-第八章-

 そこはまるで、迷路のような道…無数の穴が縦にも横にも広がっている。

このどこかにクイーンがいる。その部屋はどこなのか…

バジュラはランカとブレラを連れて行くように、その道を示していた。

まるで『そこにクイーンがいる。早く行け』と言っているようでもある。

「ランカ…どうしてここが解った?俺はオズマにしか説明していなかったが…」

「夢…夢に出てきたの…ブレラお兄ちゃんが、今にもバジュラに殺されそうな夢…」

 ランカの言葉にブレラは驚きを隠せなかった。何故そんな夢をランカが見たのか…

まるで二人の意思が繋がっているかのようでもある。

「…ブレラお兄ちゃん…着いたよ…ここが…クイーンのいる部屋…」

「こ、ここが…」

 それはまるで巨大な穴…今までの穴とは比べ物にもならない位、巨大な竪穴。

バジュラクイーンはここで、全てのバジュラを統括していた。

そしてその穴の中央に、クイーンがじっと座ったまま…ブレラとランカを見つめていた。

「やっと会えた…クイーン…バジュラの女王…」

 ブレラは怯む事無くクイーンの傍に近寄った。クイーンはそれをただじっと見ているだけ…

「お兄ちゃん…バジュラクイーンに話したい事…何となく私にも解るよ…

この星に人が住み着き…そして、繁栄していく中で…必ず起きる障害…」

「そう…俺が気にしていたのも同じだ…クイーン、聞いてくれ…俺達人はここに

繁栄の源を見つけた。遅かれ早かれ…人間は、この星を開拓していくだろう…」

 ブレラは人間がこの星を開拓していくに伴って、どうしても避けては通れない道が ある事を知っていた。

もちろんランカも知っていた。いいや、恐らく…オズマ、キャシー達も

それは懸念している事柄ではあるだろう。人が星を開拓するという事は…

同時にこの星を汚染していく事でもある。多少なりとも人が住めば、その星は汚れていく。

「…そうなってから…バジュラ達が、また人に敵意を抱いてきたら…

間違いなくこの星に降りた人類は滅亡する…」

「…そうだね…そのうちこの星にも、他の船団からの移住民も訪れるだろうしね…」

 ブレラはクイーンに向かって、更に話を続けた。それは届いているのかは解らないが…

「クイーン…教えてくれ…お前達が、ここに降り立った人類を歓迎しているのか…

それとも、それは一過性の物なのか…恐らく人類は、この星を汚す…それを

許容してくれるのか?それとも汚されたら追い出してしまうのか?」

 クイーンはただ黙って、ブレラの話を聞いているだけだ。ただ黙ってそこにいるだけ…

その時一匹の幼いバジュラが、二人の前に近づいてきた。

「あ、アイくんっ!」

 そう、それはランカがバジュラと気づかずに育てていた、バジュラの妖精…

いつもランカと一緒にいて、羽化するまで片時もランカから離れなかったバジュラ。

「アイくん…ここにいたの?フロンティアから姿を消しちゃったから私…心配していたよぉ」

「キキー…キッキキー…」

 アイくんと呼ばれるバジュラは、再開を嬉しそうにランカの回りを飛び回る。

そして一通り飛び回ると、ランカの前に着地して甘えるように擦り寄ってきた。

「…ランカが…ここまで、このバジュラと仲がいいとは…」

 驚きを隠せないブレラ。ブレラはアイくんが、ここまでランカに好意を寄せている事に 気がついていなかった。

「これが…答えなのか…?クイーン…俺達人類を、そのまま受け入れてくれるのか?」

 クイーンは何も喋らない。ただ黙って二人を見つめるだけだった。

「ブレラお兄ちゃん…私思うの…昔は確かに、地球の星も公害で汚れていたけど…

今はとてもきれいな星に生まれ変わっているんでしょ?」

 ランカの言う通り…一度ゼントランに襲われる前の地球は、あちらこちらで酷い

公害もあった。特に発展途上国の国は、汚染を川に…そして海に垂れ流して、

青い地球を平気で汚し、汚染を繰り返していた。それが一度ゼントランの攻撃で壊滅

状態になり、そこから復活した星、地球は青々とその姿を宇宙に晒せるようになった。

「きっと…大丈夫だよ…私達人間が一人一人ちゃんと気をつけていけば…

この星は絶対に汚染されないよ。その技術もフロンティアは持っているんだし」

「キキー…キッキキー…」

 アイくんがランカの言葉に同調するように、高く声を上げている。

そもそもブレラがここに来るまでもなかったのだ。クイーンはちゃんと、他の バジュラを通して人間を観察している。

人と解り合えたバジュラには、すでに 自分達から人間を攻撃する意思はまるでない。

「…無駄足踏んでいたみたいだな…俺の早とちり…ランカまで巻き込んでしまった…」

「ううん…私嬉しいの…ブレラお兄ちゃんが、ここまで私達の事、考えててくれたんだなぁって」

 そう…ランカにはそれが何よりも嬉しかった。育ての兄と実の兄。

二人に守られている 自分は、とても幸せなんだという事を、ずっと嬉しく思っていた。

「…戻ろう…ランカ…アルト達が待っている…」

「うん…」

 クイーンは二人が戻る時も、ただ黙って見ているだけだった。それは人類全てを

受け入れるから、安心して戻れと言っているみたいな眼でもあった。

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