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前回の記事
の最後の部分……。

で、山本太郎参議院議員が、国会でこの問題を取り上げる以前から僕は、

1. 集団的自衛権の行使容認の閣議決定がなされた理由は、「新日米ガイドラインを制定するために必要だったから」ということと、
2. 「新日米ガイドライン」が、むちゃくちゃアメリカ側に有利に作られてる可能性に気づいていました
(この2に気づいたことから、僕は「日本、アメリカに嵌められてるんじゃね?」って思うに至ったわけです)。

どういうことか? 

(なんの話かわからない人は、前の記事に戻る    )

* * *

どういうことか? まとめると、次のようになります。

■集団的自衛権はアメリカから求められたもの

<1>新日米ガイドラインが、「アメリカから求められたから制定されたものである」ということは証明できる。

それは、中谷防衛大臣自体が、8月19日に国会質疑で山本太郎参議院議員の質問に答えたものです。

「日米防衛協力ガイドライン、これの協議が行われまして、その中で米側からこれらを含む幅広い後方支援への期待が示されたということです」

「日米防衛協力が進展をしたということ、またガイドラインの見直しが進められたということ、また自衛隊もそういった能力が向上してきたということで、米側からこれらを含む幅広い後方支援への期待が示されたということで、今回、重要影響事態に際してもこれらの支援を行うようにできるように法的措置を講じることにしたということでございまして」

と認めていることこそが、その証拠になります。

これは、わかりやすく言えば、「米側からガイドラインの見直しの要望があり(=新日米ガイドラインの制定)、そのガイドラインに沿った通りに米軍と自衛隊が連携して動ける法的根拠を与えるために、安保関連法制の制定を目指し、現在、国会での審議に図っている(=法的措置を講じることにした)」ということになります。

■安保法制は新日米ガイドラインを実現するためのものにすぎない

<2>で、1997年に防衛審議官としてガイドライン策定に関わった元内閣官房副長官補で、(小泉政権時代に)イラクの自衛隊(イラク戦争に派遣された自衛隊)を統括した元防衛官僚である柳澤協二さんが、

「つまり安保法制とは何かと言うと、ガイドラインを実現するための法制です。安保法制はあちこちに飛んで、非常に分かりにくいので、むしろガイドラインを読むほうがいいと思います。何をやろうとしているのか、全体的な流れが非常によく理解できる」 http://diamond.jp/articles/-/72398?page=4 

とおっしゃっていたことと、『さらば!外務省』を書いて有名になった元外務官僚の天木直人さんが、

「安保法案など、もはやその書き方はどうでもいいのだ。安保法案は、成立させることが重要なのである。米国との関係では日米新防衛ガイドラインがあればそれで十分なのだ」( http://new-party-9.net/archives/2077

と、柳澤さんとまったく同じことをおっしゃっていたので、そんなものかな? と思って、「新日米ガイドライン」(正確には、「日米防衛協力のための指針(2015.4.27)」http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/shishin_20150427j.html )をつまびらかに読んでみたら、驚くべきことがわったのです。

■集団的自衛権の閣議決定に新三要件が盛り込まれたのは新日米ガイドライン作成に必要だったから

新日米ガイドラインで最初に気になったのは、次の一文が新日米ガイドラインに盛り込まれていたことです。

自衛隊は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本国民を守るため、武力の行使を伴う適切な作戦を実施する。(新日米ガイドラインより引用)

この一文を読んだ時に、「あれっ、これどっかで読んだことある!」と思いました。そうです。安倍政権が集団的自衛権の行使容認に踏み切った閣議決定文( http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/ )の中に、ほぼ同一の文言が出てくるのです(それは次の一文です)。
現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。(集団的自衛権の行使容認閣議決定文より引用)

これ、集団的自衛権行使容認の閣議決定文の中でも、最も重要とされている、「武力行使の新三要件」そのものの箇所です。閣議決定後、この表記について、むちゃくちゃ取り上げられた、閣議決定の胆中の胆の部分です。

(新三要件の解説は、伊勢崎先生の「集団的自衛権の「問題点」を一気に学ぶ」という論考の中の「必要最小限度の自衛権とは何か」という項目以降を参照 http://synodos.jp/international/14775/

で、ほぼ同一の文言が、閣議決定の後に設定された新日米ガイドラインの中に盛り込まれてるのを見て、「ふむー、どうも、ここまで揉めることになった集団的自衛権の行使容認の胆の文章をガッツリ盛り込んだ閣議決定を安倍政権が行った理由は、その後に日米共同で作成する新日米ガイドラインに、この文言を盛り込みたかったから(or アメリカとの関係上盛り込む必要があったから?)なんだな」ということに思い当たりました。

結局……、

1.アメリカから、新日米ガイドラインの制定を求められ(もしくは、安倍内閣自身の目的がアメリカ側の要請と合致していたので、安倍内閣がアメリカ側の要望に積極的に乗り)、
2.新日米ガイドラインの中に「この部分」(=上で紹介した部分)を入れようとすると、第二次安倍政権以前の憲法解釈(=集団的自衛権は憲法の制約上行使できないという解釈)が邪魔になる(=この憲法解釈のままだと「新日米ガイドライン」が作れない)
3.だから、新日米ガイドラインの制定に先立ち、無理くり「集団的自衛権行使容認の閣議決定」を行った

ということになるのです。

■胆は、閣議決定も新日米ガイドラインも基本勝手に時の内閣が決められること

要点は、新日米ガイドラインは、2+2会議のみで決められる「条約」であり、「閣議決定」も時の内閣が「そういうことに決めました」と発表(=閣議決定)すれば済むだけのものであるということです。この二つに国会審議は必要ないと言うことです。

(結果、「国会承認」が必要な「安保関連法制の制定」の時点でようやくマスコミも国会も大きく騒ぎ出したが、それ以前に、最も重要な要だった「新日米ガイドラインの制定」に対しては、密室で行われた条約決定だったため、多くの人がその重要性に気づかず、スルーしてしまった、ということです)

で、今回の集団的自衛権論議において真っ先に検討しつくさなければいけなかったことは、新日米ガイドラインの「この部分」に何が書かれているのか? ――それすなわち、アメリカが日本に(憲法解釈を変更させてでも)最も求めたかったことは何か? ――についいてです。

■新日米ガイドライン「アメリカが攻められたら、自衛隊も反撃せよ」!?

新日米ガイドラインの「この部分」について、つまびらかに読んでいってみましょう。

結論を先取りすれば、「この部分」というのは、「新日米ガイドライン」の中の、「D.日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」の部分に該当する部分です。

まず、次のように書かれています。

日米両国が、各々、米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するため、主権の十分な尊重を含む国際法並びに各々の憲法及び国内法に従い、武力の行使を伴う行動をとることを決定する場合であって、日本が武力攻撃を受けるに至っていないとき、日米両国は、当該武力攻撃への対処及び更なる攻撃の抑止において緊密に協力する。

まあつまり、「自衛隊は、米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するため」に、集団的自衛権の行使を行う(=密接な関係にある他国に対する攻撃に対する反撃〈=当該武力攻撃への対処〉と同時に、その攻撃を抑止するための行動に出る)」ということです。

まあこれ、「自衛隊はこれから、集団的自衛権を行使します」ってことを、条約(新日米ガイドライン)の中に明文化(=高らかに宣言)したってことです。

いや実際ですよ。これ、超サラッと書かれてますけど、「自衛隊は、米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するため、日本がまだ武力攻撃を受けていないときでも、アメリカ軍と協力して、武力攻撃への反撃をする」っていう意味ですよ?

これ、「アメリカが攻められたら、自衛隊は一緒に反撃せよ?」ってことですよね? これ、戦後日本の大改革ですよ。

しかも問題は、これが、密室の中で決められた「条約の文章」の中に書き込まれてるだけで、一切の国民の審査の目に晒されることなく決まったことになってるってことです。そんなんありか? っていうか、国民バカにしすぎじゃまいか?

ちなみにここに、「米国又は第三国に対する武力攻撃に対処するため」と書かれているのを見ると、集団的自衛権行使容認の閣議決定文が、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」と、日本が共同で防衛する(=集団的自衛権を行使する)対象国が、「我が国と密接な関係にある他国」とボカされていた理由(=「米国」に限定されていなかった理由)がよくわかります。

つまり、新日米ガイドラインを読んでわかることは、「アメリカは、日本を、アメリカの防衛のみに乗り出させようとしているわけではなく、『第三国』と(アメリカが)呼んでいるどこかの国をも防衛(=後方支援に限った集団的自衛権の行使を)させようとしている」ということです……。

いずれにしても結局、新日米ガイドラインに、「D.日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」の部分を盛り込もうとしたら、それ以前に「集団的自衛権行使容認の閣議決定」(=憲法9条の解釈変更)をやっておく必要があったことは明らかです。

つまり、安倍政権が集団的自衛権の行使容認を急いだ理由は、新日米ガイドラインの制作に間に合わせるためだった――。

■アメリカの戦争に後方支援と言える限り全面協力?

で、憲法9条の解釈改憲をさせて(=集団的自衛権行使容認の閣議決定をさせて)でも、アメリカが日本にやらせたかったことは、「新日米ガイドライン」の中に、「協力して行う作戦の例は、次に概要を示すとおりである」と書かれている通り、次のようなことです。

と言いながら、次の引用部分、長いし難解なので、先に簡単に解説すれば、「今後日本は、アメリカ(および、謎の第三国……)の戦争に様々な点で、後方支援と言える範囲については全面的に協力せい!」ということが書かれているわけです。(一応、次に、該当部分を引用します)

1. アセットの防護
自衛隊及び米軍は、適切な場合に、アセットの防護において協力する。当該協力には、非戦闘員の退避のための活動又は弾道ミサイル防衛等の作戦に従事しているアセットの防護を含むが、これに限らない。

2. 捜索・救難
自衛隊及び米軍は、適切な場合に、関係機関と協力しつつ、戦闘捜索・救難活動を含む捜索・救難活動において、協力し及び支援を行う。

3. 海上作戦
自衛隊及び米軍は、適切な場合に、海上交通の安全を確保することを目的とするものを含む機雷掃海において協力する。

自衛隊及び米軍は、適切な場合に、関係機関と協力しつつ、艦船を防護するための護衛作戦において協力する。

自衛隊及び米軍は、適切な場合に、関係機関と協力しつつ、当該武力攻撃に関与している敵に支援を行う船舶活動の阻止において協力する。

4. 弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦
自衛隊及び米軍は、各々の能力に基づき、適切な場合に、弾道ミサイルの迎撃において協力する。日米両政府は、弾道ミサイル発射の早期探知を確実に行うため、情報交換を行う。

5. 後方支援
作戦上各々の後方支援能力の補完が必要となる場合、自衛隊及び米軍は、各々の能力及び利用可能性に基づき、柔軟かつ適時に後方支援を相互に行う。

日米両政府は、支援を行うため、中央政府及び地方公共団体の機関が有する権限及び能力並びに民間が有する能力を適切に活用する。

……まあ結局、超訳すると「今後日本は、アメリカ(および、謎の第三国……)の戦争に様々な点で、後方支援と言える範囲については全面的に協力せい!」ということが書かれているわけです。

「集団的自衛権の行使容認で、日本は戦争に巻き込まれなくなる」と言ってる人を見かけますが、これを見る限り、「完全に、日本は、アメリカ(および、謎の第三国……)の戦争に、ガンガンに(後方支援の分野で全面的に)巻き込まれていくことになる」と思うのですが、いかがでしょうか?

(にしても、謎の「第三国」ってのがどこなのかが気になる……)

■アメリカから日本に送られたアメの部分を検証する

で、ここまでは、「アメリカが日本に求めてきたこと」の話でしたが、ここからは、「じゃあ、アメリカがそういったことを日本に求めてきた半面、“アメ(飴)”として提示してきたことは何か?」を具体的に検証していこうと思います。

(ここが、僕が「日本はアメリカ(いや、安倍政権のイメージ戦略(?))に嵌められてるんじゃないか」と思うに至った核心の部分です)

引き続き、新日米ガイドラインをつまびらかに読んでいきましょう。それが書かれているのは、「C.日本に対する武力攻撃への対処行動」の部分です。つまり、ここに「日本に対する武力攻撃が起こった場合、米軍が何をしてくれるか? また、自衛隊はどの分野を担当するか?」が書かれているわけです。

集団的自衛権の行使容認を行うことで、アメリカに日本を守ってほしいと願う皆さんが一番気になるところでしょう。

さて、最初にアメリカパイセンが後輩(?)下僕(?)(なの?)たる日本に、ありがたくも「1.日本に対する武力攻撃が予測される場合」という(つまり、「日本が他国からの攻撃を受けることがわかった場合、自衛隊は何をし、米軍は何をしてくれるか?」が書かれた)文章の中で与えてくださったアメは、次のようなことです。

日米両政府による準備には、施設・区域の共同使用、補給、整備、輸送、施設及び衛生を含むが、これらに限らない相互の後方支援及び日本国内の米国の施設・区域の警護の強化を含み得る。

つまり最初に、「日本への武力攻撃が予測する場合、自衛隊は、米軍の基地の警備を強化してね」って書かれてるわけです。

ん? ……いやいや、もっとアメ(飴)っぽいことが書かれてるはず! アメリカは絶対日本を助けてくれるはず!(汗)

引き続き読んでいきましょう。「2.日本に対する武力攻撃が発生した場合」の中の、「a.整合のとれた対処行動のための基本的考え方」にはちゃんと、アメリカから日本への“アメ”が書かれているはずです!(次に該当箇所を引用します。以降、引用文中太字と下線による強調は筆者による)


日本は、日本の国民及び領域の防衛を引き続き主体的に実施し、日本に対する武力攻撃を極力早期に排除するため直ちに行動する。

自衛隊は、日本及びその周辺海空域並びに海空域の接近経路における防勢作戦を主体的に実施する。

米国は、日本と緊密に調整し、適切な支援を行う。米軍は、日本を防衛するため、自衛隊を支援し及び補完する。

えっ……。日本にとって今度こそアメの部分であるはずの冒頭に、「日本は、日本への攻撃に対し、以前からそのようになっていた通り(=引き続き)、自らの力で(=主体的に)反撃せい」と書かれているのです。

えっ、えっ……。で、「米軍は、自衛隊を支援するよ。あと、補完もするよ」って書かれているわけです。

なるほど……。これまでと違って、「アメリカ(と謎の第三国)が攻められた時には、自衛隊は、後方支援と呼べる分野では全面的に協力しろよ!」と言ってる(=前述の「D.日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」の部分の話)“反面”、「でも、日本が攻められたら、アメリカは自衛隊を(これまで通り)支援と補完を行ってあげるよ!」と書かれているわけです。わかります……。って、わかるかい! 

なんでしょうこれ……。「騙されたかも?」って嘆いても事は何も前進しません。

じゃあ、具体的には、「日本が攻められた場合、自衛隊と米軍がそれぞれ何をするか?」が書かれた、「b.作戦構想」の部分を読んでいってみましょう。次のように書かれてるわけです。

ⅰ.空域を防衛するための作戦 自衛隊は、航空優勢を確保しつつ、防空作戦を主体的に実施する。このため、自衛隊は、航空機及び巡航ミサイルによる攻撃に対する防衛を含むが、これに限られない必要な行動をとる。

なるほど! 日本の領空が他国から攻められた場合、「自衛隊は、自分で(=主体的に)反撃せい!」ということですね。ありがたき幸せ! では、アメリカパイセンは何をしてくれるんですか?

米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する。

……ちょっ!!

まあまあ落ち着きましょう。日本の領海が他国に侵された場合(ⅲ.海域を防衛するための作戦)には何と書かれているか? 次のように書かれています。

自衛隊は、日本における主要な港湾及び海峡の防備、日本周辺海域における艦船の防護並びにその他の関連する作戦を主体的に実施する。このため、自衛隊は、沿岸防衛、対水上戦、対潜戦、機雷戦、対空戦及び航空阻止を含むが、これに限られない必要な行動をとる。

あれ? じゃあアメリカパイセンは……。

米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する

……ちょっ!!!

よしよし、とはいえまだ、日本に敵国が本土上陸してきた時の話になってない……。では、日本に他国が本土上陸してきた時(ⅳ.陸上攻撃に対処するための作戦)にはどうすると書かれてるか? 

これ、「島嶼に対するものを含む陸上攻撃」のことでもあるので、日本人垂涎の「尖閣諸島有事の際に、アメリカ軍がどう行動してくれるか?」が書かれたウルトラ・スペクタクル大事な箇所でしょう(なのになんでこんなに話題になってないんだろう……? これ知らなかったの、もしや僕だけだったりしますか?)。

次のように書かれています。

自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する。必要が生じた場合、自衛隊は島嶼を奪回するための作戦を実施する。

自衛隊はまた、関係機関と協力しつつ、潜入を伴うものを含め、日本における特殊作戦部隊による攻撃等の不正規型の攻撃を主体的に撃破する。

OK! OK! 他国軍が(尖閣諸島を含む)日本に上陸してきても、自衛隊が独自に(=主体的に)撃破したらいいのね! OK! じゃあ、アメリカは!?

米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する。

……ちょまっ!!!!

……これ、なんでほんとにあまり誰も取り上げてないのかわかりません。

だって、「尖閣諸島有事の際、自衛隊が主体的に反撃に出て、島奪われたら自分で奪還せい!えっ、米軍? そりゃあ自衛隊の作戦を支援して補完するから安心してよー」って書かれてるんです。

これ、尖閣有事に際して、ア・メ・リ・カ・撃・た・な・い・気・じ・ゃ・ね・!?

……でも僕は、有事の際に自衛隊が何を担当し、米軍は何を担当するかが定められた「新日米ガイドライン」に、そんなショッキングなことが書いてあっても、「まあ、そうなるのもある意味うなずけるな……」とも思う一面があるのです。

それはなぜなら、この連載の1回目の記事で、米ハドソン研究所主席研究員の日高義樹さんが、次のように述べられていたそのままの事態だからです。

「もちろん安保条約の手前、尖閣周辺で日中戦争が火を噴けば米国は助けに来るが、空海軍による「エア・シー・バトル(空と海からの戦闘)」だけで、尖閣に上陸したりはしない。もし尖閣に中国の漁民や軍人が上陸したら、日本が自力で排除するしかないという。」

この日高さんの見立てが、「新日米ガイドライン制定」によって現実のものになったのです。

結論……。

「日本が攻められた場合、自衛隊と米軍がそれぞれ何をするか?」が書かれた、「b.作戦構想」の中の、「米軍は何をするか?」の中には、「都合4回、米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する」と、全く同じ、一言一句違わない文言が書かれている“だけ”でした。

これ、日本、アメリカに、嵌・め・ら・れ・て・な・い!?

* * *

結局ですよ、新日米ガイドラインに書かれている本論説で紹介した部分をまとめると、

1.日本は、集団的自衛権の行使を自ら行ったんだから、日本は、アメリカ(と謎の第三国……どこ?)が攻められたとき、後方支援と謳える全分野において全面的に協力しなさい。

2.で、日本が攻められそうになったり、日本が実際に攻められた時はどうするかって? それはまず、(これまで通り)日本が自力で反撃しなさい。

3.で、アメリカがその時どうするかって? それは、『米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する』に決まってるじゃん!これは大事なことだから4回言ったよ!

ってことになるわけです……。

これ、日本、アメリカに、嵌・め・ら・れ・て・な・い!?

■集団的自衛権の行使容認――もとい新日米ガイドライン制定で日本が失ったもの

というわけで、新日米ガイドラインをつまびらかに読んでみたら、恐らくこの文言を読んだことのない全員にとって、予想だにしない衝撃的なことが書いてあったと思うのですがいかがでしょうか?

恐ロシア!……じゃなかった、恐ろしア!(メリカ)ですよ……これ!!

おかしい……。僕の印象では、「集団的自衛権の行使容認って、日本がアメリカ軍を(日本近海で)守る代わりに、アメリカ軍がより積極的に日本を守ってくれるようになるもの」だと考えていました。(僕のそもそものその認識がおかしかったでしょうか?)

(てかそもそも、日米安保条約って、「アメリカに日本の基地提供するから(=日米安保条約第6条)、アメリカ軍は日本を守るよ(=日米安保条約第5条)」っていう同盟でしたやーん。あれどこ行ったの!? ってツッコミが各方面から入りそうですが、新日米ガイドラインは実際、ガチで日米安保条約の時より日本側が引いた(=アメリカ側に一方的な話に)後退しているものです)

で、「新日米ガイドライン」をつまびらかに読んでみると、

1. 日本はアメリカ(と、謎の第三国)が攻撃を受けた場合、後方支援と言える範囲であれば、何にでも協力をしなければいけない可能性が出てきた

2. じゃあ日本防衛の場面ではどうなってるのかと思えば、「日本は“今まで通り”主体的に、自分で自分を守りなさい。あと、アメリカ軍を自衛隊は守ってね。その代わりに(なってないけど:筆者注)、アメリカは、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施するよ」


って書かれてるだけでした。

なんでだろう。(まだ安保関連法制の審議中ですが)今回の集団的自衛権の行使容認、それに続く新日米ガイドラインの制定によって、日本が得たものって、「より積極的に個別帝自衛権(=自衛隊自身による防衛)を発動できるようになった“だけ”」に見えます。

これに関しては、一切、集団的自衛権の行使容認は必要なかったわけです・・・。

一方、日本が失ったものは、「『9条の縛りによって集団的自衛権を行使できないので、あまり積極的にはアメリカの集団的自衛権に加担できません』と言って、アメリカからの集団的自衛権の行使要請を断ることができなくなった」ということです。

しかも、前の前の記事で書いた通り、尖閣有事を正確にシュミレートすると、有事に際して、米軍は出てこれないんです。

どころか、今回の記事で検証した通り、新日米ガイドラインをつまびらかに読めば、尖閣有事に際して、米軍側に出てくる意思がそもそもないことがわかります。

つまり、集団的自衛権に賛成の方々が待望してるであろう、「尖閣有事に際して、アメリカ軍が中国軍を撃ってくれること」なんてないんです(だって、新日米ガイドラインには、「尖閣諸島が攻められても米軍は自衛隊を支援し補佐するだけだよ」と書かれてるだけなんですから)。

だから僕はここで集団的自衛権に賛成している人たちに問いたい。

”今回の”新日米ガイドラインと言う形で結実した、集団的自衛権の行使容認の日本側の利点って、一体何ですか? と。

(「中国に対する抑止力が生じる」とかでしょうか? でも、少なくとも、尖閣有事に際して、米軍の存在がなんの抑止力にもならないのは、本論考の1本目の論考(=前の前の記事)で示しましたので、少なくともこの1本目の論考ぐらいのレベルぐらいでは、集団的自衛権の行使容認によって、中国の「何を」「どう」抑止してくれるのか、具体的に教えてほしいと思います。その説明なく「抑止になる」とする言説は、限りなくトンデモに近いように思います)

新日米ガイドラインを読んだら、本気で集団的自衛権行使容認による日本側の利点というものが全然思い浮かばず、暗澹たる気分になりました……。

■今回の形の集団的自衛権は戦争を抑止せず、どころか戦争に巻き込まれる

ちなみに僕は、今回の形での(=新日米ガイドラインとして結実している)集団的自衛権の行使容認に反対ですが、その理由は、戦争にまきこまれる可能性が高くなるからです。

で、この時の「戦争」も曖昧なので、次のように定義します。

1. 他国からの侵略される戦争(例:中国が日本に攻めてくる戦争)
2. 領土紛争(例:中国が尖閣諸島に攻めてくる)
3. アメリカの集団的自衛権の行使に双務性を発揮すればするほど巻き込まれる戦争(例:イラク戦争)
4. テロとの戦い(例:911などの米国内や英国で頻発しているような自国でテロを起こされるもの)
5. PKO活動中に自衛隊が戦闘に巻き込まれるもの

で、集団的自衛権の行使容認に親和的な人たちが、「集団的自衛権で戦争に巻き込まれなくなる」と言うときの「戦争」は、1と2を指してます。

で、僕は今回のこの記事で、「今回の集団的自衛権の行使容認――もとい親日米ガイドラインには、別に米軍による対中国抑止強化策が何も書かれていないこと」を明らかにしたわけです(=つまり、今回の新日米ガイドラインとして結実した形の集団的自衛権の行使容認では、1と2の戦争を抑止できない(より正確には、容認以前と以後で物理的な面での抑止力の強化になっていない))。

一方、3、4、5には、今回の集団的自衛権の行使容認によって、間違いなく(アメリカの集団的自衛権の行使に関与すればするほど)゛将来的に”巻き込まれていくものです(どころか5なんて今そこにある危機ですね)。

結局、マイナス面ばっかりが目立ち、利点が一個も見出せない以上、僕は今回の形での集団的自衛権の行使容認に反対であり、今回の安保関連法制は一度廃案にすべき、と考えています。

■集団的自衛権なしで尖閣を守る対案

で、一本目の論考から課題になっていた、じゃあ中国がうまい塩梅に、アメリカ軍が出てこれない形で尖閣諸島を攻めてきた時に、日本はどうやって尖閣守ればいいのよ? に関しては、伊勢崎賢治先生の解説が詳しいので引用します(引用文中【 】内は筆者による補足)。

(※言ってる意味が分からない人は、論考1に戻る)

【中国が】個別的自衛権を使うには、相手【=日本】がまず武力行使をする【=自衛隊を出してくる】ように仕向けるのが一番。だから、中国は「漁民」を使うのです。プラス、日本の海上保安庁にあたる警察力。「軍事力」ではありません。【=中国はあえて海軍を出さずに、国際法上「軍事力」に当たらない「漁船」と「海警船」ばかりを使って挑発してくる】

この挑発に、日本が警察力ではなく、国際的には軍事力とみなされる自衛隊を使って対処してくるのを待っているのです。そうすれば、日本が一方的に武力行使した、つまり「侵略」した、と説明できる。【=その説明ができるような状況を生み出せたら、中国は、国際法上正当な「(中国の)個別的自衛権の発動」の範囲内で大々的に軍隊を出せるようになる=合法的に尖閣諸島を軍隊を出して攻めれる】

逆に言えば、中国の非軍事的な挑発に対して絶対に自衛隊で対処しないということを鉄則にすれば、中国は日本を「侵略」できないということです。

だから、はなから中国を「軍事的脅威」と見なすのは、僕は間違っていると思います。あくまで、日本の領海内における「外国人犯罪」と見なし、今よりも厳しく対処すればいい。自衛隊が撃たない限り中国が自ら「軍事的脅威」になることはない、とドンと構えて、ビシビシ対処(海上保安庁の武器使用も含めて)すればいいのです。

一番、日本人が理解しなければならないのは、中国は国際法の頂点に君臨する「手練れ」だということです。 http://www.magazine9.jp/article/other/20036/
(※「中国は国際法の頂点に君臨する「手練れ」」とは何か? に関しても論考1参照)

つまり、尖閣諸島の問題に軍事力(=自衛隊)を出したら、日本の負けなわけです。

つまりは、

1.尖閣有事には基本、海上保安庁が対応する。
2.で、中国が軍隊を出してくる以前には絶対に自衛隊を出さない。
3.とはいえ、中国が軍隊を出してきた暁には、ちゃんと自衛隊が出ていけるよう準備しておく、


が、「集団的自衛権を行使容認しないと尖閣諸島守れないじゃないか!」という主張する方々への対案です(この対案は、「集団的自衛権の行使容認が一切必要ないこと」がミソです)。

その意味でも、

1.尖閣有事に真っ先に自衛隊を出そうとしてる集団的自衛権の行使容認派の方々の(論理の)荒い議論には賛同できませんし、
2.新日米ガイドラインで、どうせ尖閣諸島を守るのは(主体的には)日本であるとされている以上、今回の集団的自衛権の行使容認――もとい、新日米ガイドラインには、(本論考で述べた通り)尖閣に対する抑止になってないという意味で反対です。

■まとめ

それで、これまで長々と三記事に渡って書いてきたわけですが、今回の3記事(その1その2その3)の本当の主旨は、「集団的自衛権の行使容認の利点とされているものは本当か?」の検証にありました。

でこの3記事を書いた動機は、企画・編集を担当した『戦場からの集団的自衛権自衛権入門』(伊勢崎賢治著)には実際、今回の3記事の視点が抜けていたからです。

そのかわり、伊勢崎先生の本には、今回の3記事には書いていない「集団的自衛権の問題点」については余すことなく書かれているので、ぜひ読んでみてください。



ちなみに、伊勢崎先生ぐらいしかおっしゃていない、「実は、みんなが安全だと信じてて、安倍政権もノリノリで推進してる自衛隊のPKO活動がむっちゃ危ない。だから、いま安倍政権が後押ししてる(集団的自衛権の行使容認の裏で進められている)自衛隊のPKO推進にも超反対すべき」って話は、ここに全面的に公開されてますので、ぜひお読みください。

長々と書きましたが、現場からは以上です!!