-第五章-
キュイイィィ…ン…
「しっかりベルトは締めてろよ、ランカ」
「うん…アルトくん…」
格納庫に忍び込んだアルトは、VF-25 メサイヤを緊急始動させる。
だが
格納庫の扉は閉まったままだ。このままでは離陸も出来ない。
「誰だ!?勝手にメサイヤを動かしているのは!」
無線から当直のオズマの声が響く。アルトはその無線越しにオズマに話す。
「悪い…隊長、ちょっとランカを乗せてブレラを探しに行って来る」
メサイヤの無線からこんな声が聞こえてきたら、オズマだってさすがに驚く。
「おい!アルト!無断でのバルキリーの使用は認められていないぞ!今すぐ
降りるんだ!聞こえているのかアルト!」
「お兄ちゃん…お願い!行かせて!でないとブレラお兄ちゃんがっ!」
無線からランカの声も聞こえてきた。だがだからと言って、さすがにはいとは言えない。
オズマは何度も二人に、バルキリーから降りるように説得した。
「…隊長…俺の厳罰は覚悟しています。でも…俺は…今度こそ、ランカの願いに
答えたいんだ!もう二度とあんな思いはしたくないんだっ!」
「いいから降りろ!話は降りてから聞く!いいか、これは命令だ!」
「お、お兄ちゃん…お願いっ!私も戻ったら責任取るから!アルトくんと同じ罰受けるから!」
このままでは押し問答の一直線だ。ランカは時間がないと言っていた。
「ハッチ開放してくれないのなら、ミサイルで破壊してでも出てやるぜ!」
その時ハッチが音を立てて開いていった。誰かが操作しているのだ。
「誰だ!?ハッチ開放した奴は!」
「オズマ…行かせてやりなさい…アルトだって男なら、何かの為に戦う事もあるわよ」
ボビーだった。ボビーも当直で、この騒ぎを聞いていたのだ。
「ボビー大尉…すまない、恩に着る…アルト、メサイヤ…発進します!」
キュイィィ…ゴウゥゥ…
VF-25はハッチ開放を確認すると、音を立てて飛び立っていった。戻ってきたら
厳罰は覚悟の上。バルキリーに二度と乗れなくなるかも知れない。
「行くぜランカ!しっかり案内してくれよな!」
「うん!アルトくん…本当にありがとう…」
オズマの喧騒を他所に、バルキリーはアルトとランカを乗せて飛んでいく。
もう誰にも二人を止める事は出来なかった。というより無理に近かった。
「まったく…あいつら…場所を解っているんだろうな?俺も出るぞ!」
「オズマ…あなたやっぱりブレラの行方を…」
ボビーがそう問い詰めると、オズマは黙って頷いた。バジュラ星に降りてすぐ、
オズマはブレラから、事の真相を聞かされていたのだ。
「黙ってて欲しい…と言われた。ランカの為に、自分がしなきゃならない事があると…
だから絶対に口外しないでくれと言われた…」
「そこまで知ってて…オズマ!あんたを見損なったわ!今どんな思いで二人が
飛んで行ったと思うの?きっとランカちゃんが何かを察知したからよ!」
ボビーにこう言われると、さすがにオズマも言い返せない。だがブレラは
インプラントサイボーグだ。生身の人間よりは大丈夫だろうと判断していた。
「万が一の時には、ちゃんと支援に向かうつもりではいたさ…連絡が入れば…」
「とにかくオズマも行きなさい!もし…ブレラちゃんも含めて、三人の身に何かがあったら…
さすがにオカマの私でも怒るわよっ!さっさと準備なさいっ!」
こうして何だかんだといいつつ、オズマもバルキリーで二人の後を追う羽目になった。
「はぁ…まったくこの兄貴は…何を考えているんだか…」
「今何かあったの?バルキリーが二機飛んで行ったけど…」
同じく当直だったキャシーが、遅ればせながらブリッジに上がってきた。
「…馬鹿な兄貴と…無謀なメサイヤの出撃よ、キャシー」
「それって…どういう事?ちょっと…ボビー…」
ボビーはこれまでの経路をキャシーに話した。するとみるみるうちに、キャシーの
顔が青くなっていった。こんな事がもし、正規軍にでも知られたら…
「その時はその時よ、今更心配してても始まらないわ。それより…私達も準備しなきゃね」
「…え?準備って…」
「このまま放っておいたら、間違いなく外部に知れ渡るわよ…キャシー中尉!」