2015年9月2日(水)

ビジネスライクに考えた日米同盟の経済コスト

PRESIDENT 2015年9月14日号

著者
武田 康裕 たけだ・やすひろ
防衛大学校 総合安全保障研究科教授

1956年生まれ。東京大学大学院博士課程中退(学術博士)。世界平和研究所、ハーバード大学国際問題研究所客員研究員を経て92年防衛大学校講師。2001年より現職。共編著に『安全保障のポイントがよくわかる本』、共訳書に『エドワード・ルトワックの戦略論』。

防衛大学校 総合安全保障研究科教授 武田康裕 構成=久保田正志 図版作成=大橋昭一 写真=共同通信社
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自主防衛なら現在よりも23兆円かかる?

現在、単独で自らを守れる国家は、米国も含めて1つもないと言ってよい。どの国でも安全保障上、何かしら他国との協力関係が必要とされる。

日本も例外ではない。とりわけ平和憲法により、自助できる部分に制約がある。従って他国との協力関係でこれを補わざるをえない。

サンフランシスコ条約は全権委員6名全員(写真)で署名したが、「安保条約は不人気だから、俺1人で」と吉田茂首席全権(同前)が単独で署名した。(写真=共同通信社)

1951年、日本が米国など48カ国とサンフランシスコ講和条約を結んで独立を回復した際、同時に日米安全保障条約が締結された。この2つの条約がセットで締結されたのは偶然ではない。平和憲法の下で専守防衛に徹する日本は、米国との同盟によって初めて国家としての独立と安全を確保できるようになった。

わが国の防衛関連予算は90年代以降、一貫して対GDP比で1%を下回ってきた。これは米国の同3.5%(2014年度、以下同)はもちろん、英国の2.1%、フランスの2.2%、ドイツの同1.2%など他の先進諸国に比べても顕著に低い。この予算には、米軍の駐留に関わる経費負担も含まれている。また日米安全保障条約が発効した52年以来、わが国は自国の領土・領海においても、それ以外の地域においても、一度も武力紛争に巻き込まれることはなかった。こうした客観的事実は、日米同盟がわが国に、比較的低いコストで高い水準の安全保障をもたらしてきたことを示唆している。

しかし、現実に日米同盟を維持するためにどれだけのコストが費やされているのか、仮に日米同盟を解体し、日本が独自で国の防衛を行うとしたら、どれだけの費用が必要となり、どれだけの便益が失われるのか。これらを試算し、数量的に把握することは、安全保障政策の立案上、重要である。この試算で、日米同盟の便益とコストを明らかにできる。

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