一昨年、40年ぶりに新疆に住む姉の家を訪ねようと、砂漠横断の高速道路を走っていると、突然目の前に鉄柵が見えました。とっさにハンドルを切ると車はキーキーと鳴りながら横転しそうになりました。本能的に修正しようとすると車体のコントロールを失いました。どうやって安定状態に戻したかは未だに不明ですが、一生忘れない危ない状況でした。
地元の人によると、羊の群れが道路を横断するために、中央分離帯に移動可能な鉄柵が設けられているそうです。遊牧民が羊の群れを通過させた後に鉄柵を元に戻し忘れたか、風などで鉄柵が勝手に動いたかは知りませんが、とにかくあの鉄柵にぶつかっていたら、今こうやって皆さんにメールは書けなかったでしょう。
「無責任な放牧民は困ったものだ」、「巡回しない当局は税金泥棒だ」など、いろいろな文句が頭を過ぎりましたが、最後に自分に言い聞かせたのは「運転が弛んでいる」ことでした。スピードを下げ前方注意すればもっと早く発見できましたし、避けるのも簡単でした。
私はこのような「危ない目」を実際に事故に遭ったことにしています。しかも一回の事故の後ろに十回の同様の危険が潜んでいると考えます。そのプレッシャーで緊張感と集中力をなんとか保つのです。
STAP細胞の小保方氏も五輪エンブレムの佐野氏も最初のパクリを見付けた瞬間、私は既にこの人達は黒だと判定しました。決して日本のマスコミのように隣国のパクリに興奮する狭い根性に由来する心理ではありません。経営コンサルタントの癖に由来する判断です。
飛行機や原子炉などのような人命にかかわる重大なシステムにたまたま一つのミスや事故が発覚した場合、それは一つのミスや事故の問題ではありません。その偶然な問題の後ろに十倍の同程度の危険が潜んで、ワンランク下の危険が数十倍も潜んでいると解釈できます。組織構成から考え方までも徹底的に見直さないといつか大きな事故に繋がります。
企業の不正会計などのコンプライアンス問題も同様です。たまたまの問題ではなく組織の体質問題だと考えるのが無難です。東芝の問題もその典型です。案の定、先日また十件の不正会計が通報されました。「通報」でなければ不正が見付からない体質が改めて証明されました。そんな企業が作った原発が「絶対安全」だというから恐ろしいです。首相までも「世界一厳しい基準」「万全の体制を整えている」と豪語するからもっと恐ろしいです。
その甘い発想の下で原発事故が起きて、日本社会に「日本凄い」という病気が蔓延してしまいました。自信を取り戻すための一時的な精神安定剤として当時は良いと思いましたが、いつの間にかそれが麻薬となり依存症となり、不都合から目を逸らす甘さとなりました。自分の凄さを証明するために隣国の粗探しに熱を上げ、批判精神を自虐と見なし、パクリさえも「日本の誇り」と見えてしまうのです。
「社会全体がたるんでいるんじゃないか。」エンブレム白紙撤回に際して経済同友会の小林さんのコメントに賛成ですが、それは他人事ではなく、私達経済人も含まれていることを、強く自分に言い聞かせたいものです。
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宋 文洲
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