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さらさら録

日々をさらさらと流れていくものを、両手で大事にすくい取って書き留めて。

『短編小説の集い』8月感想 祭り

短編小説の集い「のべらっくす」

「祭り」というテーマでいろんな切り口からの作品を読めて楽しかった反面、自分の中の「祭り」のイメージの貧弱さに気付かされた今回。夏祭りに行った記憶がなくてですね、というのは言い訳です。
ということで、つらつらと感想を書き連ねていきます。novelcluster.hatenablog.jp

【短編創作小説】夏祭りでりんご飴を買うときのあれこれ。 ―のべらっくす第11回― - シエラの桜庭
改行が多いのは横書きだからなのか、ブログだからなのでしょうか。三人称の小説なのに個人の日記のように思えて読みづらかったです。
中学生くらいかなと思ってたら金髪と出てきてびっくりしました。黒髪でぶんむくれた少女のイメージで読んでいたので。正直、主人公が天狗に恋する少し変わった女の子というより、自分に好意を寄せてくれている男の子を都合よく振り回してつんけんした態度を取るとても嫌な女の子に見えました。直樹くんそんな女やめときなよー、と何度言いたくなったことか。
あとがきのほうが情報が多くて、それを読まないと主人公が嫌なままで終わっていたので、そこをもっと本文中に入れ込めたらよかったんじゃないでしょうか。志乃に約束をすっぽかされたエピソードのあたり、もっとコンパクトにできそうです。

【第11回短編小説の集い】 夏の幻 - 葉月
段落分けの多さが気になったのですが、ブログデザインの関係もあるのでしょうか。女の子の台詞の、漢字とひらがなの分け方が気になったのは深読みのしすぎかもしれません。
「えいやーああー」という掛け声をもっと効果的に挿入して場面転換を表す余地があると思います。まさに狐に化かされたような、ふわっとしたお話でした。さらさらっと読めたのですが、女の子の踊りがやたらと上手だったのは見つけて欲しい気持ちからなのかな、と思うとほんのりせつないです。

『甘ったるい紅』 - さらさら録
とりあえず自作の大反省。「別れ」がテーマだった3月はともかく、安易に引っ越しオチを使いすぎです。具体的に言うと『ねこのした』以来。今後「引っ越し」がテーマにでもならない限り引っ越しオチは使いません。
これはひたすら、りんごあめを食べる紅く染まった唇を書きたかっただけの話です。そういう変態的な動機だけで書かれています。実体験かと思ったと言われたりもしましたが、こういう淡いボーイ・ミーツ・ガール的な世界は少女漫画の中、フィクションの中と割り切った人生を送ってきました。
ついでに、短歌の目8月の

2.くきやか
 紅色がくきやかに映ゆる横顔を眺めるためなら右目を捧ごう

と密かにリンクしています。誰も気づきませんでしたが。

メロスは道の途中~第11回短編小説の集い参加作品 - ミステリーをちゃんと読もう
新聞奨学生なのかと思って読んでたので、「あー少しズレたところだったのか」と最後まで読んで納得しました。ズレてたのはわたしのほうだったみたいです。
普通って難しいんですよね、これは自分にも言えるのですが特に会話が不自然になってしまったりして。「止めて差し上げろ」はネットスラングなのでちょっとどうかな、と引っかかったのですが。カナエがどう直樹のことを想ってるのかがわかりやすく伝わってきて、別冊マーガレットに載っている漫画の原作と言われても何ら不思議じゃないななんて思いました。
ここまでの学生カップル系で一番読後感が爽やかでした。

「きみのようにはなれない」(第11回短編小説の集い 参加作) - 空想少年通信
うわあああああ!これ好き!
ヤマナカは何でヤマウチを誘ったんだろうとぼんやり考えながらふたりの少年の間に流れる微妙な距離感を味わっていたところに、まさかの人違い…からの展開がどんどん死角へ死角へと進んでいって面白かったです。心理描写が絶妙で、思わずヤマナカとヤマウチの仲を確認するために最初に戻って読み返して、タイトルに悶えました。友情とも恋愛ともつかない感情が祭りの空気感にうまく溶けていて唸りました。最後、きちっとヤマウチが言うのもいい。これ、個人的には多くの人に読んでもらいたい作品です。
余談ですが、ヤマナカとカタカナで書かれるとスーパーマーケットを思い出す名古屋人です。

【読み物】祭りおじさんと浩介 - ←ズイショ→
自分で呼んでるのかよなんだこのおっさん!?と思いきや哀愁漂うおっさんでした。最初の方は何かの口上みたいな文体だなぁと思いつつ読んでいたのですが、だんだん文章のはしばしにズイショ節が現れてくるのが面白い。そのあたりからおっさんの哀愁が漂ってくるのもつらい、浩介がおっさんの話を聞いてないところがまたつらい。浩介は浩介で環境の変化から自分を守るためにあんなことを考えていたんだろうけど。
おっさんと浩介と真逆の立場がこうして話せたのも祭りだからなんでしょう。来年はふたりとも気持ちよく祭りを向かえられるといいなと思うのです。

短編小説の集い「のべらっくす」第11回に参加 - Letter from Kyoto
真っ先に「その祭りかよ」と言ってしまいました。この祭りが出てきたのには脱帽。『ラインバッカー』ってアメフトのポジションだったりベトナム戦争空爆だったりするんですけど、読み終えたときに「LINE馬鹿」という言葉が頭に浮かびました。最初は2chの古典芸能とも言える「また騙されてダム板に飛ばされてきたわけだが」*1的なものかな?と思ってたのですが、いやーこれぞっとしますね。釣りリンクに慣れてない人がツイッターとかから流れてきてリンク踏みそう。掲示板文化や釣りリンクに親しみのない人にはわかりづらいかなぁと思いました。あと最後ベラルーシに行き着くところが怖い。

短編小説の集い「のべらっくす」第11回 青森にキリストの墓がある説 - 乳飲子を小脇に抱えて
へぇーキリストの墓…と思って読み進めていくうちにじわじわと違和感が広がってきました。あの母娘は何だったんだろう、怖い。ぞくっとするんですけど、そこでまさかのリンゴのマークのあれ登場でぞくぞく感に加えて訳の分からなさで混乱しました。混乱してるんですけど、楽しい読後感でした。ググったらキリストの墓は文章に出てきたそのまんまだし標識もあって笑いました*2。わたしはApple信者じゃないどころか人生で一度もApple製品を所有したことがないので帰れないなこりゃ、と思いました。6月の祭りって基調講演ってやつですよね。タイトルからは想像もできない二段落ちが面白かったです。

卑劣なるBON祭り - デス気分転換
世界観が面白かったです。最初、オリンピックと出てきたときは「すわ、今話題の」と思ったのですが、全然そんなことなかった。日本人の短いと言われる盆休みを皮肉ったようにも、最近増えている外国人観光客のようにも読めます。世界観をつかむのに苦労した部分はありましたが、「下高井戸オリンピック」のキャッチーな下町感覚でなんだかそういう瑣末なことは吹っ飛びました。こういうショート・ショートありそう。クールジャパンっていうよりボンジャパンって感じでした。

祭りばやしの外の外──のべらっくす第11回 - 創作の箱庭
こういう幼馴染とのベタベタな話って少女漫画のようで、自分とは無縁の世界だからかオチが見えてても微笑ましく読めました。未奈の東京での生活の様子なんかがあってもよかったかな、と思いました。合コンに誘われたりサークルであれこれあったり、未奈が社会人になってみて初めて隆志の気持ちがわかった的な描写とか。シルバーウィークって夏と言っていいのか秋と言っていいのかどっちなんだろう、小説中でも夏と秋の始めが混在していたので気になりました。あと、高卒で海外赴任ってあるのかな…今まで勤めた会社だと大卒以上TOEICスコア800点以上とかだったので、そこもちょっと気になりました。

やきそばのないお祭り(【第11回】短編小説の集い) - いつかのことです。
わたしはドロケイと呼んで育ったので、ケイドロが新鮮でした。あと、型抜きもなかった*3。そして、祭りの屋台で焼きそばを食べた経験もないので、健太郎が焼きそばに執着する気持ちが新鮮でした。焼きそばを食べたいがためにソースの匂いを追って迷いこんで、そこまでお祭りの焼きそばに執着できるのはすごいと関心しました。なんとなく、健太郎の家は田舎のだだっ広い家っぽいなぁと思いました。間取りが浮かぶ感じです。お兄ちゃんのちょっとズレたオチが微笑ましいです。

欠損【短編小説の集いのべらっくす参加作】 - nerumae
卯野さんの書くものはわたしと近似値にあって、性的嗜好が見え隠れしてるんですよね。ただ違うのは、卯野さんは人間のえぐさというか黒い部分を書くのがうまいです。今回だと、グロテスクなものに性的な魅力を感じるところや、近寄ってはいけなさそうな人*4への憧れとか。「ぼく」にとっての性への目覚めがきっと欠けた小指なんですよね。しかも最後、成長した「ぼく」の就いた仕事が…。男は何者だったのか、そして母とはどういった関係だったのか、母と「ぼく」の関係はどうなのか、考えると面白いです。冒頭の一文がたまらなく魅力的です。

第十一回短編小説の集い 出品作品「九月一日」。苦労した。 - 池波正太郎をめざして
ここ最近話題の「図書館においでよ」をまず思い浮かべました。母子家庭で苦労しながら私立学校に子供をやり、過度に期待をかけてしまう話もたびたび聞かれるので苦しくなりました。シンイチくんはたぶん、いい子でいなきゃと思って生きてきたんだろうな。市立中だったけど、いじめやら家庭の問題やらで学校にも家にも居場所のなかった身としては読んでて痛くて痛くてたまりませんでした。後半の民間芸能の描写の細かさはさすがで、細かく描き込むほどシンイチの抱えるものが浮かび上がってきました。結末の是非については、わたしの中でまだ答えを持ち合わせてないため触れませんが、ケンジやシホのような存在が昔のわたしにいたら、と少し思いました。

「邦題:未定 原題:for your eyes closed 著者:Yukie W.Bartlemy 翻訳者:不明 発表年:2011年2月」 -
「祭り」のテーマからまさかこんな話が出てくるなんて。大輔クズだなー、からの結子クズだなー、からの未華クズだなー、からの優羽ちゃん健気だなぁ。優羽ちゃんのことを考えるととても胸が痛みます。結子は離婚してから必死にアルコール依存を断ち切り生活を立て直し優羽を手元に呼ぶためにがんばってきたんだろうな。未華は未華で、大輔のよきき妻・優羽のよき母になるためにがんばってきたのに報われなかった苛立ちが爆発したんだろうな。そう思うと、女たちをクズだと簡単に切り捨てられなくなります。最後の二文がとても凛々しくて眩しいです。どうがんばっても、わたしの足りない脳みそではタイトルを理解できませんでした。ごめんなさい。

祭囃子が聞こえていた ~短編小説の集い宣伝~ - 泡沫サティスファクション
自分探しの旅というやつですね。ただ、逐一facebookに上げているところが今どきだなぁと思いました。読んでて思い出したのは郡上おどりでした。人の流れに巻かれてうねるように踊り続ける。行ったことないんですけど。お盆ということで、許されたい人たちの思念が集まった仮面舞踏会だったのかもしれない。誰に許される必要もないのに許しを請うている人もいるんだろうな、早苗みたいに。早苗は旅に出て自分に向き合ってきたつもりだけど本当は逃げていただけで、ここでやっと自分と向き合ったんでしょう。スマホfacebookの使い方が現代っ子感を出しててうまいなぁと思わされました。
余談ですが、名古屋の盆踊りにはたいてい郡上おどりの『かわさき』がしれっと混ざってます。そして、「地域のアピールをするためにわざわざ都会からやってくる若者」で某高知トマトの人を思い出したのはわたしだけででしょうか。


* ☆ * ☆ *

久々に『のべらっくす』に参加して、楽しかった反面力量不足を思い知らされました。そして、「祭り」というテーマでもいろんな切り口があり、夏祭りカップル系でもばらけていたりと、読んでいてとっても面白かったです。ところどころ辛口なことを言っていてすみません。
またちょくちょく参加していきたいです。

*1:ダム板はカレー板やきのこ板などに適宜置き換えてください

*2:キリストの墓とピラミッドが併記された標識って!

*3:型抜きの存在は『ハチミツとクローバー』で初めて知った

*4:というかアウトサイダー

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