(テーマ音楽)悠久の時を感じさせる大自然。
時間がたっても変わらない永遠の象徴にも思えます。
しかし大自然も長い時間の中ではダイナミックに変化しています。
そうした変化が地球に生きる生物に思いがけない進化をもたらしてきました。
その1つが魚から陸上動物への進化です。
「地球46億年の物語」。
なぜ海に誕生した生命が陸地という新天地に進出したのか。
そのドラマを追ってみましょう。
およそ4億5,000万年前の地球。
現在とは大陸の配置も形も全く違っています。
当時は赤道直下に小さな大陸が3つ存在していました。
その間に広がる海。
この海こそ上陸を巡る物語の舞台です。
イアペトゥス海と呼ばれるこの海は大陸に挟まれた浅い海でした。
太陽の光にあふれる海は当時の生物にとってまさに楽園でした。
サンゴ礁がどこまでも続きさまざまな生物がその間を泳ぎ回っていました。
まさに母なる海といえる風景が広がっていたのです。
このころにはすでに脊椎を持った魚が登場していました。
アランダスピスという魚です。
体長はおよそ20cm。
ヒレはなく泳ぎはあまり上手ではありませんでした。
泥の中の微生物を吸い込んで食べるおとなしい生き物だったと考えられています。
魚たちをはぐくんだ母なる海。
しかしこの楽園での暮らしは長く続きませんでした。
ある異変が襲ったのです。
イギリス西部のシュロップシャー州にある採石場を訪ねると楽園の変ぼうぶりを知ることができます。
この場所は4億4,000万年前赤道直下にありイアペトゥス海が広がっていました。
大英自然史博物館のリチャード・フォーティ博士はここで豊かだった海の名残をたくさん見つけてきました。
イアペトゥス海の繁栄を物語るサンゴの化石。
数百年かけて成長していった様子を見ることができます。
ところが豊かな海の象徴であるサンゴの化石はある時期を境にこつ然と姿を消してしまうのです。
豊かな海の消滅。
実はその原因は地球の内部にありました。
地球の内部は数千℃という高い温度になっています。
その高い熱のために内部にはゆっくりとした対流が起きています。
マントル対流と呼ばれています。
その対流によって表面の大陸は絶えず移動を続けているのです。
この大陸移動もイアペトゥス海に異変をもたらしました。
イアペトゥス海を囲む3つの大陸が移動を始め徐々に接近していったのです。
迫りくる大陸に挟まれた海は繰り返し大規模な地殻変動に襲われます。
自分で動くことができないサンゴの多くは絶滅しました。
魚たちもたとえ逃げたとしてもサンゴ礁という大切な住みかを失ってしまいます。
大陸の移動速度は年間数cm程度。
しかし数千万年という長い年月の間には挟まれた海を丸ごと消滅させます。
サンゴ礁が広がっていた海底は陸地へと押し上げられていきました。
およそ4億年前までにイアペトゥス海は完全に消滅してしまったのです。
3つの大陸が1つにまとまったことで三葉虫や魚たちが生きるサンゴの海も大陸の周りに残るだけになりました。
残されたわずかなサンゴの海では当然弱肉強食の争いが激しくなったはずだとフォーティ博士は考えています。
では弱肉強食の生存競争に勝ち残ったのはどんな魚だったのでしょうか?答えはパリ国立自然史博物館に保存されている化石を見ると分かります。
ダニエル・グージェ博士は当時の海で最大の勢力を誇った魚の研究をしています。
その魚は強力なアゴを持つ板皮類と呼ばれる魚でした。
板皮類は今のどの魚とも違う奇妙な骨格を持っていました。
上半身は鎧のように硬い甲羅で覆われていました。
そしてには歯の代わりに骨でできたプレートを持ちそれがはさみのように機能していました。
強力なアゴと鎧を武器に板皮類は浅い海のあらゆる場所に適応し勢力を伸ばしていったのです。
ダンケローケスは中でも大型化した種でした。
最大6mにもなったと考えられています。
私たちの祖先はこうした強大な魚の前では全く無力な存在でした。
板皮類に圧倒されたアランダスピスは進化を余儀なくされました。
おとなしいアランダスピスから6,000万年後ユーステノプテロンと呼ばれる魚になっていました。
ヒレを持ち力強い泳ぎができました。
しかしそれだけでは海での競争を勝ち残ることはできませんでした。
巨大な魚たちが浅い海を支配した時私たち陸上生物の祖先ユーステノプテロンは新たな戦略を取らざるをえなかったのです。
それこそ海を去るという大きな決断でした。
体ユーステノプテロンはどこに新天地を求めたのでしょうか。
そのヒントとなる地図があります。
これはユーステノプテロンとその後に続く祖先たちの化石が現在見つかっている場所を示したものです。
その発見場所を4億年前の位置に戻してみると次第に1か所へと集まっていきます。
大陸同士が衝突し1つにまとまった大陸の中心部です。
しかし大陸の衝突直後その内部は荒涼とした砂漠のような大地が広がっていました。
魚たちが暮らせるような場所はほとんどありませんでした。
ところがその大陸の衝突が陸上の環境を大きく変えていったのです。
4億年前イアペトゥス海消滅の後も大陸は移動を続けていました。
大陸同士の衝突現場は両側から押され次第に盛り上がっていきました。
衝突現場は4,000万年にわたって隆起を続け巨大な山脈へと成長を始めたのです。
この山脈こそカレドニア山脈と呼ばれる巨大山脈です。
現在のヒマラヤにも匹敵する8,000m級の山々が連なっていたと考えられています。
ユーステノプテロンなどの化石が見つかっているのはこのカレドニア山脈の山ろくに集中しているのです。
なぜこの場所なのでしょうか。
巨大な山脈の誕生は雲の流れを遮り斜面に大量の雨を降らせるようになりました。
この雨が集まりふもとへと流れる川へと成長していきます。
大陸の内部に巨大な川という新たな淡水の世界が誕生したのです。
大陸の周りの浅い海で激しい生存競争にさらされていた魚たちにとって海に通じた巨大な川は貴重な逃げ場所と映ったに違いありません。
しかしそこには大きな問題がありました。
陸上は苔や背丈の低いシダ植物がようやく進出を始めたばかりでした。
川の周りにはむき出しの地面が広がっていました。
太陽が照りつければ容赦のない乾燥に襲われる。
雨が降れば水があふれて濁流に見舞われる。
誕生直後の淡水域はまだ魚たちを寄せつけない変動の激しい過酷な環境だったのです。
その環境を変えたのは生物自身の力でした。
アメリカ・ペンシルベニア州。
道路沿いに赤い地層が露出しています。
レッドヒルと呼ばれています。
ここはおよそ3億7,000万年前カレドニア山脈の山ろくでした。
この地層から魚たちを淡水域に招くことになったある生物の化石が発見されました。
それは植物の化石でした。
アーキオプテリス。
3億7,000万年前に誕生した地球最初の木です。
アーキオプテリスは現在の針葉樹に似た形をしています。
地上初めて太い幹を獲得した樹木です。
アーキオプテリスは根を地中深くに広げ土壌を安定させました。
そして年々成長を繰り返す幹を持っていました。
高さは最大20mまで成長できたと考えられています。
アーキオプテリスの登場は川を取り巻く環境を変させました。
バージニア州立工科大学のスティーブン・シェクラー博士はアーキオプテリスがどのような環境を生み出したのか研究しています。
アーキオプテリスの生えていた場所に印をつけていきます。
するとこの木はかなり密集して生えていたことが分かります。
アーキオプテリスはほかに大きな植物がいない陸地で急速に繁栄し水辺に広がっていったのです。
アーキオプテリスが誕生する前には過酷な世界だった大地。
そこを地球最初の森が覆っていきます。
太陽が照りつけていた地面は木陰で覆われ森の間には湖や沼地もでき水中生物にとっては新しい住みかが次々と生まれました。
私たち陸上生物の祖先ユーステノプテロンは海を離れ淡水の世界に進出したのはちょうどこの時期にあたるのです。
アーキオプテリスはもう1つ大切な役割を果たしていました。
葉が落ちるとそれは魚たちにとって水中の貴重な栄養源となったのです。
アーキオプテリスの葉はバクテリアによって分解されプランクトンや魚の餌として利用されました。
こうして生まれた豊かな淡水域で魚たちは多様な進化を遂げていくことになります。
アーキオプテリスの森の誕生は海を追われた弱い立場の魚たちに新しい世界をもたらしたのです。
淡水世界に進出した魚にとってアーキオプテリスはまさに恵みの木だったのです。
しかし木の誕生は生命に飛躍のチャンスをもたらすと同時に大きな試練ももたらすことになりました。
新しく出現した湿地帯で祖先たちが直面した試練とは何か。
その正体を探るために訪れたのは南米大陸です。
南米を縦に貫くアンデス山脈。
この山脈は4億年前のカレドニア山脈と同じく大陸移動で誕生しました。
ふもとにはやはり広大な森と水が織り成す世界が広がっています。
毎年6月になるとアマゾンでは魚たちに厳しい試練が訪れます。
雨の少ない乾季が始まるのです。
この時期アマゾンの水位は最大18mも下がります。
水が引くと取り残された水たまりができます。
こうした厳しい乾季はおよそ4か月間も続きます。
水面にを出している魚たち。
実はこの時期水中は深刻な酸欠状態になっているのです。
水が減り水温が高くなると水中に溶け込んでいる酸素が少なくなってしまうのです。
魚たちが逃げ込んだ大陸内部の淡水域もまた厳しい乾季がありました。
川や湖は広大な海に比べ環境の変動が激しく繰り返し深刻な水不足に襲われました。
さらに恵みの木であったアーキオプテリスさえ乾季になると災いをもたらしました。
バクテリアが水中に落ちたアーキオプテリスの葉を分解する時大量に酸素を消費してしまうのです。
淡水域で生き延びるには酸欠の克服こそ最大の課題だったのです。
この試練を祖先はどのように克服したのでしょうか?その答えもアマゾンに見つかります。
乾季の中悠々と泳いでいる魚を見つけました。
突然水面に顔を出しました。
この魚こそ肺で呼吸をしている魚肺魚です。
肺魚は水中の酸素不足は全く苦にしません。
逆に水面からを出して空気を吸わないとおぼれてしまいます。
この肺魚は最新の研究から私たちの祖先に最も近い魚であることが分かりました。
科学者が考える肺誕生のシナリオです。
肺は食道の部が変化して生まれたと考えられています。
魚たちが海から淡水域に進出した時この突起が大きく膨らみました。
膨らみの内部には毛細血管が張り巡らされより多くの酸素を吸収できるよう進化していきました。
このように肺は淡水世界の環境の変動の厳しさに苦しめられた魚たちがやむなく獲得した器官だったのです。
肺を持ったことで生命は陸上生活への重要な歩を踏み出しました。
その後3億6,000万年前にはユーステノプテロンはアカンソステガという生物に進化します。
地球史上初めて出現した手を持った生物です。
やがてその子孫が陸上への進出を果たします。
体長はおよそ1m。
ペデルペスと呼ばれる動物です。
今陸上に生きるすべての脊椎動物はこのペデルペスの子孫です。
誕生から35億年以上。
生物は動く大地に駆り立てられてふるさと海を離れたのです。
2015/09/03(木) 02:15〜02:40
NHK総合1・神戸
地球46億年の物語「生命の上陸作戦」[字]
▽4億年前、大陸移動による浅海の消滅という大変動のため、魚のなかから上陸を果たすものが出た。地球最古の木との出会いを軸に、魚の上陸物語を紹介。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
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