絵里「私とμ'sの夏休み」【ラブライブ!】



1:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:04:03.51 ID:4t+R0lsv.net
真姫「あ!あ、あ~!だめよ!離さないで~!」


ガシャーン!

早朝。
とある公園で、真姫の慌てふためく声がしたのと、派手に自転車が横転した音が同時に聞こえた。

え、何、どうしたの?
朝日に照らされてボーッとしていた私が振り返ると、そこには─────


真姫「もう!離さないでって散々言ったのに!ばかばか!知らない!」

花陽「ご、ごめんね、ごめんね真姫ちゃん~!」


ブスッとした表情の真姫と、そこに涙目で駆け寄る花陽の姿が見えた

やだ、可愛い。真姫ったら顔真っ赤じゃない♪



2:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:05:49.09 ID:4t+R0lsv.net
絵里「どうしたの二人とも? 大きな音が聞こえたみたいだけど、何かあったのかしら」


クスクス、倒れた自転車と、砂埃にまみれた真姫の姿を見たら───────

それはもうすっかり状況は丸わかりなんだけど♪
白々しくそう言って近付く私に気付いた真姫が顔を上げた。


真姫「ふん!ねぇ、聞いてよエリー。私、離さないでって言ったのに、花陽はさっぱり聞いてなかったみたい。
   ほら、ついに膝小僧まで擦りむいちゃった。もう、ホント、意味分かんない!」

花陽「うぅ~!ひっく!ごめんね、ごめんね真姫ちゃん……」

絵里「え、ちょっと、真姫も言い過ぎよ。花陽、泣いてるじゃない……」


真姫はきまりが悪そうに向こうを向く

もしかして、私が思ってた事態より大変なことが起こってたの?



3:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:07:58.84 ID:4t+R0lsv.net
───────ところで、何で私が朝早くから公園で真姫と花陽といるかというと、それは30分前の出来事なんだけど……


絵里「えっ!今日は午後練!?」

希「うん、そうなんよ~♪ 実は昨日、うちらが生徒会の仕事でいなかったとき何やそういう話になったみたいで、午前は完全休養なのだ~」

絵里「───────私は聞いてないんだけど」


休日。秋になるまでもう少しのこの頃、風が涼しくなってきた朝に神田明神に着いた私は一人、ボーゼンと立ち尽くしていた

携帯を握る手に力が入っていく。


絵里「ねえ、希。何であなたが知ってる連絡を私は知らされてないのかしら?
   もしかして、『うん!えりちにはうちから言っておくね~♪ ほなまた明日!ぶい!』なんて皆に言っておきながら、私に言うのを忘れていたなんてことは───────」

希「わ、わー!たんまたんま!えりち声が恐いって!」


ひー!っと携帯の向こうから困ったような希の声。

はぁ、もうやだ……やっぱりそうなんだ…



4:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:09:47.26 ID:4t+R0lsv.net
絵里「何か言うことはある?」

希「…………っ」


ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえて、


希「えりち、モノマネ上手やね」

絵里「………………………………………」


長い沈黙。
もう、本当に呆れた、言葉を失うなんて初めての経験よ

いったい私はこの後、どうやって希を叱ればいいのかしら。
このどこにも行きようのないモヤモヤをどう発散してくれようか───────


絵里「ねぇ、希」

希「ごめんなさい」


謝罪が早い…。悪ノリが過ぎてもちゃんと反省するのは、この子の良いところね。



6:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:11:38.69 ID:4t+R0lsv.net
絵里「……ふー、もういいわ。こんな朝っぱらから怒るほど、私も元気じゃないし」

希「ホンマ?」

絵里「本当」

希「そっか。ごめんな、うちがちゃんと言わんばっかりに、無駄足踏ませて」


ホッとしたような、いつもの希の声色


絵里「ま、たまにはゆっくり朝の町を散歩するのもいいかもね。あ、でも明日学校でジュース奢ってもらうから!」

希「あはは、了解♪」


最後はいつも通りの会話をして、通話を終えた。

そんなこんなで、暇を持て余してしまったエリーチカでした。



7:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:13:19.43 ID:4t+R0lsv.net
絵里「といっても、散歩とか、どこに行けばいいのかしら…」


とりあえず駅前に行こうかしら?
ああ……でもこの時間だと、どこの店も空いてないか。

う~ん……


生徒会長の『かしこいかわいいエリーチカ』が休日の朝っぱらから、ぶらぶら何の目的もなく歩いてるところなんて、音ノ木の生徒に見られたら大変だ わ。


絵里「それじゃあまあ、せっかくだから亜里沙の勉強でも見てあげようかしら」


たしか受験勉強だって、今朝も早くから机に座ってたわね。

くるりと踵を返して、家のある方に歩き出す。


あ、どうせならお参りでもしていけば良かったかな───────って神田明神を振り返って、やっぱり男坂をまた上がる気にもなれず……


私は自宅に向かって歩き出した。



8:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:15:43.75 ID:4t+R0lsv.net
早朝の風を受けながらぶらぶら歩いて、公園のそばを通ったとき、なんだか見慣れた姿が見えた。


絵里「あれって、うちの……」


古い古い、塗装が剥げた遊具と砂場しかないような。
言ってしまえば地味めな公園の中で明らかに目立っている赤いジャージを着た女の子。

それは音ノ木のジャージで、よく見ると私のよく知る女の子だった。


絵里「おーい!マッキー!」


公園に入る前から手を振って、声を上げた 。

普段ならそんな子どもっぽいことしないんだけど、朝の散歩で気分が良かったのかしら。

閑静な公園に声はよく通り、赤いジャージに赤い髪の女の子はピクッと反応した(やだ、全身赤色じゃないこの子)。


真姫「げっ!」


げって……



9:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:17:09.14 ID:4t+R0lsv.net
絵里「おはよう。何してるの? こんな朝早くから」

真姫「嘘……絵里?」

絵里「他に誰がいるの?」


クスクス─────目をギョッとさせて私を見る真姫に、思わず微笑んだ。

いつもシャンとしてて、実はそうでもないんだけどしっかり者であろうとしてる真姫が、休日の朝からジャージ姿で自転車に乗ってるなんて


面白そうなヨ・カ・ン♪


絵里「ねぇねぇ、それでマッキーは何してるの?」

真姫「あ、それはその~……」


口もごって、視線を逸らす真姫。

何か、後ろめたいことでもあるのかしら……なんて。

自転車、公園、少し汚れた自転車とくれば、決まってるわよね♪



10:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:19:35.59 ID:4t+R0lsv.net
花陽「絵里ちゃん?」

絵里「え?」


真姫の後ろから声が聞こえて───────現れたのは花陽だった。


花陽「わあ、やっぱり絵里ちゃんだぁ♡すごい偶然だね♪ おはよう~♡ こんな朝早くからどうしたの?」


甘ーい甘ーい声で、にっこり。

まるで天使みたいに微笑む花陽は、休日でも早朝でも関係ないみたい。


絵里「おはよう花陽。ちょっと散歩していたの」



11:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:20:50.38 ID:4t+R0lsv.net
絵里「そういう二人こそ何をしてたの? せっかく午前休なのに。あ、花陽はジャージじゃないのね」


上は半袖のTシャツ一枚、下はハーフのカーゴパンツ、足元はハイカットのスニーカー。
頭にはまんまるのハットがちょこんと乗っていた。

全体的に、黄色い雰囲気。


花陽「うん、今日は真姫ちゃんが自転車に乗るための特訓にきたの♪ 真姫ちゃんだけ体操服なのも、そういうことなの♡」

真姫「あっ…!秘密の特訓だってさっき…!」

花陽「はっ…」


花陽はしまった!という顔をしたけど

まぁ……予想通りよね。



13:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:22:26.98 ID:4t+R0lsv.net
───────とまぁ、そんなこんなで、私は真姫と花陽の秘密の特訓に合流することにしたのでした。



花陽「ひぐっ…ごめんね、真姫ちゃぁん…」

絵里「何があったの?」

真姫「何がって、だから…………わ、私は離さないでって言ったのに、花陽が自転車を持つ手を離したの!」


真姫まで目の端に涙が滲む。

相当怖かったのね。肩も少し、震えている。


絵里「そう。でも花陽だって悪気があったわけじゃないんでしょ?真姫のためを思って─────」

真姫「わ、分かってるけど…でも…」



14:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:24:08.04 ID:4t+R0lsv.net
真姫がぐっと歯噛みする。

普段は優しい花陽が心を鬼にして、サドルから手を離すこと。

それがどれほど勇気のいることか、真姫はよく理解してるみたいだった。

でも、恐怖心や痛みのせいで、一時的にパニックになってるみたい。

だから───────


絵里「大丈夫、大丈夫よ真姫。あなたならきっと、上手に乗れるから」


ぎゅっと、真姫を抱き締めた。


絵里「よしよし、痛いの痛いの飛んでけ~」


やだ、やめてよ。これじゃ子供みたい─────なんて抵抗する真姫の頭をがっちりホールドして、撫でる



15:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:25:16.34 ID:4t+R0lsv.net
絵里「ほら、花陽もおいで」

花陽「え…?」

絵里「仲直りのハグよ。みんなでぎゅーってすれば、それで解決♪」

真姫「ナニソレ!」


顔の下で真姫が抗議する。よしよしと撫でると、ゔぇぇ~!と唸った


絵里「ほら、花陽」


ウインクしながら促すと、花陽も遠慮がちに近づいて来た。


絵里「花陽も、よしよし」


二人の頭を撫でる。

朝日がポカポカと、皆を照らす


あっ♪

なんだかとっても、幸せかも♡



16:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:26:22.61 ID:4t+R0lsv.net
絵里「ふふ、落ち着いたかしら?」


しばらくして、私は二人を離した。

うん、ありがとう、ごめんね、と花陽。
もう、ほんと恥ずかしい、死にそう、みたいな感じの真姫。


絵里「よーし!それじゃあもう一度練習しましょうか!」


パン!と手を鳴らせば、二人はちゃんと立ち上がってくれる。

なんだ、まだまだやる気は十分みたいね♡

倒れてる自転車を起こして、荷台の端を持つ。


絵里「ほら、今度は私が持っててあげる♡」


そう言ってにっこり笑うと、真姫はとっても嫌そうな顔をした。

ガーン!
花陽の方が百倍は安心できるのに!っていう顔してる!



17:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:27:47.14 ID:4t+R0lsv.net
絵里「じゃあ行くわよー!」

真姫「わっ!わっ!」


カシャン!と大きくペダルを漕いで、自転車が前に動く

うう~…!と小さく唸りながら、真姫は慎重にバランスを取って進む。

その動作に淀みはなく、スムーズに加速する自転車


なんだ、全然、乗れるんじゃない───────なんて思って、手を離した矢先


真姫「ねえ、ちゃんと掴んでる?ねぇ、え?嘘……絵里っ!?」



ガシャーン!


マッキー転倒……

何で後ろを振り返るのよ……



19:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:29:50.55 ID:4t+R0lsv.net
花陽「うわーん!真姫ちゃん、大丈夫!?」

真姫「い、いたた……ち、ちょっと絵里!あなた…」

絵里「ねぇ、真姫」

真姫「ゔぇっ!な、なによ…」

絵里「後ろを振り返るの禁止」

真姫「え……」


真姫はお目々を丸くして、一瞬固まった。

可愛くてつい笑ってしまいそうになるのを堪えて、きっと眉を上げる


絵里「まだスピードも出てないのに、後ろを振り返ったら転ぶのも当たり前よ? 前だけを見ること、まずはそれを目指しましょう」

真姫「…!」



21:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:31:17.42 ID:4t+R0lsv.net
絵里「さっ、もう一度よ!」

真姫「えっ、えっ、う…うん…」


困惑する真姫の背中を押す。
まっすぐ前だけを見て進むことが出来たら、真姫はもう自転車に乗れるっぽい。

あと必要なのは、怖がらない勇気だけ。それだけで、ハッピーエンドなはずなのに……



─────「花陽、まだ駄目よ!まだ……まだ離さないでね!まだ…え、花陽?わっ、あなたが転んだら、ってきゃああ!」

「あわわわ…!まっすぐ、まっすぐ!まっすぐ……え、乗れてる!?私乗れてる!やったあ……え、前?わああ!」

「このまま、うん、大丈夫!エリー!離して大丈夫だから、うん!このまま、このまま……あっ…あぁ、だめぇ……」


ガシャーン!


秘密の特訓は、思ったより大変なよう……



23:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:33:58.02 ID:4t+R0lsv.net
それからしばらくして、ついに!


真姫「やった!乗れてる!わわっ…っと、ふふ、乗れてる♪」


朝日に照らされた真姫の可愛い笑顔が見えた。


絵里「前見て、前!」

真姫「ええ!大丈夫!」


くいっとハンドルを曲げて、Uターンする真姫。
おおー!と私と花陽の間で歓声が上がる。


真姫「ふふ♡真姫ちゃんに掛かれば、こんなの簡単なんだからぁ!」


キキーッと私たちの手前で止まる。

もうブレーキだって掛けられるようになってる!



24:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:35:04.56 ID:4t+R0lsv.net
花陽「すごい!すごいよ真姫ちゃん!もう完璧に乗れてる!花陽よりずっと上手だよ!すごい!きゃー♡」

真姫「や、やめてよ花陽♡」

花陽「だって嬉しいんだもん♡ うわ~♪ やっぱり真姫ちゃんは凄いなぁ~!うぅ~…!」

真姫「あ、あり……ありがと…」


頬を染めて、抱き合う花陽と真姫

仲睦まじい姿が、微笑ましい♡


絵里「流石真姫ね…」


二人に寄り添って、抱きしめる。

本当に嬉しそうに笑う二人を見てると、やだ、私まで泣けてきちゃった……ぐすん。



25:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:36:36.93 ID:4t+R0lsv.net
花陽「良かったねぇ真姫ちゃん♡」

真姫「ありがとう花陽、絵里。ぐすっ、二人がいてくれて本当に良かったわ…」


そう言ってまた笑い合う三人の姿は泥だらけ。

真姫と花陽は軽い擦り傷まであるし、スクールアイドルとしては少し不恰好。

クスクス♪

けどそれが楽しくて、愛おしくて。


キラキラ輝く青春の一ページ。


私たちがいつまでも、いくつになってもきっと思い出すであろう、ひとときの淡い日々。


たまにはこんな汚れたページがあっても、いいんじゃない?♡



27:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:37:33.95 ID:4t+R0lsv.net
───────


絵里「ただいま~」

亜里沙「……あ、お帰りなさいお姉ちゃん」


家に帰ると、リビングに亜里沙がいた。


亜里沙「遅かったね」

絵里「それが聞いてよ~、今日実は午後練だったんだけど、μ'sのメンバーと偶然会っちゃってね。で、そのまま遊ぶことになって………あっ」


そこまで言って、亜里沙が無愛想に自分を見つめている、というか睨んでいることに気付いた。


亜里沙「お姉ちゃん、私ずっと待ってたのに。ずっと」

絵里「?」



28:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:39:20.24 ID:4t+R0lsv.net
差し出された手には携帯。

見るとそこには───────



『おはよう、亜里沙。勉強捗ってる? 良かったら、お姉ちゃんが勉強見てあげる。今から家に帰ります』



朝、私が書いた文章だった。


絵里「……………………………亜里沙、あの」

亜里沙「そっか。お姉ちゃんは私のことは忘れて、μ'sの皆さんと遊んでたんだ。ふーん」

絵里「亜里沙、その、これは……ご、ごめんなさい…」

亜里沙「ふーんだ、いいよもう……」


ぷい、と向こうを向く亜里沙。 あぁ~………



29:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:41:51.73 ID:4t+R0lsv.net
あぁ、やだ。これって、とーっても怒ってるときの態度だわ……

昔、ペチカの前で、亜里沙の分までミルクティを飲んだときと同じ顔してるもの。

どうしよう……何か言わなきゃ、と口を開いたとき、


亜里沙「何でお姉ちゃん、そんなに汚れてるの?」


亜里沙が私の姿を見て、そう言った。


絵里「ああ、これ?ちょっと、公園ではしゃいじゃって……」


亜里沙との約束を忘れていた手前、気まずくて遠慮がちに服の襟を引っ張って説明する。


絵里「だから、一回お風呂に入ってから部活に行こうかなって思ってて…」

亜里沙「じ、じゃあ……!」



30:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:43:27.16 ID:4t+R0lsv.net
亜里沙「一緒に入っても、いい…?」

絵里「え?」


あくまで私の目を見ずに言葉を交わす亜里沙。
その顔は今怒ってるのかどうか、分からない。


亜里沙「入ってくれたら、メールのことは許してあげる……」


いつもより少し強気の口調。

私の胸に、ぽっと灯りが点いた気がした。


ふふ、何だ────最近はもうすっかり甘えてこなくなったって、少し寂しい思いをしていたけれど、案外そうでも無かったみたい♡


改めて見ると、亜里沙の耳が赤くなっているのを発見♪


絵里「ええ、もちろんよ。私の可愛い亜里沙だもの」

亜里沙「ほんとっ!?」


ぴょん、と亜里沙の髪が跳ねた。



32:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:44:21.16 ID:4t+R0lsv.net
絵里「ええ、本当よ。今お湯を沸かしてくるわ」

亜里沙「あ、私がやっておくから、お姉ちゃんはリビングで待ってていいよ♪」


もうすっかり機嫌を直して、駆け足気味の妹。

可愛いと思うのは、その健気な後ろ姿。

私が今日見た、二人の後輩の後ろ姿と、それは重なった。


亜里沙「あ、そうだお姉ちゃん」


リビングの扉を開けた亜里沙が立ち止まる。


亜里沙「服を汚すくらいなら、練習着に着替えたら良かったのに」

絵里「………!」



33:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:47:14.26 ID:4t+R0lsv.net
一瞬考えて、ガガーンと頭の上に重たい何かが落ちる

そういえば朝からずっと持ってた鞄の中には、練習着も汗拭きタオルも入っていたのに、すっかり忘れていた。


絵里「あ、あははは……♪」


改めて、泥や砂にまみれた自分の服を眺める。

薄汚れていて、あんまり可愛くない。


子どもの頃に呼ばれてた、お馴染みの私の代名詞。

今はちょっと、かしこくない……







『早朝の秘密特訓!~まきしゃりんぱな~』完



   つ   づ   く



34:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:49:28.50 ID:4t+R0lsv.net
『図書と夢と姉と汗~密室のえりんがべ~』



35:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:50:24.73 ID:4t+R0lsv.net
「おおっ☆ 絵里ちゃんだニャ!」


校舎の正門扉の向こう、昇降口から大きく手を振って声を掛けてくる女の子がいた。


───あら? この聞き覚えのある声は、凛?


まさか。練習時間まではまだ余裕があるのに、もう学校に来てるわけ…


凛「絵里ちゃん返事してニャ~!」


そんな…!本当に凛だったなんて────って私が呆然としてると、しまった。


凛「絵里ちゃん? えりちゃーん? どうしたの? 気分悪いの?おーい!絵里ちゃーん!」


凛がとっても心配そうな顔して近付いてきてた。



36:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:52:39.60 ID:4t+R0lsv.net
凛「熱でもあるのかニャ?」

絵里「あ、ありがとう、凛。大丈夫よ」


にこりと笑うと、彼女はぱああっと周りにヒマワリが咲いたみたいな、可愛い笑顔を浮かべた。


凛「そっかぁ~!良かった! 凛ね、最初に声かけたときもしかして人違い?って思っちゃったニャ~!凛の勘違いだったね!」

絵里「ちょっと暑くてぼーっとしてたの、ごめんね。それより、凛こそどうしたの?練習は午後からのはずだけど」
  
凛「エヘヘ~☆ なんでだと思う? 実はね、夏休みの宿題用の本を借りにきたんだ!」

絵里「宿題用の本を?」

凛「うん!読書感想文の!」


とっても元気な声で、凛はそう言った。

まだ終わってなかったんだ……



38:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:54:05.05 ID:4t+R0lsv.net
───────


凛「凛だけじゃ選びきれないから絵里ちゃんがいてくれて助かったニャ☆」

絵里「ふ~ん。他の子は誘わなかったの?」


肩を並べながら、二人で廊下を歩く。
なんとなく流れで私も同行することにした。


凛「かよちんと真姫ちゃん誘ったんだけどね~。二人とも忙しいんだって」

絵里「……そっか」


秘密の特訓してたもんね。


凛にだけは言わないで!って真姫に釘を刺されてるから、言えないけど♪



40:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:57:26.73 ID:4t+R0lsv.net
絵里「それより、凛はよく今日が図書室の開放日だって知ってたわね。ちゃんと学院だより読んでるんだ」

凛「へ? ずっと開いてるんじゃないの?」

絵里「えっ、違うわよ。開放日は決まった曜日だけよ?」

凛「へ、へー……あはは……。結果オーライニャ!」


てヘ、と舌を出して能天気に笑う凛の横で、全くしょうがないんだからと私も笑う。

ほんと、凛らしいといえば凛らしいんだけど?
クスクス───♡


凛「到着っ!わーい!涼しい~!」

絵里「こーら。図書室で騒がないの」


見渡した図書室は、退屈そうに欠伸して座ってる先生一人以外には誰もいない。

ひどく静かだった。



41:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 22:59:21.51 ID:4t+R0lsv.net
凛はとてとてと本棚のほうに歩いていって、さっそく品定めを始める。

キョロキョロと右から左と見渡して、時折う~んと首を傾げながらあれでもないこれでもないと悩む彼女を後ろから見ていると、ふふ♡

つい、和んじゃう♪


絵里「読みたい本は見つかった?」

凛「ぜっさん悩み中だニャ~…。候補はあるんだけど…」


そう言って、凛は本棚に置いてある本の背表紙を幾つか指差した。


『◯ルマーの冒険』『◯こちゃん』『大どろぼう◯ッツェンプロッツ』『100万回生きた◯こ』『◯ゅうのこたろう』


げげ…!まさかの全部絵本…!?


絵里「へ、へぇ~……この中から…」



42:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:01:22.23 ID:4t+R0lsv.net
凛「うん!凛の好きな本なんだ~☆ ねぇねぇ!絵里ちゃんはどれが良いかニャ!」

絵里「私? え~と、そうね…こ、これとか?」


正直どれも読んだことないんだけど……表紙に猛獣と少年が描かれてる絵本を指差す。


凛「ほほ~! 絵里ちゃんはそれが好きなんだぁ~! お目が高いニャ~」

絵里「そ、そう…?」

凛「うん!それが好きな絵里ちゃんには、これもあれもそれもオススメだよ!」


凛が素早く大量の絵本を運んでくる。

ええ!? さっきの中から選ぶんじゃなかったの~!?


絵里「あ、あはは…凛、私のより自分の読む本を決めなくていいの?」

凛「あっ!そうだったニャ!てへへ、凛ってばうっかり屋さんニャ~☆」



43:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:03:03.04 ID:4t+R0lsv.net
絵里「い、いってらっしゃ~い…」


備え付けてある席について一息つくと、すっかり肩の力が抜けた。


絵里「ふう~……」


先生の寝息のほか、そっと窓の外からセミの鳴き声が聴こえる。


絵里「………」


あーあ、なんだか本当に閑散としてるじゃない──なんて、ひとりごちる。


私が一年生のときなんかは、自習室代わりにここを使ってる生徒も結構いたんだけど。

まぁ、あの頃は今に比べて生徒数も多かったし、比べるのもおかしいんだけど。



45:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:06:58.65 ID:4t+R0lsv.net
そういえば───と天井を見上げる。

私が一年生のとき使っていた教室は、今は空き教室になっているんだっけ。

希と1年間を過ごした教室は今、備品置き場として使われている。


しょうがないわよね。

だって、新入生が1クラスしかないんだもん。


凛「あっ!この本、こんなところにあったんだ~!」


見えないところに行っちゃった凛の声が聴こえる。


『1クラスってことは、かよちんと真姫ちゃんと3年間同じクラスになることが決まってるってことだよね?すっごく嬉しいニャ~!』なんて。


凛は思ってるのかしら。



48:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:26:41.22 ID:4t+R0lsv.net
『─────この学院は、3年後の廃校が決定致しました。』



はっとして、私は目を開けた。


凛「……ちゃん、絵里ちゃん。あ、絵里ちゃん起きた。ぐっすり眠ってたニャ~☆」

絵里「ん……」


凛がすっごく近くから見ていた。

ああ、そっか。
私、いつの間にか眠ってたんだ…。


凛「ねぇねぇねぇ。絵里ちゃんってさぁ、寝顔もきれいだね~。
  思わず凛、見惚れちゃって起こすか迷っちゃったニャ~☆」


凛がウキウキした顔で私の前に座る。

どうやら私の寝ている姿を、長いこと凛に観察されていたみたい。



49:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:27:35.60 ID:4t+R0lsv.net
凛「なにか夢でも見てた?」

絵里「え?」

凛「眉間にしわ寄せて、むむむ~!って難しい顔してたよ? なにか、嫌な夢でも見たのかニャ?」

絵里「────えっ、と」


なにか夢を見たような気がするけれど、うまく思い出せない。

頭の中に靄がかかったみたいで、変な感じ。


絵里「よく…覚えていないわ」

凛「そっかぁ。夢って、見てもすぐ忘れちゃうもんね。凛も覚えあるよ~!
  実は凛もね、今朝……」

絵里「ん?」


凛はぽかんと口を開けたまま、喋ってる途中で固まってしまった。


絵里「凛?」



50:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:28:44.40 ID:4t+R0lsv.net
凛「あ……」

絵里「どうしたの?」

凛「あ、あああああ!そうだ!思い出したニャ!昨日見た夢!
  凛ね!絵里ちゃんの夢を見たんだ!」

絵里「私の夢?」

凛「うん!そうなんだ~♡えへっ♡ぜひ絵里ちゃんに聴いてほしいニャ~!
  昨日見た夢、とっても楽しかったニャ♪」


興奮した様子で捲し立てる凛。

そんな彼女の口に人差し指を当てて嗜めてから、私の横にある椅子を引く。


絵里「誰もいないからと言って、大きな声を出しちゃだーめ。
   ほら、隣同士で話しましょう?」

凛「うん!うんうん!」


とっても楽しそうに笑って、私の横に座る凛。

クスクス♪

いったい、どんな楽しい夢を見たのかしら♡



51:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:30:13.01 ID:4t+R0lsv.net
凛「ねぇねぇ、絵里お姉ちゃん♪」

絵里「ふふ。なぁに、それ?」

凛「ちょうどこんな感じだったニャ♡
  凛のお姉ちゃんになった絵里ちゃんがね、凛とお話してくれる夢だったんだぁ♡」

絵里「私が、凛のお姉ちゃんに?」

凛「うん!夢の中で凛はね、絵里ちゃんのこと絵里お姉ちゃんって呼んでたんだ~!」

絵里「へー」


凛が私の妹に…ね。


クスクス────♪

それはとっても、騒がしそうな夢ね♡



52:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:31:21.12 ID:4t+R0lsv.net
凛「ね、ねね。絵里お姉ちゃんっ」

絵里「ん。なぁに?」

凛「凛ね、絵里お姉ちゃんに甘えたいニャ♡」

絵里「ふふ、どういうこと?」

凛「えっとね、頭なでなでしてほしいんだ!」


ごろん、と凛の頭が私の肩に寄りかかる。


絵里「……」


香水…じゃないけれど。

微かに漂う女の子の香りがする。


凛「だめ?」


懇願するような、甘える声。

やだ。そんな風にお願いされたら、断れるわけないじゃない…!



53:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:32:31.99 ID:4t+R0lsv.net
凛「へへっ☆ にゃんにゃん~♡」

絵里「もう。なにがそんなにおかしいの?」

凛「絵里お姉ちゃんの手、あったかいニャ~♡」

絵里「ええ?そうかしら。自分では分からないわ、そんなに違わないでしょ」

凛「そんなことないよー?」


ぴと。凛の手が私のほっぺに触れる。

ぎゅ。逆に私の手が凛のほっぺに当てられる。


凛「ね?」

絵里「確かに……ほんの少しだけ私のほうが温かい、かも?」


いや…でもやっぱり、そんなに変わりないと思うけど…。



54:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:35:55.52 ID:4t+R0lsv.net
凛「凛のリサーチによると、絵里お姉ちゃんは穂乃果ちゃんに対抗できる暖かさニャ~!」

絵里「対抗って、ふふ…別に勝負してないけど」

凛「ね、もっと撫でて?」

絵里「こちょこちょー」

凛「きゃっ♪ ふふ♡ も~!あはは♪」


あの子とはだいぶ違うタイプだけど、こういう妹も可愛いものね♪


絵里「甘えるのもいいけど、読書感想文の本はいいの?」

凛「うん♡結局、絵里お姉ちゃんが選んだやつに決めたよー!」

絵里「クスクス♪ 結局人任せ?」


それなら、あんなに悩む必要なかったじゃない。


クスクス♡



55:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:37:23.41 ID:4t+R0lsv.net
─────


それから、凛は私が選んだシリーズ物の絵本を何冊か借りて図書室を後にした。


ジー……ジー……


凛「うぅ~…今日も暑いニャ~!」


グラウンドのわきを抜ける途中、凛が唸る。


絵里「ほんとにね。というかこの蝉の鳴き声って、聞いてると余計に暑くならない?」

凛「あ、それ分かる~。凛ね、小さい頃は蝉の鳴き声聞いた瞬間ばーって走って行って捕まえに行ってたニャ~!
  かよちんは嫌がるけど、凛は虫取り網なんていらないんだよね~☆
   素手でばしーって捕まえるんだ!虫取り名人凛だニャ!」

絵里「ええ? いや、そっちのあつくなるじゃなくて…」


な、なんの話…?



56:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:40:43.35 ID:4t+R0lsv.net
日も頂上に昇りきる時間。

取り留めのない話をしながら、私たちは部室に向かっている。

途中盛大にズッコケながらも、凛は元気いっぱい。

前を歩く彼女はぴょんぴょんと楽しそうにスキップしていて、小ぶりなお尻がふりふり踊る。


絵里「もう…りーん!また転けちゃダメよ~!」

凛「は~い☆」


まったく、もう。なんで私が凛の課題本を持ってるんだろう。



───────ぴゅう。


ふと、風に乗って流れてくる匂い。



57:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:42:46.72 ID:4t+R0lsv.net
くんくん。

ついさっき鼻腔をくすぐったばかりのこの匂い。


───凛は、汗をいっぱいかきながらも忙しそうに動いてる。


それは、凛の証のような気がしたの。つい笑っちゃう。


彼女はいつもすぐそこに、楽しい何かを見つけてることができる。


ぎゅっ、ぎゅっ、と。

自分の世界の内にいろいろ詰め込んでたあの頃の私とは正反対。


ばーっと。自分の世界を外に向けて、どんどん広げていく。


どんどん、自分の世界を大きくしていく女の子。



58:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:43:56.53 ID:4t+R0lsv.net
「あれーっ!? 絵里ちゃんと凛ちゃんだ!わーい!」


ふと聞こえた、とっても聞き覚えのある声に振り返る。


凛「あーっ!穂乃果ちゃんだニャ!」


廊下を走ってくる穂乃果。

……そういえばもう一人いたわね、遠慮なしに自分の世界をばーっと広げていく子が。


海未「どうしたんですか? その絵本は」


穂乃果の後ろから歩いてきた海未とことりが横に並ぶ。


絵里「これ? あはは、ちょっとね。凛の読書感想文の課題本を一緒に選んでたの」



59:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:54:32.64 ID:4t+R0lsv.net
ことり「へ~。じゃあ早く来て図書室に行ってたんだぁ。うわ~!ちょっぴり羨ましいかも♡
    ことりも二人と図書室デートしたかったなぁ~♡」

絵里「ええ? もう、ことりったら。からかわないの」

ことり「えへへ~♡ ほんとだよ?」


屈託のない笑顔で笑うことりに、つい脱力。


凛「ニャニャ♪ なんの話してるのー?」

絵里「わわっ!」

穂乃果「あ!やば──!今、読書感想文って聞こえたんだけど!
    うわーん!そういえば穂乃果まだしてなかった!」

絵里「ぐふっ!」


凛と穂乃果が背中からのしかかって来た。

お、重いわよ~~~っ!!!



60:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/30(日) 23:56:56.30 ID:4t+R0lsv.net
穂乃果「穂乃果も絵本選ばなきゃー!」

絵里「えぇ!?穂乃果も絵本なの!?」

海未「穂乃果!あなたあれほど言ったのにまだしてなかったのですか!?」

ことり「凛ちゃん♡ 絵里ちゃんとのデートどうだった?」

凛「ニャ? 絵里お姉ちゃんとは図書室でいっぱいお喋りしたよ☆」

ことり「おねえ…え!?」

絵里「ああ、もう!みんなストップストップ~~~!」


私が叫んだ、次の瞬間。



どっしーん!!!



って……ああ……結局、倒れちゃった。



61:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 00:00:12.75 ID:5v6MY2ZQ.net
希「何してるの?」

絵里「の、のぞみ…?」


倒れた場所が、部室まであと一歩のところだったみたいで。

音を聴いた希がひょっこりと顔を出した。


希「あはは♡ なぁんや────部室に荷物は置いてあるのに凛ちゃん本人の姿が見えへん思ったら…
  クスクス♪ なかなか面白いことしてたみたいやね♡」

絵里「そ、そんなこと言ってないで助けてよー!」



───────そのあと、真姫や花陽が来て最終的にてんやわんやの大騒ぎ。


最後にきたニコが、祭に乗り遅れたみたいな顔で残念がったりして。


クスクス♪

結局、いつものμ'sになっちゃうのよね。



62:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 00:01:48.84 ID:5v6MY2ZQ.net
凛「エヘヘ♡ すっごく楽しいね、絵里お姉ちゃん!」

絵里「あ…」


しまった、と思った時には。

みんなの視線が私と凛に集まっていた。


ことり「絵里ちゃ~ん♡ やっぱりことり、詳しく聞きたいなぁ♡」

希「ふふふ。すっごく面白そうな匂いがするなぁ♪」

穂乃果「お、お姉ちゃん…?どど、どういうこと絵里ちゃん!?」


にじり寄る三人。後ろから興味深そうに見てる四人。


我関せずで能天気に笑ってる凛。ってこら!


凛ってば、もう───責任取りなさいよー!






   つ   づ   く



63:名無しで叶える物語(馬刺し)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 00:09:37.72 ID:BiRnivoO.net
sidみたいでいいな



65:名無しで叶える物語(湖北省)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 01:39:05.65 ID:YnkkrD4z.net
GODかな?
追いついた、超期待



76:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:49:55.57 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「それでは休憩にしましょう!」


カッ!と日差しが眩しい音ノ木の屋上に、海未の声が響いた。


「あぁ~!疲れたニコ~!もう駄目~!」「暑過ぎるぅ~!溶けちゃうニャ~!」「二人ともだらしないなぁ~、ほら水のみ?」「あぅ、今朝の傷に汗 が染みる……」「真姫ちゃん大丈夫……?」


皆は一斉にばらけて、各々マイペースに休憩に入る


穂乃果「あづい……あづい……」

海未「穂乃果ったら、口を開けてはした無いですよ」

穂乃果「だって~!」


皆を眺めながら、ドリンクをごくりと飲む。

汗が額を流れては、また浮かぶ。


炎天下。

遮るものが何もない屋上は、とっても暑い。



77:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:51:54.51 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「もう、本当、暑過ぎ……」


拭いても拭いても、汗が流れて落ちる。

練習着はもうびちょびちょ。


替えのやつに着替えようかしら?

そう思って荷物置き場の方に行こうとした私の目に、気になる影が映った。


絵里「───?」


足を止めて、くるりとそちらを向く。

そこに小さく丸まっていたのは、μ'sの衣装係、音ノ木二年生の中で一二を争う美貌を持つと評判の、南ことりだった。


絵里「ことり?」

ことり「…………あ、えりちゃん」


声を掛けると、彼女はふらりと顔を上げた。

顔はもちろん、練習着も汗びっしょりで、いかにもしんどそう。



78:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:53:06.67 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「だ、大丈夫?水分補給はした?こんな天気だから、体調管理には気を付けないとね」

ことり「うん、大丈夫、ありがとぉ……」


ことりは笑ったけれど、明らかにいつもより少し弱々しい。


絵里「ねぇ、本当に大丈夫?何だか顔色も悪い気がするけれど……」

ことり「えへへ、大丈夫だよ…♪ ちょっと立ちくらみしちゃって、しゃがんでただけだから……」

絵里「そ、そう……」


本人がそう言うなら、無理に止めるほどじゃないのかしら……


絵里「でも気をつけてね、本当に危なかったらちゃんと言うのよ?」

ことり「うん、分かった…ありがと…」



79:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:54:37.84 ID:5v6MY2ZQ.net
ことりが、また同じように笑ったところで、


海未「では練習を再開します!」


海未が手を鳴らしてそう言った。


「嫌だー!穂乃果ずっとここにいるもん!」「にこぉ~!アイドルは日焼けNGにこぉ~!」「アイス食べたいにゃ~!」


絵里「手を貸すわ、立てるかしら」

ことり「ありがとう絵里ちゃん、よいしょっ…とっ」


立ち上がったことりはパンパンとお尻を払い、はぁー!と一つ深呼吸をした。


絵里「……ねぇ、ことり。見てて、今に海未が怒鳴るわよ♪」

ことり「え、どれ?」


ことりが辺りに目を向けた直後、屋上に海未の雷が落ちた。



80:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:55:39.71 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「なんですかそのだらしない態度は────っ!!!」


「「「ひいいーっ!!!! 」」」



三人の悲鳴が響いたのは、そのすぐ後♪





───────



海未「ストップです、ちょっと良いですか?」


しばらくして、海未が手拍子を止めた。


凛「え、何?凛何かした?」

海未「いえあなたではなく…」


さっきのお叱りが効いたのか、ビクぅ!と大げさに肩を跳ねさせる凛の横を通り過ぎて、彼女はことりの前で止まった。



81:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 20:57:56.50 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「あの、すみません、ことりだけステップが遅れているのですが……。
   もしかして、どこか具合が悪いのでしょうか?」

ことり「………」


ことりは心配そうに見つめる海未の視線から、逃げるように下を向いて、


えへへ、大丈夫だよ、と。

さっき私に向けた時と同じ笑顔を浮かべた。


─────はっ、としたのは、それがきっと、無理をしてるときの顔だと気付いたから。


絵里「ことり、嘘は駄目よ」

ことり「あっ……」


掴んだことりの手からじわりと熱が伝わる。

とっても熱い。

顔を上げたことりの頬が、赤く上気していた。


絵里「……とりあえず、保健室に行きましょう」



82:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:01:38.32 ID:5v6MY2ZQ.net
───────


絵里「誰も、いないのかしら……」

ことり「勝手に入っていいのかな……?」


シーンと静まり返った保健室に、ことりの手を引っ張って入る。


絵里「いいんじゃない? ベッド借りるだけだし」

ことり「し、失礼しま~す…!」


だから、誰もいないんだって。本当に真面目なんだから。


絵里「それとも、天然なのかしら?」

ことり「ふぇ?」


キョトン、と首を傾げることり。


絵里「そういうところ。くすくす♪ やっぱり天然かも、あなたって可愛いのね♡」

ことり「え、えぇー…! ど、どういうこと絵里ちゃん!?」


焦ったことりちゃんも、かーわい♡



83:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:03:02.23 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「何でも♡ えーと、あ、ベッドは窓から離れてるこっちにしましょう」


軽くベッドシーツをはたく。

ことりはまだ少し落ち着かない様子で、もじもじとそこに腰掛けた。


絵里「ほら、寝転んで。いま氷枕用意するから」

ことり「うん、ありがとう絵里ちゃん。でも、ホントにことり、大丈夫だよ?」

絵里「またそんなこと言って。身体すっごく熱こもってるくせに、馬鹿言わないの」


えーと、氷枕はここらへん、かな?


絵里「あっ」


がさごそ、戸棚の中を探すとそれらしき物を発見♪



84:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:06:11.42 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ハラショー。あとは氷水とタオルね、えーと、あったあった。よし、おっけー♪」


冷たい枕を、ことりの頭の下に入れた。


絵里「これでいいかしら?」

ことり「うん、ありがとう絵里ちゃん。ひんやりしてて、気持ちいい~」


ゆるふわ~って感じの笑顔でそう言うことり。

元気そうだけど、油断大敵。


絵里「あと…換気もしたほうがいいかしら」


閉まっていた窓を開けると、フワリとカーテンが舞った。


絵里「今日は日差しが強いけど、風が気持ち良いわね。日陰にいると、少しは暑さもマシだわ」

ことり「うん、そうだねぇ」



85:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:08:19.87 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「屋上は暑いわよねぇ……。私もう溶けちゃうかもって何度思ったか……
   ほら、私ってロシア生まれだから、こういうの慣れないの。
   ほらロシア生まれだから」

ことり「………」

絵里「……そ、そういえばことりも肌がすっごく白いけど、やっぱり日差しは苦手なのかしら?」

ことり「どちらかと言うと苦手、かな?」

絵里「ふーん、日焼けクリームとか、してるの?」

ことり「そうだね、あと日傘とかもよく使うかなぁ」

絵里「日傘ねぇ……」


ふわふわと、上品な日傘を持つことりの姿を想像してみると、それは予想以上にしっくりきた。


絵里「それじゃあこんな日は、やっぱりしんどかったんじゃ……」

ことり「…………」



86:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:09:46.23 ID:5v6MY2ZQ.net
一瞬の沈黙のあと、ことりはスッと口元まで布団を上げた。


ことり「じ、実はね……こんなこと言うと、また怒られるかもって思って、その……言えなかったんだけど」

絵里「?」

ことり「昨日、新しい衣装のイメージが湧いてね。夜中までそれについて考えてたら、寝るのが遅くなっちゃって……それで……」

絵里「……それで、まさか、寝不足ってこと?」

ことり「うん……」


こくりと、頷く彼女。


絵里「ばか」

ことり「いたっ」



87:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:10:36.10 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ばかばかばか」

ことり「いたっいた、いたい~!」


ツンツン、ことりのおでこを指で突っつく。


絵里「もう、ホント、あなたって子は、しょうがないんだから」


はぁ~~~!

ひどく大げさに、ため息をつく。
何であなたたちって…………こう、不器用なのかしら


絵里「ねぇ、ことり? 前に穂乃果が、風邪を引いて倒れてしまったことがあるでしょう?」

ことり「…………うん」


ことりの寝ているベッドの端に、ちょこんと座る。



88:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:12:46.41 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「あなたはあの時の穂乃果と一緒。
   μ'sの為だって、みんなの為だって先走って、自分のことは全然省みないんだから」

ことり「ごめんなさい……」

絵里「責めてるわけじゃないのよ? ただ、もう少し自分のことも大切にして、ことり。
   あなたが仲間を大切に想ってるのは分かってる。でも、私も同じなの。
   大切なあなたが倒れたら私、とっても悲しい」

ことり「うぅ、ごめんなさい……」


ついに顔までシーツで隠れたことりの、小さな頭を撫でる。

胸の奥から湧き上がるこの気持ちは、みんなが普段ことりに対して想ってる気持ちは────



きっと、単純な一つの言葉。



絵里「いつもありがとう、ことり」



シーツから見える可愛らしい手が、少し震えていた。



89:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:37:28.13 ID:5v6MY2ZQ.net
───────


希「コンコン、えーりーちー」

絵里「………希」


それから数分後、希がやってきた。


希「ことりちゃんの調子はどない?」

絵里「今寝たところ……希は、サボり?」

希「ひどっ!きゅーけーちゅー!」

絵里「ああ」

希「グスン…せっかくスポドリ持ってきたのに、この仕打ち。酷いん……」

絵里「あはは……ごめんごめん」



90:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:45:22.99 ID:5v6MY2ZQ.net
見ると、希はドリンクを二つ持っていた。

相変わらず、変なところで気が利く子ね。


希「しめしめ、これでジュース奢りの件はチャラなんよ……♪」

絵里「何か言った?」

希「ん?何も言ってないよ」


ドリンクを受け取ると、ヒンヤリと心地良い冷たさが手に広がる。


絵里「凍ってる……」

希「うん♪ 後で飲もうと思ってたんやけど、二人にあーげーるー♪」

絵里「ありがと。あとでいただくわね」



91:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:46:16.45 ID:5v6MY2ZQ.net
希「飲んで良し、体に当てて冷やして良し!スピリチュアルドリンクで健康促進なのだー!」


えへへ♪ と笑って、希はそのままくるりと踵を返す。


希「ほな、ぼちぼち練習再開するから、戻るね」

絵里「あ、もう? そっか、差し入れありがとう」

希「ことりちゃんにもよろしく言うといて~♪」

絵里「うん、了解」


ぱたぱたと手を振って、そのままあっさりと希は保健室から出て行った。

ほんとにドリンク渡しに来ただけなんだ……と、ちょっと感心。



92:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:47:46.12 ID:5v6MY2ZQ.net
───────



絵里「驚いた、まだこんなに蝉が鳴いてるんだ。今朝は少ししかいなかったのに…」


これから秋の足音を感じてくる時期に、たくましい命の音が飛び込んできて、

堪えきれずに少し頬が緩む。


───夏はまだ終わってない!暑い日は今日だけじゃない!


そんな神様の声が聴こえてきそうな、微睡みの時間。

ふと遠くからブラスバンドの声が聴こえたりして、私は窓際に立った。


絵里「う…眩しい…」



93:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:48:46.37 ID:5v6MY2ZQ.net
思わず目がくらむ。

外は日差しで真っ白に見えた。

まるで、そこに光の加護があるみたい。


あの子たちの声も聴こえるかしら────と耳を澄ましてみたけど、残念。

蝉の主張が激しくて、分からない。


絵里「…………」



─────それでもきっと、今も懸命に踊っているあの子たちの姿を想像して、祈る。


日の光を一身に浴びる彼女たちに。


どうか、ありったけの、光の加護を。



94:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:49:30.61 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「今鳴いてるのは、ツクツクボウシさん」


ふいに背中に声を掛けられて、振り向く。


絵里「起きてたの?」

ことり「うん、目をつむっても眠れなくて」

絵里「そっか…」


少しだけ、声色がましになっているような気がして安心する。


絵里「それで、ツクツクボウシ? って、何なの?」

ことり「それはねぇ、もう夏も終わりかなー?って頃に鳴き始める蝉さんの名前なの♪」


ことりはおっとりした調子で喋り出す。



95:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:50:56.24 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「ミンミン蝉さんと違って、つくつくぼーし!って鳴くんだぁ♪」

絵里「へぇ…知らなかったわ」


虫とかちょっと苦手そうなタイプかと思ってたけど、そうでも無いのかしら?


耳を澄まして聴いてみると、確かにそう聴こえないこともなかった、かな。


絵里「そっか、夏の終わりに鳴く蝉なのね……」



漠然とした、一抹の寂しい気持ちが。


言葉に溶けて、空に消えていく。



ことり「私は、好きだなぁ。ツクツクボウシさんの鳴き声」



96:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:51:59.83 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「あのね絵里ちゃん。ことりね、昔はあんまり外で遊ぶの得意じゃなかったの」

絵里「…………」


世間話、なのかしら。

ことりはポツリと昔のことを語り出した。


ことり「どちらかと言うとおうちで絵本読んだり、お母さんとお菓子作ったりするのが好きな子どもで。
    特に今日みたいな、陽射しの強い日は苦手だったの」


小さい頃を思い出すように、微笑んで、


ことり「でもそんなことりの手を引っ張って、外に連れ出してくれたのが、穂乃果ちゃんなんだぁ。
    『ドッヂボールしようよっ!』『ねぇねぇ!お饅頭食べにこない?』『海未ちゃんのおうちいこ!』って、クスクス♪
    内気で何の取り柄もないことりを、穂乃果ちゃんは色んな世界に連れ出してくれたんだぁ」



97:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:53:02.28 ID:5v6MY2ZQ.net
幸せそうに、ことりは頬を染める。


絵里「本当に、仲が良いのね、あなた達は」

ことり「うん♪ 大事な大事な、ことりの親友♡」


迷うことなく、即答。


ねえ、ことりは気付いてる?


偽りのない、その無垢な心が。


かけがえのないあなたを形作る、大事な一欠片なの。


何の取り柄もない? ううん、そんなことない。


取り柄なんて言ってられないくらい、強く輝いているのを、


あなたは気付いているかしら♪



98:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:54:12.59 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「穂乃果ちゃんと、海未ちゃんと。たくさんたくさん遊んだ夏の終わりにね。
    ツクツクボウシさんの鳴き声を聴きながら、三人で約束したの♪
    また来年の夏休みも、一緒にたくさん遊ぼうねって♡」


だからことりは、この音が好きなの。


そう、すっかり元気な声で語ることりが私を見つめる。


あぁ、これって、もしかして、そうなの?


──────もしかして、夏の終わりを惜しむ私の心に気付いて、慰めてくれた?


『また来年もあるよ』って、そう言ってくれたのかしら。



99:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:54:51.15 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ハラショー、素敵な話だったわ」


靄が掛かっていたような頭の中が、いつの間にかすっきりとしていた。

身体まで軽くなったみたいに、フワフワしてる。


絵里「ねぇ、ことり」

ことり「?」

絵里「私たち、これからも一緒に頑張りましょうね」


お互い視線を合わせて、


ことり「うん♪」


気持ちが通じたような気がしたの。


自然と二人とも、笑い合った。



100:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:56:04.86 ID:5v6MY2ZQ.net
───────ことりちゃーん!



ことり「あっ」


それからしばらくお喋りしていたんだけど、



───────こーとーりーちゃーん!



バタバタバタ!!

ガターン! !!!


慌ただしい足音が聴こえたかと思うと、保健室の扉が大きな音を立てて開いた。


ご登場したのはもちろん、


穂乃果「ことりちゃん大丈夫!?うぅ~!もう心配で心配で~!
    ホントはすぐにでも会いたかったんだけど、海未ちゃんが練習終わるまで許してくれなくてぇ~!」



101:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:57:09.51 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「穂乃果ちゃん♪ うん、休んだら元気出たよ♡」

絵里「穂乃果、扉は静かに開けてよね…」


と忠告する私のことなど穂乃果はどこ吹く風、


穂乃果「びえーん!!!良かったよぅ~!」


しまいにはことりに抱きつく始末。

これは希が何か大げさに言った可能性もあるわね……


絵里「こら穂乃果、一応まだ安静中なんだから」


穂乃果の頭をぐいっと押し上げてことりから引き離そうとしたところで、


海未「穂乃果!やっぱりここにいたのですね!!!」


あら、海未まで来ちゃった。



102:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:58:03.70 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「まったくもう!まだ終わってません!今から柔軟体操ですよ!!!
   ほら、戻りましょう!!!」

穂乃果「うわーん!!!」


首根っこ掴まれて、あっけなく連れて行かれる穂乃果。


───────そんなに騒いではことりの迷惑です!だからまだ行ってはいけないとあれほど!


扉の向こうから聴こえる、海未の声が徐々に小さくなっていく。


あなたも結構うるさいんだけど…という突っ込みは野暮かしら?


ふふ♪



103:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 21:59:30.44 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「まったくもう。嵐みたいな子ね、穂乃果は」

ことり「どっちかというと、太陽さん?」

絵里「あ、それシックリくるかも♪」


いつでもどこでも、皆の中心になってしまう、太陽のような女の子。

確かに穂乃果にぴったりね。

ことりと顔を合わせて、クスクスと笑った。


ことり「ことりたちも屋上にいこっか?」

絵里「え、もう大丈夫なの?」

ことり「うん♡ 二人の顔を見たら、何だか元気になっちゃった♡」


胸の前で小さくガッツポーズして、ことりはベッドから下りた。



104:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:00:05.37 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「ん~!よし!それじゃあ出発進行~♪」

絵里「あはは♪ 待ってよ、ことり」


私の手を取って、歩き出す。


ことり「早く行かないと間に合わないよ~♪」


保健室の扉を開けて、


ことり「おじゃましましたぁ♪」


また誰もいない保健室に挨拶。


絵里「おじゃましました」


今度はならって、私も言ってみた。



105:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:01:58.81 ID:5v6MY2ZQ.net
屋上に続く階段を上がる。


一歩一歩進む、ことりの足取りは軽い。

彼女にとって幼馴染の二人が来てくれたことは、相当嬉しかったのね、きっと。


ことり「絵里ちゃん、帰りにアイスでも食べにいこっか♡」

絵里「えっ?」


ふいの誘いに驚いて、


絵里「穂乃果と、海未と?」

ことり「え?ううん、二人でだけど、だめかな?
    看病してくれたお礼にって思ったんだけど…」

絵里「あ、そう。もちろんおっけーよ。うん、了解」


あはは。
面食らっちゃった。

ことりちゃんはさっき自分のことを内気だっていったけど、それ。

絶対うそ♪



107:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:02:45.04 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「とうちゃ~く♡」

絵里「待って、早いってば、ことり…」


急ぐように駆け上がったことりはそのまま、ガチャリ、とドアノブを回した。

暗い室内にたくさんの光が差して、思わず目を細める。


ことりちゃん!待ってたにゃー!と凛の声が聴こえて。


次に穂乃果の声がして。次は……これは希の声ね。


矢継ぎ早にみんながことりを迎える声に耳を傾けると、なんだかそれは跳ね上がりたくなっちゃうような、楽しい歌のようで。



108:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:04:49.60 ID:5v6MY2ZQ.net
ことり「絵里ちゃん、行こ♡」


まだ階段を上りきっていない私に、ことりが手を差し伸べてくる。


光に包まれた彼女の姿は、まるで聖なる羽衣を着ているよう。


きっと今も変わらずに強く照らす日の光も、ことりを通せばこんなに柔らかく、優しい光に見えてしまう。


μ'sの衣装係。みんなを陰から支える、縁の下の力持ち。


光の加護ならぬ、ことりの加護。


これからもどうか。

みんなを包んでくれますように。











『暑い日はタイヘン!~ちゅんちゅん保健室~』完



   つ   づ   く



113:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:22:26.30 ID:5v6MY2ZQ.net
─────独りきり、暗い演台の前に私は立っていた。



全校生徒、教師たちの視線がとても重くて、私を押す。


後ずさりたい気持ちをぐっと堪えて、深く息を吸う。


息が苦しい、寒気で体が震える。


まるで、深海の中に溺れてしまったような錯覚。



絵里『先ほど理事長が仰っていただいた通り…』



ごくり、と鳴った喉の音は、この体育館に響き渡りそうなほどに思えた。



絵里『この学院は、3年後の廃校が決定しました』



生徒たちが、ざわざわと騒ぎ出す。



114:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:23:54.99 ID:5v6MY2ZQ.net
自分の発する声は、どこか遠くから聴こえるようで。



絵里『「どうして」────そんな思いだけが、私の心の中に浮かび…」



現実味を教えてくれるのは、この胸の奥に感じる突き刺さるような痛みだけ。



絵里『他の多くのことは、今はまだ言葉になりません。』



ごくり。いっそう大きな音が、後ろから聴こえる。


ああ、希。

あなた、きっと心配そうな目で私を見ているのかしら。



絵里『私たち生徒会は……』



115:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:27:24.42 ID:5v6MY2ZQ.net
大丈夫よ。ちゃんと、言うから。

決めたことだもんね。



絵里『この音ノ木坂学院の伝統を最後まで守り抜き………』




───────有終の美を飾れるよう、尽力します。





───────
────






海未「ああ、やっと見つけました。こんなところにいたんですね」


夕方。

空き教室でにこと話してるところに、海未が訪ねてきた。



116:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:40:55.75 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「あら、まだ帰ってなかったの? ことりの連行は良かったのかしら」

海未「ああ、それなら寄り道しないようにきつ~く言っておきましたので」


駄目ですよ絵里、体調の悪いことりと帰りにアイスなんて、と。

海未に叱られて、私は笑って誤魔化した。


絵里「それで、どうしたの?」

海未「ああ。えっと、にこに少し相談したいことがありまして…」

にこ「ニコ?」


ええ。頷いて、海未はにこの隣の席に座った。


海未「実は、他でもない歌詞についてのことなんですが」



117:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:41:52.18 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「え~なんだろう。ニコに答えられることなら、何でも答えるニコよ☆」


ニコッと定番のポーズを決めてはにかむにこに、海未は一冊のノートを差し出した。

はて。
海未がにこに相談なんて何事かしらと、私もノートを覗き込む。


海未「ありがとうございます。えっと、新曲についてアドバイスが欲しくて」


ああ、なるほど。作詞活動が滞ってるのね。

それで三年生にアドバイスを貰おうというわけかしら。

どれどれ……


海未「えっと……」



118:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:43:14.90 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「ここの歌詞はもう少し可愛らしい言葉にしたほうが良いでしょうか────」


にこ「どれどれ、ん~と。そうニコね~♪ ニコならもっとぷりちーな─────」


絵里「ハラショー───────」


海未「一番と二番の歌詞の対比は──────」


にこ「ニュアンス的に、ニコはもっと柔らかいほうが好みかな。あとここももう少し───────」


絵里「さすがにこね───────」


海未「あ、ここは音に乗せたときのテンポを考えてですね───────」


にこ「わぁ♡ この歌詞、海未ちゃんぽくて良いニコ~─────」


絵里「だって───────」


海未「サビはやはり、センターの人を意識して─────」


にこ「ニコはどちらかというと海未ちゃんが言うのより──────」


絵里「ほんとにね───────」



119:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:44:19.06 ID:5v6MY2ZQ.net
───────
─────
───




海未「とても助かりました、にこ。やはりアイドルのことはにこが一番知っているのですね。
   にこにお聞きして良かったです。」

にこ「うん♪ ニコもぉ、海未ちゃんのお役に立てて嬉しいニコ♡
   さっき言ったアイドルの心得は、ちゃんとおうちで復習するニコよ♡」


海未が来てから1分、10分……いや1時間くらい経った頃。

やっと海未の相談事が解決したようだった。


絵里「ふう、やっと終わったわね」

海未「あ、はい。ありがとうございます、絵里。とても助かりました。」

絵里「えっ…あ、ああ。ど、どういたしまして」


とくにアドバイスはしてないけども。



121:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:46:17.50 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「絵里ちゃん? どうかしたニコ?」

絵里「え、ど…どうもしてないけど?」


にこが不審そうに私の顔を覗き込む。

ま、まずい…。

私だけ上手く会話に乗れなかったから拗ねてるなんてバレたら、生徒会長としての威厳が…!


にこ「あ、さては絵里ちゃんってばニコを海未ちゃんに取られて妬いちゃったニコね♡」

絵里「ええ!? 違うわよ!」

にこ「そんなに強く否定しなくても…」シュン


クスクス♪

海未がおかしそうに笑った。



122:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:48:36.17 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「お二人は本当に仲が良いですね。見ていると微笑ましいです」

絵里「そ、そう…?」


そんな正面きって言われると、少し恥ずかしい。


にこ「だってニコは絵里ちゃんのこと大好きだもんっ♡」

絵里「ふーん」

にこ「何その反応ーっ!」


ガタン!と勢いよく立ち上がるにこ。


海未「え、にこ…?」

にこ「はっ! あー…えっと、ニコッ☆」


ぎこちなくお馴染みのポーズをして誤魔化すにこ。



124:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:49:54.17 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「クスクス♪ にこってば、ほんと、いつからそんなキャラになったのかしらね」


ころころ表情が変わって、ほんと面白い♡


にこ「ど、どういうこと?」

絵里「だぁって、昔はそんな感じじゃなかったじゃない」

海未「そうなんですか?」


海未が小首を傾げてにこを見る。


にこ「……………な、なぁんのことか分からないニコ~♪」

絵里「昔はもうちょ~っと静かな感じで…」

にこ「もうっ! 絵里ちゃんってばお口チャック~!」



126:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:51:42.60 ID:5v6MY2ZQ.net
飛び掛かってきたにこを抱き締めるように受け止める。

よしよし♡ かわいいんだから♡


海未「へぇ…。興味深い話ですね、良ければもう少し聞かせてもらえませんか?」

絵里「そうね。あれは私が一年生のときのことで…」

にこ「ちょお~とちょっと~!ほんとにほんとにダメニコよ~!」

絵里「おーよしよし、暴れちゃだめよー」

にこ「ニコは赤ちゃんじゃなぁ~い!」


両手を上げてぐわーっと飛び出したにこが、勢い余って今度は海未の胸の中にぽふっと収まった。


海未「おや?」

にこ「ああん!もー!」



127:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:53:15.51 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「ニコじゃなくてぇ~!絵里ちゃんとか希ちゃんの話とかしてよ~!」

絵里「あはは♪ だぁって、ねえ?」


ほんと、見てると面白いんだもん♪

ね? 海未♪


海未「希の話ですか………そちらも、興味深いです」


あら?


にこ「……だ、だよねだよね~!ニコもぉ~希ちゃんの話とか聞きたいな♡」


あらら…

うまいこと逃げられちゃった。



128:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:54:17.22 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「海未は希のことが気になるの?」

海未「え、いやぁ……その」


もじもじと足を動かし、はにかむ海未。

おやおや?


絵里「え~、ちょっと意外かも♡ 海未が、希を? そういう目で見てたなんてね~♪」

にこ「ええええーっ!? 海未ちゃんってば、そうなの!?
   キャー!これは大スクープニコー!」

海未「そ、そそういうことではありません!ただ…!」

絵里「ただ?」

海未「ただ……」



129:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:56:11.75 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「うぅ……」


顔をかあっと赤く染めて、俯きだす海未。


海未「ただ……その…ひ、非常に情けないことなんですが…」

絵里「うん。なぁに?」

海未「希の弱点が知りたいんです…!」

にこ「弱点!」

絵里「弱点?」


こくりと海未が頷く。


いったい全体、どういうことかしら?

私とにこは顔を見合わせて、首を傾げた。



130:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:57:52.45 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「実を言うと、ユニット練習のときいつもいつも希にいたずらされるんですよね…。
   その、む…胸を触られたりもしょっちゅうで……」

にこ「ほうほう…」

海未「だからそんな希に…い、意趣返しではないですが…少し反省を促すことができたらな、と…」

絵里「なるほど…つまり、」

にこ「つまりおっぱい魔人ののぞみんがムカつくってことニコね!」

海未「ち、違います!」

絵里「つまり弱点を突けば、少しは希も大人しくなってくれるかも…ってことね」

海未「そ、そうですね…。そんな感じです」


決まり悪そうに頷く海未。



131:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 22:59:06.21 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「まぁ、ここには希のことを良く知ってる私とニコがいるし、丁度良いんじゃないかしら」

海未「ありがとうございます…」

にこ「クスクス♪ いつも真っ直ぐ正々堂々の海未ちゃんが、まさかそんな闇討ちみたいなことするなんて意外ニコ♡」

海未「うっ…!」


海未がぎくっと固まる。

まぁ、海未のキャラとは違うものね。

いつもおちゃらけてる希を懲らしめる……英断よ。


絵里「そうね。希といえば────意外と押しに弱い」



132:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:01:54.76 ID:5v6MY2ZQ.net
───────



絵里「いつも優位に立とうとするけど、それは実は不安の裏返しなの。
   一番立ち回りやすいポジションね。いざとなったらすぐに身を引ける場所───────


絵里「クスクス♪ うん、意外でしょう? そうなの、実はね。
   だから、強引に彼女を物事の真ん中に引き込んだらいいのよ───────


絵里「急にあたふたし出して、顔も真っ赤にしたりして、ふふ♡ すぐに素が出るわよ───────


絵里「ほんとほんと。あとは、そうそう、胸が弱い。
   いろいろ他の子より成熟してるけど、それで小さい頃は悩んだ事もあったみたいで───────


絵里「胸を弄られると、とっても慌てるの。ほんとよ?───────


絵里「それは、どっちも。言葉でイヤラシ~く弄ってもいいし、そのまま手で直接でも。具体的には───────


絵里「って、ごめんごめん。あはは、まぁ、軽くね?」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)




134:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:02:50.84 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「意外と弱点あるね」

海未「そ、そうですね…」

絵里「ふふ♪ まだまだ。もーっとあるわよ?」

にこ「あっ!ニコも思いついた! はいはーい!ニコも言っていい?」

海未「え? ええ、はい、お願いします」

にこ「これはね~賢い海未ちゃんがすると効果バツグンだと思うニコよ♡」

絵里「へぇ。ふふ、なにかしら」

にこ「ご存知、希ってそこまで頭が良くないじゃない?
   だから、難しい話責めをするニコ!」



135:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:03:58.17 ID:5v6MY2ZQ.net
───────



にこ「ほらぁ~☆ 希ってあんな性格してるくせに成績はニコとどっこいどっこいじゃない?
   だから、政治の話とか振ったらアタフタするんじゃないかなぁ───────


にこ「例えば『日本の政治家の名前を10人言う』とか~♪
   『掲げてるまにゅへすと?を達成するとどうなるか』とか~♪───────


にこ「え? な、なによ! 今ニコの頭の良し悪しは関係ないニコよ!
   話を戻すニコ。あとは、雑学クイズを挑むとか!
   ボタンも用意してね、ピンポンピンポーン!って海未ちゃんが連投しまくるニコよ!───────


にこ「そうしたら、のぞみんのアタフタした姿を見ることが出来るんじゃないかな~?ってニコは思うな♡
   どう? ナイスアイディアじゃない?」 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)




136:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:04:53.71 ID:5v6MY2ZQ.net
海未「なるほど…」

絵里「それもありね」

にこ「でしょ~!?」

海未「でも、今言ったことは全部、一人で実行するのは難しそうです…」

絵里「そのときは、もちろん協力してあげる」

にこ「当たり前ニコ!」

海未「絵里…にこ…!」


ぱああっと海未の顔が晴れる。


絵里「ぷっ…!」


そこまで晴れやかな顔しなくても…!

クスクス、どれだけ希にいたずらを仕掛けたかったのかしら♪



138:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:06:03.39 ID:5v6MY2ZQ.net
───────



海未「今までの三人は、どのような感じだったのですか?」


しばらく三人で希談義に花を咲かせていたのち、海未がそんなことを言った。


絵里「今までの三人? 私とにこと希のこと?」

海未「はい。弱点ついで、というわけではないのですが。
   今の三人のことはお聞きできたので。今までの三人についても気になって…」

絵里「というと、子供の頃? なら私のことは海未も知ってるんじゃ…」

海未「あ、いえ。一年生や二年生の頃の話を…」

絵里「ああ…」



139:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:07:03.66 ID:5v6MY2ZQ.net
チラリと横を見ると、にこが所在無げに視線を遠くに向けていた。


絵里「まぁ、今までのと言ってもね。
   希とは一年生のときに知り合ったけど、にことちゃんと話すようになったのは三年生になってからよ」

海未「三年生?ほんとですか? こんなに仲が良いのに」

にこ「……」

絵里「うーん。にことは、クラスもずっと違うかったから。ねえ?」

にこ「うん」


大人しくなってる…。



140:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:11:19.73 ID:5v6MY2ZQ.net
思い出したくない……ってほどじゃないんだろうけど。

自分のことを慕ってくれる後輩の前だと、言いにくいわよね。昔のこと。

私も、そうだし。


にこ「あ、そういえば…」


周りに目を向けていたにこが、ふと椅子から立ち上がる。


にこ「確か……うーん……この辺に…!」

海未「にこ?」

絵里「どうしたの?」

にこ「えーっと、あれれ? 違ったかな…う~ん…」


端に寄せて積まれてる椅子や机をかき分けて、何かを探すにこ。



141:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:13:13.58 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「あっ!あったニコ!」


ひっくり返しになって机の上に置かれている椅子を指差して、にこが笑う。


にこ「へへへ♪ ね、二人とも♪ ちょっとこっち来て~」

海未「…?」

絵里「どうしたの?」


海未と顔を見合わせる。
とりあえず、二人でにこの指差す椅子に近付く。


にこ「ちょっと待ってね♡」


にこは椅子を取って、地面に立たせる。

一体全体、どうしたのかしら。



142:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:15:19.12 ID:5v6MY2ZQ.net
にこ「机だと目立っちゃうから、椅子に彫ったニコよ♡」


見ると、そこには小さく、


『宇宙ナンバーワンアイドル やざわにこにーのサインニコ♡』


と器用に彫られていた。


絵里「う、うわあ……学校の備品なのに…」

海未「これを、にこが彫ったのですか…?」

にこ「うん!ここね、ニコが一年生のときの教室ニコ!
   そういえば、なんか見たことあるな~ってさっきからずーっと考えてたニコよ!」

海未「えっ。この空き教室が、にこの一年生のときの教室なのですか」


海未が、キョロキョロと周りを見渡す。



143:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:16:18.19 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「あぁ─────」


なぁんだ。


大人しくなってると思ったら、そんなこと考えてただけなんじゃない。


そうよね。

昔のことを気にするような性格じゃないわよね。


にこは私とは全然違うもの。


むしろ、たった一人でアイドル研究部を存続させてきたことを誇りに思ってるぐらいじゃないと、にこらしくないし♡


絵里「さすがにこね♪ ふふ♡」

にこ「へ? なにが?」



144:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:17:30.54 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ふふ、あはは……くっくっ…♪」



────ふと、図書室で見た夢を思い出した。



廃校が決定した学院で。

生徒会長として、全校生徒の前に立つ夢。


一人でなんでも背負いこんで、自分の世界を固めてたあの頃の夢。


にこ「ど、どうしよう……なんか絵里ちゃんが笑ってるニコ…!」

海未「だ、大丈夫ですか…絵里?」

絵里「ぷぷ…クスクス♪」



あの頃は自分なりに考えて、この学院をより良く終わらせようと躍起になってたけれど。



145:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:19:00.05 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ふふふ…♪ あははは…っ!」


今はあの頃とは違う。

この学校を終わらせたくないって思うし、一人でもない。


みんなの繰り広げるエリチカ包囲網が、私の殻を破っていったから。

私の愛するこの学院を、救おうと動いてくれたから。


私もいつの間にか、変わることが出来たんだと思う。


クスクス♪

きっとそれも、みんなが起こした一つの奇跡ね♡



絵里「ぷーっ♪ クスクス♪ あっはっはっは!!!!」

海未「ひっ!絵里!しっかりしてくださーい!」

にこ「せ、先生呼んでくるニコ────!」






『三つの悩み事~ラブニコハラショーフクシュート~』完



   つ   づ   く



146:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:40:39.25 ID:5v6MY2ZQ.net
穂乃果「あれ?絵里ちゃんだ」


夜の公園でぼんやりと考え事をしていると、穂乃果に出くわした。

ぽけーっとだらしなく開けていた口を慌てて閉じる。

んん!ん!


絵里「んっ!穂乃果じゃない」

穂乃果「穂乃果だよー、えへへー♡」


ベンチに座っていた私のすぐ横に腰を下ろす。

手が少し重なるほど近い距離なんだけど、それは昔からの穂乃果の癖で、私ももう慣れてる。


穂乃果「こんばんは、絵里ちゃん♪」



147:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:42:09.41 ID:5v6MY2ZQ.net
月明かりに照らされた屈託のない笑顔。

愛想の良いもぎたてフレッシュな清涼感は子どもの頃から変わらないわねぇ…なんて、しみじみ。


絵里「こんばんは、穂乃果」

穂乃果「何してるのー?」

絵里「ちょっと夜風に当たってただけよ。最近涼しいから」

穂乃果「ほえー、そうなんだぁ。なんだか格好良いね」

絵里「何でよ」


クスクス♪

よく分からないんだけど、ちゃんと考えて言ってるのかしら。


穂乃果「ちょっと…夜風に当たっててね…フッ」

絵里「ふふ、全然似てな~い♪」



148:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:44:09.91 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「それで。そういう穂乃果は何をしていたの?」

穂乃果「私?私はね~♡」


ガサゴソ。

おや、その手に持ってるのは何かしら。


絵里「くんくんくん。なんだか良い匂いがするわね」

穂乃果「あ、分かる? じゃーん!夏限定ほむまんだよ~♪」

絵里「ハラショー♪」


ウサギのお饅頭!


穂乃果「今日はことりちゃんのお家にお泊まりするの♪ これはお見舞い品!」

絵里「あぁ、そうなの?じゃあ今は寄り道中ね」



149:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:45:24.34 ID:5v6MY2ZQ.net
一個どうぞ、と箱の中から包装されたお饅頭を差し出される。


穂乃果「もぐもぐ。これ幾つかは穂乃果が作ったんだー」


自慢気にそう言う穂乃果。

……………あれ、お饅頭食べてる。

お見舞い品じゃないの?


穂乃果「食紅で目を描いてね、耳は熱したお箸で焼いてあとをつけるの。これが難しいんだよね~」


え、言ったほうがいいわよね。

マズイし…穂乃果もきっとご両親に怒られるわ。


絵里「それ、食べていいの?」

穂乃果「えへへ♡ え? …………あっ」



150:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:46:44.96 ID:5v6MY2ZQ.net
穂乃果「あああ───っ!」


クスクス♪

あーあ。ほらぁ、やっぱり♪


絵里「全部食べる前で良かったわね」

穂乃果「え?あ、ああ…そっそうだね!確かに!セーフかも!」

絵里「あっ、納得しちゃうの? ちゃんとごめんなさいはしなきゃ駄目ですからね」

穂乃果「いやーことりちゃんだし大丈夫だよ♪ あー良かった!セーフセーフ!」

絵里「あ、だめだめ。それなら今度おばさんに言っておこうっと」

穂乃果「げげっ!……うぅ、じゃあちゃんとことりちゃんに謝る…」

絵里「よろしい♡」


エリチカお姉様の前で、嘘はいけなくてよ?♡



151:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:48:39.89 ID:5v6MY2ZQ.net
穂乃果「あっ」

絵里「ん?」

穂乃果「ねぇ、ねぇねぇ。絵里ちゃん」

絵里「なぁに?」


袖口をくいくいっと摘まれる。

穂乃果はベンチの向かいにあるブランコを指差して、にんまりと笑った。


穂乃果「久しぶりにあれ乗ってみない? ほら、小さい頃はよく一緒に乗ってたでしょ」


またトンチンカンなこと言い出した…


絵里「えっと、高校生にもなってブランコはちょっと…」



152:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:49:58.68 ID:5v6MY2ZQ.net
穂乃果「えぇーっ! 絵里ちゃん、お願い!乗ろうよ~!ね?」


たちまち騒ぎ出す穂乃果。

私の腕をぶんぶん振って引っ張る。


穂乃果「ねぇーねぇー!行こう?乗りたいよう~!」

絵里「……どうしても乗りたいの?」

穂乃果「うん!どうしても絵里ちゃんとブランコ乗りた~い!」

絵里「はぁ~、もう。仕方ないわねぇ。ちょっとだけですからね」

穂乃果「ほんと!?わ~い!やったぁ☆」


穂乃果って、小さい頃から言い出したら聞かないもんね。

反発するだけ無駄ってやつ?

あ~あ、乗り気じゃないんだけどな。ブランコだけに。

だって、こんなところ学院生の誰かに見られたら、ほら。

かしこいかわいい生徒会長の威厳が、落ちちゃうかもしれないじゃない?



153:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:50:55.14 ID:5v6MY2ZQ.net
───────



穂乃果「あはは♪ すっごく久しぶり~!」

絵里「わっ、わっ、穂乃果!立ったら危ないってば!」


走ってブランコに飛び乗った穂乃果は、勢いそのままにぶんぶんと加速しだした。


穂乃果「絵里ちゃんもやってみなよー!楽しいよ!」

絵里「はいはい…もう、全く子どもなんだから。よっこらしょ」


隣のブランコに腰掛ける。少し、お尻が窮屈。

やっぱり子どもの頃とは違うんだなって実感。


地面を蹴って、ゆっくりと加速していく。

横の穂乃果はもう体が真横になるくらいぶんぶん揺れていた。



154:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:54:12.09 ID:5v6MY2ZQ.net
穂乃果「絵里ちゃん!今日は月がきれいだねー!」

絵里「え!?なにー?」


錆びた鉄の軋む音や、風を切る音にまぎれて、穂乃果の声が飛んできた。

ブランコを漕ぎながら、耳を澄ませる。


穂乃果「今日は月がきれいだねー!!」


ゆらゆら、ゆらゆら。

廻る景色の中、穂乃果と視線が交差しては離れ、また巡り合う。


穂乃果「みんなも今頃!この月を見てるのかなー!」


クスクス♪

そんな、公園中に響き渡りそうなほど大きい声を出さなくてもいいのに♪



155:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:55:59.33 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「ええ!きっとねー!」

穂乃果「だよね!とぉーっ!」


私が返事をしたのと同時に、穂乃果が飛んだ。


絵里「わっ、え…?」


一瞬、ふっと視界が暗くなった。

影が私の上を通り過ぎていく瞬間。

ふわりと翻ったスカートと、弾ける砂利の音が聴こえる。


絵里「…………あっ」


大きく跳ねた私の心臓は、置いてけぼりにされたブランコみたい。

徐々に徐々に、静まっていく。


絵里「こ、こら! 穂乃果」



156:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:57:54.28 ID:5v6MY2ZQ.net
目を半月にして睨む私を見て、穂乃果はぺろっと舌を出した。


穂乃果「てへ♡」

絵里「てへ、じゃないわよ…」


驚かさないでよ…

突拍子もない行動は、ほんと心臓に悪いんだからね。


穂乃果「だってね、あんまりにも月がきれいだったから。手を伸ばせば、届きそうだって思ったの」


穂乃果は空を見上げて、両手を掲げる。


穂乃果「あの月を掴まえることができたら、穂乃果たち……もっともっと、輝けるかなぁ…?」



157:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/08/31(月) 23:59:40.08 ID:5v6MY2ZQ.net
絵里「───────」


切なさの混じった声に、私は咄嗟に返事を返せなかった。

振り返った穂乃果は目を細めて、薄く微笑む。


穂乃果「私ね……まだまだ頑張りたいの。来年だけじゃない、再来年も、その翌年も。ずっとずっとオトノキが存続していけるくらい、頑張りたい」



─────もっと輝きたい、と彼女は呟く。



それは祈りではなくて、願い。


私たちが今まで起こしてきた奇跡を願う、確かな夢。



158:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:01:11.64 ID:bSIWrxaz.net
絵里「きっと、叶うわ」


穂乃果の手を取って、両手で包む。


絵里「私たちなら、いつか本当にあの月を掴めるくらい、高く飛べる」


ぴゅう、と吹いた夜風が、私たちの髪を揺らす。


揺れる前髪の奥で、穂乃果は目をぎゅっと閉じていた。


口は、嬉しさを噛み締めるように閉められてる。


穂乃果「……これからも、頑張ろうね。絵里ちゃん」


穂乃果の指が、すっと頰に当たる。



159:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:03:05.31 ID:bSIWrxaz.net
撫でるように頰を通り過ぎて、私の横髪を触る。


風に吹かれて乱れ放題になってる髪を、穂乃果が押さえてくれる。


絵里「あ、ああ……ごめんなさい」


穂乃果の手を包んでた両手を離す。

彼女は構わず手櫛で私の髪を梳いた。


穂乃果「いいの。させてほしいな」


自分の髪は乱れ放題なのに、気にする様子もなく私に手を伸ばす穂乃果。


絵里「………えっと」


な、なんだか……少し、照れ臭い。



160:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:04:11.99 ID:bSIWrxaz.net
穂乃果「昔から、私や海未ちゃんやことりちゃんにとって、絵里ちゃんは特別な存在だったんだぁ」


ふと、零すように穂乃果が呟いた。


穂乃果「どこにいても目を引く、このきれいな髪。頼りになる性格で、しっかりしたお姉さん。お祭りでお神輿の上に乗ってる絵里ちゃんは、今思い出 しても格好良かったなぁ…」

絵里「えぇ…? どうしたの、突然?」

穂乃果「ほら、今じゃオトノキに通う地元の子ってあんまり多くないでしょ? みんな周りにある設備の良い私立や、綺麗な学校に行ってさ」


なんの話なのかしら。

ぽんぽんっと私の頭の上にはてなが浮かぶ。



161:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:05:04.54 ID:bSIWrxaz.net
穂乃果「だからね。絵里ちゃんがこの学校に入ったと知った時はとっても嬉しかったの。廃校が決定して、絵里ちゃんがそれを受け入れてると知った時 は、そりゃちょっとショックだったけど……」

絵里「うっ…」

穂乃果「でも、こうしてμ'sに入ってくれて穂乃果、とっても嬉しかった。オトノキが大好きで、オトノキを守りたいって絵里ちゃんも思ってくれた のが、とっても嬉しかった」

絵里「穂乃果……」


気付けば、穂乃果を抱きしめていた。


穂乃果「え、絵里ちゃん…?」

絵里「もう…。なによ、それ」



162:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:06:35.35 ID:bSIWrxaz.net
穂乃果の頭を一層強く抱きしめて、なでなで。

私を上目遣いで見る穂乃果に、微笑む。


絵里「当たり前でしょ? お祖母様も通っていたオトノキが、私も大好きなんですもの」

穂乃果「くふふ♪」


くすぐったそうに、ニヤける穂乃果。


絵里「穂乃果ってば、ほんと……」


発想が飛躍してるというか、斜め上をいってるというか。

クスクス♪

まさかブランコから、オトノキの話に繋がるなんてね。



163:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:07:14.20 ID:bSIWrxaz.net
───────



「え、ええええええ!? な、なにをしているんですか~~!?」


突然、公園の入り口からそんな叫び声が聞こえた。


穂乃果「?」

絵里「?」


私たちは抱き合ったまま、顔を見合わせて、声のしたほうを振り向いた。


ことり「な、ななな……な…!はわわわ…!」



164:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:08:08.10 ID:bSIWrxaz.net
穂乃果「あれ? ことりちゃんだ、おーい!ことりちゃーん!体調は良くなった~!?」

ことり「穂乃果ちゃぁん!心配して探しに来たのに~!」

穂乃果「ええ!?何でことりちゃんが穂乃果を探しに!?」

ことり「お、遅かったからっ!海未ちゃんも探してるよ?」

穂乃果「えぇっ!?」

ことり「もう!なんで絵里ちゃんとデートしてるの!?」

穂乃果「あっ!違う違う!ちょっとお話ししてただけで…」

ことり「じゃあさっきのは───────」

絵里「……」


ぽつーん。

置いてけぼりにされてる……



165:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:09:43.90 ID:bSIWrxaz.net
穂乃果「そ、それは絵里ちゃんが抱きついてきて、それで…」

ことり「え、えっ、ええ絵里ちゃんが!?」

絵里「えっ!」

ことり「絵里ちゃぁん…!どういうことなんですか~…!」

絵里「えっ、ちょっと待って?あの…えと」


ちょっと涙目になってる…!


ことり「何で夜の公園で穂乃果ちゃんとハグしてたんですか~…!」

絵里「そっ、それには並々ならぬ事情があって!」


こ、こわっ!ことりの顔がこわい…!


ことり「説明してくださ~~~い!」



────それから十数分かけて、私はあれやこれやとことりを宥めることになってしまったの。



166:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:11:20.36 ID:bSIWrxaz.net
なんでブランコに乗ったら抱き合うことになるの!?とか。


昔の話は今は関係ないよ!とか。


そもそも絵里ちゃんも夜に出歩いたら危ないよ!とか。


ええ!?つまみ食いしたの!?とか。



色んな方面に飛び火した話を収束させるのは骨が折れた。

私だって、どういう流れでああなったかもう忘れたのに…。



海未「─────それでは、お気を付けて。おやすみなさい」

絵里「え、ええ…。おやすみなさい」


最終的に海未も合流して、なんとかことりを宥めてくれた。


帰る頃には、はふぅ…。

すっかり疲れちゃったわ。



167:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:14:18.04 ID:bSIWrxaz.net
はぁ……ほんと、ことりは幼馴染みの二人のことになると目の色が変わるんだから。

愛って恐ろしい。

なんて、言ったらまた怒られるからやめておくけど。

クスクス♪


穂乃果と海未とことりと別れて、私も帰路に着く。


『μ'sに入ってくれて、とっても嬉しかった』


さっきの穂乃果の言葉を頭の中で反芻する。


大好きなμ'sと、大好きなメンバーたちなのに。

私のほうがそんなことを言われると、何だか気恥ずかしいような、こそばゆいような、むずむずとおかしな感じ。

自然と口角が上がって、ふふ♪ と無意識に声が漏れる。


なぜかしら、自然とステップを刻んじゃうくらいに、心が弾んでいた。



168:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:32:11.43 ID:bSIWrxaz.net
「えーりーち♡」


交差点に差し掛かったところで、とんとんっと肩を叩かれる。

振り返ると、パジャマみたいな服で、サンダルを履いた希がいた。


希「やっほー♪こんな夜に一人でどないしたん? あ、さてはえりちもお空の綺麗な満月さんに誘われてふらふら~っと家を出た口?どう?当たり?」


にこにこ機嫌の良さそうな希が、隣に並ぶ。


希「クスクス♪今夜は天狗さんがええ風吹かせてるし、絶好の散歩日和やんな♡」

絵里「そうね。ふふ」

希「ん、なんや機嫌良さそうなえりちやなぁ…。なにか良いことでもあったん?さては……くんくん。おや? なんか良い匂いするなぁ……どこからやろ」


くんくん、私の周りを嗅ぎ回る希。

ぷっ。

えぇっと…なに?

あなたのほうが、よーっぽど機嫌が良さそうに見えるんだけど♪



169:名無しで叶える物語(おいしい水)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 00:34:14.85 ID:bSIWrxaz.net
希「ああ!わかった! さてはえりち、満月さんのお供にお饅頭持ってるやろ!」

絵里「クスクス♪ えぇ?ホントに当てちゃうの?」


私は包装されたお饅頭を、ポケットから取り出す。


希「ねぇねぇ絵里太郎さん。よければ道中、お供してもええかな♪ お腰に付けたお饅頭、一つウチにくださいな♡」

絵里「ええ、半分こしましょ♡」

希「ホンマ?いぇい、ラッキー♪ ちなみにそれ、どこから持ってきたお饅頭?」

絵里「返し忘れてたの♪」

希「え?どゆこと?」

絵里「ぷっ!」


クスクス♪

ぽかーんとした希の顔がかーわい♡


絵里「ほら、信号変わるわよ!後から渡ったほうがジュース奢り~!」


私は希の背中を押して、横断歩道を駆け出した。







『大好きなオトノキ~穂乃果と夜の公園で~』完





    お    わ    り



171:名無しで叶える物語(もんじゃ)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 01:08:38.60 ID:IzFYzmbV.net

文章も内容も素晴らしかった



175:名無しで叶える物語(SB-iPhone)@\(^o^)/:2015/09 /01(火) 02:40:40.07 ID:fXcCBzv4.net
ハラショー!
今度は冬休み期待してる!



173:名無しで叶える物語(はんぺん)@\(^o^)/:2015/09/01(火) 02:00:59.57 ID:B81jBTHq.net
盛大におつおつ
公野先生次は春色バレンタインを早く書いてください







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