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富山県知事 石井隆一

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ニューヨーク・マイアミ経済・文化訪問の活動結果について報告します。 (6月5日)

 5月14日から19日まで、アメリカ(ニューヨーク・マイアミ)を、富山県経済・文化調査団の名誉団長として、団長の髙木繁雄氏(県立文化施設耐震化・整備充実検討委員会委員長、富山商工会議所会頭)や中井敏郎氏(同委員会美術館移転改築等検討部会部会長、東亜薬品(株)代表取締役社長)、梅田ひろ美氏(同委員会委員(同部会委員)、(株)ユニゾーン代表取締役会長)をはじめ、3人の伝統工芸作家の方々や県の関係職員などとともに訪問しました。

 今回の訪米については、

(1)富山県には、高岡銅器や高岡漆器、越中瀬戸焼など、多くの優れた伝統工芸品があり、特に、高岡銅器については、1870年代から1930年代にかけて、パリ万博、シカゴ万博、フィラデルフィア万博などに積極的に出展され、高い評価を得ていたことなど長い歴史があること、また、最近、優れた作家を輩出していることなどから、あらためて、世界の経済・文化の中心都市であるニューヨークで、とやまの伝統工芸品の展示会を開催することとしたものです。

(2)また、併せて、県立近代美術館の移転新築も設計段階にあることから、その整備・運営の参考にするため、ニューヨーク近代美術館(MoMA)や、アート・アンド・デザイン美術館などを視察したいと考え、民間の皆さんと一緒に、訪米することとしました。

(3)なお、この機会に、私は、県関係職員とともに、マイアミにおいて、クルーズ客船船会社を訪問し、伏木富山港へのクルーズ客船の誘致のトップセールスを行うこととしました。

 今回の訪米の概要をお知りになりたい方は、別途、富山県経済・文化調査団訪米概要報告をご覧ください。本稿では、次の3点について少し詳しく報告します。

 

1 ニューヨークでのとやま伝統工芸PR展示会の開催

 去る5月16日の夕方、ニューヨークにおいて初めて本県伝統工芸品のPR展示会を、草賀総領事・大使ご夫妻やアート・アンド・デザイン美術館のバーバラ・トンバー顧問(グローバルリーダーシップ委員会理事・会長)のご臨席のもとに、開催しました。まず、私から主催者としてのご挨拶と富山県の伝統工芸品の歴史とその魅力を説明するとともに、3人の作家の方々、人間国宝で鋳金作家の大澤光民氏、吹分技法の第一人者で鋳金作家の般若保氏、アップルの故スティーブ・ジョブズ氏がその作品を愛した陶芸作家の釋永由紀夫氏のご紹介をいたしました。次いで、作家の方々から、各々、自らの作品について、製作に当たっての思い、技術面での工夫、特色などについてお話いただきました。

 

ニューヨーク訪問の様子①(伝統工芸品PR展示会挨拶).jpg

 

 大澤光民氏からは、「私は、光と水のイメージを中心に作品を創っています。光と水は生命の源であり、森羅万象の根本です。光がなくなれば全てが凍り、生命はなくなり、また、水がなくなれば全てが燃えつくし生命はありません。光と水が程よく調和しているから、地球があり、宇宙があります。目に見えないもの、肌に感じないもの、電波、音波、磁気、空気、魂などこれらも光と水の調和であると思います。光を赤い銅線で、水を白いステンレス線で表現しています。この『地から宙から』は、太陽が地球の生命を育むために発する光と、地球の生命が宇宙に向かって発するエネルギーを表現してみました。過去・現在・未来、見え隠れしながら永久に続く様子を表しています。」

 般若保氏からは、「従来の銅器は、色が単一だったが、私の作品は『吹分』という技法を用い、型に交互に流し込む青銅と真鍮が織り成す神秘的なコントラストを持った文様を出せるようになったのが特徴です。『吹分』の見所としては、①自然の金属の流れによって作り出される曲線、②真鍮の黄色と青銅の黒色の絶妙のバランスなどがあります。長年この技法で作品を創作していますが、同じ物は2つとできません。最近ようやく、どのように作れば、このような文様ができるということが想像つくようになりました。この『吹分花器』については、斜めに折れ曲がった箇所に安定的に文様を出すのに苦労しました。黒と黄色のはっきりした模様の他に、雲のような薄い黄色の模様が幻想的ですばらし いと評価をいただいています。」

 

ニューヨーク訪問の様子②(伝統工芸品PR展示会解説).jpg

 

 釋永由紀夫氏からは、「私の作品で使用している白土は粒子が細かく、耐火度があり、熱に強いので、高温の窯で焼くと、仕上がりが細やかで繊細な雰囲気になります。展示の作品は、青い釉薬が中心で、形は富山の風土の中で育った感性をもとに、野、山、海など自然の姿が原点になっています。縦の稜線で表したのは自らの理性です。グリーンの釉薬の不定の皿、これは『餓鬼の田皿』といいます。立山の弥陀ヶ原にラムサール条約に認定された湿地帯があり、朝夕に地塘に映る天空の深い青の美しさに魅せられ、この皿を創りました。最後に『黒の花入れ』。この黒釉は越中瀬戸焼の伝統的なものです。この作品を18年前、初めて求めてくださったスティーブ・ジョブズ氏が好んだ色でした。以後、彼が長く私の作品を愛用してくださったことを今も感謝しています。」

 

ニューヨーク訪問の様子③(伝統工芸品PR展示会解説、懇談).jpg

 

 3人の作家の方々の言葉を来場の皆さんは熱心に聞き入っておられました。その後、来場者の方々が関心のある作品について熱心で真剣な問いかけを次々とされ、3人の作家の方々も各々真摯に答えておられ、会場は熱気溢れる雰囲気となりました。初日から早速、成約や成約に向けた引き合いがあり、文化の中心地であるニューヨーカーの日本の伝統工芸への関心の深さと経済面での富裕層の厚さを感じました。草賀総領事・大使ご夫妻も初日の展示会の終了間際まで興味深く作品をご覧いただきましたし、3人の作家の方々も、ニューヨークでのこの展示会に来て良かったと大変感動していただき、うれしく思いました。

 なお、能作及び釋永由紀夫氏の皿にオードブル等を盛り付け、酒器にとやまの地酒を入れて振舞ったのも、大変好評でした。

 今回のニューヨークでのとやま伝統工芸品の展示会は、この数年、その開催の可能性について、ニューヨーク在住の土肥信一さん(高岡市出身)などのご意見も伺いながら、思いめぐらしてきたものですが、実際に開催してみて、事前の期待以上の手ごたえ、成果があり、本当にうれしく思っています。早速、ニューヨークでの展示会を今回限りでなく、来年度以降も継続してやるべきだとのご意見をいただいています。

 他方、用途を持った「日常品」というよりは、鑑賞する「現代美術作品」としての観点から製作されたものの方がニューヨークなど米国では評価されるとのご助言もいただいています。

 このようなご意見やニーズも踏まえて、新近代美術館との連携なども図りながら、本県伝統工芸品の一層の振興を図ってまいります。

 また、青柳文化庁長官に対して私から提案させていただいた富山県を含む北陸地域での国際的な伝統工芸展示会についても引き続き検討し、その実現に向けて国に働きかけてまいります。

 

ニューヨーク訪問の様子④(伝統工芸品PR展示会懇談).jpg

 

 なお、伝統工芸品の展示に併せて、雪の大谷を含め、立山黒部アルペンルート、世界遺産の五箇山合掌造り集落、「世界で最も美しい湾クラブ」への富山湾の加盟がこの秋、正式決定の見込みであることなど観光PRも行ったところ、多くの来場者が関心を示され、富山へ行って作家の工房を見たい、体験してみたいとの声も聞かれるなど、好評でした。

 このとやま伝統工芸PR展示会に出品された今回の作品については、早速、この5月末までの間に、大澤光民氏の「地から宙から」が美術愛好家に購入されることが決まり、いずれメトロポリタン美術館に寄贈される予定とのことです。また、般若保氏の「吹分花器」、釋永由紀夫氏の「餓鬼ノ田皿」がそれぞれ美術愛好家による購入が決まりました。その他にも、いくつかの作品について、ニューヨークの美術愛好家が購入を希望されています。また、3人の作家の作品に併せて出展した10事業者からの錫製品、銅器、漆器など商品34点についても購入の希望が多数寄せられたという報告を受け、うれしく思っております。

 

ニューヨーク訪問の様子⑤(伝統工芸品PR展示会懇談).jpg

 

2 アート・アンド・デザイン美術館及びニューヨーク近代美術館(MoMA)等の視察

 ニューヨークは、経済のみでなく文化の面でも世界の中心都市といえ、美術の分野でもメトロポリタン美術館をはじめ優れた美術館が多くあります。そこで、移転新築する県立近代美術館の整備・運営の参考とするため、設立の目的、運営の方式、施設の規模等の面で特に参考となると見込まれるアート・アンド・デザイン美術館をはじめニューヨーク近代美術館(MoMA)、グッゲンハイム美術館等の著名な美術館を訪問することとしました。これらのうち、アート・アンド・デザイン美術館を中心に少し詳しくご紹介します。

 

(1)アート・アンド・デザイン美術館の視察

 同館でのミーティングでは、私から、ニューヨークには、メトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館などファインアートだけでなく現代のデザインなどを扱う著名な優れた美術館があるが、その中でアート・アンド・デザイン美術館を創設した理由、目的や活動運営費の確保などの状況等について伺いました。

 グレン・アダムソン館長からは、①同美術館の旧名は「アメリカン・クラフト・ミュージアム」であったが、クラフト分野の外にある絵画、彫刻、ファッションなど全ての表現形式を盛り込む活動を目指すため、「アート・アンド・デザイン美術館」と改称したこと、②展示する分野を増やすだけでなく、深く掘り下げることにも心がけ、製作過程にも注目していること、すなわち来館者が様々な体験を通じて創作のプロセスに触れられるよう6階フロアのオープンスタジオのように、ガラス張りで製作過程も見せるような仕掛けを工夫していること、③日本の小中学校のように、美術を学ぶ機会が正規授業として確保されていないので、当美術館の役割の一つとして、子どもたちに美術に触れ学ぶ機会を積極的に提供すべきと考えていること、④同美術館の入館者数は、1日400~600人(イベント開催時は千人以上)、年間約1200件のツアーガイド、ワークショップ等の豊富なプログラムを実施していること、活動資金については、5%~20%が公的資金で、残りは個人の寄付、企業スポンサー、入場料収入、レストラン収入、基金繰入の順で多いこと等を伺いました。

 個人や企業からの支援が多いことについては、税制の違いなどもありますが、米国では芸術に対する国民の理解度が高いと感じました。

 

ニューヨーク訪問の様子⑥(美術館視察).jpg

   

 

 その後、アート・アンド・デザイン美術館の視察を行いました。企画展「Out of hand」では、3Dプリンターで創りあげたオブジェなどを見学しました。3Dプリンターの出現により、デザインなどの創作の可能性が広がったと感じられました。

 また、同美術館は、伝統的な仕事から、最先端のデジタル技術まで、片足は過去(根源)に、もう一方の足は未来(新しい技法)に置く活動をしており、その考え方、活動状況は、富山県の新近代美術館にとっても参考になったと感じています。

 

 

ニューヨーク訪問の様子⑦(美術館視察).jpg

 

 

 

(2)ニューヨーク近代美術館(MoMA)等の視察

 世界最初で最大の近現代美術館であるニューヨーク近代美術館(MoMA)では、セザンヌの名作やピカソ、ミロ、ジャスパー・ジョーンズの著名な作品群などを拝見することができました。また、デザイン部門・展示は、ポスター、椅子のほか、調度品や装飾品まで収集範囲が非常に広いことを実感しました。中庭の庭園では多くの緑、光のもと、彫刻作品が展示されるなど大都会の真ん中とは思えない空間を演出していました。

 また、「カタツムリ」の愛称を持つフランク・ロイド・ライトが設計したグッゲンハイム美術館では、最上階までエレベータで上がり、そこから螺旋状に降りながら作品を鑑賞する設計になっています。幸い、ピカソやジャガールなどの名作を拝見することができました。また、市内の学校との共同で子どもたちの美術活動のためのオリエンテーションなども行い、子どもたちが学校等で創作したものをギャラリーで展示するといった活動も行っていました。

 規模や立地環境が違うため一概に比較はできませんが、新近代美術館のあり方を具体的に検討していく中で、参考になるところが多かったと感じています。

 

ニューヨーク訪問の様子⑧(ニューヨーク近代美術館視察).jpg

 

 なお、私がマイアミを訪問した5月15日に、髙木団長、中井氏、梅田氏等には、メトロポリタン美術館(私自身は4年前のブラジル訪問の際にニューヨークに立ち寄り視察する機会をいただきました。)をご視察いただき、広大な施設内の膨大で貴重な美術品等の展示はもとより、多様なガイドツアーやショップ、教育部門のあり方などが大変参考になったとのことでした。

 

ニューヨーク訪問の様子⑨(メトロポリタン美術館視察).jpg

 

3 マイアミのクルーズ客船船会社の訪問

 最初に訪れた「ロイヤル・カリビアン・クルーズ社」に対しては、来年6月からのアジア配船が予定されている16万8千トン級の「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」の伏木富山港への寄港を働きかけました。同社からは、昨年の「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ」寄港時の受入態勢に対して相当高い評価(シャトルバスやタクシーを使った観光地までのアクセスなどについてはやや評価が低かったため、私から観光地までのアクセスについては関係者と問題点を検討し、今年4月の11万6千トンのクルーズ船の寄港時にはスムーズに対応できた旨説明しました。)をいただくとともに、小矢部市でのアウトレットモールの開業等についても集客効果が高い魅力的な施設になると評価をいただきました。同社には積極的に寄港を検討していただけるものと認識しております。

 

マイアミ訪問の様子①(カリビアン・クルーズ社訪問).jpg

 

 次に訪れた、高級・体験型客船等を運営する「シルバーシー・クルーズ社」に対しても同様に伏木富山港への寄港を働きかけたところ、豊かな自然や富山の魅力に高い関心を示す(「富山湾鮨」のパンフレットも大変興味深くご覧いただきました。)とともに、伝統工芸品のツアーにも興味を示していただく等、同行案内していただいた現地の船会社事情に詳しいガイドさんからも「反応が良かったですね」と言っていただけました。同社が現在進めている今後の寄港計画の検討の中に加えていただくことを期待しています。

 なお、両社を訪問する前に、若干の時間がありましたので、ビーチに面して最近、建設されたマイアミ美術館を視察しました。

 

マイアミ訪問の様子②(シルバーシー・クルーズ社訪問).jpg

 

 その後、「ロイヤル・カリビアン・クルーズ社」のニコラオス・アンタリス港湾担当部長等が、早速、5月31日に伏木富山港を視察し、最新鋭の大型クルーズ船「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」(16万8千トン)の寄港地として適しているか確認されました。同部長等からは、岸壁に船をつなぎ止める係船柱のグレードアップを求められましたが、岸壁の長さや水深などに問題はなく、「大変いい港」と評価をいただいたと報告を受け、大変うれしく思いました。

 

 4 ニューヨーク富山県人会との交流会等

 ニューヨーク・マイアミ訪問の初日に開催されました「ニューヨーク富山県人会」との交流会においては、今回の本県伝統工芸品のPR展示会開催などについて多大なご尽力をいただき、また、自ら画かれた絵画を県にご寄贈いただいた土肥信一会長に感謝状を贈呈させていただきました。また、私からふるさと富山県の近況を説明させていただいたほか、参加いただいた画家・彫刻家の吉野美奈子さんや文化庁の新進芸術家海外研修生である松理沙さんなどからニューヨークでの近況を報告していただくなど、親しく懇談させていただきました。交流会の締めくくりとして「ふるさとの空」を全員で合唱したところ、日本からはるか遠く離れた会場において、参加した皆さんが一体となって、ふるさと富山に思いを馳せ、中には、涙する県人もいらっしゃいました。

 

ニューヨーク訪問の様子⑩(富山県人会との交流).jpg

 

 

 これらのほか、「ジェトロ・ニューヨーク事務所訪問」や「在ニューヨーク日本国総領事館での草賀総領事(大使)との昼食会」、天野漆器や能作などの富山の工芸品を展示・販売している「WAZAショップの視察」などについては、富山県ホームページの定例記者会見【平成26年5月19日(月)】富山県経済・文化調査団訪米概要報告をご覧ください。

ニューヨーク訪問の様子⑪(ジェトロ事務所訪問等).jpg

2014.6. 5