東京電力福島第一原発の事故後、韓国が実施した日本産水産物の輸入規制の是非が、世界貿易機関(WTO)の場で争われる見通しになった。

 韓国は原発事故後、青森―千葉の太平洋岸など8県で水揚げされた水産物の一部の輸入を禁止し、2013年秋からは同地域の全ての水産物に対象を広げるなど、規制を強化した。

 これに対して日本政府は「科学的な根拠がない」と反論。韓国側の調査に協力しつつ撤回を求めてきたが、対立は解けず、WTOに第三国の有識者らからなる紛争処理小委員会の設置を申し立てた。

 日本産の食品については十数カ国・地域が、全てまたは一部の輸入を止めているが、韓国に関しては規制強化へと動いた点を特に問題視したようだ。

 貿易自由化交渉の停滞でWTOは「機能不全」とも見られがちだが、紛争処理機関としての役割は果たしている。日本も積極的に活用しており、ここ数年でも中国のレアアース輸出制限、ウクライナの自動車緊急輸入制限措置などを訴え、一定の成果をあげている。

 韓国とは歴史・領土問題を巡ってぎくしゃくした関係が続くが、貿易など経済問題は切り離して対応するべきだ。WTOでの判断を仰ぎつつも、早期決着へ話し合いを重ねてほしい。

 原発事故現場を抱える福島県の沿岸では、事故から4年半になる今も一部魚種の出荷が制限され、その他についても「試験操業」にとどまる。原発被災地とその周辺の農林水産物は放射能検査をし、基準を下回ったものだけを出荷する仕組みが整っているが、消費者は敬遠しがちだ。水産物の場合は、小規模な漁と販売で消費者の反応を探る状況が続いている。

 韓国政府が行った規制強化は、福島第一原発からの汚染水漏れを受けてのことだった。国民の放射能汚染への懸念が強く、消費者の混乱などを防ぐ狙いがあったという。

 規制の範囲や手段に問題があるとしても、食品については「安全」が必ずしも「安心」につながらない悩ましさは、日韓両国で変わらない。

 福島第一原発では汚染水漏れがたびたび生じ、漁業者が抗議する事態が繰り返されている。そのたびに消費者の信頼が遠のいていることを、忘れてはなるまい。

 汚染水を漏らさない。二度と原発事故を起こさない。そうして安全・安心の原点に返るしかないことを、韓国との紛争を機に改めて肝に銘じたい。