デザイナーの佐野研二郎氏が作った2020年の東京五輪のエンブレムが使われないことになった。佐野氏から取り下げの申し出を受けて大会組織委員会が決めた。新国立競技場の白紙見直しに続き、五輪準備が、またつまずいたことになる。

 エンブレムは7月24日の発表直後から、様々に取りざたされてきた。

 ベルギーのデザイナーが自分が制作した劇場ロゴに似ていると主張し、使用差し止めを求める裁判を起こした。これに対して佐野氏は「盗用」を強く否定し、組織委も応募時の「原案」と修正の過程を公表し、それを裏付けようとした。

 しかし、その際に示したイメージ画像に写真の無断転用があったことなどが新たに指摘された。佐野氏がデザイン監修をした景品トートバッグの図柄に、第三者の作品を写したものがあったことなども重なり、騒ぎは大きくなる一方だった。

 写真や図柄の転用は明らかに佐野氏のミスだ。こうした脇の甘さがエンブレムへの不信を募らせてしまった。多くの人に愛されるのは難しいだろうという使用中止の判断はうなずける。

 組織委はまた公募で、新たなエンブレムを選ぶという。再びの失敗は許されない。

 エンブレムは、東京五輪の理念を明確に視覚化したものでなければならない。開催が決まった直後の熱気がさめ、負担の重さなど課題も見えてきたこの時期に、五輪で何を実現するのか。改めてそれを広く深く議論したうえで、新しいエンブレムを募集してもらいたい。

 エンブレムのようなデザインの場合、多様なメディアや広告での使い勝手などをよくしながらも、すでに商標登録されている似たデザインを避けるために原案を練り直す過程もある。

 この日の会見で組織委は、商標登録されているものはチェックしたものの、登録外のもの全てを確認するのは困難であることを認めている。

 強く訴えるデザインは、シンプルな円や直線の組み合わせで構成されることが多い。見た目が似た作品が生まれることもあるだろう。だからこそ組織委は、その形や色に込められた理念や考え方の独創性を丁寧に説明して、デザインに対する理解を社会に求める必要がある。

 新たなエンブレムの選考に向けては、類似作品のチェックを十分にしながら、応募作や選考の過程も可能な限り公開してほしい。今度こそ、世界の人々に、広く愛されるエンブレムを選ぶ責任がある。