-第六章-
「何か見えるか?ランカ…もうかなり飛んでいるけど…」
VF-25に乗っているアルトとランカ。アルトはランカの示す進路を、ひたすら
北東へと進んでいた。例のクイーンが出てきた場所にもっとも近づいている。
「ううん…夢で出てきたのは…もっと先…洞窟みたいな穴が空いているところ…」
ランカは夢に出てきた景色と照らし合わせて、くまなく上空からそれらしき
ものを探す。だがいつまで飛んでも見つからない。
「…おい…本当に正夢なんだろうなぁ?俺だって首になるのを覚悟しているんだ」
「もうちょっと…もうちょっとだけ飛んでみて…ごめん…アルトくん…」
ランカにだって確証はない。あれが単なる夢なのか…それとも、神様が
見せてくれた正夢なのか…段々と不安になっていくランカ…
このままではアルトにも迷惑が掛かる。いや、もうすでに掛けている…
そういう焦りの気持ちが、ますますランカの平常心を奪っていく。
「…特に何も見えないな…本当に、そんな洞窟みたいな穴があるのかすら…」
機体を翻しながら、アルトは愚痴っぽく零す。それがますますランカにとって、
身重な気持ちにさせている。
「ごめんなさい…私の我侭に…アルトくんまでつき合わせて…でも…」
「解ってるって…俺も少し言い過ぎた…もっと北の方に進路を変えてみよう」
その時…後ろから爆音が聞こえてきた。オズマの乗ったバルキリーだ。
『おいっ!まだそんな所をちんたら飛んでいるのかっ!』
無線からオズマの声が響く。アルトはいつもの条件反射でオズマと連絡を取る。
「す、すいません…隊長…でも、どうして隊長まで…?」
「お、お兄ちゃんっ!?まさか…アルトくんと私を撃墜する為にっ!?」
『馬鹿野朗っ!何で俺がお前らを撃墜するんだっ!いいから黙って着いて来い!
道案内してやる。もしランカのその夢が現実なら…そろそろ奴も危ない!』
「お、お兄ちゃん…」
オズマは元々知っていた。ブレラが何故、フロンティアから消えたのかを…
だが言わなかった。それはブレラとオズマ。血の繋がりのある兄と、育ての兄…
二人っきりの約束だったからだ。だからギリギリまでオズマは黙ってた。
「隊長…初めから知ってて…何で俺達に話してくれなかったんですかっ!」
『…約束…だったからな…すまん。だがもうそうも言ってられない…
ランカの夢がもし、正夢だとしたら…とにかく急ぐぞっ!』
「り、了解っ!」
二つのバルキリーは尾を引いて、北東より北へと進路を変えて飛んでいく。
そしてついに、ランカの夢に出てきた風景が見えてきた。
「あ、あれっ!アルトくんっ!あの高台の樹の根元っ!」
確かにバジュラが出入りしそうな穴が、そこには無数に空いていた。
バジュラは普段は地下の洞窟内に住処を持ち、そこでクイーンを守り生活している。
蜂…まさにバジュラは、巨大な蜂のような存在なのである。
クイーンを筆頭に仲間を作り群れる。そうして時期が来れば、他の銀河へと
旅立ち、そこで他のバジュラと接触して繁栄する。謎の生命体バジュラ。
その姿、その性質は未だ未知数の存在であった。
『どの穴だ…ええぃっ!真ん中だっ!真ん中の穴に降りるぞっ!』
オズマが機体を反転させて、中央の穴にターゲットを絞り降下していく。
「了解っ!アルト機…続きますっ!」
そしてアルトも降下を始めた。後ろに乗っているランカは、もう気が気じゃ
ないような表情をしている。何かを敏感に察知しているのだ。
「アルトくん…急いで…でも、決してバジュラに攻撃はしないで…」
せっかくわかり合えたバジュラと人…またここで戦火が起きれば…
アイランドはまた、宇宙に旅立たなければならなくなる。
唯一見つけたこのオアシスの星を、アルト達がぶち壊す訳にはいかない。
「それはいいが…どうやってバジュラに近づく?もし殺気立っていたら…」
「私に…考えがあるの…お願いアルトくん…そしてお兄ちゃんも…」
『…解った…なるべく刺激しないように降りる…』