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第二章 3
講義終了後、暮れなずむ空の下をイリアと共に歩き、自室まで帰る。
それからすぐ、机に向かい、
「はぁ……次は、アレの設計図を、作らないとな……」
疲労感と共に息を吐く。そうして座り込もうとする俺の肩に、イリアの手が置かれた。
「少し、お休みになられては? もう一〇日、まともに休んでないでしょう?」
「まぁ、な。けど、時間が――」
「本当に、それほどの無理をしなければならないほど、切羽詰まっているんですか?」
「……いや、そういうわけじゃないけど」
「なら休むべきです。無理をして体を壊せば、回復に多くの時間を費やすでしょう。あなたの言葉を借りるなら……それこそ、効率が悪いのではないですか?」
心配げな瞳で、見つめてくる。……この子にこういう顔を、してほしくないな。
しょうがない。本日はもう作業をせず、休むとするか。
「イリアの、言う通りにするよ。今日は――」
喋りながら立ち上がり、ベッド近くに居たイリアに近寄る。その、瞬間。
立ちくらみ? それとも、疲労が足をもつれさせたのか?
いずれにしても――
俺が倒れこんで、イリアを押し倒してしまったという事実に、変わりはない。
「きゃっ」
小さな悲鳴。ここで「ごめん!」と謝り、さっさと離れることができれば、良かったんだが……
疲れマラ、なんて言葉がある。極端な疲労時に、これは発生すると言われ――
簡単に言うと、死ぬほど疲れてる時は脳が種の保存を命令してくるってことだ。
それが今、俺の体に起こっている、らしい。
近くにある、イリアの可憐な美貌。鼻腔をくすぐる、ちょっとした汗臭さ。そして、密着した体から伝わってくる、柔らかな感触。
上半身は互いに半裸。そのため、強烈な生の感触が、脳を余計に刺激する。さらに、俺のアレがイリアの剥き出しな太ももに当たり、ムニムニとその柔軟さを確かめ……
「あ、あなた。疲労困憊のくせに……なんで、そこだけは元気なんですか」
イリアが顔を赤くして、俺を睨めつけてくる。そんな態度が余計にエロく感じて……
「んっ……ちょ、ちょっと! ま、また、大きくなって……!」
「ご、ごめん。そういうふうに、できてるんだよ。男の体ってのは。だから、これは、そう。生理学的現象であって……その……」
未だに、俺はイリアから離れることができなかった。
わかってはいる。わかってはいるんだ。でも、体が言うことを聞いてくれない。脳が発射しろという命令を絶えず発しているんだろう。
だから。
「んんっ……! な、何、動いてるん、ですか。こ、擦り、つけないでください」
「ご、ごめん。本当に、ごめん。で、でも、これは、その……」
この行為は、客観的に見れば、まさに凶行だろう。何せ可憐な少女を押し倒し、自分のアレを彼女の太ももに挟み込ませて……
けど、主観的には、問題がないように、思えてならない。
イリアは俺の行為を、まったく嫌がっていないんだから。いや、むしろ……許容しているんじゃ、ないか?
その証拠に。
「……彼女等に、してもらった後、小さく、なりますよね」
「あ、あぁ。出し尽くしになると、そうなるんだ」
「……なら、好きにすれば、いいでしょう」
「えっ? そ、それは、つまり……」
「わ、わたしの体で、好きなだけ気持ちよくなればいいと言ってるんですっ!」
顔真っ赤にして、瞳を涙で潤ませて、こんなことを叫ぶ。
ものすごい美少女が。俺好みの美少女が。一目惚れした美少女が。
……理性は、かなぐり捨てるもの。
もはや、遠慮する必要なんか、どこにもなかった。
「あっ……んん……! あ、熱い……! これを、こ、こうやって、強く、挟むのが、いいんでしょう……?」
行為の最中、俺の脳内に、蒸気機関が浮かび上がって来た。
蒸気の圧力を機械的エネルギーに変換する、というこの発明は、蒸気機関など、さまざまな文明の利器をもたらした。
蒸気がピストンを往復運動させる……いわゆるピストン運動が……蒸気機関の重要な要素で……そう、ピストン運動が……ピストン、運動……
「あんっ……な、なんだか、わたし、まで……」
「イリア……キス、していい……?」
「えぇっ……!? ん、くっ……! す、好きに、しなさいっ!」
言葉に甘えた。柔らかい唇の感触。ぬるぬるとした口の中を、舌で掻き回す。イリアも自分の舌を絡ませてきて……
「んっ……ちゅ……ん……えっ? あ、足を、広げるん、ですか? こ、こう? ……あっ! こ、これ……す、凄い……!」
ピストン運動が上下動ではなく、前後運動に切り替わった。
そんな中、スパーク寸前の脳内に、摩擦という概念が浮かび上がる。
摩擦とは二点以上の物質などが接触し、相対運動をしている、またはしようとしている物体間に働く現象だ。
摩擦という言葉を聞けば、擦り合っている様子を想像するだろう。しかし、実は制止状態の物体間でも、摩擦は発生しているのだ。
そう、制止していても、摩擦は生まれていて……制止状態、でも……制止…制止……
「んんっ! な、何か、来るっ……! んん――――――っ!」
ビクリビクリと、イリアの体が痙攣する。それと同時に、俺の体も震え――
一R目の終わりを迎えた。
直後、インターバルなしで二R目へ。
「ひぃっ! ま、待って! 待って、くだ、さい……! い、今動かれたら……!」
そういう台詞は、逆効果だ。
……結局、一二Rフルにやってしまった。結果は判定勝ちといったところか。
お互いに持てるものを出し尽くし、ノックアウト寸前だ。特に、俺なんかは極限の疲労時に激しく動いたもんだから、頭がクラクラしてしょうがない。
「はぁ……はぁ……い、いったい、何回、出すん、ですかぁ……」
「も、もう、終わり、だ……もう、何も、出ない……」
「そ、そう、ですか……」
体を一定時間ごとにビクンビクンと震えさせるイリア。まだ、快楽の絶頂から帰ってきていない、らしい。
……今なら、言える、かな。
「なぁ、イリア。こんな時に言うべきじゃないかも、しれないけど……俺、初対面の時から、イリアのことが、好きだったんだ」
「……えっ?」
「いや、その……一目惚れ、したんだよ。それで……俺の嫁に、なってくれないか?」
は、恥ずかしい。でも、ちょっと前までもっと恥ずかしいことをしてたからか、さほど羞恥心は湧いてこなかった。
しかし、イリアはそうでもなかったらしく、痙攣していた体をピタリと止め、それから。
「あ、あわ、あわわわわ……!」
俺の腕の中で、パニくり始めた。そんな様子が可愛かったもんだから、俺はイリアの頭をそっと撫でて……軽く、キスをした。
「んっ……あ、あなた、は……ちょっと強引、ですね」
「……嫌い、かな?」
「……いいえ。そんなこと、ない、です。……嫁にしたければ、勝手にすれば、いいでしょう」
顔を逸らしながら、恥ずかしそうに唇を引き結ぶ。
……生まれてきて、本当に良かった。心の底から思う。
負けられない理由が、もう一つ、できたな。
イリアを守るためにも、命懸けで頑張ろう。
……心地良い気分が、眠気を強めたのか。意識が、ゆっくりと途切れていく。
イリアを抱きしめながら、瞳を瞑った。そして、眠りに就く直前、
「おやすみなさい。旦那様」
安らかな心地で、俺は、意識を手放した。
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