EUの最大懸念は移民問題、4割近くが問題視
不破雷蔵 | 「グラフ化してみる」ジャーナブロガー 解説者
昨今相次ぎ外電を騒がせているのが、欧州地域への移民問題。EUの経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢の悪化を受け、EU諸国への移民希望者が急増し、大きな社会問題化している。その移民を受ける側となるEU側でも懸念が高まる状況が、欧州連合欧州委員会(European Commission)が定点観測として年2回行っている世論調査「Standard Eurobarometer」から明らかになった。
直近分となる2015年春の調査は2015年5月16日から27日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国及び候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万1868人。今回の調査結果では移民と経済問題、失業に係わる大きな変化が生じたことで、日本の報道でも何度か伝えられている。
調査対象母集団に対し、全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から二つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化が良くわかるように、過去3回分も合わせ都合4回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。
回答個数無制限の複数回答では無いため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが(優先順位の問題となり、回答者個人にとって3番目以降は数字に反映されない)、経済状況や失業、公的債務といった、EU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下。その他経済関連の値も鎮静化、つまり懸念する状況からは外れつつある。インフレ・物価高の値も漸減している。
それに連れ、相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形で、移民問題への懸念が急激に上昇していることが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まりつつあり、両者の問題の連動性も覚えさせる。単なる犯罪項目にはほとんど変化がないことから、単純な治安の悪化では無く、対外組織、国際問題的な事案への不安が感じられる。
経済の回復に伴う移民、テロ問題の懸念増加の構造は、国単位の動向でも見て取れる。陸続きで経済的に豊かだと思われるドイツやイギリスに渡ろうとする移民の増加は、当事国においては大きな問題となっている。類似設問を回答者自身の国に関して尋ねた結果が次のグラフだが、そのドイツやイギリスでは移民問題がずば抜けて高い値を示している。
他方、EU先進国でも失業率の高さが問題視されているフランスでは失業問題への懸念が大きく、次いで経済状況への不安が高い値を示している。ギリシャでも失業問題がトップ、次いで経済状況と続いているが、政府負債に対する不安も大きい。ただし今調査は2015年5月時点のもので、ここ数か月では陸路経由でドイツなどに向かう移民が、ギリシャを経路地として用いることにより、大きな社会問題となっていることも伝えられており、次回調査(11月予定)ではギリシャの動向も大きな変化を生じる可能性はある。
EU入りする難民は急激に増加しており、行き先の国とのあつれきの高まりなどで大きな社会問題化している。今後も加速度的な状況が継続するようであれば、EU側でも移民施策の変更が検討される可能性は十分にある。ただしそれはEUそのものの概念の再検討にも抵触することになるため、大きな波紋を呼び起こすことは間違いあるまい。
■関連記事: