このブログは以下の記事を読んで、怒りのあまり当事者として黙っていられなくなって作ったものです。カッとなってやった。今では後悔している。いやしてない。
お前誰よ
2008年に大学を卒業してドワンゴに入社、2011年末まで所属して、その後は2012年から先月までグリーに在籍していました。伊藤直也氏がグリーを退職されたのは2012年3月末で、その間に彼と直接やりとりのあった元ドワンゴの人間はおそらく僕しかいないと思われます。
— naoya:当時、『ドワンゴ』から転職してきたエンジニアが自分のチームにもやってきたんですけど、なんで辞めたの? って聞いても、なんか釈然としない理由ばかりと言うか、辞める理由がよくわからなかったのを思い出しました。
ということでここで出てきた『ドワンゴ』から転職してきたエンジニアというのは僕であり、川上量生氏と伊藤直也氏両名から名指しで「キャリアチェンジの理由が微妙だった」と批判された本人です。
わざわざ名乗り出なきゃわかんないじゃん
そうでもないです。大多数の人々にはわからないことかと思いますが、少なくとも僕の知る限り最低でも500人ぐらいはこの記事を読んでこれが僕のことだとわかる人が挙げられる。横のつながりの強い東京のインターネット業界に身を置いている人間として、ネームバリューと発言力のあるこの二人から名指しで批判されるというのは大変なストレスであり、黙って受け入れるわけにはいかなかった。
今現在ドワンゴに在籍している仲間への謝罪
ドワンゴに在籍中、僕はとにかく「あるおっさん」が大嫌いだった。とっくの昔に会社を辞めて、その会社に対する責任を失った人が、知りもしない今のドワンゴのことをブログやツイートで批判して、否定する。彼がどれだけドワンゴに対して貢献をしたのか、どんな思いで会社を去って行ったのかは知らないけれど、僕たちは「今のドワンゴ」を良くしようと日々努力しているのに、それを関係者ヅラして邪魔をしてくるおっさんが本当に気持ち悪く、鬱陶しかった。
なので、ドワンゴを辞めるときに自分は彼のようなことを絶対にしないぞと強く思った。インターネット上で記録が公開される場で一方的な意見を言うことで、今も希望をもって努力しているかつての仲間の邪魔をすることだけはしたくなかった。
それでもこうして圧倒的に強い立場の人間から同じことをされて、黙っていることはできない。我儘な意見だけど、どうかわかって欲しい。すまない。
TL;DR
一時期にドワンゴから大量の人材が流出した事件は、様々な不満が募っていたことを知りながら黙殺を続けたことが原因である。
当時のドワンゴの開発体制は非常にお粗末なものであり、他社に比べても圧倒的にレベルが低かった。加えて報酬も非常に低く、そのことは業界でも有名だった。
サービスを維持することと納期が至上命題であり、手段は問われないことで論理的、計画的な開発を行うことはできず、開発者はただリソースとして消費されるだけだった。
そんな折にソーシャルゲームバブルが到来し、豊富な資金力をもとによりよい環境を提示する会社が増え、それが大量退職につながることになった。
ドワンゴという会社は信用できず、信用してはならない。
僕がドワンゴをやめた理由
辞めた理由を聞いても釈然としなかった、辞める必然性はなかったのではないかと批判されたわけですが、どんな話であれ受け取り方は個々人によるものが大きく、だれがどう受け止めようがそれは勝手だと思います。しかしながらこのように事実としてあった表に出しにくいようなことを伏せてそのようなことを述べるのはあまりにも卑怯であると思います。メディアに載せる文章ですから綺麗なことを書かないといけないのはわかりますが、それが個人攻撃によってしか成り立たないのであれば最初から受けなければよいのではないですか?
これから挙げていく理由は全て伊藤直也氏に対して僕が説明したものです。この記事を読む皆様がこれらの理由をどのように受け止めるか、それもまた皆様の自由であると思います。
1. 給与面
まずは給与面。当時のドワンゴは給与が安いことで有名で、プロパーは大抵何年いても年収400万を超えない。それに対して他の企業は新卒1年目のエンジニアに500万も600万も出すという。これは十分に転職を考える理由になりますね。
それでも自分たちはガチャのようなギャンブル要素のつよい商品ではなく、月額のサブスクリプションと広告でお客様に納得をいただいているんだというプライドを持っている人は多かったと思います。なによりも自分もそうだった。利益が上がらなくて給与が上がらないのはある種仕方のないことだと思っていましたが、ある日事件が起きます。
なにやら2011年に入社してきた新卒は額面で月30万円をもらっているらしいという噂が社内を駆け巡りました。そんな馬鹿な、僕なんか入社して3年間頑張ってきてそれが少しずつ評価されてようやく月にして24万ぐらいなのに、新卒が30万ももらえるなんて冗談だろう、と思ったのだけれど果たしてそれは事実だったのだった。
その後やや間があって給与の再設定があり、月の額面30万に満たないものはほぼ全員一律で30万に引き上げられました。でもこの時点ですでに僕の心は冷え切っていたのです。これまで3年間、自分なりに会社をより良くしよう、自分の実力を向上させようと努力してきたのは、何の評価もない今年新卒で入ってきた彼らと全く同じ評価なのだ。なんだったらこの2ヶ月ほどは彼らの方が僕よりも高い評価だったのだという事実を突きつけられ、そこで転職を決意しました。
2. 顧みられない開発体制
ドワンゴは数年前まで「ニコニコ動画を3日で作った」とよく自画自賛していました。最近はその話をしなくなって、ようやく良識ができたのかなと思っています。というのも、サービスを急遽作り直して3日でリリースというのは決して褒められることではないからです。僕はこれを批判して「ニコニコ動画は3日で作られたことによって、その後の3年を失った」と言っています。
当時のドワンゴでは担当の開発者達には明確な納期は伝えられず、ある日唐突に発表されるXX日に新機能がリリースされるというプレスリリースによって初めて知ることが多くありました。プレスリリースを打った以上その日にその機能がリリースされることは絶対で、間に合わないということは「起きない」という空気です。
サービスごとにコードベースは共有されず、突貫で作られた新サービスで同じようなバグが何度も発生しました。ひとたびサービスが動き始めれば、リファクタリングは二度と行えません。動いているものに手を入れて、動かなくなるかもしれないリスクをとる必要性を、スケジュールの決定権を持つ人間が理解できないのです。
それに加えて過剰な機能追加が繰り返し行われ、目論見が外れほとんどの人間が使わなくなった機能でも停止することができず、無限に複雑さが増していくばかりでした。
日に日に開発難易度が上がっていくばかりのコードを前に、僕は心がポッキリと折れました。これが2つ目の理由です。
3. 成長余地のない開発環境
ドワンゴでは開発言語とミドルウェアは全て指定されていました。建前上技術部長を説得できれば指定外のものを使用しても良いということになっておりましたが、彼は全く仕事をしないお飾りなので、完全にただの建前でした。
さらに開発者はサーバのスペックも、何台で構成されているのかも、どのような場所に置かれているかも知ることができません。sshもできなければログも見れず、メトリクスのグラフを見ることすらできません。ちょっとしたバグの調査であるテーブルのレコード数を調べるのにも、発行するSQL文を添えた作業依頼書を承認リレーする必要がありました。
これらがなぜ必要なのか、いつからこうなのか、誰も知りません。聞いても誰も答えてくれません。しかしながらこのように決まっているのです。
自分がどんなに実力を伸ばしたいと思っても、どんなにより良いサービスを作りたいと思っても、この環境では望むべくもありませんでした。それゆえに、グリーに転職するときにはサーバの中を直接触ることができるのか、ミドルウェアから下の層に触れる機会が多くとれるかをしっかりと確かめました。
4. 信用ができない
これは実際に起きた事件3つに起因するものです。1つはドワンゴがフィーチャーフォン向けに提供していたツイットビームというツイッタークライアントサービスにまつわるもので、このサービスの利用開始にあたって、twitterのIDとパスワードを入力させるようになっていました。
これに対して新卒のK君がtwitterで「ドワンゴという会社はtwitterのIDとパスワードを預けるに足る信用を持つ会社なのか」という趣旨のツイートをしたところ、即座に偉い人を連れたプランナーに詰め寄られ有無を言わさずツイートを消すことを強要されるということがありました。
もう1つは同僚のYについてですが彼は非正規雇用されている人間で、「サービスをひとつしっかりリリースさせることができたら社員に登用する」と言われていました。しかし、彼が関わるサービスがリリースする直前になるとなぜかまた別のサービスの立ち上げに回されるということを繰り返し、最後には契約更改を行わないことを伝えられました。
最後は総務部を追い出し部屋にしたことです。やめさせたい人間をグループウェアから登録解除し、総務部という名前を持った統合思念体に統一し、PCも共有で1台しか与えない。昨日までエンジニアをしていた人間がスーツを着て社内を歩いて備品の補充をする。そんなことが許されていました。
5. ニコニコ超会議で焼きそばを作らされる
僕は初回のニコニコ超会議が開催される前にこの話を聞いてさっさと退職したので実際には経験をしていませんが、ニコニコ超会議には社員が強制的に動員され、列の整理や焼きそば屋台などに従事させられました。正直に言ってソフトウェアエンジニアとして雇用した人間に焼きそばを焼かせるのは雇用契約違反なのではないかと思います。立て付けとしてはお客様の文化に触れる、本気で楽しんでくださっているお客様の姿をじかに見られる他にない機会であるという言い分です。
ですが、僕は別の機会でニコニコ動画にのお客様方が集まる場を経験しており、既に実感として我々の扱うもの、インターネットの先、電子データひとつひとつにお客様の思いがあるということは理解しておりました。これに関しては稀有な経験ができたことを感謝しているし、この経験ができるインターネット関連の会社は日本にはドワンゴしかないのではないかと考えています。
しかしながらその上でなお焼きそばを焼かなければならない必然性がわからず、受け入れることができませんでした。
大量退職とはなんだったのか
上に挙げた5つの理由は僕にとってのドワンゴを辞めるに至った理由です。ですが、僕が考えるに他の皆もだいたい同じような理由で辞めるに至ったのではないでしょうか。これらの不満はそもそもずっと存在していたものであったり、超会議については最初から予測できるものであったりしたのに、それらを看過し続けたことが大量退職につながったものと考えています。
自らの経営責任に起因した事件を個々の従業員のスキルや判断能力の不足のせいだと押し付ける行為はドワンゴという会社をよく表していると思います。僕は本当に辞めて幸せになったし、あの時判断できたことを誇らしく思っています。
最後に
今回僕はドワンゴに訴えられる覚悟でこれを書いています。もしそのようなことがあった場合、できる限り努力をしますが、僕だけでは対処しきれないこともあるかもしれません。その時はどうか誰か相談に乗っていただけると助かります。どうぞ宜しくお願い致します。