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【「まれ」の舞台裏(14)】土屋太鳳が布団にもぐり込み「あー、ほっとする」…そこは自宅ではなく、セットだった

【「まれ」の舞台裏(14)】土屋太鳳が布団にもぐり込み「あー、ほっとする」…そこは自宅ではなく、セットだった

中国料理店「天中殺」2階の自室での希(土屋太鳳)

 恋に修業に大忙しの「まれ」横浜編。私は、その舞台になっているフランス菓子店「マ・シェリ・シュ・シュ」や、中国料理店「天中殺」などのセットのデザインを手掛けています。

 マ・シェリ・シュ・シュと天中殺の場合、いずれもデフォルメした「横浜らしさ」を大切にしました。マ・シェリ・シュ・シュは(高級住宅街や観光地として知られる)山手を、天中殺は中華街を凝縮して表現しています。古き良き日本家屋を再現した石川・輪島編とは異なり、横浜はヒロインの希(まれ)にとって“異国の地”。その情緒を出したいのと同時に、これまでとは全く違う場所で孤軍奮闘する感じも出せたら、と考えました。

 マ・シェリ・シュ・シュの場合、紙袋やケーキ箱など、細部にこだわっています。例えば、ケーキの箱の印刷は、ロゴを金色で箔(はく)押ししていて、本物の洋菓子店でも使える品質のものを作りました。包装紙もシールも、ケーキの下に敷いているシートも全てデザインしています。役者さんが演技するとき、偽物っぽいものよりも、本当にありそうなものを使った方が、芝居しやすいと考えているからです。

 天中殺は設計していて、とても楽しかったですね。湯気の出る装置を効果的に使い、中の厨房(ちゅうぼう)も色を暗くし、妖艶(ようえん)な感じを出しました。全体のイメージは「香港のカンフーアクション映画」で、キーワードは「ジャッキー・チェン」です。美術スタッフに制作をお願いするとき、「ジャッキー・チェンが出てきそうな雰囲気でお願いします」と言い、皆さんに「そうか、ジャッキー・チェンか…」と、それぞれの考えた表現を盛り込んでもらいました。

 天中殺の階段を上がって2階に行くと、希ちゃんたちが暮らす部屋があります。先日、そこで撮影をした後のことですが、希ちゃんを演じる土屋太鳳さんが、「あー、ほっとする。帰ってきたー」とリラックスした表情で言い、そのまま布団に入っていきました(笑)。部屋の中は、入り組んだ構造にはなっていますが、割とゆったりさせています。守られている感じというか、「自分の城」と思ったのでしょうか。

 輪島で希ちゃんは、弟の一徹と同じ部屋で過ごしていたので、横浜で生まれて初めて自分の個室を持ったことになります。だからこそ、あのセットに戻ると、希を演じる土屋さんも「ただいまー」って言いたくなる気持ちになったのではないでしょうか。そのときの土屋さんは、土屋太鳳さんではなく、希ちゃんとして話していたのだと思います。

 対照的なのが、上京してきた希ちゃんの友人、一子(いちこ)ちゃんの部屋です。驚異的な狭さで作り、そこに敷きっぱなしの布団などで、さらに散らかった様子を表現しました。一子ちゃんが、どれだけ人生に対して希望をなくしているのかを表現したかったのです。一子ちゃんを演じる清水富美加(ふみか)さんも、「一子、荒れてるなー…」って苦笑いしていました。画面には映らないのですが、畳もフニャフニャで、足下が不安定なものをわざと使っています。

 希のケーキ作りや圭太の輪島塗、元治の塩作りなど、「まれ」は「手作業の大切さ」を描いています。だからこそ、私たちも手作業を怠ってはいけない、「神はディテール(細部)にこそ宿る」と考えています。苦労して作ったものが形となり、楽しんでいただいたときの喜びは、希ちゃんたちも私たちも変わりません。でも、視聴者の方には、そういうことを気にせず、楽しく番組を見ていただけたらと思います。(「まれ」デザイナー 岩倉暢子)

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