(池山樹里・ナレーション)
昼の忙しさが夜のにぎわいに変わる頃
都会の喧騒の奥の奥
この店はその日唯一のお客様を出迎える
でもこの店は探しても見つからないかもしれない
なぜならここを訪れることができるのは今まさに人生の岐路に立たされた人だけ
店の名前は「LeBonVivre」
フランス語で「よき人生」
いらっしゃいませ。
お待ちしておりました。
(前岳)あっ…今日はよろしくお願いします。
どうぞ。
あっ…。
扉が閉じられる
それから数時間の後…
ザァー…
(雨音)ごちそうさまでした。
ありがとうございました。
あっ…。
と…ここまでの物語
ここはこの世から失われた料理を再現することができるレストラン
ここで振る舞われる料理は立ち止まってしまった人生を再び動かす力を持つ
それは始まりの飯「シメシ」と呼ばれている
どうぞ。
あっ…。
前岳様ですね?あっはい。
メールで何度かやり取りさせていただいたオーナーの池山です。
あっ…どうも。
皆さんそうやって驚かれます。
えっ?なかなかございませんもんねこういったお店は。
あっ…。
でもほんとに運がよかったです。
ここに来ることができて。
一日ひと組だけなんですよね?そうなんです。
どうしてもお出しする料理の準備に時間がかかるものですから。
あっ…。
では早速ですがこちらのメニューを。
今回前岳様がご希望される料理はこちらでお間違いございませんか?はい間違いありません。
「キッチン浜田」が閉店しこの味が失われたのが1975年3月17日。
今から40年前ですね。
確か…私が7歳の頃だと思います。
埼玉県の小さな商店街にあるレストランだったんですよね。
おお…ここだ!そうですここです!ああ…。
でもどうしてこの写真を?それが仕事なので。
あっ…。
もう少しだけお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?もちろんです。
よろしくお願いします。
差し支えなければなぜこれを召し上がりたいのか理由をお聞かせくださいませんか?この店は…私たち家族にとってとても大切な場所でした。
毎年私の誕生日には家族でこの店を訪れていました。
でもこの年の初めに父が事業を失敗したことで私たち家族は経済的に困窮していたのです。
(前岳・回想)僕これがいいピラフ?ほんとにこれがいいの?うん壮太今日は誰が生まれた日?僕?そうお父さんにとってもお母さんにとってもいちばん大切な日なの。
だから壮太がいちばん好きなもの食べていいのよそうだぞ壮太
(前岳の母)ふふふっ…それねすみません
(前岳の父)煮込みハンバーグ1つお願いしますええ〜っとあと…ごめんなさいやっぱり大丈夫です煮込みハンバーグ1つでふふっ…よかったねあれ?あの…すみません。
これって…
(浜田)肉が余ったありがとうございますさあ食べよううんふぅ〜ふぅ〜
(前岳)あの日のことは今でも忘れることができません。
そうですか…。
もう一つだけ質問を。
あっはい。
なぜ今その料理を食されたいと?あっ…なぜでしょう。
この前久しぶりに実家の方に戻ったんです。
そのとき町をふらふらしていたらたまたまこの店があった場所を通って。
そしたら急に昔のことを思い出して…。
それで。
分かりました。
それでは調理に入らせていただきます。
あっ…よろしくお願いします。
小瀬君よろしく。
(小瀬清)はい。
ええ〜依頼者は前岳壮太さん47歳です。
旅行会社に勤めていましたが3年前に独立しツアー会社を経営しています。
でも会社の業績はあまり芳しくないようですね。
先月一度目の不渡りを出してるようです。
家族構成は先ほど話に出ていたご両親はすでにお亡くなりになっています。
15年前にご結婚され奥さんと来年中学生になる娘さんが一人。
あと少し気になることが…。
(寺屋敷錬一)なるほどね。
よし食材の確認しようか。
はい。
前岳さんが最後に「キッチン浜田」に行って料理を食べたのは店がなくなる直前だったみたい。
ふ〜ん…。
当時埼玉県に出荷されていたルートから産地を絞り込み候補になりそうな食材を手配しておきました。
1975年の3月ね…。
でメインの牛肉なんですが…1975年当時の流通状況を考えると福島の可能性も考えましたがほぼ栃木で間違いないと思います。
等級に分けて何種類か用意しておきました。
「キッチン浜田」の煮込みハンバーグの値段は?ちょっと待って…。
1000円ね。
物価指数から考えると今の感覚で1800円ってとこかしら。
あと…。
「キッチン浜田」のマスター浜田茂さん当時51歳。
今は?2006年に亡くなっています。
実直さが仇となったのかなぁ…。
よし肉は…上質のA4ランクで決まりだな。
はい。
レシピの系譜は?息子が2人いますが受け継いでいません。
書庫にもないの?残念ながら…。
はぁ…。
この店には食に関するさまざまな文献を集めた書庫が存在する。
出版された本に限らず歴代のシェフたちが日本全国を食べ歩き独自に収集したさまざまな飲食店のレシピなどもファイリングされている
「キッチン浜田」のレシピそのものは書庫にも見当たらなかったのですが…。
が?浜田茂さんが修業したレストランのレシピはありました。
さすが。
煮込みハンバーグもあったんだ。
はい。
なるほどね…。
よし。
さあやろう。
うん。
お待たせしました。
「キッチン浜田の煮込みハンバーグ」です。
あれ?肉が余ったこれは…。
どうぞお召し上がりください。
いただきます。
あぁ…。
ふふっ…。
壮太ん?おいしい?おいしい。
はぁ…ごちそうさまでした。
ふぅ〜…。
いかがでしたか?いや…ほんとにおいしかったです。
それは何よりです。
あぁ…。
あっ感謝の気持ちを伝えたいのでシェフを呼んでいただいてもいいですか?かしこまりました。
(前岳)あっ…。
シェフの寺屋敷とセカンドの小瀬です。
小瀬です。
今日はありがとうございました。
本当においしかった。
あの…。
はい。
いや〜これはあなたの人生なんでちょっと言うのがはばかられるんですけど…。
はい?やっぱ死んじゃうんすか?なんのお話をされてるんですか?変わんないんすか?死ぬ意志は。
最近高額の保険も掛けられましたよね。
それ以外に解決のしかたが…見当たりませんから。
じゃあ死ぬ前に聞かせてくださいよ。
なんでこの料理を最後に選んだんですか?料理を選んだわけ…。
ええ。
(前岳)おなかいっぱいねえ
(前岳)どうしたの?ん?いやさ…いつか家族で旅行にでも行けたらいいなぁってふふっ…海外に?いやそんな大げさな感じじゃなくても
(前岳の母)別に無理しなくていいですよ私は近所の公園にでも行ければそっか…ふふっ…そんな顔しないでくださいよ頑張るよいいですよ私は今のままで十分幸せですから
(前岳)あのね…僕が連れていってあげるえっ?壮太?いつか僕が連れていってあげるから
(前岳の父)そうか…壮太が連れていってくれるのか壮太ありがとねありがとなふふふっ…きっとそれが始まりの料理だったからなんじゃないんですか?始まり?人生の初めての飯を今日また食べた。
これからどうするかはあんたの人生なんだからあんたが決めればいい。
どうぞ。
ありがとうございます。
あの…。
はい…。
その扉の先がきっと新しい始まりですよ。
ザァー…ごちそうさまでした。
ありがとうございました。
あっ…。
ごめん…。
一緒に帰ろう。
帰ろうか。
(前岳)ははっ…。
あははっ…。
ふふふっ。
よし行こう。
これがその日「LeBonVivre」で起こった物語
植松俊介プロ野球選手です。
どうだ?うまいか?野球を続けるべきかそれとも…。
野球が教えてくれたこと…。
なんだろうな…。
プチプチ?よし。
うん。
2015/09/02(水) 10:25〜10:54
MBS毎日放送
ドラマ「シメシ」 第1話[再][字]【村上淳×林遣都×愛加あゆ】
「キッチン浜田の煮込みハンバーグ」▼人には誰でも忘れられない味がある…『もうこの世には存在しない料理』を再現する不思議なレストランがあったら、何を注文しますかー
詳細情報
◎このドラマは…
レストラン「ボンビーブル」ここでは特別な料理を振る舞っている。
それは『もう、この世にもう存在しない料理』
ーー「亡き祖母の手料理」「今は跡形もなくなった老舗レストランの料理」「材料がもう取れなくなった幻の料理」など…
葛藤や悩みを抱え人生の岐路に立たされた人達は、ここで再現された料理を食べることによって、再び、前を向いて新しい人生を歩み始める。
“始まりの飯”=「始飯(シメシ)」なのだ
番組内容
旅行代理店を営む男・前岳壮太(光石研)が、レストラン「ボンビーブル(=仏語:素晴らしき人生!)」を訪ねて来た。彼は「両親が、自分の7歳の誕生日に食べさせてくれた“キッチン浜田の煮込みハンバーグ”を食べたい」と、この店にやって来たのだった……。
出演者
寺屋敷錬一(「ボンビーブル」・シェフ)…村上淳
小瀬 清(「ボンビーブル」・アシスタントシェフ)… 林遣都
池山樹里(「ボンビーブル」・オーナー)…愛加あゆ
前岳壮太…光石研
ほか
スタッフ
【監督】小川弾
【脚本】金沢知樹
【企画プロデュース】大澤剛
音楽
【主題歌】
Ms.OOJA「花」
制作
【製作】シメシ製作委員会/MBS
おことわり
番組の内容と放送時間は変更になる可能性があります。
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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