人類はどうやって球の体積を求めたのか
T:球の体積は半径をrとすると、4/3・π・r3で求めることができるんです。覚え方は、『3分で忘れる心配あーるの参上。』『身の上に心配あーるのさんじょう。』
S:「球の体積を求めよ。」なんて入試に出るんですか?
T:出るよ。だって球って重要な立体なんだよ。身の回りに球はいっぱいあるだろう。
S:ボール、パチンコの玉、ベアリング、太陽、月、地球。
T:都会で「ガスタンク」って見たことがない。あれは球だろう。どうしてガスタンクが球形にしてあるのかわかる?
S:球は丈夫だから。ガスは安全性が大事。
S:たくさん入るからじゃない。少ない材料で体積が一番大きくなる形だから。
S:でも球は不安定だよ。すぐにころがる。
S:ところで、覚えるのは簡単だけど、この体積の求め方はどうやって見つけたんですか?
S:誰が考え出したんですか?
T:それはアルキメデス(前287〜前212)という人です。今から2200年ぐらい前の古代ギリシャ人。
S:そんな昔に、アルキメデスは、球の体積の求め方をどうやって見つけたのですか。
T:そういえば、微分積分法もない時代にどうやって求めたんだろうね。不思議だね。よし、みんなでアルキメデスになったつもりになって調べてみよう。
T:ここに出した3つの立体の間に面白い関係があることに、アルキメデスは気がついた。さて、その関係とは何だと思う?
S:一番体積が大きいのは円柱。一番小さいのは円錐ということはわかるな。
T:この円錐に水が入っているとして、円柱に入れたら何杯入る?
S:3杯入ります。円錐は円柱の3分の1だったよな。
T:では、この半球には何杯入るかな?
S:1.5杯。
S:2杯。
T:1.5杯か、2杯か、それとも・・・。確かめるにはどうしたらいい?
S:実際に水を入れてみたら。
T:そうしたいんだけど、これは紙でできているからだめなんだ。でも、もし2杯ならどういうことが言えるかな。
S:それぞれ、3杯と2杯でいっぱいになるんだから・・・ 円柱=円錐+半球 だ!
S:そういえば、何となくそんな感じもするな。
T:では、どうやって確かめたらいい?
S:実験すればいいよ。
T:実はアルキメデスもそう考えた。実際にこの3つの立体を作って、重さを計った。そして、円柱の重さ=円錐の重さ+半球の重さという関係があるのでないかと予想した後、それを証明した。
S:そんなこと、証明できるんですか?
T:それができるんですよ。それはね、これらの立体を薄くスライスしていったんですよ。そして、薄くスライスしたものの面積を比べてみた。
S:スライスハムにしたの?
T:左から半径がrの円柱、円錐、半球。上からhのところで、水平に切る。
そうすると、それぞれの切り口は円になる。その円の面積はどうなるか。
S:円柱は、半径×半径×π=πr2。次の円錐は、切り口の半径は・・・hだ。すると、h×h×π=πh2。半球の切り口は、半径がわからない。でも、ピタゴラスの定理を使って、半径を求めると、√(r2−h2)。ということは、面積は、π(r2−h2)=πr2−πh2となる。
S:あれ?三角錐の面積と半球の面積を足すと、πh2+(πr2−πh2)=πr2となる。
S:三角錐の面積+半球の面積=円柱の面積だ。
T:ということは、どういうこと?
S:どこで切っても、面積は、円柱=円錐+半球だから・・・体積も・・・
S:スライスされたものが同じだから、それを集めた体積も同じということだな。
S:つまり、円柱の体積=円錐の体積+球の体積ということか。
S:これが、アルキメデスの証明なの?
T:それはわからない。でも、アルキメデスだったらきっとみんなが考えたように、こうやって考えただろう。
S:2200年前によくこんなことが思いついたね。
S:この3つの立体の関係はわかったけど、球の体積はどうやって求めるの?
T:円柱の体積は?
S:底面積×高さだから、高さはrだね。πr2×r=πr3。
S:円錐の体積は、円柱の3分の1だったから、(πr3)/3。
S:すると、半球の体積=円柱−円錐=πr3−(πr3)/3=2(πr3)/3。
T:半球を球にするには、2倍して、4(πr3)/3。
S:あれ?疑問が出てきた。円錐はどうして円柱の3分の1なの?
S:水を入れたら、3倍で円柱のマスにいっぱいになったよ。
S:でもさ、本当にぴったりと3分の1なの?アルキメデスがやったように、実験した後、それが本当に正しいのか証明しなければ。
T:君は現代のアルキメデスだね。まったくその通り。
では、円錐の体積が円柱の3分の1になるのはなぜか、考えてみよう。
T:そのために、さっきの横にスライスするという考え方をもっと深めてみよう。まず、この図を見て。この2つの三角形の面積はどうなっていますか?
S:底辺が同じで高さが同じだから、面積は同じですよ。
T:これを同じ高さでスライスすると、線の長さは同じなんだよね。だから、長さが同じだから面積も同じと考えられるだろう。これは、薄い線を重ねた三角形を横にずらしていっても面積は変わらないと言えるだろ。
S:それで、底辺と高さが同じなら面積も変わらないのか。
T:さて、この考えを円錐に応用してみよう。
S:円錐を斜めにしても、体積は変わらないということですか。
T:そうです。これを見て。円錐をスライスすると、斜めになっても体積は変わらない。さらに、三角錐でも、これを使えば、底面の面積と高さが同じだったら、体積は同じになるといえるだろ。
S:面積の時と同じように考えればいいんだね。
T:そこで、さっきの円錐を底面積(πr2)と高さ(r)が同じ三角錐(底面は直角二等辺三角形)に変える。
S:それでも体積は変わらないの?
S:横に薄くスライスすると、同じ高さなら、面積は同じだ。だから体積も同じだよ。
S:底面が同じ面積で高さが同じだったら、円錐であろうが角錐であろうが体積は同じじゃない。
S:さっきの考え方を使えば、円錐も角錐も、スライスした面積は上に行くにしたがって同じように減っていくから、高さが同じならスライスした面積は同じ。だからそれを合わせた体積も同じだ。
S:やろうとしていることがやっとわかった。この三角錐をこんどは三角柱と比べるんでしょう。
T:そうです。ここに三角柱(底面は直角二等辺三角形)がある。この三角柱を左(1)のように切断する。すると、三角錐が3つできる。最初に上(3)と下(2)の2つの三角錐を比べてみよう。
S:この二つの三角錐は全く合同だから、体積は同じ。
S:もう一つのは合同じゃないよ。
S:でも、(3)(4)図の側面を底面とすると、底面積と高さが同じだから、この2つ(3)と(4)の体積は同じ。
T:ということは?
S:3つとも体積は同じだ。
S:つまり、三角柱の体積は三等分されている。
S:三角柱の体積の3分の1=三角錐の体積といえる。
S:そして、この三角柱の体積は円柱の体積と同じだから、円柱の3分の1ということか。
T:まとめると、円錐=三角錐=三角柱÷3=円柱÷3。(ただし底面積と高さが同じ)
S:なるほど、どんな柱だって、体積を変えないで、底面が正方形の柱にできる。そして、正四角柱は半分の直角二等辺三角柱にできる。直角二等辺三角柱は3等分すると、同じ底面の錐にできる。だから、錐は柱の体積の3分の1になるのか。
S:円柱も正四角柱にできるんですか?
T:こうやって切るとできますよ。
T:ところで、球の体積がわかると、球の表面積もわかる。
S:球は曲がっているのに、表面積が求まるんですか。
T:夏になるとスイカを食べるだろ。あのスイカを食べやすくするために切るね。そのスイカをどんどん小さくしていく。すると、高さがrの三角錐ができる。この三角錐の底面の合計は?
S:球の表面積と同じ。
T:そうすると、高さはrで同じだから、三角錐の体積=底面積×高さ×(1/3)だから、それの合計は球の体積になる。つまり、球の面積×高さ×(1/3)=球の面積×r×(1/3)=4(πr3)/3
S:だから、球の表面積=(4(πr3)/3)÷(r×(1/3))=4πr2。
S:球の表面積は半分に切った円の面積の4倍なの?本当にぴったり四倍になるの?
T:ぴったり4倍なんだ。不思議だね。しかも、それだけじゃないよ。さっきのアルキメデスの墓の円柱の側面積はどれだけ?
S:高さが2rで、円周が2πrだから、あれ!4πr2だ。
S:球の表面積と同じだよ。
参考文献 「ピタゴラスから電子計算機まで」板倉聖宜編、国土社。