「平和」は「戦争」に負けています

なぜ「コミュニケーション」なのか

 

――ずっと気になっていたのですが、なぜピース「コミュニケーション」なんでしょうか。いま流行りの「プレゼンテーション」ではなく。

 

大学時代の専攻は法学部でした。法学部ではよく「この被告は有罪かどうか」「死刑制度には反対か」などの様々な立場について、賛成か反対かの議論をします。そのとき「自分の方が正しい」と思ってもちろん意見を言うわけですが、正直に言えば「相手の言っていることにも一理あるな」と思うことが多々ありました。

 

おそらく意見が対立している多くのことは、「相手の言い分」の中にも正しいと感じるような箇所があるのだと思います。「そう言われたらそうなのかも」というような。だからこそ、被害者の弁護だけでなく、加害者側を弁護することもできるのが法律の世界です。

 

「憲法」や「立憲主義」の問題を脇に置いておくとすると、安全保障の議論は、「国家間の戦争」を想定した場合にはアメリカの軍事力とも手を組んで「抑止力が必要だ」という論旨になりますが、「テロリストとの戦い」を想定すれば「アメリカと一緒だと危ないんじゃないか」「軍事力の強化では対抗できない」という主張になる。これは、どちらも論旨としては正しい。ただ、そもそもの主張の「出発点」が違っています。そこが大きなポイントなんです。

 

たとえば、簡略化した例でより詳しく説明すると、図のような「赤い丸」と似ていると思うものを、次の2つの図A・Bから選ぶというシンプルな問題があったとします。

 

 

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もちろん、2つの内どちらを選んでも「間違いではない」ということは簡単に分かりますよね。Aを選んだ人は「形(=丸)」を前提に選んだ人で、Bを選んだ人は「色(=赤)」を重視して選んだ人です。つまり、お互いに基準にした「前提」が異なるわけです。これを、「自分の方が正しい」と主張し合ってみても、決して相手が納得することはありません。なぜなら、どちらも正しいからです。

 

ただ、この事例の場合にはおそらく多くの人が「なぜ相手がそちらを選んだのか」の理由も容易に想像つくと思います。「あなたは色を優先したのですね」「あなたは形だったんですね」と。このように、まずは相手の前提を読み解くことが重要です。

 

なぜなら、実社会には「正しい論理」というのがたくさんあります。数学や物理の世界のように、正解はひとつではない。だからこそ、論理性の正しさを競い合う「プレゼンテーション」では、むしろ「争い」を助長することになってしまう。大事なことは、結論を摺り合わせるのではなく、お互いの前提を摺り合わせることが必要で、それが「コミュニケーション」ということなのです。

 

 

――安保の話にしても、考えれば考えるほどどんどんよく分からなくなってきて、「徴兵制だ!」みたいな話や首相個人を激しく攻撃するものにも乗れないし、一方で反対する人を「現実をみていない」とバカにするような言論にも乗れない。ひたすらモヤモヤだけが募った人はけっこう多いんじゃないかと思うんです。今のお話を聞いて、少し自分の中で腑に落ちました。

 

よかったです。どちらとも判断がつかないということの方が正常ですし、ぼくらは専門家でもないので、自分自身の知識不足で判断がつかないとモヤモヤするのが普通の感覚なのだと思います。

 

 

戦後70年の節目に

 

普段は、自分のやった仕事を友人に宣伝することはあまりしないのですが、今回は近況報告も兼ねて、友人たちにも本のお知らせをしました。この本に関しては、手にとって一人ひとりに考えてみて欲しいと思ったからです。そうしたら、主婦や子育てをしている女友達から「ありがとう」という反応が返ってきました。なぜ、そんなリアクションが返ってきたのか。

 

というのも、安保法案のニュースを日々見ていて、肌感として「これは何かヤバいんじゃないか」と思っていたと。ところが、デモに行く時間はないし、勇気もない。関連した本を読もうにも何の本を読めばいいのかも分からない。でも、「何かしなきゃ」という気持ちはあった。

 

そのタイミングで、友人関係というきっかけからぼくの本を買うことや、それをFacebookでシェアすることで、自分なりにこの問題に対して「何かしらのアクション」をすることができた。それに対して「ありがとう」と言っていたんです。

 

今までぼく自身は、どうやって戦争や平和のような遠い問題について少しでも身近に感じてもらえるのか、興味を持ってもらえるのかをいろいろと考えてきました。ところが、今は普通に暮らしている多くの人たちにとって身近に感じざるを得ないトピックになっているということです。このテーマが時代の「ど真ん中」に来てしまった。

 

おそらく特定秘密保護法の時は、そういう危機感の持ち方はしていなかったのではないでしょうか。なんとなく、ニュースで「どうせ決まっちゃうんでしょ」と多くの人が思っていた。でも、今回ばかりは……という感覚がある。この変化の原因が、政府のコミュニケーションの失敗にあるのか、何に起因しているのかはまだ分からないですが、かなり大きな転換点になるのかもしれませんね。

 

本書では、ぼくの専門分野から戦争や平和のテーマを読み解く「ピース・コミュニケーション」について書きました。戦後70年という節目に、ぜひ手に取ってもらえれば嬉しいです。

 

 

なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか ピース・コミュニケーションという試み (光文社新書)

著者/訳者:伊藤 剛

出版社:光文社( 2015-07-16 )

定価:¥ 864

Amazon価格:¥ 864

新書 ( 268 ページ )

ISBN-10 : 4334038689

ISBN-13 : 9784334038687



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