日経はホワイトカラーエグゼンプションがお気に入りだ。様々な記事でその素晴らしさを訴えている。それはそれでいい。ただし、説得力のある根拠を提示できればだ。実際は、いつも苦しい主張が続く。25日朝刊1面の「働きかたNext~報酬を問う(1)」もその典型と言える。「時間ではなく成果で給与を払うようにすれば、効率的な働き方ができるようになり、労働時間も減る。労働者にとってもおいしい話なんですよ」と訴えてくるのがお得意のパターンだ。
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ディナン(ベルギー)近郊のヴェーヴ城 ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
取引先の接待、帰宅後のメール、人脈を広げる勉強会。特にホワイトカラーは仕事のオンとオフの境目があいまいだ。机上の基準で労働時間を管理するのは限界がある。ならば「時間=報酬」の発想から抜け出し、成果を基準に報酬を決めたほうがよいのではないか。
「長く働くほど残業代で報酬が増える」という構図にメスを入れた会社がある。建設工事を立案するパシフィックコンサルタンツ(東京)は残業を大きく減らした部署に報奨金を出す。総額500万円を用意し、早く仕事を終えるほど給料が増える仕組みにした。
測量士の松沢真(31)の毎日の仕事は始業前にほぼ30分単位の綿密な予定を立てることから始まる。「仕事が早く終われば仲間を手伝う」。報奨金を入れてから4年で同社の残業は1割弱減り、売上高は2ケタ伸びた。
週50時間以上働く日本人は32%。米英の3倍だ。残業当たり前の風潮は「時間=報酬」の原則と無関係ではない。政府は時間ではなく成果に報酬を支払う「脱時間給」の導入を目指すが、対象は年収1075万円以上の専門職に限られる。
記事を読んで、「ホワイトカラーエグゼンプションを適用する年収をさらに引き下げれば、労働時間も減らせそうだな」と思えただろうか。素直な読者であれば、そう信じてしまうかもしれない。しかし、上記の説明はどう考えても無理がある。疑問点を挙げてみよう。
◎疑問~その1
「長く働くほど残業代で報酬が増えるという構図にメスを入れた会社」として、記事ではパシフィックコンサルタンツを取り上げている。「残業を大きく減らした部署に報奨金を出す」という手法で残業を減らしたらしい。それでうまくいくならば、他社も真似すれば済む話だろう。別に制度をいじる必要はない。同社は「ホワイトカラーエグゼンプションなんか必要ない。今の枠組みの中でも、長く働くほど残業代で報酬が増えるという構図は変えられる」と証明しているのではないか。
◎疑問~その2
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ノートルダム大聖堂(アントワープ)のステンドグラス ※写真と本文は無関係です |
パシフィックコンサルタンツが残業を大きく減らした部署に報奨金を出すようにした理由は、記事からは断定できない。しかし、企業として残業代を減らせるメリットがあるのは確かだ。これがインセンティブとなって、会社が残業削減に取り組んだのであれば、「長く働くほど残業代で報酬が増える」という制度は温存すべきだろう。ホワイトカラーエグゼンプションが広がって、残業代を減らす動機が失われてしまえば、パシフィックコンサルタンツのような会社はさらに少数派となってしまうだろう。
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経営側から見れば、残業代とは従業員を長時間働かせることへのペナルティーとも言える。ペナルティーをなくせば長時間勤務を減らせるとの主張はかなり苦しい。高速道路での速度制限をなくせば、スピードを出しすぎる車を減らせると言っているようなものだ。「本当は定時で帰れるのに残業代を稼ぐために会社に残る」といった行動は確かに減らせるだろう。しかし、早く帰りたいのに仕事が多くて残業をせざるを得ない労働者にとって、基本的にメリットはない。
ホワイトカラーエグゼンプションは経営側にメリット、労働者にデメリットという分かりやすい制度だ。これを推進したいならば、「労働者にとってもメリットがあるんですよ」などと無理のある主張はしない方がいい。「日本企業には残業代が重荷なんです。それを取っ払ってあげないと、国際競争力がなくなってしまいまいますよ」と言われれば、少しは納得できそうな気もするが…。
※記事の評価はD。