歴史秘話ヒストリア「やっぱり妻にはかないません!〜伊藤博文の妻 梅子」 2015.09.02


明治という時代の大転換期。
新しい国づくりに手を取り合って挑んだ夫婦がいました。
日本初の内閣総理大臣伊藤博文とその妻梅子です。
幕末の戦場で燃え上がった…二人を結び付けたのはなんと略奪婚でした。
その真相とは?時代の波に乗って博文は大出世。
そんな夫のために梅子は西洋の文化を猛勉強する事になります。
私がしっかりとお支えしなくては…。
「文明開化」の裏には首相夫人の奮闘がありました。
しっかり者梅子の前に立ちはだかったのが…ついに愛人と対決!?激動の中で夫婦の絆は強まりより確かなものとなっていきます。
幕末から明治へ。
時代と格闘する夫を全身全霊で支えた日本最初のファーストレディー伊藤梅子。
山あり谷あり波乱万丈の夫婦の物語です。
山口県下関市。
かつて長州藩の玄関口だった港町です。
今から150年余り前の幕末この沖合をアメリカやフランスなどの船が頻繁に行き交っていました。
そのころ…そうした幕府の方針に反発し…海を見下ろす亀山八幡宮。
境内に外国船を攻撃するための大砲が据え付けられ辺りは不穏な空気に包まれていました。
戦いの最前線となったこの場所で日本の将来を左右するある男女のロマンスが生まれます。
慶応元年。
亀山八幡宮そばの茶屋を手伝う一人の娘がいました。
まだ18歳でしたが頭の回転の速いしっかり者だったと言われます。
娘の名前は木田梅子。

(物音)誰…?物陰に潜んでいたのは見知らぬ若い男。
どうしてこんな所に?キャッ!・おい何だ?物音がしたぞ!誰かに追われているようです。
誰だ貴様!待て待て女だ!この辺りで怪しいもんを見ちょらんか?心の声あの人何かしたのかしら?でも…。
おい!梅子はとっさの機転で別の方向を指さしました。
隠れていた若者が悪人には見えなかったからです。
ありがとうございました。
ありがとうございました…。
ありがとう…ありがとう!この若者こそ25歳の長州藩士伊藤春輔。
後の伊藤博文です。
そこで攘夷の思想を学びます。
このまま西洋と戦すれば日本は必ず負ける。
梅子に助けられたのはちょうどそんな時だったのです。
梅子との出会いは博文の心に強く残りました。
松下村塾の兄貴分高杉晋作はこう書き記しています。
「梅の花」つまり梅子に博文は一目ぼれ。
一方の梅子も博文に好意を抱き…お梅!お〜やっちょるやっちょる。
この手本はよう書けちょるのう。
はい。
置屋のお父さんが書いてくれよりました。
そうかそうか。
心の声この方はお優しいだけじゃない。
いろいろな事を考えている。
もっとこの方の事を知りたい。
…というような事もある本には書いてあるんですけどもね。
二人はまさに相思相愛。
一緒になりたいと強く願うようになります。
ある日…分かりました。
小梅は伊藤様の正室にして頂けるのなら差し上げましょう。
しかし妾のお話でしたらきっぱりお断り申し上げます。
なんとか主人の許しが出ました。
あれ?博文さんは浮かぬ顔。
何やら動揺している様子です。
ここで梅子は衝撃の事実を知りました。
実は…2年前博文の両親は多忙な息子を心配して我が子不在のまま嫁を迎えていました。
同じ藩の武家の娘おすみです。
おすみを両親はとても気に入ります。
しかし結婚後も…結局実家にほとんど帰らないうちに梅子と知り合ったのです。
心の声伊藤様にお武家の奥様がいらしたなんて…。
私なんかかないっこないわ…。
心の声親が決めたおすみかそれとも恋しいお梅か…。
あ〜わしはどうしたらええんじゃ…。
(雷鳴)迷いに迷った末博文は決断します。
この方は私を選んで下さった。
なんてもったいない事でしょう。
どこまでもお供いたします。
晴れて夫婦となった二人。
やがて娘にも恵まれます。
きれいに出来たでしょう。
甘い新婚生活が始まるかと思われましたが…。
おわびのつもりか博文は手紙とお土産を送ってきました。
ようやく夫・博文が戻るという事で支度して待っていると…。
お梅用意できてるか?あっご苦労さまです。
カモンカモン!Goodevening.夫が連れてきたのは外国人!そういえば手紙にはこんな事が書かれていました。
…とはいえ梅子が本物の外国人を見るのはこれが初めて。
驚くのも無理はありません。
博文はその後もしばしば外国の商人を家に招き接待を梅子に任せました。
心の声旦那様といるとびっくりする事ばかり。
これから一体私はどうなるのかしら…。
何が起こるか予想もつかない結婚生活。
しかし新しい暮らしに梅子の胸はどこかときめいていました。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
今宵は幕末の志士で初代総理大臣となった伊藤博文とその妻梅子の物語です。
江戸時代結婚は当人たちの意思よりも家の格式が重視されほとんど親が結婚相手を選んでいました。
しかし幕末になると博文と梅子のような自由恋愛による結婚も増えます。
長州を率いたリーダー桂小五郎こと木戸孝允の妻松子も京都で「幾松」という名で芸妓をしていました。
松子は何度も木戸の命を助けたといいます。
また博文の兄貴分高杉晋作は妻をほったらかして愛人のおうのと四国に行ってしまいます。
そして博文と一緒にイギリスへ渡った生涯の盟友井上馨と妻・武子。
二人とも再婚同士で大恋愛の末に結ばれました。
いずれも共通しているのは彼女たちが幕末の男の心の支えになっていたという事です。
博文は梅子というパートナーを得て激動の時代を共に生き抜いていきます。
(砲声)
(銃声)新しい日本の夜明け。
この年新政府によって…イギリスで身につけた英語や外国人との交渉力を認められての大抜擢でした。
ほんの少し前まで足軽の身分だった若者がいきなり殿様並みの地位に就いたのです。
当時の心境をうかがわせる品が兵庫県の資料館に残されています。
博文直筆の漢詩が書かれた酒杯です。
「高みにのぼって酒を飲み干せば歴史上の英雄たちもちっぽけなものに思えるわい」。
博文は意気揚々と出世街道を歩み始めました。
どうじゃ?おいしいか?経済的にも豊かになり暮らしぶりは大きく変わります。
心の声私が今では県知事の奥様だなんて。
うれしいような怖いような…。
梅子の悪い予感は的中しました。
長女・貞子が病で亡くなります。
まだ2歳半でした。
博文との間に授かった初めての子供。
我が子を守れなかった自分を責め梅子は悲しみに暮れました。
私がいつまでもメソメソしていては旦那様も安心して御用をお務めになれない。
もっとしっかりしないと…。
東京で高級官僚となった博文は…その功績を認められ明治11年ついに政府の実質的なリーダー内務に就任。
政府の指導者となった博文が同じ長州出身の外務井上馨と共に取り組んだ事。
それは日本に不利な条件で欧米と結んでいた条約の改正でした。
そのため特に力を入れたのが…洋風の…招待した外国人に日本は西洋文化を身につけ対等な条約を結ぶにふさわしい国であると印象づけようとしたのです。
外国人客をもてなすのは政府要人の妻たちの役目。
その先陣を切って動き始めたのは少しでも夫の助けになろうと決意した梅子でした。
(教師)「What’sisthestrongestanimalonearth?」。
「What’sisthestrongestanimalonearth?」。
外国人の相手をするためにまず必要なのは「言葉」。
梅子は英語を習い始めます。
「thestrong…」。
夫の博文は梅子を気遣い手紙に記しています。
それでも…「ご公務中でお忙しい時にご心配をおかけして申し訳ありません。
少し目が疲れただけでございます。
ご安心下さい」。
次に取り組んだのは…「ダンス」。
舞踏会では外国人の客と踊らなくてはなりません。
しかし…Shallwestop?ノーノーノーノープリーズワンスモア。
本当は梅子はダンスがあまり好きではありませんでした。
それでも夫の役に立ちたい一心で繰り返しステップの練習に励んだそうです。
明治も18年となった時ヨーロッパ諸国に倣って日本にも内閣制度が発足します。
最初の内閣総理大臣に選ばれたのは海外事情に詳しく優れたリーダーシップも兼ねそなえた伊藤博文。
梅子もまた首相夫人。
日本で初めてのファーストレディーとなりました。
大勢の外国人客を前に…舞踏会は大盛況で幕を閉じました。
首相夫人となった梅子にはこんな口癖があったといいます。
欧米に追いつき追い越せと急ピッチで進められた明治の近代化。
それを裏で支えたのは長州の女性の負けん気と覚悟でした。
博文を助けるために梅子が取り組んだのは英語やダンスだけではありません。
伝統に守られた宮中の改革にも力を尽くしています。
これまで身につけた西洋の知識を総動員して…また当時のフランスの新聞には梅子の優れた対応力を物語る記事が載っています。
「『そういえば私皇后陛下と体つきがよく似ております。
ですから私を測って下さい』。
こうして…」。
何事にも勉強熱心で機転の利く梅子は明治天皇や皇后からも信頼され「賢夫人」とたたえられます。
しかしそんな妻のかがみ梅子には意外な一面がありました。
夫を内助の功で支え世間から「理想の妻」とたたえられた伊藤梅子。
でも実はこんな趣味がありました。
博文と親しい政治家が伊藤家を訪れると花札でおもてなし。
よっしゃお梅殿を頂き!
(小声で)シーッ!御前様が起きてきてしまいますよ。
(犬の遠吠え)・
(物音)・
(博文)お〜いおかかぁまだ起きちょるのか?は…はい!賭け事にも使われる花札は大嫌いだったのです。
何じゃお前らまだおったんか。
(博文)うん?またやっとるわい。
あっ…。
あぁっ。
あらあら。
しかしどんなに叱られても梅子は花札をやめなかったそうです。
勝負事といえばこんな話も伝わっています。
ある時…名人を家に招いて碁の打ち方を教えてもらうと…気まずくなるほど勝つなんて勝負となるとほんと強かったんですねえ。
一方夫・博文の趣味はお酒にタバコ。
そして…。
女性が何より大好きでした。
東京大阪広島と…そんな博文を新聞や雑誌はこう書き立てます。
明治天皇も「少し慎んではどうか」とたしなめるほどでした。
しかし博文は…。
「わしは豪邸も財産も要らぬ。
ただ公務のいとまに…」。
「女遊びの何が悪い」と開き直る始末。
更に…今夜泊まっていくから世話してやってくれ。
正妻の梅子に「世話をしろ」とはなんたる事。
負けん気の強い梅子と愛人の直接対決。
これは大変な修羅場に…。
しかし…。
今後とも御前様をよろしくお願いします。
これは私の気持ちです。
どうぞお受け取り下さい。
梅子は怒るどころか博文の愛人を丁重にもてなしたのです。
夫はただ遊び暮らしているのではなく国のため懸命に働いている。
浮気くらい大した事ではないと梅子は考えていたのかもしれません。
しかし一度だけ本気で怒った事がありました。
これには梅子が一転大激怒。
御前様!それだけはなりません!「ふだん男性の相手をしている女性ならまだしも家の手伝いに来た娘に手を出すとは!この子の人生を台なしにするつもりですか!」。
梅子のあまりの剣幕に…そんな梅子を博文は深く信頼し家の事は全て彼女に任せます。
伊藤家を取りしきる妻に夫の博文が口出しする事は一切ありませんでした。
撃て〜!
(銃声)明治27年。
朝鮮半島をめぐって日本は大陸の清国と対立し日清戦争が勃発。
明治政府が初めて行った外国との戦争は日本の勝利に終わり清の領土の一部を譲り受けます。
国民は大喜びし首相である博文の人気も高まりました。
しかしそれもつかの間大問題が持ち上がります。
日本の勢力拡大を快く思わない…この難しい局面で博文が選択したのは列強の要求どおり土地を清国に返す事でした。
勝利に沸いていた…それまで英雄としてたたえられていた博文は手のひらを返すように裏切り者扱いされ…非難の声は梅子の耳にも聞こえてきます。
何か夫の身に危害が加えられるのではないか。
気をもむ日々が続きました。
そんな時一通の手紙が届きます。
博文からでした。
誰にも明かさなかった胸の内を妻・梅子にだけは語った博文。
その後も博文は政治上の秘密の話や自分の本音を梅子に話しました。
このころから梅子は政治家伊藤博文にとっても良い相談相手となります。
下関で出会った少女は今や博文の公私にわたるパートナーでした。
しかし…別れの日は突然やって来ます。
(3発の銃声)視察のため訪れていた…博文の葬儀は国葬として東京の日比谷公園で執り行われます。
その死を悼む大勢の人々が見守る中棺を担いだ行列が遺族の待つ斎場に向かいました。
40年以上もの間苦楽を共にした夫に梅子は歌を詠みました。
(梅子)お国が発展するためであると休む間もなく懸命にお働きになっていたあなた。
長い間本当にお疲れさまでした。
今宵の「歴史秘話ヒストリア」。
最後は…そんなお話でお別れです。
梅子と博文が暮らした滄浪閣。
その一部が残っています。
3つの洋間は博文好みの英国調。
すぐそばの海からいつも潮騒が聞こえる日本間。
梅子は博文とよくここで語り合っていたといいます。
子や孫博文に囲まれてうれしそうな梅子。
夫の死後梅子は滄浪閣を引き払いひっそりと暮らします。
二人の墓は東京・品川木立に囲まれた一角にあります。
大きな丸い石の墓が明治の元勲伊藤博文。
その隣で眠っているのが梅子です。
生前博文は最も尊敬する人物は誰かと聞かれこう答えています。
激動の時代を共に生き支え合って困難を乗り越えた妻・梅子と夫・伊藤博文。
夫婦の絆は決して揺らぐ事はありませんでした。
2015/09/02(水) 14:05〜14:49
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア「やっぱり妻にはかないません!〜伊藤博文の妻 梅子」[解][字][再]

伊藤博文の妻で日本最初のファーストレディーとなった伊藤梅子。並外れた努力で英語や西洋文化を学び、明治日本の近代化に貢献した。山あり谷あり、波乱万丈の夫婦の物語。

詳細情報
番組内容
幕末から明治にかけて、近代国家の礎を築いた夫婦がいた。初代総理大臣・伊藤博文とその妻・梅子だ。略奪婚で博文と結ばれた芸者の梅子は、生涯をかけて夫を支えようと決心。日本語の読み書きすらできなかったが並外れた努力で克服し、さらに英語やダンスなど西洋の文化も猛勉強で学んで日本の近代化に貢献する。しかし、夫の女性スキャンダルや世論の激しいバッシングなど、問題が次々に発生。山あり谷ありの夫婦の物語。
出演者
【キャスター】渡邊あゆみ

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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