(アナウンス)「ただいま作家・沢村映子さんをお迎えし新刊恋愛小説『愛の果てに女神がほほえむ』のサイン会を開催しております。
繰り返し…」あお客様…割り込みはご遠慮願えますか?はいはいはい…。
はいはい最後尾はこちらです。
(沢村映子)杉下…。
(杉下右京)右京と申します。
うきょう…?あ京都の左京区右京区の。
えぇ右左の右に東京の京。
あぁ。
うきょう…様。
うれしいわぁ。
男性の読者にお目にかかれて。
若い方は多いんだけど。
中年は珍しいですか?お仕事は?公務員です。
じゃあせめてこの小説の中だけでも退屈な日常を忘れてくださいね。
ありがとうございます。
もっとも公務員の日常が退屈とは限りませんが。
そう思うことが大事よね。
恐れ入ります。
頑張ってください。
(女性)お願いしまーす。
…左京ですか。
(肥田育恵)銀座書店のサイン会仕込みは100人は必要よ。
(三原健夫)銀座通りにあふれます。
警察からクレームが来ます。
(育恵)好都合じゃない。
話題になるわ。
今日の先生輝いてるわね…。
ふんスポットライトが好きな人だから。
ねぇ先生のホームページの文章どうにかならない?素人っぽくて読むに耐えないわ。
すみませんね素人っぽくて。
じゃんじゃん書き直してくださいよ。
沢村映子の担当はあなたなんだから。
(携帯電話)はいだから仕事中だって…。
なるほど。
意外にも文学性とエンターテイメントを併せ持つ上質な内容ですね。
(亀山薫)右京さん!自殺ですって。
はい?いえいえこのほら昨日右京さんがサインしてもらったね?左京様って書かれちゃったこの沢村映子の夫が自宅マンションで飛び降り自殺。
スポットライトが好きな人だから。
夫でしたか…。
あ知ってるんですか?昨日サイン会でお見かけしました。
とすると飛び降りたのは…。
あぁ昨日の夜…ですね。
こんな偶然ってあるのでしょうか。
ねぇ昨日会った人がその夜にねぇ。
いえ沢村映子さんのこの新刊恋人に自殺された女性の物語なんです。
え?じゃあ自分が書いた小説と同じことが現実に起こった?えぇ。
へぇ〜そりゃ不思議だ…。
不思議ですね。
いや〜ありましたありました。
もうどこも売り切れで本屋三軒も回っちゃいましたよ。
そうですか。
でも夫が死んでまだ三日だっていうのにもう手記出すなんて手回しがいいっちゅうか何ちゅうかね…。
え〜…あはい。
(映子)「わたしの目の前にあなたの言葉がある」「わたしはパソコンのモニターに残されたあなたの言葉を消すことも残すこともできないでただただ呆然と無機質な文字を見つめている」
(三原)「映子一緒になったときに確かめ合ったね」「たがいに相手を幸せにすることを考えようと」「それが僕らの出逢いを用意した運命に報いることなのだからと」「映子君を幸せにできなくてごめん」
(映子)「何度読み返しても私にはわからない」「なぜあなたが自ら死を選んだのか」「わたしを残して去っていけたのか…」長ぇなぁ…4ページもありますよ。
逆算すると沢村映子さんは夫が亡くなってから翌日の夜までに4ページ分の手記を書いたことになりますね。
夫に死なれてすぐ手記なんて書けますかねぇ…。
亀山君。
はい。
「であう」と書いてみてください。
「であう」?えぇ漢字でお願いします。
…書けますよ?え〜出…会…うとね。
なるほど。
一般的にはこうですね。
しかし夫の三原健夫さんは遺書にこう書いています。
あ〜逢引きの「逢」ですね。
えぇ沢村映子さんの小説では…。
こう。
へ〜どの小説でも?えぇ。
あっ!ちょ…ちょっと待ってください。
まさかこれ全部読んだんですか?読みました。
うわぁ〜。
彼女は恋愛小説家ですから特別に思いを込めてこの「出合う」という表記を選んだ。
僕はそう解釈しました。
えぇ。
しかしこの一冊。
最新刊の一つ前に書かれた作品ですが別人が書いたのかと思うほどレベルに差があります。
登場人物には魅力は無いし文章は冗長語彙は貧困…。
特に僕が気になるのは47ページ。
4…47ページ。
線を引いたところです。
「先生熱いうちにお紅茶いただいてください」う〜ん何かおかしいですか?いただくとは謙譲語。
先生ときたら「召し上がってください」と続けなくてはなりません。
あぁ…。
この人物は教養ある女性という設定ですから。
これでは作家自身が敬語の使い方を知らないということになります。
他の作品には文法的な間違いは見当たらないのですがねぇ…。
その上調べてみたところ他の作品は全て10万部を超えるベストセラー。
一方この『第三の女』だけが2万部にも届いていません。
出来の悪いのはやっぱ売れないってことですかね。
いえ問題は102ページ。
ん…?102ページ…。
「彼とまたこの季節に出逢った…」あ!逢引きの逢だ!他の作品では使ってないんですよね?そうなんです。
この作品だけ逢引きの逢が使われているんです。
つまり見原さんの遺書と同じ表記?この一致は一体何を意味するのでしょうね…。
亀山君。
はい。
ちょっと揺さぶってみましょうか。
え?
(映子)そばにいてどうして気付いてあげられなかったのか。
彼の死はこれからも一生ずっと背負ってくことになると思います。
(記者)ご主人に何か悩み事とかはなかったでしょうか?
(育恵)すみません今日のところはあの本人疲れておりますので。
すみません。
ちょっとお引き取りください。
(記者)失礼ですがご夫婦仲はどうだったんですか?はいはいはい。
もう終わりですよ。
終わりです。
はい帰って帰って。
はいはいはい…。
ルールは守ってルールは守りましょうね。
(記者)先生一言お願いします!ああなたサイン会の…。
素晴らしい講演でしたね。
あ…私守られてるのねファンの方に。
お礼にお二人にお茶でも。
はい。
いえそんなつもりでは…。
ご遠慮なさらないで。
お言葉に甘えちゃいましょうよ。
そうですか。
(映子)あボタンあったの?似たのを見つけたので二つとも付け直したんです。
似合ってるわ。
担当編集者の肥田と申します。
ご丁寧に。
先ほどはありがとうございました。
お友達も連れてきてくださったのね。
友達です。
今日は一ファンとして先生のお力になれたらと思い伺いました。
さっきはとても助かりました。
いえそうではなくご主人の自殺の原因がわからず思い悩むそのような先生の今のお姿に僕はこれ以上耐えることはできません。
そこで僕なりに自殺の原因を考察してみました。
一人の男として。
あの…。
いいの。
お伺いしたいわ。
男として…何?亀山君。
はい。
この『第三の女』は先生がご結婚なさって初めての作品ですね。
えぇ…。
実際はご主人の三原さんがお書きになったのではないかと。
というのもこの『第三の女』があまりに作品的価値が低いからです。
二度も直木賞候補になった先生の作品とは思えません。
あなた…何てこと言うんですか!?すみません。
彼は先生の本を愛するあまりにですねそれでですね。
他の作品と決定的に違うのは表記です。
この『第三の女』だけがご主人の遺書と同じ漢字で「出逢う」と書かれています。
したがってご主人の三原さんがゴーストライターとなってお書きになったのではないかと…。
馬鹿げた推測はやめてください。
ゴーストライターだなんて先生の名誉にかかわります。
作品が変われば表記が変わるのは当然のことです。
たまたまご主人の遺書と同じだからって…。
単なる偶然ですよ!ファンの方って怖いわね。
こんな細かいところまで読み込んでるんだから。
失礼を承知で申し上げました。
しかしもしもですよご主人の三原さんがこの『第三の女』をお書きになったと仮定したら自殺の原因もおのずと推察されます。
この年は『第三の女』が不評のうちに終わり直木賞候補にもあがらなかった。
ご主人はそのことに責任を感じてご自分を追いつめたんじゃないでしょうか?考えてくださったのねファンとして。
そう受け取っておきます。
ありがとう。
余計なことを申しました。
あケーキお嫌い?美味しいのよここの。
遠慮なくいただいて。
「いただいて」!?え…?いや〜激しい揺さぶりでしたね!えぇ。
だけど言いましたよね?「いただいて」って!沢村映子。
「いただいて」って。
言いました。
同じですよね。
「先生お紅茶いただいて」同じですねぇ。
ってことは…前作の『第三の女』はやっぱり沢村映子本人が書いたと考えるのが自然なんじゃないですか?調べてみましょう。
はい。
『第三の女』は作品的価値が低いだって…。
何あの男…!何にもわかってないのよ。
気にすることないの。
でも…見抜いてた。
作者が違うって…。
インターネットなんかで噂されたら…。
沢村映子にゴーストなんていないの事実はそれだけ。
わかってる…。
あんなオタクいちいち驚いてられますか。
心配しないの沢村映子は私が守るから。
(携帯電話)杉下です。
「ありました沢村映子の作品」デビュー前の沢村映子ひとつだけ雑誌に掲載されてたんですよ。
1995年度シリウス文芸新人賞の佳作を受賞してます。
『青春の小径』佳作作品のコピーです。
それで?あありましたよ一か所だけ。
「二人は出逢ってしまったのよ」「もっといい男に出逢うさ」ね?逢引きの逢ですよ。
デビュー前の『青春の小径』…逢引きの逢で「出逢う」…。
逢引きの逢が使ってあるのはこの佳作と前作の『第三の女』と…。
三原健夫さんの遺書。
その三点だけです。
逆だったんですよ。
この二つだけが本人の作品他はゴーストライターが書いた。
違いますか?その可能性は大いにありますね。
それから遺書…。
これも沢村映子だとすると偽装自殺の可能性がありますね。
なるほど。
となると問題は動機ですね。
夫婦関係はどうだったんでしょうねぇ。
調べましょ。
そうしましょう。
(高木勉)いや増刷は5万だ。
『ウーマンウーマン』も増刷すると言ってきた。
雑誌じゃ異例だよ。
5万部急いで!じゃ頼んだよ。
どうもお待たせしました。
警視庁特命係の杉下と申します。
亀山です。
どうぞ。
三原の一件は警察も自殺と結論を出したって聞いてますが…。
えぇ今しばらくご協力ください。
あの…沢村先生と三原さんのご結婚は2年前とお聞きしましたが夫婦仲ってのはどうだったんでしょうか?別に悪くは無かったでしょ。
そりゃ方や売れっ子作家方や半人前の編集者。
普通のカップルとは違うけど…。
三原さんの遺書からは彼がどれほど沢村先生を愛していたのかよく伝わってきました。
普段からよくモノをお書きになる方だったんですか?あぁあれは少々意外でしたね。
「てにをは」も危うい男だったからな…。
よく書きました。
沢村映子さんの担当編集者は肥田育恵さんですね?えぇデビューからです。
デビューからずっと?はぁ…。
ご結婚後の前作の『第三の女』の時も担当は彼女ですか?いやあの時に限っては担当は三原でした。
なるほど…。
ところでご結婚なさってからお書きになった『第三の女』あれ以外の作品は全てゴーストライターが書いた…違いますか?どこで仕入れてきた情報かは知らんが事実無根ですね。
自社ビルですってね〜会社起こして10年足らずで。
沢村映子が建てたようなもんですよ。
沢村映子とそのゴーストが建てたと言うべきでしょうね。
見えないはずのゴーストぼんやり見えてきましたね。
そのようですね。
(村松)沢村君!
(映子)あ!村松先生ありがとうございます〜。
(村松)新作大ヒットおめでとう。
ありがとうございます。
あ〜どっちも素敵。
こういう柄着こなせる作家って私くらいじゃない?さようでございますね。
うん!両方いただくわ。
ありがとうございます。
こんにちは!お二人まるで追っかけみたいね。
お仕事は大丈夫なの?大丈夫なんですよ。
これが仕事なもんで。
警視庁特命係の杉下といいます。
亀山です。
刑事さんだったの…。
お訊きしたいことがありましてお宅のほうへお伺いしたんですが…。
どうしても彼の死んだ家に一人でいられなくて。
お気持ちお察しします。
買い物してると気持ちが紛れるの。
あの…ご主人が亡くなった日の午後10時から12時の間先生仕事場のマンションにいらっしゃったそうですね。
えぇまだ仕事してました。
私夜型なの。
ご主人の死はどうやって…?管理人さんから電話貰いました。
仕事場のほうに?それとも携帯電話に?…携帯電話。
は〜ん…。
あ実はですね…先生の仕事場マンションを調べてみたんですけれどもその夜に先生を見かけたって人がいないんですよね。
だから私にはアリバイが無いって?そうなっちゃいますかね。
最新作の小説書店でベストワンの売れ行きだそうですね。
あの悲痛な手記が功を奏しました。
あなたはご主人の死をきっかけに見事にカムバックを果たそうとしてらっしゃる。
何!?まるで私が小説売るために殺したみたいね!?あ〜そうも考えられますね。
育ちゃん助けて!この二人刑事だったの。
騙して私に近づいてきたのよ。
社長から聞きました。
行き過ぎた捜査を訴えますよ!私三原に逝かれてやっと立っていられるくらいなのにこの人たち私が殺したと思ってるの!私を殺人犯にしようとしてるのよううっ…。
大丈夫よ映子ちゃん私が守るから!警察なんかに渡すものですか!ね大丈夫よ映子ちゃん…!あなた方先生の心痛がわからないの?どうもすみませんでした。
では肥田さんあなたお時間ありますか?沢村映子は今大事な時なんです。
警察にマークされてることがマスコミに知れたら…。
どんなにダメージが大きいか考えてください。
では質問を変えましょう。
沢村映子のゴーストライターはあなたですね?『第三の女』以外の作品…先日の手記も含めて沢村作品を書いてきたのはあなたでしょう?はぁ…。
何馬鹿なこと言い出すんですか?本当のこと言って下さいよ。
じゃないといつまでたっても映子さんの疑いは晴れないしいつまでたってもつきまとうことになっちゃいますよ。
どうですか?手記を書いたのは私です。
でも…。
作品は違うと?えぇ。
もちろん僕はこのことを公表するつもりはありません。
ただ彼はどうでしょう?自信ありません。
もしあなたが沢村映子の作品を誰が書いてきたのか正直に話してくれるのならば…。
秘密は誰にも明かしません。
約束します。
作品を書いてきたのはあなたですね?であってしまったんです…彼女と。
えぇ。
思えば運命的なであいでした…。
9年前高木社長は大手出版社から独立したばかりで私はアルバイトをしていました。
新人賞の佳作を取った沢村映子は手当たり次第に出版社に売り込んでいたんです。
社長は小説の中身より彼女のビジュアルに興味を持ったようでした。
「これからはビジュアルの時代だ」って。
で君はどうなりたいの?有名に…なりたいです。
いいね〜明快で。
あ肥田君!ちょっと。
(育恵)はい!こちら小説家志望の沢村映子さん。
はじめまして。
こちらうちのバイトをやってもらってる肥田育恵さん。
ね二人で一緒に書いてみない?君たちの同世代が泣ける恋愛小説。
上手く出来たら本にするよ?本当ですか!?うん!一緒に頑張りましょう!買ってたんだよ君の文章力は。
彼女の力になってくれるね?私必死に書きました。
沢村映子はアイデアが膨らまないし途中から「あなたが書いてよ」って任せてくれたから。
結局ほとんど私の文章になりました。
わぁ夢みたい…。
嬉しかったなぁ…自分の言葉が活字になって。
私それだけで幸せでした。
私あの頃とほとんど気持ちは変わってないんですよ。
書けるだけで幸せなんです。
だけど沢村さんはあなたの何十倍もの収入を得ている。
あ…お金の問題じゃありません。
私着るものにも住むところにも執着がないし。
沢村さんはこんなにあなたのおかげを被っているのにどうして前作の『第三の女』自分で書いたんスかね?さぁ。
ご主人と公私共にパートナーでいたかったってことですかね?あなたという素晴らしいパートナーがいながら信じがたいですねぇ。
どんな関係にだって倦怠期ってあるんじゃないんですか?倦怠期…。
でも彼女自分から電話くれたんです。
結婚してから初めてだったな…。
やっぱり私と一緒に仕事がしたいって。
「沢村映子の世界を理解してるのは育ちゃんしかいないから」ってそう言ってくれて…。
それで『愛の果てに女神がほほえむ』が誕生した。
あなたの手によって。
沢村映子には必ず直木賞を取らせます。
ここ1〜2年のうちに。
そうなれば彼女の地位は磐石です。
えぇ。
今とても大事な時期なんです。
どうかそのことをお察しいただいて…。
どうしてゴーストライターに甘んじてるんですか?肥田育恵では本は売れません。
なるほど。
お話が訊けてすっきりしました。
失礼しましょうか。
はい。
ありがとうございました。
どうも。
あそのネックレス沢村さんとお揃いですね。
えぇ…。
ジャケットは沢村さんがサイン会の時に着ていたもの。
私全てお話ししました。
もうこれ以上つきまとわないで下さい。
わかりました。
失礼しました。
倦怠期ですって。
女同士で言いますかね?倦怠期って。
(奥寺美和子)あったよなぁ女同士でも。
蜜月だって倦怠期だって。
お前には訊いてないの。
右京さんに言ってるんです。
では続きを聞かせてください。
あ…はい。
いろいろあっても女同士って勘がいいから暗黙の了解のうちに違う関係にスライドしてってしまうんですよ。
それに引き換え男ってのは倦怠期の真っ只中にあってもな〜んにも感じない。
ホント鈍いんですよね〜。
そりゃどうも大変参考になりました。
右京さんに言ってるんですけど〜?貰ったジャケットを着てその上その人と同じネックレスを身に付ける。
そのような女性の心理あなたわかりますか?
(宮部たまき)私にはわかるわ。
(美和子)あるあるそういう心理。
たまきさんに訊いてるんですけど。
高校の時にね花柄のカチューシャが流行ったの。
カチューシャ…?ほら髪の毛こうするヤツ。
私がしてたら後輩の女の子たちが次々に私の真似したの。
へ〜。
憧れの的だったんですか。
自慢じゃないんですよ。
右京さんの理解を助けたいだけですから。
わかってますよ。
女の人が同性に憧れるとその人と同じ物を身に付けたいって思うんじゃないかしら。
しかしそれは思春期の女の子の話じゃありませんか?いいえ。
大人になってもです。
才能や美貌に恵まれた人に対して同性の人って嫉妬とか憎悪とかすると思うでしょ?でもそれだけじゃないと思うの。
相手を自分のものにしたいって思ったり相手に尽くしたいって思ったり…。
そういう気持ちもあるんじゃないかしら?なるほど…。
ではその相手が結婚したらそれはどういう感情になるのでしょう?略奪されたって感じ?略奪…ですか。
俺死んだ夫の遺書を何度も読んでみたんですけどねてにをはも怪しい三原が書いたとは考えづらい。
書いたのは映子だと睨んでた。
だけどこの内容。
な〜んか肥田育恵が言ってるみたいな気がするんですよね。
どうしてそう思うんですか?肥田育恵はゴーストに甘んじてる…。
いやあれはどう見ても幸福感を感じてますよ。
それってこの「相手を幸せにすることを考えよう」って言葉に通じるじゃないですか。
なるほど。
それとこれ。
「僕らの出逢いを用意した運命に報いることなのだから」肥田育恵は沢村映子とは運命的なであいだった…。
運命的なであいでした…。
そう言ってましたからね。
鋭い洞察力です。
う〜んところが。
ところが?一つ問題があるんです。
遺書を肥田育恵が書くとしたら「であう」に逢引きの逢は使わないですよね?亀山君その点はクリアできそうですよ。
捜査に協力…?もうつきまとわないって言ったじゃないですか…。
いや〜本当に本当にこれが最後ですから。
沢村先生の疑惑を晴らすためだと思ってひとつ…よろしくお願いします。
あこれ…あのあなたのパソコンですよね?えぇ。
「であう」と打ち込んで漢字変換していただけますか?お願いします。
(ため息)パソコンの辞書には学習機能があります。
それくらい存じてます。
学習機能が働くとその直前に使ってた漢字が最初に出てきます。
肥田さんあなたはいつもこの「出合う」という漢字を使ってるから自動的に最初にこれに変換されたんです。
三原さんが遺書を残したのは沢村映子さんのパソコンでした。
これその遺書のコピーです。
沢村映子さんのパソコンでは「であう」は逢引きの逢に変換されています。
つまり誰が入力してもそう肥田さん…もしあなたがあの感動的な遺書を創作したのだとしてもこのパソコンでは「であう」は逢引きの逢になるんですよ。
何で私が遺書を…!誤解しないで下さい。
僕は今一つの可能性を申し上げたまでです。
杉下さん…私の能力を買いかぶってますね。
僕はあなたの愛読者ですから。
じゃあ言いますけど。
私が書くんだったらもっと簡潔な文章にします。
はぁ…馬鹿馬鹿しくて付き合っちゃいられません。
どうぞお帰りください。
亡くなった三原さんは沢村先生に見初められたんだそうですね。
ヒモみたいな男ですよ三原は。
間違った結婚だったんです。
見え透いた優しさにころっと騙されて。
悔しかったですか?沢村先生が結婚した後担当を外されて…。
あぁそれも三原さんの差し金だったんですかね?どうぞ。
(ドアの開く音)
(育恵)会社に刑事が来たわ。
(映子)また?何て?三原のこと訊かれたから「ヒモみたいな男だった」って言っちゃった。
…だって本当のことだし。
そんなこと言ったらますます私が疑われるじゃない!私も…疑われた。
…え?三原の遺書を書いたのは私じゃないかって。
やっぱり…あなただったの…。
あの遺書は育ちゃんの文章よ…。
もう…沢村映子はおしまいね。
そんなことない!!だって…だってあれは自殺だったのよ!あの刑事たちはそう思ってないわ。
大丈夫…映子ちゃんは私が守ってみせる!直木賞を取ってもらうんだから…!もう無理よ…。
(電話)はいはいはい…ちょっとどいて。
あれ?いるんなら取ってくださいよ。
あ…失礼。
ちょっと考え事を。
あもういいっス。
そうですか?はい特命係。
「沢村映子ですけど」沢村さん…?ってあの沢村さん?「うちに来ていただけません?お二人で」あぁ…はい。
ボルドー・メドックのレフォール・ド・ラトゥール…。
どうぞ…。
買った覚えがないんです。
三原の事故以来ワインクーラー開けるのは昨夜が初めてで…。
ご主人が買って入れてあったんじゃないですか?彼ならもっと安物を買います。
あの…編集の肥田さんじゃないかと…。
肥田さんが?よく持ってきてくれるんです。
打ち合わせの後に飲むことが多いので。
あなたはボルドーがお好きなんですねぇ。
肥田さんはあなたの好みをよくご存知でらっしゃる。
それは…。
だけどあなたがいない間にワイン持ち込むっていうのは…。
出来るんですよ。
彼女この部屋の合鍵持ってるんです。
ワインはいつも会社の近くのリカーショップで買ってました。
確認してみましょう。
はい!これお借りしていいですか?どうぞ。
(店主)え〜っと…あぁ10日の21時13分になってますね。
確かに肥田育恵さんが購入したんですか?えぇ間違いありません。
私がお勧めしたんですから。
ありがとうございました。
いえいえとんでもありません。
9時13分…。
沢村映子のマンションまでおよそ…40分として死亡推定時刻と合致しますね。
えぇ。
けど…。
何か気持ち悪くありません?うまくいきすぎてて。
君もそう感じますか?はい。
どうぞ。
沢村さんがワインクーラーの中に見つけました。
あなたが買ったワインにまちがいありませんね?三原さんが亡くなった夜あなたはこのワインを持ってここに来てますね?どうして?教えてくれなかったの?これが私たちのためなのよ…。
私が殺しました。
ここのベランダから突き落として…それから遺書を書いたんです。
どうせ書くなら沢村のイメージアップになるようにって読者受けする内容にしました。
なぜ三原さんを殺そうと思ったのですか?それは…三原の女性関係です。
女性関係…?あれはどうしようもない男でした。
これ以上放っておいたら先生のためにならないと思ったんです。
沢村さんのためにあなたが殺した?わかりませんねぇ…。
沢村さん本人が殺意を抱くならわかりますけどね。
作家の不利益になることを排除するのは編集者の仕事ですから。
事件の夜沢村さんがここにいないことをどうしてご存知でしたか?先生は…仕事場にいることはわかってましたから三原ひとりだと思ってここに来ました。
その時すでに殺意があった…そういうことですか?そうです。
三原がベランダに出てタバコを吸う時を狙おうと思って。
つまり計画的に殺したと?そうです…。
困りましたね…。
これでは立証できません。
(映子)このワインが証拠でしょ?このワインが問題なんです。
(育恵)私が買いました。
買ってワインクーラーに入れたんです!えぇあなたのおっしゃる通りだとして例えばこういうのはどうでしょう?あなたは沢村さんと飲もうと思ってこのワインを買ってきたのです。
打ち合わせの後によくお二人はワインを一緒にお飲みになる。
そうおっしゃってましたね?ところがここに来てみると沢村さんはお留守でした。
あなたは合鍵を使って部屋の中に入りお持ちになったワインを…。
ワインクーラーの中に入れた。
そして沢村さんが帰ってくるのを待つ間にあなたはとんでもないものを見てしまった。
三原さんがすでに死んでいました。
私が!殺したんです!ひとつ確認したいことがあります。
このジャケット確か沢村さんにプレゼントされたものですよね?失礼。
どうして嘘をついたんです?講演会のあった日あなたはエレベーターの前でボタンは二つとも付け直したとおっしゃいました。
似たのを見つけたので二つとも付け直したんです。
しかし見たところどうやら付け直したのは一つだけのようですね?エレベーターの前のあなたの様子がずっと引っかかっていたんですよ。
教えていただけませんか?なくなったボタンはいつどこで手に入れました?それはサイン会があった日…つまり三原さんがなくなった夜この場所で見つけたんじゃありませんか?だとすれば少なくとも事件当夜沢村さんがこの場所にいた可能性があるということになります。
三原は私が殺したんです!遺書を読めばわかるでしょ!!肥田さん!あなたが庇おうとしてるこの人はあなたを売ったんですよ!それでもまだゴーストを続けるつもりですか?そろそろ…肥田育恵に戻ったらどうなんですか?お二人の運命的なであいに…別れの時が来たんですよ。
遺書は私が書きました…。
三原は死んでいました…。
(育恵)私が来た時三原はもう死んでいました。
(育恵)その時すぐに誰が殺したのかわかりました。
(育恵)三原は自殺したんだ…。
何度も自分に言い聞かせながら遺書を打ちました。
はぁ…。
なぜ殺さなきゃいけなかったんですか。
別れてしまえば…。
離婚なんて何のメリットがある?いったん男に愛想をつかしたら後はどう利用できるか…。
それしか考えられないじゃない。
誰だってそうでしょ?誰だってじゃないでしょ。
あなたはそうかもしれませんけどね。
あなたはご自分の名声には興味がおありのようですがごく身近な人間の動向には鈍感だったようですねぇ。
肥田さんがあなたの犯行を見抜いていたことに気付かなかったのですか?洞察力が欠落しています。
小説家としては致命的ですね。
それが事件と関係あるんですか?侮辱しないで下さい!まだ庇うんスか!?あなたを殺人犯に仕立てようとした女ですよ!?それでも私の作品です。
沢村映子は私の作品です!私の誇りです!直木賞…もう少しだったのに…!肥田育恵は殺人幇助ってことになるんスかね?しかしあれほどの才能の持ち主です。
早く立ち直ってくれることを祈りましょう。
この中にもゴーストがいたりして…。
いないことを信じましょう。
2015/09/01(火) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒 season3[再][字]
「ゴースト〜殺意のワイン」
詳細情報
◇番組内容
“警視庁一の変人”だが天才的頭脳で鋭い推理をみせる杉下右京(水谷豊)と“おひとよしな熱血刑事”亀山薫(寺脇康文)の名コンビがあらゆる難事件に挑む!
◇出演者
水谷豊、寺脇康文 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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