社説:戦後70年・視点 国連軍縮会議=論説委員・布施広
毎日新聞 2015年08月31日 13時55分
◇「核廃絶」漂流の予感も
広島市で開かれた第25回国連軍縮会議(26〜28日)は盛りだくさんの内容だった。ペリー元米国防長官らが「核兵器のない世界」の必要性を説き、被爆者が地獄のような体験を語り、若者たちは核廃絶への世代を超えた連帯を呼びかけた。
だが、寂しさもつきまとった。中国と韓国の代表が見当たらず、プログラムに名前があった露外務省高官も土壇場で欠席した。「中韓にも参加を呼びかけたんですが……」。外務省の関係者は言葉を濁す。
この会議は1989年から国連と外務省が中心になり、日本でほぼ毎年開かれている。北朝鮮核問題も重要テーマだが、この問題に対処する6カ国協議の議長国(中国)も構成国の韓国、ロシアも欠席したわけだ。
以前は違った。2008年からの私の記憶と資料によれば、中国は例年、外務省や人民解放軍などの専門家1〜2人を会議に派遣。11年には国連と協力して関連会合を北京で開き、アジアの記者と率直に討論した。
韓国も熱心だった。核関連の国際サミットをソウルで開く前年(11年)、韓国は長野県松本市での軍縮会議にサミットの実務責任者を送り、例年にも増して意見交換に努めた。要するに、中韓は軍縮会議に前向きに対応し、活用もしてきたのだ。
今年は様相が違う。前回(13年)の静岡市での軍縮会議も中韓露の代表はいなかったが、この年は準備の時間が十分でなかった印象がある。終戦70年の今回、被爆地・広島での軍縮会議に3国が欠席したことこそ象徴的と考えるべきだろう。
真相は不明ながら、5月に決裂した核拡散防止条約(NPT)再検討会議で日本は「各国首脳の被爆地訪問」を呼びかけ、中国はこれに待ったをかけた。9月初めには北京で「抗日戦争」勝利70周年の記念式典が行われる。これに参加する韓国、ロシアは中国ともども広島へ代表を送りにくかったのだろうか。
根底には歴史認識の問題もあろう。だが、人類の運命にかかわる核問題を駆け引きに使えば、そのツケは人類全体に回ってくる。中韓露がまた軍縮会議に合流するか定かでないが、今の漂流状態と唯一の被爆国・日本への揺さぶりが続けば核廃絶運動への影響は必至だ。何より平均年齢が80歳を超えた被爆者たちはどうすればいいのか。
会議では「被爆者にノーベル賞を」との声も出たが、広島県原爆被害者団体協議会の坪井直(すなお)理事長(90)は「賞がほしいんじゃない。核廃絶です」と言い切った。戦後70年の日本へのずっしり重い問いかけである。