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ザハ事務所の仕事:複雑な形状でも設計を容易に

日経アーキテクチュア新連載「BIMのチカラ」

2014/01/09

うねる曲線形状に特徴があるザハ・ハディド氏の建築。ザハ・ハディド・アーキテクツはBIM(ビム)(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を駆使して、発注者の要望に応えたりディテールを検討したりしている。利用の事例をお伝えする。(日経アーキテクチュア)

 形から建築をつくる─。すべての設計で実践しているわけではないが、もしそうするとしたら、何が重要になるのか、BIMを使った場合にどんなメリットが生まれるだろうか。中国・北京で設計を手掛けた「ギャラクシーSOHO」(GALAXY SOHO:銀河SOHO)を題材にして、述べてみたいと思う。

 ギャラクシーSOHOは2012年秋、北京市中心部に完成した商業施設とオフィスの複合ビルで、延べ面積は33万m2、地下3階・地上15階建て。4つのタワーを地上部に4つあるブリッジでつないでいる。新しいランドマークとしてメディアに取り上げられることも多い〔写真1、写真2〕。

〔写真1〕北京の新しいランドマーク
ギャラクシーSOHOの外観。延べ面積約33万m2の巨大な複合施設だ。曲線表現の1つであるNURBSを利用して設計した(写真:Jerry Yin)

〔写真2〕パネル詳細
ブリッジから見たギャラクシーSOHOの内側。4階以上のオフィス部分は、平面のガラスパネルを使用している。同じ幅に見えるが、実は4種類のパネルを使用。その際、パネル幅が最適に配置されるようコンピュータープログラムを使用した(写真:Jerry Yin)

スプラインを円弧と関連付け

 この建物の形態で特徴的なのは、上部に向かって徐々に小さくなっていくことだ。つまり各階すべて平面図は異なる。各階の面積は、タマゴ形状の容積を階ごとに切り出した切断面で囲まれた部分となる。タマゴ形状は曲線表現の1つであるNURBS(ナーブス)(非一様有理B-スプライン関数)で設計してあり、各階の外形線はスプライン曲線となる。

 基本計画、基本設計の初期段階では、この外形線をスプライン曲線としたまま面積をCAD上で拾い、計画を進めることができる。しかし、スプライン曲線は面積計算表に使うことができず、近似した複数の円弧(アーク)に分解する必要がある。

 最近は近似する円弧をプログラムが自動で示してくれるので、それを見ながら円弧の数を使いやすい数に定められる。これがまさに合理化(ラショナライゼーション)の第一歩であり、BIMを使うメリットだ。デジタル・プロジェクトというBIMソフトを使っている。

 このように定めた基準線を面積計算のライン、つまり外壁となるガラス面(中国は外側のガラス面で面積を計算)の基準線とし、ここから内側に1m引き下がったラインを柱の中心線とした。外周に配した地上部の柱は傾いているが、各階の引き下がり量を等しく取ることにより外形と同じ柱の傾きを得ることができる。

 設計当時、クライアントのSOHO中国は北京で複数の開発を進行中で、そのうちの1つが近隣関係によって当初見込んだ面積を取ることが難しくなっていた。行政と協議して失われる5000m2ほどの面積をこのプロジェクトで増やせないかというスタディーを要求された。

 既に実施設計に入っており、大きな変更はできない段階だったので、1つのタワーだけ各階のガラス面を外に向かって5cmほど移動させて面積を増やすことにした。その際に基準になる外形線をスプラインから円弧へと関連付けておけば、常に面積を正確に測ることができる。

平面ガラスのサイズを4種類に

グリッドとマリオンの関係。ガラスパネルの幅は50mm刻みで1000~1150mmの4種類として、それらを組み合わせることでグリッドに対してマリオンの位置を400mm以内に納めた。BIMソフトでガラスパネルの最適な配置を決めた(資料:ザハ・ハディド・アーキテクツ)

 ギャラクシーSOHOは地下1階から地上3階までが商業施設で、地上4階以上がオフィスになっている。商業施設部分の半径の小さいコーナーは曲面ガラスを使用したが、オフィス部分のガラスは、すべて平面ガラスのユニットを使っている。

 全体の基準グリッドは地下の駐車場を考慮して8400mmとし、ガラスユニットの幅は8等分の1050mmを基本とした。当初はすべて同じ1050mm幅のユニットを配して、2枚だけイレギュラーな寸法のユニットを作ればよいと考えていた。

 しかし、ガラス面がグリッドに直交していないので、8400mmごとの間仕切り壁とガラスユニットの接点が合わない問題が発生した。つまり、壁の位置がマリオンの位置と合わないのである。

 次に、1050mmのユニット幅をやめて各グリッド間の実際の距離を8等分したユニットをそれぞれ作るように提案した。しかし、各階のスパンごとにユニット寸法が異なるので、それでは同じサイズのユニットが8枚ずつしか用意できない。ユニット工場もガラス工場も、そして現場でも混乱が生じるだろうと指摘を受けた。

 そこで、各グリッドでのマリオンの位置がぴったり壁の中心とならなくても、200mm幅の間仕切り壁ブロックの中に収まれば良しとすることを考えた。マリオンにも幅があるので、マリオン中心の許容幅を400mmとし、パネルの幅を1000mm、1050mm、1100mm、1150mmの4種類に限定。これらを適宜組み合わせることにより全体を周長の中に収め、かつグリッド中心から200mm以内にマリオンが位置するようにした。

 この作業にはグラスホッパーというプログラムを利用し、上記パラメーターの設定に応じて自動的に4種類のパネル幅が最適に配置されるよう簡易プログラムを組んだ。遠目にはすべて同じ幅のパネルに見えるが、実際には4種類のパネルが組み合わされている。

著者:内山 美之(うちやま よしゆき)
1966年生まれ。神奈川大学卒。ロジャース・スターク・ハーバー・パートナーズ、北川原温建築都市研究所を経て、ザハ・ハディド・アーキテクツで中国プロジェクトを担当。現在は新国立競技場を担当

★次回以降は日経アーキテクチュア本誌日経アーキテクチュア・プレミアムの記事にて

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