2015年09月03日

佐野研二郎氏のデザイン盗用・模倣問題、編集現場から考える

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東京オリンピックエンブレム模倣疑惑から始まったデザイナー佐野研二郎氏の一連の盗用・模倣問題、エンブレム取り下げでひとつの大きな山を越した感があるので、ここで編集者としての率直な印象を書いておく。

例として、私が仕事で取り組んだWeb媒体の話を挙げよう。雑誌でも書籍でもなくWebを挙げるのは、スピード感が最重視されるメディアであって「限られた時間で法的にも問題ない結果を出さねばならない」現場だからだ。


私がとあるWebの編集長をしていた頃、連載や特集、特番といった新規案件が、ひっきりなしに順番待ちをしていた。もちろんそれぞれデザインを起こさねばならない。

部内にデザイナーを抱えていたので、イメージを彼らに伝えて作業させた。全体のデザインのみでなく、付随して多数の画像を作る必要がある。新連載の画像カンバンや必要なバナー類等だ。

そうした画像を作らせるとき、彼らに口を酸っぱくして言っていたのは、「著作権上、絶対に問題のない画像を使ってくれ」ということだ。

というのも、もし他人が著作権を持つ画像をコピペや加工などして使えば、著作権侵害、著作同一権侵害、著作者人格権侵害といった事態を招く。それが露見した場合、世間一般は「そのデザイナーが悪い」では納得してくれない。当然だが「出版社の○○が著作権侵害」と報道されるし社会からも糾弾される。

それにそもそも、著作権で食っている出版社が他者の著作権を無視するわけにはいかない。事はデザイナー個人、ないし編集長たる私個人では終わらないのだ。

そうなったとき、自社に対するインパクトはでかい。そのため、「くれぐれも」と釘を刺していたわけだ。


Webの現場では、その企画に合致するイメージの写真やイラストを悠長に撮影したり描き起こす時間があるとは限らない。予算にも限りがある。

そのためデザイナーが多用していたのが、著作権フリー(厳密に言えば著作権がないわけではなく、利用を許諾されているという意味)、加工OK、商用OKの素材集だ。一連のDVDを購入し、編集部に常備してある。その中から適切な画像を選択し、トリミングや加工するなどして利用することが多かった。これなら完全に合法だ。



素材集はその商品的な特性から、どうしても最大公約数なイメージ写真などの集合体となる。そのため必ずしもすべての案件に100%マッチするとは言えない。その場合は別途画像を購入するか、素材集の類似写真で我慢する。そのあたりは予算と時間の余裕によってまちまちだ。


ここで佐野氏の問題に移る。私はどうしても大きな疑問を感じざるを得ない。

この程度の仕事場ですら著作権には最大限の注意を払っているというのに、輝かしい経歴をお持ちのデザイナーが、なぜ著作権を侵害するような行為を自分で、さらにスタッフに陸続とさせていたのか?

「適当にWebからぱくっといて」と私が言えば、うちのデザイナーには絶対に拒否される。デザイナーとして当然の懸念を抱くからだ。

佐野氏の事務所「MR_DESIGN」では、そうはなっていなかったわけだ。代表たる佐野氏が「絶対に著作権侵害をするな」と言えば、スタッフは従ったはず。代表からスタッフ末端まで、たちの悪いまとめサイトと同レベルでパクりまくっていたというのは、当然「それでいい」という暗黙の、ないし明示された指示があったはず。


そのあたりが、もやもやする。本当に著名デザイナーの著作権意識がその程度なのか?

どうにも信じがたいが、サントリートートバッグや多摩美大ポスター等、実際に指摘される多くの疑惑を見る限り、「それでいい」というぬるま湯の閉鎖的「村組織」に属していたとしか判断しようがない。


佐野氏は未だに「東京オリンピックのエンブレムは一切盗用・模倣していない」と主張している。広報担当の奥様も、「ひとつが間違いなら全部ダメなのか」という主旨の逆ギレ発言をなさっている。

いや「全部ダメなのか」もなにも、最初の会見で佐野氏は「これまで一度たりともパクったことはない」と大見得を切っている。その舌の根も乾かないうちに「サントリーはパクリでした」と認めているわけで、つまりは「釈明は嘘だった」ことになる。なにせサントリーは直近の仕事であり「パクリを忘れてました」とは判断できない。


嘘をついていた以上、東京オリンピックのエンブレムに関しても嘘をついていると推測されるのは当然だ。エンブレム以外にこれだけぞろぞろとパクリ疑惑が出ている事実も、その推測の妥当性を高めている。

実際に仕事を共にしたことはないのでわからないが、佐野氏の報酬は莫大だったはずだ。ならメガネの写真ひとつ、カメラマン雇って撮らせればいいじゃないか。安いものだ。小銭をケチって、なんでブログからパクるようなマネをするのか。

どうしてもそのあたりが信じられない。仮にも大学教授としてデザイン講義を持っている方がだ。


しかもトートバッグ以降、一連の疑惑には背を向け、パクリを認めていないし、自分の言葉で説明もしていない。こそこそ自社Webに自分の主張を載せるだけでは、余計に炎上するとなぜわからないのだろう。吉兆女将や楽天kobo炎上に並ぶ、最悪の広報対応だ。

メディアは不明点を解明したいだけなのだから、自ら説明し、問題があれば謝ればいい。それをしないから、取材攻勢が終わらない。

冒頭「山を越した」と書いたが、それはあくまで実務上の話であって、佐野氏は疑惑に答えておらず、問題はまだ全く解明されていない。一刻も早く自ら記者会見し、メディアの疑問に答えることこそ、炎上を鎮めるもっとも正しい手法だ。もし彼が友人であれば、私はそう助言する。


自社Webに発表された文章を読むと、炎上に心を痛めている様子が見て取れる。そこは気の毒に思う。多分今は切羽詰まっており適切に判断できないのだろうが、社会は「佐野研二郎」という人格を攻撃しているわけではない。デザイナーとしての職責を求めているだけだ。そこに早く気づいてほしい。

だから正直にすべてをつまびらかにし、デザイナーとしてのけじめをつけてはどうか。万一それで一時的にデザインの仕事がなくなったとしても、他に食うあてはいくらでもあるはずだ。佐野氏ほど才能がある方であれば。

真の自尊心を発揮するチャンスは、一生のうち、今を置いてない。


editors_brain at 08:00│Comments(0) ヘンな世界 

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