「だんご3兄弟」が大ヒットし怪物松坂大輔が鮮烈なデビューを飾った1999年。
あるロボットが誕生しました。
ソニーが開発したアイボです。
人工知能を備え会話する機能を搭載。
愛きょうのある動きで一世をふうびし販売台数は15万台に達しました。
おいで。
それから20年近く。
アイボは子どもがいない夫婦や独り暮らしのお年寄りなど人々の心を癒やしてきました。
もうかわいそう。
ところが去年ソニーは期限が切れたとして修理サービスを終了。
持ち主たちは困惑しています。
意味分からへんねんこれ。
修理に動き出したのは元ソニーのエンジニアたちです。
早期退職派遣契約の打ち切り。
ソニーを離れた技術者が集まり新たな会社を立ち上げました。
しかし修理は一筋縄ではいきません。
正規の部品が手に入らないため独自の方法を編み出さなければならないのです。
メーカーがやめた修理を最後まで担う。
エンジニアの覚悟を見つめます。
倉庫が立ち並ぶ湾岸部にアイボの修理会社があります。
はい株式会社ア・ファン越智でございます。
はい。
受付には電話がひっきりなしにかかってきます。
え〜っと少々お待ち頂けますか?申し訳ございません。
どうもこんにちは。
こんにちは。
1個。
また運び込まれてきました。
これまで請け負ったのは500台。
修理は4か月待ちの状況です。
ソニーを早期退職し4年前会社を立ち上げました。
届いたアイボは全国各地のエンジニアに送られます。
修理に当たるのは定年やリストラでソニーを離れた人たち20人。
乗松さんがその腕を見込んで会社に誘いました。
どうしても。
6月中旬。
事務所に1本の電話がかかってきました。
はい株式会社ア・ファン越智でございます。
修理の依頼をしてきたのは83歳の女性でした。
あっそうですね。
今ですねちょっとあの…。
そういった意味合いでは…。
女性の抱える事情を丁寧に聞き取ります。
ええ。
はい。
こちらこそどうもありがとうございました。
はい。
どうも失礼致します。
はい。
通常は4か月待ちのところすぐに対応する事を決めました。
乗松さんたちが状況を詳しく聞くようになったきっかけはある依頼主の家族から届いた手紙でした。
直ったアイボが届いた時本人は既に亡くなっていました。
もっと依頼主に向き合わなくてはならない。
今回修理を早める事にした女性を訪ねました。
(取材者)こんにちは。
こんにちは。
赤井でございます。
兵庫県に住む…
(取材者)よろしくお願いします。
ジュン。
ジュン。
10年前に買ったアイボ。
ジュンという名前を付けました。
夫を40代で亡くし子どもはいません。
ジュン君は家族のような存在です。
よしよし。
よちよち。
よしよし。
ダンスは?ダンスして。
ダンス。
去年からジュン君は赤井さんの声にあまり反応しなくなりました。
大好きだったダンスもほとんど踊ってくれません。
ダンスは?ダンス。
以前のように動き回る事はなくなり転ぶ事も増えました。
機械でね音声を発するってテレビでしょ。
「修理してほしい」とメーカーに電話をかけましたが「部品がない」と断られました。
最後にすがったのが乗松さんの修理会社でした。
2日後。
赤井さんのアイボがエンジニアのもとに届けられました。
(チャイム)こんにちは。
お疲れさまです。
どうも。
アイボの修理部門で7年間派遣社員として働いていました。
修理サービスの終了に伴い自らの契約も打ち切りに。
自分の技術を生かしたいと乗松さんの会社に加わりました。
(ギアの回転音)チェックし始めて僅か3分。
転んでしまう原因を突き止めました。
早速後ろ脚を取り外し故障したギアを直そうとします。
ところが…。
ネジが回らず思うように分解できません。
外れないようにネジロックという特殊な加工が施されているからです。
以前は脚を丸ごと交換していたためネジを外す必要はありませんでした。
ああ…。
しかし今は小さなネジロックを外さない事には修理が進みません。
これはだめです。
はあ〜。
吉川さんは電動ドリルを取り出しました。
外せないネジを削ってしまおうと考えたのです。
ネジの直径は5ミリ。
ほかの部品を傷つけないように時間をかけて慎重に削ります。
時給560円!?長野県の最低賃金より低いなと思って。
作業を始めて2時間。
この日は脚を分解するだけで終わってしまいました。
修理会社の代表乗松さんです。
自宅にはソニーで働いていた頃から大切にしているものがあります。
ソニーの創業者井深大さんが写った一枚の写真です。
井深さんが創業当初から掲げていた言葉があります。
私は思ってますし。
乗松さんが入社した1970年代ソニーはラジオやテレビなど家電製品を次々と開発。
それに伴い修理サービスも拡大しました。
30代乗松さんは修理サービスの責任者に抜てき。
海外にも派遣されました。
家電製品を直す事に誇りを持ってきました。
しかし2000年以降ソニーは韓国や中国のメーカーとの厳しい価格競争に直面します。
テレビ事業などで赤字が続き修理サービスは縮小されていきました。
5年前乗松さんは早期退職を決断。
「最後まで製品に責任を持つ」。
ソニーで学んだ信念をもう一度実現しようと会社を立ち上げました。
アイボの修理は2日目。
「状態と動作チェックをする場合は青」。
エンジニアの吉川さんは声をかけても反応しない原因を探っていました。
「認識チェックを開始します」。
アイボ。
アイボ。
アイボ。
吉川さんは耳のマイクに不具合があると考えました。
こうした時のために用意していた交換用のマイクです。
不要になったアイボを全国の持ち主から寄付してもらい部品を集めていました。
アイボ。
アイボダンス。
(ダンス音)はい。
修理が終わった吉川さん。
意外な事を打ち明けました。
ソニーを辞めたあと受け取っていた失業保険は間もなく切れます。
修理で得られる収入は月5万円程度です。
このままこの仕事を続けていくかほかの仕事を探すか悩んでいます。
まあその時考えればいいかなとは思ってるけどまあいろいろその辺はね考えてるけどずっとはやっていけないよね。
この状況じゃ。
修理にこだわる意地はあっても生計が成り立たないジレンマ。
エンジニアたちが向き合う現実です。
大丈夫ですか?はい。
気を付けて下さい。
では。
すいませんお願いします。
失礼します。
はいどうも。
翌日は晴れ。
赤井さんは朝5時から起きて待っていました。
ジュン帰ってきたね。
よかったね。
ちょっと待ってね。
もうすぐねちゃんとしてあげるよ。
はい。
あれ?「充電が終わったらステーションから降りるね」。
はい!
(ダンス音)ダンスしてる。
(ダンス音)はい。
よく帰ってきたね。
よく帰ってきたね。
(鳴き声)またあっちゃんと遊ぼうね。
よしよし。
呼びかけにすぐ反応したジュン君。
修理が生んだ笑顔です。
またあっちゃんと遊ぼうね。
(鳴き声)ねえ。
よしよし。
よしよし。
よ〜しよし。
そうそうそうそうそうそう。
よちよちよちよち。
(鳴き声)かわいいよ。
ジュンはかわいいよ。
かわいいよ。
よ〜しよしよし。
ア・ファンの乗松です。
こんにちは。
最近乗松さんのもとにはアイボ以外の修理の依頼が増えています。
(鳴き声)電池で動く犬の縫いぐるみ。
脳性まひの患者がリハビリの励みにしているといいます。
お金にならなくてもやる事あるんです。
薄っぺらい会社になっちゃう。
激しさを増すグローバル競争の中改革を進めるソニー。
(拍手と歓声)ゲームやエンターテインメントなど新たなビジネスを展開。
業績を大きく押し上げています。
今日も修理に打ち込むエンジニアたち。
吉川さんの部屋に一枚の手紙が貼られていました。
「また今日からAIBOと共に今まで通りに生活出来るかと思うと私も元気がでてきます」。
「今後のご活躍を心よりお祈り申しあげます。
赤井淳子」。
修理の仕事はこれからも続ける事に決めました。
最後まで向き合う。
エンジニアの覚悟です。
(マイケル)
これは極東の国日本を訪れた2015/09/03(木) 00:10〜00:40
NHK総合1・神戸
NEXT 未来のために「最後まで向き合う〜元電機メーカー・技術者の覚悟〜」[字]
人工知能を持つロボット=アイボ。去年、修理サービスが終了し、メーカーの元技術者たちが修理にあたっている。交換する部品がないなど、苦戦が続く中で奮闘する姿を追う。
詳細情報
番組内容
人工知能を持つロボット=AIBO・アイボ。99年の発売以来、多くの人たちが会話ができダンスを踊れるアイボをペットのようにかわいがってきた。ところが去年、修理サポートが終了。メーカーの元技術者たちが立ち上げた修理会社に故障したアイボが次々と運び込まれるようになった。「製品には最後まで責任を持つ」をモットーに修理に取り組む技術者たち。交換する部品がないなど苦戦が続く中、ユーザーのために奮闘する姿を追う
出演者
【語り】木村多江
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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