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なぜ地域おこし協力隊は派遣先で困るのか。5つの改善策 (No.1029)

昨日、機会を頂きまして、栃木県内に派遣されている地域おこし協力隊の集合研修にお邪魔してきました。10名以上の協力隊の方々とお話をさせてもらい、私なりにすごい恥ずかしい昔やっていた地域で興した稼ぐ事業について話したりしていました。失敗も含めまして。受け入れている自治体職員の方ともお話をして、色々と悩ましき現状もお聞きしました。そのようなやりとりの中で、私なりに感じた点を書かせて頂きますー。

(参考web)地域おこし協力隊とは?

◯ 「行く側」も「迎え入れる側」も未経験 
さて、今回含めて全国各地でお会いしてきた地域おこし協力隊の方々。やはり色々と想いあって地方にいっている若者が多いわけですが、現実としては色々と悩んでいる人も多かったです。自分は早稲田商店会の時から様々な機会に恵まれ、全国各地にも高校時代から出かけていく、丁稚奉公の旅をさせてもらっていたので、なんとなく自分なりの地域に入っていくメソッドというのはあります。しかし、普通に生活していれば、いろんな地方に行く機会もないですが、地縁血縁ない人達といきなりどう話をしていいか、どのように事業やっていいかなんて分からないというのが当然な話でもあります。

それは行く若者だけでなく、ずっと地元に住んでいる方々もどう受け入れていいかなんて分からないし、さらに行政側も地域外の若者を向かい入れて、地域活性化をするなんてことも、過去やったことなんてないわけですね。

なんとなく制度が出来たことが流れができているものの、各自治体によってその対応はまちまちで、かなり個人の資質、行政側も担当者の能力、など制度として担保ではなく、個人能力に担保されているだけという実態を感じています。

そこで、ひとまず意見交換して感じた5つの改善策について整理します。

◯ 5つの改善策

(1) 集落支援業務は分離すべし

業務的に話を聞くと、集落支援員とほぼ変わらないような業務になっている方もいたり、もしくは事業立ち上げを要求されているにも関わらず、集落支援に関する業務も行政から要求されている中途半端な環境になっている方もいました。まあ何をやっていいか本人も分からず、招いている側も分からないとこういうことになったりするのだろうと思います。

「地域おこし協力隊」ですから、地域がおきなきゃ話にならんわけですね。福祉や集落保護といった行政特有の業務とは区分した内容にしないと、事業なんて立ち上げられませんし、3年後自分で自立して生活していけ、なんて不可能な話です。

もし集落支援などを中心にするのであれば、地域おこし協力隊の制度を活用しないほうがよいと思うところです。

つまり、将来的に行政の常勤雇用候補者のお試し雇用なのか、それとも事業を立ち上げる人材の初期スタート支援としての雇用なのか、そのあたりを明確にしないとダメだということです。職能や3年の時間の過ごし方も全く違うわけですから。そのあたりがごちゃごちゃになっていますね。もう少しこのあたりの派遣事業全般の区分を明確にすべきと思いました。


(2) 兼業規程は全国一律でOKにすべし

兼業規制をしている自治体もあるようですが、これまた自治体によるようなのですよね。

つまり行政から言われた業務以外で事業を立ち上げて収入を得てはいけないという話ですね。任期付き公務員だから、というような杓子定規なことをいうようですが、長期雇用する予定がない人に「副業もするな」というのはあまりにブラックすぎます。もし副業させないのであれば、しっかり正規雇用で若者をやとって地域に入れるべきです。正規公務員として。

期限付きで雇用するのだからこそ、あくまでベース賃金としてお金は払うが、それ以上は自分で稼ぐのが当たり前。さらには、将来は全く保証されていないのですから、そのプラスで働いている収入が将来のベース収入になっていくモデルでないと、当然ながら生活はできません。

概して地域にもともと住んでいる人より、地域外からきた人には倍くらいは給料があって然るべきなのです。所得ベースだけでみるから不均衡に見えますが、実際、もともと地元に住んでいて土地も家もあり、田畑ももっていたりする人と、地域外からぽんときて、家賃も払い、生活すべてをゼロから立ち上げる人のほうが明らかに条件は不利なわけです。だからこそ、このベース部分は3年だけは保証し、けどそれでも足りないから、プラスαで事業を立ち上げ収入を持たせる。

「あの地域にいったら儲かった」と地域おこし協力隊に言わしめることが、地域活性化を目指すためにやっているのであれば大切なところです。もちろん受け入れ側の問題ではなく、上記のようなモデルとして

ベース収入として月20万は出しますが、独自事業を通じて、1年目:月5万、2年目:月10万、3年目:月20万の収入を生み出すことを想定して進めていきます。そのために地元も〜〜のようなことを用意します。といったカタチですね。

といった内容にすれば、また応募する人材も変わっていくように思います。


(3) 募集審査段階で、「特技」(手に職)をつけている人を優先すべし

特に、地域活性化に必要なのは、平均的に高い成績をとって高い偏差値の大学に入る能力ではありません。毎日ちゃんと学校に通い、先生のいうことを聞き、友だちと部活動をし、恋愛をし、受験をして進学をしていくというその「普通」の中で、抜かりなく平均を上げていくということは正直、一定ライン以上できることに越したことはないですが、だからといった何かの役に立つかというと厳しいわけです。それは、誰かが決めた、分業された仕事を、きちんと他よりもできる、ということを想定して行われてきた人材開発の教育です。それにそって大企業、大組織になどに属して仕事をした経験があっても、大抵は分業された仕事なので、1から10までを自分で見よう見まね、分からないなりにやってみることは許されません。仕事の全体像を一人でこなすなんてことは、当然大組織が取り扱う仕事では不可能ですし、そんなことは要求されてもいません。

ただ、地域での事業は自分でなんでもやらないと、人手なんてないし、そもそも人を雇う金なんて最初からはありません。
だから、地域における事業で大切なのは正直、平均ではなく、一つでも特技があるか、にかかっています。

蕎麦が打てる、豆腐が作れる、建築とか好きで建物をいじれる、イラストとか書けるといったような、何かを作れる力であれば、あとは営業面での問題をクリアすれば良いわけです。経験でいえば、学生時代にでも300人規模のイベント開催を自分で取り仕切ってやった、飲食店を経営していたとか、人的資本蓄積があり、大したものでもなくても自分は知り合いに100人くらいに営業できる、とか、そういうことだったりするわけです。

地域おこしのリアリティをもう少しつきつめていくと、このような特技がどのようなものであるのか、というのが大切なわけです。
平均的な入社試験的なものとかは全く意味がなく、一点で特技がある人にきてもらえるか、そこにフォーカスすべきと思いますし、そういう人は、3年くらいの短期間でもやれることは具体的に出せると思います。


(4) 募集側も一定の事業想定を持ち、人を探すべし

今はなんとなく若者が田舎にきてもらう事業、みたいな感じで設定してしまっている地域もあります。ただ一方で、具体的な事業像をもって人材募集をしている地域もあります。

私はやはり、募集要件として明確に事業想定を持ち、それを担える人材を募集して、3年間でしっかり事業を軌道に乗せたら生活基盤が成立するという目算をして募集したほうがよいと思っています。たとえば空き家があり、それが確保できたから、そこをリノベーションしてゲストハウス経営をやってもらおう、とか思えば、ある程度、建築や工務店で仕事したことがある人とか、宿泊業の経験がある人とかを2人程度で募集する、とかですね。店舗開業をターゲットにしてやる期限付き雇用でシェフ公募とか色々とやりようあるわけですよね。ま、思いつきなんでちょっと雑ですがw

先日四万十に関して話していたのは、すでに栗製品などの販売が順調に推移し、植樹をバリバリ進めているわけですが、その植樹と管理と収穫をしたり、お茶の栽培・収穫をするとかで年間で400-500万の生活基盤を確保できるようなモデルを作り、それを生活基盤とし、その上にどんどん新たな取組を兼業でやってもらうようなモデルで募集するとか、そういうなんというか具体的な事業像があれば、人材像は明確化すると思うところです。

漠然と若者よ地方へ、みたいな話では互いに勘違いを産んで不幸になる可能性が高まると思うところです。いいマッチングもほぼ運任せみたいな話ですからね。それはあんまり好ましくないなと。


(5) 地域おこし協力隊業務の地元民間メンターと相互管理を設けるべし

あと、地域で事業立ち上げをするにしても、民間側の確かなメンターが必要だなと思います。
なんかすぐに行政は地元商店街や町内会とかになってしまうんですが、そうではなく、もう少し地元で独立独歩、役所に従来だと近づかないような人も含めてある程度パスを用意しないとダメだと思います。ここも、従来はまちのネットワーカー型の行政マンが担当だとうまくいって、そうでないと、そもそも担当自身があまり知り合いがいない、、、みたいな話になって悲惨なことになっているようです。

やはり行政のみならず、民間側についても一定の人的ネットワークを持つ人がいないと厳しいところです。それがいないから地域外から、、、というのであれば、もっとやはりもう少し報酬はあげて、一定のコミュニケーションスキル、事業スキルある人呼んで来ないと何も動かせないよなとも思います。

栃木には日光珈琲の風間さんはじめいろいろな方がいるよね、という話をしましたが、知っている子は知っていましたが、なんというかそういう人とつながって、自分のビジネスにつなげていくという意識には連結していないようで、なんとなくそのあたりについても、事業たちあげの作法を教えてくれる人が近くにいないと、単に知り合いが増加するだけになってしまうのではないかなと思ったりしたところです。

あとは入り込んでいる協力隊同士でもよいから、やっている業務進捗などを互いにネット上で互いに確認していくようなことをやったほうがよいと思うところです。ブログで発信するのでもよいのですが、そのあたり見えないとあっという間に時間がすぎて3年のタイムリミットだろうなという感じもします。メンターと相互管理の双方がないと、時間管理をして、短い間に地元にネットワークを広げ、事業を立ち上げ、地域を活性化しながら、自分の生活基盤をも作り出すという高度なことはなかなか一人孤独には難しいよなと思います。

  
◯ 制度的問題についても見直しは必要。

やはり全国に展開する制度としては、実際の地方に若者が入っていくリアリティが明確化されておらず、何より中途半端な金額で、しかも期限付きで若い人を地方に送り、行政業務に従事させるというのは正直筋が悪いと言えます。どうしても日本は若者は給料やすくても苦労をするのが良い事、みたいにおもって人が多いんですよね・・・。
このあたりは、実際の現場での運用面だけでなく、そもそもの報酬モデルについて、前述のように副業も含めてトータルで明確に制度側でも取り込んでいくべきだなと思います。同時に、派遣する自治体側に対しても、その受け入れ体制を含めて明確にすべき要件をつけるべきだと思うところです。
もしそこまではしないというのであれば、そもそも地方分権で根こそぎ財源渡してやりたい地方が独自にやればいいだけ、というように思います。

そもそも制度支援として、給与と事業費を特別交付金で面倒見るモデルですが、事業立ち上げをする際には、事業費を税金で出しているわけなので、ここの運用も相当に恣意的になっていきます。もう少し事業立ち上げに有効な、金融支援策を政府系金融機関と協調して、補助金・交付金ではなく、新たな事業を地方で始める際に投融資を通じて行うものもセットにすべきと思います。単に派遣するというだけでなく、事業費というだけでなく、地元で投資できるように、金融支援がセットじゃないとなかなか動けないよね、と。となると、政府系と地元金融機関のセットということになるのかな、とか色々と考えさせられました。

あまりまとまりないですが、昨日だけでも多くのことを考えさせられました。
地方に人がいくというのは、単に人件費・事業費を出せばいいってもんではない。もう少しディテールが大切であるということを改めて思わされました。

少なくとも、一人の若者の人生を左右する事業ですので、そのあたりはしっかり考えるべきと思わされます。
 
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