年。条件付きとはいえ名護市が受け入れを容認したり、辺野古沖の海上案とした閣議決定が取り消されたり、複雑な経過をたどってきた問題だ。

 わずか5回の協議で解決案が見つかるほど単純な話ではないことは、そもそも双方とも分かっていたはずだ。

 それなのに、目立ったのは、政府のあまりにかたくなな姿勢である。最初から「普天間か辺野古か」の二者択一の議論から踏み出そうとはしなかった。

 県は辺野古移設に反対の立場から具体的な疑問をぶつけた。なぜ狭い沖縄に米軍基地が集中するのか、在沖海兵隊の「抑止力」は本当に必要なのか、長く米軍統治下に置かれた沖縄の歴史をどう見るか――。

 こうした問いに答えを出すためには、政府と県だけの議論では足りないことは明らかだ。

 中国と安定的な関係を築くために、どんな外交戦略が必要なのか。そのなかに米軍や自衛隊をどう位置づけるか、米国をも巻き込んだ議論が欠かせない。

 本土の米軍基地も含めたすべてを見渡したうえで、沖縄の基地負担を分かち合えないか、全国的な議論も必要だ。

 話し合うべきことは、まだたくさんあるのだ。

 そこに踏み込もうとせず、政府がこのまま工事を再開するなら、沖縄の声を聞く姿勢をアピールすることで、安保法案審議による内閣支持率の低下を食い止めようという意図があった、と指摘されても仕方ない。

 政府が工事を再開すれば、翁長雄志知事は対抗して埋め立て承認の取り消しに向けた作業を始めるとみられる。

 双方が対抗策を繰り出す対立の果てに、司法の場でぶつかり合う。そんな不毛な道しか見いだせず、地元の反感のなかで辺野古に新基地が造られたとしても、日米安全保障の基盤は強まることはない。かえって弱まることになる。