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魔剣ゾルディの成長記録 作者:木原ゆう

EXCITEMENT09 壬久島 綾香

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EXC88 洗脳作戦

 エルフの里を抜け、クリプトゼグノ社へと戻った綾香とシュウ。
 そこにはすでにNAVIの本体の修復を終えたレイムとキラが待機していた。

「……何をしている、レイム、キラ」

 本部へと続く扉を開けた綾香が最初にこぼした言葉がこれだ。

「何って……。見りゃ分かンだろ。トランプだよ」

「綾香もやる? キラったら、てんで弱くて話にならなくて」

 さも当然かのようにそう答えたキラとそれに続いたレイム。
 綾香のあとから部屋に入ってきたシュウは頭を掻き、知らん顔をしている。

「……まあいい。こちらも目的のブツは手に入った。NAVIの再起動は成功したんだろうな、キラ」

「ああ。再起動は・・・・成功した、がな」

 綾香の質問に対し含みのある言い方で返したキラ。

「それがね、これを見てよ綾香」

 キラに続いてそう答えたレイムは、宙に浮かんだキーボードのようなものに素早く入力する。
 直後、大きな画面が白い壁一面に映し出される。

(あれは……地図かなにかか?)

 そこには世界地図のようなものが映し出されていた。
 一見すると俺のいた世界の地図にも見えるが、所々で形がおかしい。
 これは……?

「アメリカ大陸の横に大きな大陸があるな……。それに中国やオーストラリア、南極大陸も形が大きく違う……」

 画面を食い入るように眺めていたシュウがそう呟いた。
 形の変わった世界地図――。
 まさか――。

「アメリカの横にある大陸はグランドヴェルグでいう『ザールツレイム帝国』がある辺りだ。私達が今いる場所は、白いマーカーが点滅している部分――アメリカ大陸の南東部というわけだな」

 綾香はまるで俺に説明するかのようにそう答えた。
 アメリカの南東部――?
 それなのに日本の国会議事堂が近くにあったり、もはや滅茶苦茶な状況じゃんかよ……。

「……本当だったんだな。式原博士が俺たちのいた世界とBDOの世界を繋いだという話は……くそっ!」

 感情的にそう叫んだシュウは拳を近くのテーブルへと打ちつけた。
 式原は仲間であるはずの黒服らまで巻き込んで、好きなように世界を改変させたということなのだろうか……。

「で? これからどうするの綾香?」

 その様子を冷めた目で見ながらレイムが綾香に尋ねた。

「決まってンだろ。式原の奴をぶっ殺しに行くんだよ。女だからって容赦はしねぇ。俺らまでこんな目に遭わせやがって……!」

 シュウに続きキラまでもが怒りを露にした。
 しかし、綾香は冷静なままだ。
 二人の様子を一瞥したあと、ゆっくりと話しだす。

「レイム。式原博士の反応は?」

「ええ。綾香の予想どおり、アメリカ大陸の東部――セントルイス市にあるわ」

「やはりな。ここからの距離は?」

 綾香の質問を受け、素早くキーボードを操作したレイム。
 すぐさま画面に最短距離が示された。

「約350kmってところかしら。飛ばせば3時間ほどで着くかもね」

「けっ、どうせ途中で道が途切れてたり、モンスターに出くわしたりするンだろうぜ」

 冷静な二人に対し、腹の虫が収まらない様子のキラ。
 こういうときこそ、俺が講釈した内容を披露するときだと思うのだが……。
 綾香の顔を見上げてみたけれど、相変わらずの仏頂面だし。
 ……駄目だこりゃ。

「とにかく。もうすぐ日も落ちるし、今日はここで夜を明かそう。明日早朝にセントルイスへ向け出発する。異存はあるか?」

 綾香の言葉に異存を唱える者はいなかった。
 3人の様子を確認した綾香は部屋をあとにする。

『……綾香。3点』

「なんでだ!」

『言葉が硬い。表情も硬い。威圧的すぎる』

「う……」

 俺の三連続攻撃に意気消沈してしまった綾香。
 もう、今夜しかない。
 セントルイスに発たれる前に、どうにかして俺の言うことを聞かせなければ――。

(あの地図を見た限りじゃ、ザールツレイム帝国はここからそう離れていないはず……)

 何とかしてルーメリアと合流さえ出来れば、俺の姿を目視した彼女は俺を奪還しようとするはずだ。
 今ならガネーシャも一緒にいるはずだし、あの魔人なら綾香達も勝ち目がないはず――。

『綾香。これから夜までどうするんだ?』

「え? とりあえずどこか空いている部屋でこれ・・の解析をしようと思っているのだが……」

 綾香が胸元から取り出したのは、あの族長の頭から取り出した『キーアイテム』だ。
 確か《記憶の欠片ピースメモリー》とかいう名前だったか。

『うん。それ後にしよう。俺が夜までみっちり講義の続きをしてやっから』

「本当か! ……いや、しかし式原をおびき出すためには……」

『いいじゃんかよ。明日、車の中でやれば。3時間もあるんだし』

「う、うむ……」

 俺の説得工作に渋々了承した綾香。
 第一関門クリア――。
 あとは、俺次第だ。
 どうにかして、落としてやる。

 このツンデレエージェントを――。





 それから6時間。
 俺は綾香とともにゲストルームで過ごした。
 テーブルの上に丁寧に置かれた俺は、正座姿の綾香に今もなお説教中だ。
 彼女はこの6時間、必死に俺の言葉をメモにとっていた。
 時刻は深夜の0時を回ったところだ。
 さすがの俺も、喋りすぎて疲れてきました。

『……ということだ。だからお前は部下から嫌われるし、怖がられる。分かったか綾香?』

「うう……。私は……私は……一体どうしたら……」

 俺に長時間ケチョンケチョンにされたのがよほど堪えたのだろう。
 半分泣きべそをかいている綾香。
 俺のナイフのように鋭い突っ込みが、彼女の心をズタズタにしたのだ。
 今まで彼女が培ってきたプライドも経験も、考え方すらも俺は全否定した。
 彼女はまるで迷子の子供のように、キョロキョロと落ちつきのない態度で辺りを見回している。
 もう、何を信じればよいのか分からないのだろう。

(いいぞ……。そろそろ……)

 今の彼女は丸裸も同然だ。
 ここで俺が『答え』を出してやれば、彼女はそれにしがみつくしかない。

『綾香。俺に手を伸ばせ』

「あ……う……」

 まるで何かに導かれるかのごとく、彼女はおもむろに俺に手を伸ばす。
 そしてその細い指が銃口に触れた。

『そのままゆっくりと撃鉄をあげろ』

「な……にを……?」

 俺の命令に疑問符を出しながらも、綾香はゆっくりと撃鉄をあげた。
 魔銃おれの使い手は綾香だ。
 彼女が望めば引き金をひいても魔弾は発射されないし、銃声音もシャットアウトできる。
 つまり――。

『いいぞ綾香。お前は答えを知りたいだろう? もっと俺のことを知りたいだろう?』

「わ……たし、は……」

『そのまま銃口をこめかみに当てろ』

 俺の言葉に従い、彼女はそのまま銃口を自身のこめかみに当てた。
 傍から見れば、自害をしようとしているようにしか見えないその姿は。
 俺の視点からすると猟奇的なまでに淫靡な姿として目に焼きついて――。

「……ゾル……ディ……」

『――撃て』

 俺の命令と同時に引き金を引いた綾香。
 無音の振動が俺の全身を震わせる。
 そのまま床へと転がった綾香。
 まるで命を絶たったかのように、彼女は微動だにしない。

(どうだ……?)

 俺は彼女の指に絡まったまま、時を待つ。
 そして今、一瞬だけ彼女の指が動いた気がした。

「……あ……あああ……」

 乱れた艶のある髪が彼女の顔を覆っている。
 しかし、その髪の隙間から彼女の徐々に高揚しつつある頬が見てとれた。

『よくやった。これでお前は部下から慕われる上司になれる。ずっと悩んでいたんだろう? それも今日でお別れだ。お前は救われたんだ』

「あああああ……。あああああああ…………!!」

 その場でのたうち回る綾香。
 身体の奥底から湧き上がる快感に抵抗しようとしているのだろう。
 必死にスーツの袖を噛み、声を押し殺そうとしている。

『我慢をするな。今、俺はお前を解放したんだぞ。もう一度だ。もう一度、引き金を引け』

「うううぅ……!」

 俺の言葉に反応し、もう一度撃鉄をあげた綾香。
 そして今度は両手で胸に銃口を押し当てた。

『撃て』

「はああああああああああああん!!」

 またもや無音の振動が俺を襲う。
 今度は盛大に喘ぎ声をあげた綾香。
 この部屋は防音設備の整っている部屋だということは既に調べがついている。
 シュウ達に聞かれる心配もない。

「あっ! あっ! あああんっ!!」

『その調子だ。どんどん撃て。お前は変われる。これからもっともっと、自分を素直に表現できるようになる』

「ああああああ! ああああああああああああああ!!」


 ――その後、何度も何度も引き金を引いた綾香。
 その度にゲストルームは甲高い声に包み込まれた。
 俺の『洗脳作戦』は無事、成功を収めたわけだ。

 あとは明日早朝までに彼女を『魔の力』で徹底的に溺れさせ――。


 ――10番目の聖女に出会うまでに、メアルとしずるを救出しなくてはならない。

















 
【Name】 魔銃ゾルディ 【Form】 二丁拳銃(D.W) 【Attribute】 陽、水
【Level】 1 【ATK】 0/150 【EXP】 0/500 【EXC】大興奮 

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