「Hi Chung(ハイ、チョン)!」
テニスの全米オープン(賞金総額4230万ドル=約51億4300万円)開幕を翌日に控えた30日(以下、韓国時間)、米国ニューヨーク市郊外のUSTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センター内にあるアーサー・アッシュ・スタジアム。錦織圭=日本=、ロジャー・フェデラー=スイス=ら世界トップクラスの選手たちが選手用ラウンジで韓国人選手チョン・ヒョン(19)を見かけると、笑顔で声を掛け、あいさつを交わした。ジュニアの有望選手だったチョン・ヒョンが、いつのまにか世界的なスター選手たちと肩を並べるほどに成長したことを示す心温まるシーンだった。チョン・ヒョンは「テレビで見ていたスターたちと同じ大会でプレーするというだけでも胸がいっぱいになる」と語った。
チョン・ヒョンは9月2日に今季最後のメジャー大会となる全米オープン男子シングルス1回戦に出場し、「メジャー初勝利」に挑む。今年6月の英国ウィンブルドン選手権(1回戦敗退)に続き、2回目のメジャー大会本戦出場だ。2回戦に勝ち進めば、今年の全仏オープン優勝者スタン・ワウリンカ(世界ランキング5位)=スイス=と対戦する可能性がある。
チョン・ヒョンは李亨沢(イ・ヒョンテク、39)が2000年に韓国人男子選手として初めて四大大会ベスト16に上がった(全米オープン)のを見て育った「李亨沢キッズ」だ。08年の李亨沢以来、7年ぶりに全米オープン本戦に進んだチョン・ヒョンは、ジュニアでもシニアでも全米オープンで初めてメジャー大会を経験した。チョン・ヒョンは「調子は100%に近づいてきているので楽しみ」と語った。
チョン・ヒョンはこの1年間でランキングが急上昇した。昨年8月末の世界ランキングは249位だったが、チャレンジャー大会(ツアーの下部大会)優勝4回、ツアー7勝を挙げ、現在71位までアップした。欧米の選手を相手に力で圧倒されないほどにまで体格(186センチ・83キロ)も立派になった。チョン・ヒョンは今回の全米オープンまでに三つのメジャー大会に連続出場し、現地メディアの注目を集めた。
ツアーで受ける待遇も変わった。チャレンジャー大会では選手たちにサンドイッチなどの軽食が与えられるが、全米オープンではミシュラン・ガイドに載っている店のシェフが用意したビュッフェ式料理に、宿泊先として五つ星ホテルが提供される。それに、チョン・ヒョンは大会期間中、組織委員会が提供した1億ウォン(約1000万円)相当のベンツのスポーツタイプ多目的車(SUV)に乗れるという恩恵にもあずかっている。たとえ1回戦で脱落しても、チャレンジャー大会の優勝賞金より2倍多い3万9500ドル(約480万円)が受け取れる。チョン・ヒョンは「グランドスラムでは選手が試合にだけ集中できるようにしてくれるので、いっそう意欲がわいてくる」と語った。
チョン・ヒョンがテニス選手として急成長できたのには、家族の力が大きい。チョン・ヒョンの父親チョン・ソクチンさん(50)は三一工業高校のテニス部監督、兄チョン・ホン(22)は建国大学テニス部選手で、チョン・ヒョンと合わせて「テニス3父子」として有名だ。チョン・ヒョンが6歳のときテニスの道に引き入れた父親のソクチンさんは、わが子を世界ツアーでプレーできる選手に育てるため、小学校のときから英語の勉強をさせたという。チョン・ヒョンは左利き選手の兄ホンと一緒にテニスの試合をしてきたため、同年代の選手よりもバックハンドが特にうまくなった。兄弟は家でハエたたきをラケットのように振り回して練習するほど、テニス漬けの生活をしてきた。
チョン・ヒョンは「兄にいつも『死ぬか生きるかではなく、死ぬ覚悟でやってトップになれ』と言われていたのが刺激になった」と話す。
チョン・ヒョンの1回戦の相手はジェームズ・ダックワース(23)=同92位、オーストラリア=だ。チョン・ヒョンよりメジャー本戦経験が多いダックワースは「サーブ・アンド・ボレー(サーブ後、ネットに駆け寄りボレーをする攻撃方法)」に強い。ボールのスピードが速いハードコートで有利な試合方法だ。ユン・ヨンイル・コーチは「パッシングショット(ネット際の相手選手の脇を抜く打球)の練習を集中的にしている」と言った。
ウィンブルドン1回戦では5セットの接戦の末に逆転負けを喫し、経験不足を露呈した。チョン・ヒョンは「崩れても、けがをしてもしぶとく勝ち残り、自分の実力と限界を試してみたい」と語った。