日比野克彦《bigdatana-たなはもののすみか》
東京都美術館「キュッパのびじゅつかん」展
「子どものうちに本物のアートに触れさせるとよい」と言われています。しかし、実際美術館に連れて行くとなると、自分自身が行き慣れていないし、子どもが興味を持つかどうかも不安だというかたも多いのではないでしょうか。
今回は、子どもの美術館デビューを応援するプログラムに携わり、小学校2年生の子どもの母親でもある稲庭彩和子さんに、子どもと行く美術館の楽しみ方と、そこで学べることについて伺いました。
美術館には、いろいろな「もの」が展示されています。何千年も昔につくられたものと出会えたり、今を生きるアーティストの生のエネルギーと触れ合えたり。美術館に展示されている「もの」に共通しているのは、大人が本気で作ったものが詰まっているということ。そして「これはよいな」とか「誰かに見せたいな」と感じた人が数多くいて、大切にされている<たからもの>だということ。美術館のよさは、その<たからもの>に対して、どう感じてもいいということです。こう見なければいけないという「正解の見方」というのはありません。「たからもの」を見ることによって、自分は何に関心があるか、何をよいと思うかを主体的に考える練習になります。「たからもの」は伝えたいことが詰まっているので、考えるきっかけがたくさん散りばめられているのです。
たとえば、大人は絵を見て「変な絵だな」と感じたとしても、「いやいや、これは名画だ、正しい見方があるはずだ」などと考えて、第一印象を自分で修正してしまいがち。一方、子どもは裸婦を見れば「なんで裸なの?」と口にするかもしれませんが、その違和感を表明できていることが、まずすごいことなのです。
東京都美術館「キュッパのびじゅつかん」展(2015.7.18-10.4)より
「なんで裸なんだろうね?」そこから会話を始めればいいと思います。子どもは子どもの目線から絵を眺め、大きな富士山の絵をじっと見つめて「あそこを人が歩いてるよ!」なんて言ったりします。細かいことにもよく気づき、想像力を働かせて大人に見えないものを見たりもするんですね。そんな時は、一緒に目線を合わせて、「どこどこ?どんな風に見えるの?」と一緒に楽しんで見てみてください。小さな子どもと過ごす美術館での時間は、何か知識を教える時間ではなく、子どもが見て気がついたこと、想像したことに耳を傾ける、親と子がまなざしを共有する機会なのです。
大切されているものを前にして、自分の発言が尊重されるということは、自分もその大切にされているものに関わりながら肯定されるという、一種の成功体験となり、子どもの肯定感を育むことにもなります。
また、何か関心を持って見ている時は、心の針が動いている時ですから、それを言語化して言葉にするのを少しサポートしてあげると、自分は何が好きなのか気づくこともできます。自分のものの見方を知ることで、自信を持って主体的に「考える力」や「判断する力」が付きます。これは、アート鑑賞に限らず、生きていく上で大切な力だと思います。その意味でも、既成概念にとらわれない子ども時代の美術館デビューは、おすすめです。
とはいえ、「連れて行ってもすぐ飽きてしまうのでは」と心配する方も多いと思います。デビューのめやすは、30分ほど集中できるようになる4歳くらいから。小学校に上がるまでは子どもの無理のない範囲で、小学生になれば親子で充分楽しめるようになります。3、4年生になると、思ったことを伝える言語力が発達してくるので、この頃までに何度か美術館に出かけられるといいですね。
次回は、美術館デビュー計画について、さらに具体的にうかがいます。
東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長。上野公園の9つの文化施設を連携し、子どもたちのミュージアム・デビューを応援する「Museum Startあいうえの」等の企画運営に携わる。親子で楽しめる展覧会「キュッパのびじゅつかん」展を企画。
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