-第四章-

「キキ…キキキ…」

 洞窟内に話を戻す。ブレラが進入すると、案の定バジュラ達が騒ぎ出した。

それはまるでブレラに「帰れ!」と脅しているようでもある。

「…俺は…お前達と戦闘する意思はない。ただクィーンに会いたいだけだ」

 だがそんな事をバジュラが知る由もない。進入してくる奴。すなわち侵入者。

いくら最終戦争でバジュラ達と分かり合えた…とは言え、まだバジュラは

人間に対して、そこまで寛大な気持ちは持ち合わせてはいなかった。

「お願いだ、会わせてくれ…クィーンに…話さなきゃならない事が…」

 ブレラの願いも空しく、一匹のバジュラが突っ込んでくる。

それを何とか交わすが更に一匹、また一匹…これではキリがない。

ブレラは万が一に備えて、VF-27 ルシファーを待機させた。ここでもし戦いになれば、

それまでの苦労が水の泡と化す。そんな事はブレラも承知だ。

「くっ…やはり駄目か…交戦しないと、こいつらは…ランカ…すまない…」

 VF-27が自動交戦体制に入る。その瞬間バジュラ達が、ブレラに襲い掛かる…

「お、お兄ちゃんっ!!?」

 アパートの自室で寝汗びっしょりで、ランカは突然目を覚ました。

まるで悪夢でも見ているかのような眼で、今にも泣き出しそうになっていた。

「はぁ…はぁ…い、今のは…夢?でも…やけにリアルな…」

 ベッド脇の時計に目をやる。すでに時刻は真夜中の2時半を指している。

「…今の…まさか、正夢…じゃないよね?違うよね?」

 急に不安に駆られるランカ。もし万が一今のが正夢だとしたら…

そう思うといても経ってもいられない。携帯を取り出しどこかに掛けている。

「…こんな時間に迷惑かなぁ…でも…お願い、アルトくん…」

 二回…四回…六回…呼び出し音が鳴る。そして九回目でやっと繋がった。

『ん…ランカか?どうしたんだよ…こんな時間に…まだ夜中だぜ?』

「お願い!アルトくん…今すぐ私をバルキリーに乗せて!」

『は…はぁっ!?』

 電話の向こうのアルトは、いきなりランカからこんな申し出を受けて戸惑った。

幾らなんでも私用でバルキリーは持ち出せない。いくらS.M.S民間軍事とはいえ、

正式な出動要請がなければ、勝手にバルキリーには触れないのだ。

「お願い!お、お兄ちゃんが…ブレラお兄ちゃんがっ!」

『なんかあったのか?ブレラって…おい、ランカ!!』

 ランカのあまりにもの悲痛な叫びに、アルトはどうしていいのか解らなかった。

ただ…今、電話口に出ているランカは泣いている。何かを感じたのか知らないが、

行方不明のブレラに関する何かを察知した。そう捉えていいのだろう。

『…解った…とにかく会って話がしたい、今すぐ例の公園の高台に来れるか?』

「あ、ありがとう…アルトくん…すぐ行く!待ってて!」

 携帯を切るとランカは、一目散に準備を済ませて部屋を飛び出した。

オズマは今夜は夜勤で留守。それが今のランカには幸いしていた。

待ち合わせは例の公園。、グリフィスパークの丘…前に、アルトに夢を話し…

そして前に…そのアルトに決別して、ブレラとアイくんを連れてフロンティアから

飛び出していった…ある意味、とても思い出深い場所。二重の意味でランカにとっては

懐かしくも、少し重たい…そういう場所でもある。そこにまたランカは向かっていた。

「今度こそ…今度こそは…ちゃんと助けなきゃ!あれがもし正夢だったら…」

 グリフィスパークの丘に着くと、アルトは先に来ていた。ランカが駆け寄って来るのを

確認すると、アルトは小さく手を振った。

「どうしたんだランカ?いきなりバルキリーに乗せてくれ…だなんて…」

「説明している暇はないの!早くしないとお兄ちゃんが…バジュラ達に…」

「…取り合えず落ち着いて、まずは訳を説明してくれ…」

 ランカは夢で見たシーンをアルトに話した。暗い洞窟の中で、無数のバジュラに

襲われかけているブレラの事。そしてそれが正夢かも知れない…という事。

「…夢って…あ、あのなぁ…そりゃ、俺もブレラの行方は気にしてはいるけど…」

「でも本当なの!変な胸騒ぎがするの!お願いアルトくんっ!」

 そうは言われても、はいそうですか…と、無断でバルキリーを持ち出して、

あまつさえランカを乗せて飛ぶ…あまりにも無茶と言えば無茶な話だ。

「…隊長…オズマ隊長に話を振ってみよう。俺の一存じゃどうにも…」

「間に合わないかも知れないの!お願いアルトくんっ!」

 ランカのこまでの信念。単なる夢かも知れないのに、それに突き動かされる気持ち。

アルトには正直解らない。だが目の前にいるランカが、あまりにも悲痛な思いで

アルトに話しているのだ。そう…あの時のように…アイくんを、バジュラ星に戻そうとした

あの時のランカの眼。それとまったく同じなのだ。

「…解った…俺も男だ。こうなったらとことん付き合う!急ごうランカ!」

「あ、ありがとう…アルトくん…」

 あの時の思いはもうしたくない…ランカに助けを求められて、あの時はアルトには

出来なかった。その悔しさの無念と、自分のあまりにもの不甲斐なさ…

もうああいう思いはごめんだ。もしただの夢であってもいい。今助けを求めている

ランカを、冷たく突き放す事はアルトには出来ない。それにアルト自身もブレラの

行方は気になっていた。賭けてみる…そうアルトは決心した。

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