その男はこの日も緊急対応に追われていた。
向かう先は心に傷を負い苦しみもがく若者たち。
(叫び声)言葉にならない心の叫びを受け止めるため駆けつける。
そして男は若者たちの心に寄り添う。
佐賀県で子どもや若者の支援に当たるNPOの若きリーダー。
谷口は「アウトリーチ」と呼ばれる攻めのアプローチで固く閉ざした若者の心を開く。
(主題歌)谷口がこの仕事を始めたのは12年前。
これまでに7,000人の社会復帰を実現。
その手腕に今全国から注目が集まる。
谷口が信じて疑わない事。
若者には再び立ち上がる力がある。
(叫び声)感情をコントロールできず暴れだす少年。
家族はもはや限界だと谷口に救いを求めた。
子どもたちの心に何が起きているのか。
傷ついても希望は必ずある。
(谷口)おっ釣れた!イエイ。
ハハハマジ釣ったしすげぇ。
谷口仁史にプライベートはないと言っても過言ではない。
(カーステレオ)大のロックファンの谷口だが聴いているこの曲も仕事の一環だ。
商店街の一角にある谷口のNPO事務所。
寄付金や行政の事業を活用して子どもや若者たちの支援に当たっている。
メンバーは臨床心理士や社会福祉士などの専門職と200人を超えるボランティア。
それらがチームを編成し年間延べ3万件を超える相談に対応している。
その中でも特に困難なケースを担当するのが谷口だ。
・早速谷口に声がかかる。
息子に暴力を振るわれ困っているという母親からのSOSだ。
息子は30代後半。
かつては会社勤めをしていたが人間関係が原因でこの10年近く自宅でひきこもり状態になっていた。
家族や関係者からの情報によると事態は深刻だった。
谷口はスタッフと共に本人のもとに向かった。
間もなく…。
母親からメールが届いた。
息子は感情を高ぶらせているという。
谷口は当事者が相談に来るのを待つのではなく現場に出向く攻めの支援のエキスパートだ。
「アウトリーチ」と呼ばれるこの手法はかつてはリスクが大きいと敬遠されてきた。
だが今では谷口らの活動によってアウトリーチは現場の主流となりつつある。
谷口はいつも現場に着くと事前に集めた当事者の情報を再確認する。
今興味がある事はどんな事か。
口癖や性格はどういったものか。
どんな言葉を嫌がるのか。
徹底的に頭にたたき込む。
アウトリーチは最初のアプローチで全てが決まる。
当事者と信頼関係を築くため谷口が心掛ける一つの流儀がある。
母親の安全のため警察にも連絡した上で家に向かう。
事前に谷口の来訪を伝えたはずが息子の耳には入っていなかった。
興奮状態にある息子。
谷口は穏やかな口調で切り出した。
2人きりになると谷口はゆっくり語り始めた。
思いがけない谷口の身の上話に落ち着きを取り戻していく。
様子をうかがいながら価値観のチャンネルを探る。
出会って1時間余り。
会話はかみ合い弾んだ。
最初のアプローチが終わった。
事務所に戻ると母親から電話が入った。
息子の穏やかな表情を久しぶりに見たと母親は泣いていた。
苦しみや悲しみを誰とも共有できず孤立する若者たちが今増え続けている。
こうした問題を早期に解決へ導かなければやがて深刻な犯罪や自殺に発展しかねないと谷口は言う。
独りで悩む若者のSOSをいかにキャッチするか。
この日谷口は不登校の子どもに関する情報交換の場に出席した。
谷口はこの他にも児童相談所や警察市民団体更には地域の店などと連携。
関係機関は実に1,000を超える。
その連携を可能にするのはさまざまな法や制度。
谷口はあらゆる手段を駆使し若者たちを支援する。
心に誓う谷口の信念がある。
孤立した子どもや若者に救いの手を差し伸べる谷口さん。
これまで7,000人を超える人たちを社会復帰させてきた。
車には閉ざされた心を開くための道具が積まれている。
例えば不登校の人が学力の不安を漏らせばすぐに学習参考書を取り出して教える。
また外に出たいが周囲の目が気になるというひきこもりの人は釣りに誘う。
まずは人けが少ない夜釣りに出て少しずつ外出に慣れてもらう。
慣れてくれば今度は昼間のより人の多い場所へといざなう。
こうした優しい心配りが閉ざされた心を解きほぐし社会に戻ろうという意欲につながっていく。
この日谷口は8年間にわたって支え続けてきた若者と一緒だった。
中学1年の時4歳上の兄が急死した。
大好きだった兄の死に徳島さんは大きなショックを受け一時は何も手につかなくなった。
以来谷口たちが徳島さんの心と学びを支え続け今就職に意欲を見せるまでになった。
6月下旬。
会社の面接に向け谷口は徳島さんに面接指導を行った。
徳島さんは自分の長所や特徴を言葉にできずにいた。
こうした時谷口は決して急がない。
徳島さんの長所。
谷口はそれを一緒に探していく。
徳島さんが語り始めた。
面接は3日後だ。
徳島さんは希望どおり製造業の会社に採用が決まった。
その日の夕方谷口は徳島さんの自宅を訪ねた。
兄の死をきっかけに見守り続けて8年。
ようやくこの日にたどりついた。
助けを求める声があがれば昼夜を問わず駆けつける谷口さん。
率直に聞いてみた。
何のためにこの支援活動をしているのか。
どんな家庭でも起こりうる問題だからこそ支援活動を続けると語る谷口さん。
そういう谷口さん自身も高校1年の春グレた。
父親は地元の名士。
3つ違いの双子の兄はそろって東京大学に合格。
「お前もとにかく勉強しろ」と言われ続け部活も友達づきあいも禁じられた。
「東大だけが人生か」と反発を覚えた谷口さん。
家出をし16歳の夏東京に向かった。
間もなくファミリーレストランでアルバイトを始めた。
面接では「夏休みに社会勉強してこいと親に言われた」とうそをついた。
職場にはいろんな人たちがいた。
高卒の人大学生社会人。
みんなそれぞれの生き方価値観を持って生き生きと働いていた。
谷口さんも負けじとがむしゃらに働いた。
そんなある日。
もう一度自分の人生について考えてみようと思った。
随分回り道をした。
高校を1年留年。
そして3浪して大学に入った。
目指したのは子どもの頃からの夢だった学校の先生。
でもそうはならなかった。
きっかけはボランティアで始めた家庭教師の訪問先での事。
行くさきざきで深刻な子どもたちの現状を目の当たりにした。
学ぶ機会を奪われ漢字が書けない若者。
親からの虐待が理由で不登校になっていた中学生。
更に谷口さんが憤りを覚えたのは子どもたちの厳しい現実に社会が無関心である事だった。
そして谷口さんは大学卒業後26歳の時に子ども・若者支援のNPOを設立した。
子どもたちの悲しい現実があるかぎり無視する事はできない。
だから谷口さんは今日も町じゅうを駆け回る。
5月中旬。
谷口に緊急の連絡が入った。
子育てに限界を感じている母親がいるという。
ああそうですか。
なるほど。
子どもへの虐待の疑いもある。
関係機関に連絡し谷口は現場に向かった。
お邪魔します。
夫の暴力などで3度の離婚をしたという母親は5人の子どもを育てるシングルマザー。
持病があり仕事もできず経済的にも困窮していた。
朝小学6年の息子が「学校に行きたくない」と言って突然暴れ始めたのだという。
壁紙がカッターナイフで切り剥がされ「死」という文字が記されていた。
谷口は関係機関と協議し一旦少年を母親と引き離し祖母のもとに預ける事にした。
翌日少年のいる祖母の家を訪ねた谷口。
今回特別に同行取材が許された。
この日も学校を休んだという少年。
うつむいてしゃべる気配もない。
カードゲームに関心を示した。
少年との価値観のチャンネルが見つかった。
5日後。
谷口は少年を喫茶店に誘った。
スタッフと共にカードゲームをして遊ぶ。
(NPOスタッフ)速いさばきが。
(少年)クリーチャー1点回収。
あ〜やられた。
負けました。
(谷口)これはちょっと…すごいな。
少しずつ心の距離が縮まる。
だが3日後の夜。
少年が祖母の家でまた暴れているという。
(少年の叫び声)駆けつけると少年はどこかに姿を隠していた。
少年は駐車場の隅に座り込み泣いていた。
(少年のすすり泣き)谷口は叱らない。
暴れた理由も聞かない。
しかし少年の気持ちはなかなか安定しない。
認知症の家族を介護しながら少年を預かっている祖母がついに悲鳴をあげた。
祖母は体力的にも精神的にも限界だった。
谷口は一つの提案をした。
数日後。
谷口は祖母の家から少年を連れ出した。
訪ねたのは長年支援をしてきた若者の家だ。
マジごめん。
ちょっと寝とってさ。
眠かですね。
吉永さんもかつては少年のように感情がコントロールできず荒れていた。
谷口はそんな吉永さんと少年を引き合わせる事で少年の気持ちに何か変化をもたらせないかと考えた。
翌日谷口は3人で釣りに出かけた。
実はこの日は少年の12歳の誕生日だった。
おりゃ。
飛んだほら。
おっきたきたきた!おっきたきた!おっ釣れた!バッチこい。
釣れたやん。
祖母の家に帰る前事務所でバースデーケーキを囲んだ。
・「ハッピーバースデートゥーユー」・「ハッピーバースデートゥーユーハッピーバースデートゥーユー」さぁ来い!吹こう。
(拍手)それは10日後の事だった。
少年の兄が少年を自宅に引き取りたいと言ってきた。
祖母の負担を考えもう一度母親と一緒に面倒を見たいという。
いやいやぁ…。
難しい判断だった。
少年はまだ完全に落ち着いたとは言えない。
再びトラブルになれば母親との間に修復できない溝が出来てしまう可能性もある。
帰宅の日。
谷口は少年を自宅まで送り届けた。
それから1週間。
谷口は何かあればいつでも駆けつけられる態勢をとった。
夜は少年の家の近くに車を止め朝までずっと待機した。
電話は結局一度も鳴らなかった。
それから10日余り。
暴れて散らかしたままになっていた少年の部屋。
少年が自分から片づけ始めた。
(主題歌)7月。
谷口は少年とその家族を釣りに誘った。
誰が釣った?覚悟と責任感を持って限界を突破する事。
そしてそこで得たビジョンを立場を超えて共有をして現実を一緒に変えていく。
この事ができる人の事だと思いますね。
2015/09/05(土) 01:10〜02:00
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「子ども・若者訪問支援 谷口仁史」[解][字][再]
ひきこもり、家庭内暴力、不登校。悩む子供や若者への支援活動を行う谷口仁史。過去の経験から「どんな境遇にある若者も見捨てない」と固く誓う谷口の、奮闘の日々を追う。
詳細情報
番組内容
ひきこもり、家庭内暴力、不登校。佐賀で、悩む子供や若者への支援活動を行う谷口仁史に、今全国から注目が集まっている。運営するNPOに寄せられる相談は、この12年でのべ16万件以上だ。社会や家族からも孤立し、SOSを出せない若者。谷口は、相談窓口で待つのでは無く、自ら積極的にアプローチする“攻め”の支援に挑む。ある過去の体験から「どんな境遇にある若者も見捨てない」と固く誓う谷口。その奮闘の日々を追う。
出演者
【出演】子ども・若者訪問支援…谷口仁史,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:18443(0x480B)