-第二章-

『…ブレラお兄ちゃんが…どこにもいないの…アルトくん…』

 ランカから携帯が掛かってきて、開口一番にアルトはこう言われた。

しかもバルキリー共々行方不明らしい。

「お、俺に言われてもなぁ…隊長…オズマ隊長は何て言ってる?」

『わかんない…探してはくれているみたいなんだけど…』

 ランカにしてみれば、やっと実の兄と解ったブレラが、あの日以来

姿をまったく見せなくなったのは、心配を通り越えて不安に駆られて

いてもおかしくはない。再開をやっと果たしたと思ったら消えていたのだ。

ランカじゃなくても不安にはなって当たり前でもある。

「う〜ん…星の外に出ていれば、多分レーダーが探知しているとは思うんだ

…その報告は上がってはいない…」

 とにかくアルトとしてみれば、ブレラの消息はランカ以上に検討もつかない事。

だがこのまま憔悴しきっているランカを、放っておけるほどアルトは人でなしではない。

「とにかく…俺もパトロールの時とか、なるべく気をつけて周囲を見てみる事にするよ…

だからそんなに落ち込むな、ランカ…な?」

『う、うん…ありがと…アルトくん…』

 お礼を言うとランカは、家の家事があるからと言って携帯を切った。

一方電話を受けたアルトは、何とかブレラを探す手立てはないものか・・・と

考え付くだけのアィデアを出そうとした。だが…ブレラの機体の発信器は

あれ以来作動していない。普通ならどこにいても、機体識別反応で

その行方は解る。万が一不時着した時に、すぐに見つけられるよう、

フロンティアではバルキリーの機体識別反応は、解除してはいけない

決まりもある。だがブレラの機体はあのギャラクシーの管轄だ。

「俺一人で悩んでいても仕方がないか…オズマ隊長にも相談してみよう…」

 待機室に戻ったアルトは、まずはボビーにこの話を持ち出した。

その日オズマはまだ別パトロール中で、待機室にはボビー、そして

キャサリン・グラスしかいなかった。

「そうねぇ…あたしも気になってはいたのよ。ブレラちゃん、結局

あの後急に消えちゃったでしょ?」

 アルトから話を聞いたボビーは、コーヒーを出しながらこう言った。

一応ブレラの消息は、フロンティア…とりわけS.M.Sでも重視して

探してはいる。結果的にフロンティアを救った恩人という事もあり、S.M.Sに

なるべく早くブレラを見つけ、保護するように要請が下っているからだ。

「でも…彼としては、今はそっとして置いて欲しいのかも知れないわね…」

 横に座っていたキャサリン。キャシーが口を割って会話に挟み込む。

「考えてもみてよ…いくらグレイスから洗脳されていたとはいえ、一時期は

フロンティアを破滅させようと目論んだ人よ?」

 キャシーの話はこうだ。いくら洗脳とはいえ、フロンティアを含むアイランドに

攻撃をけしかけ、ランカも危険な目に遭わせている。いくら実の妹だと

解った所でおめおめとフロンティアになびき、助けを求めるような奴ではない。

「責任…感じちゃってるのかしらねぇ…」

 カウンターの中のボビーが零すように言う。アルトとキャシーは、それでも

ボビーの言う事に頷くしかなかった。確かにこれがアルトでも、やはり責任

を感じてフロンティアから姿を消すだろう…それが手に取るように解るのだ。

「でも!ランカはそれでも…実の兄と解ったんだ!戻ってきて欲しいと思うだろ!

今まで兄だと知らなかった時も、二人は惹かれる物があったと聞くぜ!

それが実の兄だとやっと判明したんだ…会いたいだろ…」

「そうね…確かにそれはその通りなんだけど…」

 コーヒーを一口飲みながら、キャシーが続けて話し出した。

「彼は…例えフロンティア政府が許可したとしても、ここには戻らない気もするわ…

まずインプラント技術がフロンティアにはない…もし何かあったらどうするの?」

 キャシーの言う事も一理はある。インプラント技術のないフロンティアでは、

ブレラの身体を維持するだけの力はない。元の『人』に戻すには、失われた

肉体が必要。代用する事も可能だが、それは他の市民からの肉体の

提供しかない。つまりは…死体から取らなきゃ、身体を戻す事も不可能。

「だからって…このまま何もせずに、指をくわえて見ているだけじゃ納得出来ない!

俺は…奴に…大きな借りがあるんだ。それを返したい!」

 カウンターの席から立ち上がって、アルトは興奮したように喋りだした。

このままランカ共々見捨てる訳にもいかない。それは誰もが解ってはいる事だ。

「とにかく…オズマにもう一度、相談してみましょ…ブレラちゃんの捜索は

それからでも遅くはないわ」

 ボビーの言葉にアルトは頷き、また席に座りだした。これ以上ここで

論議していても、何も始まらない…それはアルトにもよく解ってはいる。

が…それでも探し出したい。ランカの為に探してやりたい。

気持ちばかりが焦りだして、アルト自身にもどうしていいのか解らなくなっていた。

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