東京が壊滅する日 ― フクシマと日本の運命
【第14回】 2015年9月2日 広瀬 隆 [ノンフィクション作家]

一度事故が起きたら絶対逃げられない!
パニック時にあなた自身にふりかかること
――広瀬隆×堀潤対談<後篇>

『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が第5刷となった。
本連載シリーズ記事も累計145万ページビューを突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者が、「8bitNews」主宰者で元NHKアナウンサーの堀潤氏と初対談(最終回)。
1984年の稼働以来、31年目に入る川内原発が再稼働直後に、はやくもトラブルを起こした。
桜島も、依然活発な火山活動を繰り返している。
もしものときに、我々はどんなことになるのだろうか?
(構成:橋本淳司)

「救済になんか行かないよ。
事故が起こったらまずは自分が逃げるから」

広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

広瀬 原子力規制委員会が「原発事故が起こる」という想定で川内原発を再稼働した以上、私たちは逃げることを真剣に考えなくてはならないでしょう。
 2011年3月11日に、福島第一原発で事故が起きた夜11時に、テレビ局から電話がかかってきました。
「どうしたらいいですか?」と言うので、僕は即座に「100キロ圏内の全員を避難させろ」と言いました。まだ爆発前日でしたが、いまから少しずつ動かなければ全員が避難できない。
 そう言ったら、テレビ局の人はすぐに電話を切ってしまいました。

 ちょうどその頃ですね。福島第二原子力発電所の1~4号機が立地する楢葉町(ならはまち)には、原発に詳しい町議会議員さんがいて、町長さんに「早く逃げたほうがいい」と進言しました。

 そこで3月11日深夜、町長さんが南隣のいわき市に電話し、町民を受け入れてくれるよう話をつけました。翌12日午前中から約7800人の町民が一斉に避難を開始しました。

広瀬 それはバスですか?

 いえ、自家用車や公用車に分乗してです。
 楢葉町からいわき市の中心部までは約35キロの距離で普段なら車で40分。ところが、そのときは最大で8時間かかった。

堀 潤(Jun Hori) 元NHKアナウンサー、1977年生まれ。 2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーターとして、おもに事件・事故・災害現場を取材し独自取材で他局を圧倒。2010年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。2012年、米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、「anan」などで連載中。2014年4月より淑徳大学客員教授。

 町長さんは「常磐道を避難道として使わせてほしい」と国交省に掛け合ったのですが、「災害復旧道路で自衛隊しか使えない」「町長にそういう権限はない」と突っぱねられた。

 仕方なく寸断された道路を使って逃げたため時間がかかってしまった。町会議員さんがこんなことも言っていました。
「もし、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が公開されていたら誰も逃げられなかっただろう」と。

 7800人が避難するだけでも普段の12倍の時間がかかっているのに、もし周辺の市町村の人が、一斉に放射能が来ない場所をめざして同じ方向に逃げたら、大渋滞で誰も逃げられなかったろう、と。
 だから原発事故が起きたときに、避難道路をどうするか、情報伝達をどうするかは、今から考えておかなければならない、とても重要な問題です。

広瀬 この8月に川内原発に行ったとき、バスの運転手さんと、事故が起きたとき周辺の住民が逃げられるかどうかの話をしました。そのとき彼が「できるわけない。俺たちが行かないんだから」と言うのです。「救済になんか行けないよ。事故が起こったら、まず自分が逃げなければならないから」と。これが現実ですよ。

秩序は保たれていても
機能しない現実

 川内原発では福島の教訓を活かそうと、SPEEDIの測定結果で放射性物質の飛散状況を確認しながら避難経路を決めるというのですが、その情報を誰が統制できるのでしょう。また、急に風向きが変わったらどう対応するのでしょう。その点については考えられていません。

広瀬 僕はSPEEDIを使うかどうかについて議論しないほうがいいと思っています。風向きはその時々でどんどん変わるんです。とにかくできる限り遠くに逃げるということしかない。そう考えると重要なのは、避難道路です。

 そうですね。

広瀬 浜岡原発の反対運動の集会で、集まった人たちに私が言ったのは、「事故が起きたら、道路が渋滞するので絶対に逃げられない」ということでした。
その話をすると、全員が下を向いてしまいました。人間は本当のことを言われると、聞きたくなくなるものです。

 ところがその直後、2007年7月16日に新潟県中越沖地震が起きて、柏崎刈羽原発が大破壊されたとき、私の言ったとおりになった。自動車がみな同じ方向に走っていくので、大渋滞になってまったく動かない。反対車線はガラガラなのに。

 移動時間が長くなると、お腹も空くし、トイレにも行きたくなります。疲労してくるとお年寄りのなかには「いいよ、逃げなくても」「もう降ろして」という人も出てきます。
 さらに見落とされがちなのが、体が不自由な方、精神障害のある方です。重い障害を持つ人が入居している施設では、動かせないので避難しないという選択しかないケースもあります。

広瀬 今年5月30日、小笠原でマグニチュード8.1の大地震がありました。その翌日、私は障害者の人たちにその揺れが大きかった横浜講演で呼ばれていたので、冒頭から地震の時の逃げ方をくわしく説明しました。

「あなたたちは一番危ない。どうしたら逃げられるかを今から真剣に考えておいてください」と。「助けてください」と書いた紙を掲げる、人間が集中する大きな駅には向かわない、できるだけエレベーターや自動車を使わない、といった具体的な話です。しかし、車椅子の人たちは、周囲の人に助けてもらわないと、逃げられないのです。

 公共インフラもストップするでしょうし、動いていたとしても大混雑するでしょう。

広瀬 ちょうど10年前、千葉県浦安で中規模地震が起きたとき、中央線の荻窪から新宿まで電車で行くのに、駅6つで2時間かかりました。中規模地震でも電車は点検のため動かなくなってしまいます。

 新宿に着いたらプラットフォームは人が落ちそうなほど身動きできない超大混雑で、階段にゆけず、外にも出られませんでした。新宿、渋谷、品川などの主要乗り換え駅に人が集まり、大混雑が起きるのだと、初めて知りました。そのとき青梅街道も自動車が大渋滞でした。

道路も公共交通も機能しなくなることをきちんと考えるべきです。人々は自制心を保ち、秩序だって動いているのですが、逃げられない。

広瀬 避難は具体的に考えないといけないし、大事が起こる前の準備が必要です。

「パニック」という言葉が
規制につながる理由

 今年3月、第3回国連防災世界会議が仙台でありました。
 同時に開催された世界防災市民会議で世界中の災害のプロフェッショナルとディスカッションして非常に興味深かったのは、アメリカで災害復旧を専門にするNGOの代表が「パニックという言葉を安易に使わないで」と言ったことです。

「なんで?」と聞いたら、パニックというのは権力者の常套句だから、と。
「パニックになるから自制しましょう」「パニックにつながるから報道は規制しましょう」と。何かをコントロールしたい側が、パニックという言葉を使って行動に制限をかける。
 たしかに、「パニック」というひと言は、人々が考え、行動する力を奪ってしまいます。
「サンタスザーナ野外原子炉実験所」(本連載第12回)のことを報道できなかったのも、「パニックにつながるから」という警戒心のためです。

広瀬 たしかに、メディアが重要な事実を率直に伝えません。
 2012年6月22日に、大飯原発再稼働に反対する首相官邸前デモが5万人になっても一切報道がありませんでした。それで寄付金を募って、一週間後に市民の力でヘリコプターを飛ばし、20万人デモの空撮の映像を、全国の人に見てもらいました。

 あれは素晴らしい空撮でした。

広瀬 テレビも新聞も報道しないなら、自分たちで見せなければならないでしょ。原発再稼働に反対している人が大勢いることを、一般国民が知ることもできない。そんなおかしな話はない。そこで、堀さんが、「8bitNews」という市民メディアを使って、今後も具体的にどんどん情報を発信してくださる。希望の星です。

 みんなで力を合わせて、大事な事実を伝え合いましょう。

広瀬 堀さんは若いから、これからの活動に、みんな大いに期待しています。
(おわり)

なぜ、『東京が壊滅する日』を
緊急出版したのか――広瀬隆からのメッセージ

 このたび、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』を緊急出版した。

 現在、福島県内の子どもの甲状腺ガン発生率は平常時の70倍超
 2011年3~6月の放射性セシウムの月間降下物総量は「新宿が盛岡の6倍」、甲状腺癌を起こす放射性ヨウ素の月間降下物総量は「新宿が盛岡の100倍超」(文部科学省2011年11月25日公表値)という驚くべき数値になっている。

 東京を含む東日本地域住民の内部被曝は極めて深刻だ。
 映画俳優ジョン・ウェインの死を招いたアメリカのネバダ核実験(1951~57年で計97回)や、チェルノブイリ事故でも「事故後5年」から癌患者が急増。フクシマ原発事故から4年余りが経過した今、『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』で描いたおそるべき史実とデータに向き合っておかねばならない。

 1951~57年に計97回行われたアメリカのネバダ大気中核実験では、核実験場から220キロ離れたセント・ジョージで大規模な癌発生事件が続出した。220キロといえば、福島第一原発~東京駅、福島第一原発~釜石と同じ距離だ。

 核実験と原発事故は違うのでは?と思われがちだが、中身は同じ200種以上の放射性物質。福島第一原発の場合、3号機から猛毒物プルトニウムを含む放射性ガスが放出されている。これがセシウムよりはるかに危険度が高い
 3.11で地上に降った放射能総量は、ネバダ核実験場で大気中に放出されたそれより「2割」多いからだ。

 不気味な火山活動&地震発生の今、「残された時間」が本当にない。子どもたちを見殺しにしたまま、大人たちはこの事態を静観していいはずがない

 最大の汚染となった阿武隈川の河口は宮城県にあり、大量の汚染物が流れこんできた河川の終点の1つが、東京オリンピックで「トライアスロン」を予定する東京湾。世界人口の2割を占める中国も、東京を含む10都県の全食品を輸入停止し、数々の身体異常と白血病を含む癌の大量発生が日本人の体内で進んでいる今、オリンピックは本当に開けるのか?

 同時に、日本の原発から出るプルトニウムで核兵器がつくられている現実をイラン、イラク、トルコ、イスラエル、パキスタン、印中台韓、北朝鮮の最新事情にはじめて触れた。

51の【系図・図表と写真のリスト】をはじめとする壮大な史実とデータをぜひご覧いただきたい。

「世界中の地下人脈」「驚くべき史実と科学的データ」がおしみないタッチで迫ってくる戦後70年の不都合な真実!

 よろしければご一読いただけると幸いです。

<著者プロフィール>
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『日本のゆくえ アジアのゆくえ』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。

 

堀 潤(Jun Hori)
元NHKアナウンサー、1977年生まれ。
2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーターとして、おもに事件・事故・災害現場を取材し独自取材で他局を圧倒。2010年、経済ニュース番組「Bizスポ」キャスター。2012年、米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、「anan」などで連載中。2014年4月より淑徳大学客員教授。