特集 集団的自衛権特集 憲法改正

※6月19日テキストを追加しました

 「この安全保障法案は、むしろ日本の安全を危うくする。日本を確実に守りたいなら、ぜひ、学者の意見を聞くべきだ」──。憲法学者の長谷部恭男氏は力を込めた。

 今、日本の憲法学者が、さらに言えば憲法学が、正念場に立たされている。集団的自衛権の行使が核となる安全保障関連法案をめぐって、自民党の高村正彦副総裁が、「国民の命を守り抜くために必要な措置を考えるのは、憲法学者でなく、政治家だ」と発言したのである。この言葉が象徴するように、政府・与党は、日本の憲法学者のほぼ全員が違憲と見なしている同法案を、強行採決しようとしている。

 2015年6月4日の衆議院憲法審査会で、「安保関連法案=違憲」と表明した早稲田大学教授の長谷部恭男氏と、慶応大学名誉教授の小林節氏は、6月15日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で揃って記者会見を行い、「安保関連法案は撤回すべき」と重ねて強調した。

 安倍首相が想定する、機雷によるホルムズ海峡封鎖は現実性が低い、との見方を示した長谷部氏は、政府・与党には「集団的自衛権の行使」自体を目的化している様子があるとも指摘。「95%超の憲法学者は、この法案は『違憲』だと回答すると思う」と語った。

 質疑応答では、日本の新聞・テレビがその存在を報じない、保守系の啓蒙団体「日本会議」と安倍政権との関係に切り込む質問も飛び出した。

 これに対して小林氏は、「日本会議の人たちに共通する思いは、『第二次世界大戦での敗北は受け入れ難い。だから、その前の日本に戻したい』ということだ」と語り、安倍政権と目指す方向が一致する日本会議が、憲法改正を目玉とする政策推進の地ならし役を担っていることを暗に示した。

日本会議の支持組織には「安倍閣僚」がずらり

 会見は、質疑応答に多くの時間が費やされた。

 「日本の政府は、集団的自衛権を行使する際の、具体的なシナリオを説明しないが」との、英エコノミスト記者の質問には、長谷部氏が、「まず、私自身は、具体的なシナリオがなかなか思い浮かばない」とした上で、安倍首相が折に触れて指摘する、機雷によるホルムズ海峡封鎖についても、現実性が低いとの認識を示した。

 「現在、イランと米国の関係は友好的なものになりつつある。政府は『集団的自衛権の行使』、それ自体を目的にしているように映る」

 同じ記者からは、「(ほとんどの憲法学者が『違憲』を表明している中で)この安保関連法案を『合憲』としている憲法学者が3人おり、彼らは全員日本会議に属している。それは何を意味するのか」との問いかけもあった。

 ウェブサイトで、「私たちは、美しい日本の再建と誇りある国づくりのために、政策提言と国民運動を推進する」と謳っている日本会議は、1997年に発足した任意の保守主義団体だ。全国で「憲法改正」などの啓蒙活動を展開中で、安倍政権が進めている政策と方向性がぴたりと一致する。集団的自衛権行使容認の閣議決定の際にも、日本会議はそれを支持する見解を出している。

 政界には同団体の支持組織「日本会議国会議員懇談会」が存在するが、着目すべきは、その役員名簿だ。副会長には安倍首相や菅義偉官房長官、特別顧問に麻生太郎副総理、幹事長に下村博文文科相など、安倍内閣の閣僚の名前がずらりと並ぶ。前述の「合憲」見解を持つ3人の憲法学者とは、6月11日の衆議院平和安全法制特別委員会における菅官房長官の答弁にもあった、長尾一紘氏(中央大学名誉教授)、西修氏(駒沢大学名誉教授)、百地章氏(日本大学教授)で、確かに全員が日本会議のメンバーである。

長谷部氏「もっと、学者の意見を聞くべき」

 日本会議に関しては、「あの団体には、知人が大勢いる」とした小林氏が次のように応えた。
【IWJテキストスタッフ・富田】

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■岩上安身によるインタビュー記事

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