上方落語の会 ▽「七度狐」桂宗助、「地獄八景亡者戯(前半)」桂米團治 2015.08.28


ご機嫌いかがですか?落語作家の小佐田定雄です。
「上方落語の会」の時間がやってまいりました。
本日は去る3月19日に亡くなられました桂米朝師匠のご一門の方にお集まり願いました。
こちらも直門でございます。
桂すずめさんこと三林京子さんです。
よろしくお願い致します。
前から聞きたかったんですよね。
何で米朝一門に入らはれました?ある時に米朝一門全員お出になってお芝居なさったんです。
ありましたね。
その時に皆さんはお芝居をしはって落語ができはる。
私落語ができない。
悔しいじゃないですか。
まあそれが発端です。
あそれだけでっか。
まことに前向きな意見でございました。
またお話は後ほど一緒に伺いますけども。
まずは落語をお聴き頂きましょう。
桂宗助さんの「七度狐」です。

(拍手)
(拍手)え〜お運びでございましてありがとうございます。
落語と落語の間に挟まりまして同じく落語でございまして。
(笑い)私のところも一席ご辛抱のほどを願いますが。
私の方は今日は旅のお話というのを聴いて頂きますが。
旅といいますとねこのごろは世間には便利な乗り物がたくさんにございましてねどこへ行くのにも不自由はせん時代でございますが。
これはそういうものが一切なかった時代。
人間が自分の足を頼りにどこへ行くのでも一歩一歩歩いて旅をしてたというそういうのんびりした時代のお話でございますが。
さてここにございましたのが喜六清八という大阪の馬の合いました2人の若い者。
時候もようなったこっちゃしひとつお伊勢参りでもしようというので大阪を旅立ちましてまず奈良で1泊を致します。
明くる朝は早立ち。
2人そろうてぶらぶらと野辺へかかってまいりましたがこの喜六の方が何気なしに道端の石をポ〜ンと蹴りますとこれが横手の草むらへ飛び込んだ。
とこの草むらで昼寝をしておりましたのが一匹の狐。
この狐の頭にこの石がコ〜ンと当たったんですね。
まあ狐やからコ〜ンと当たったんでしょうね。
まあ狸ならポ〜ンと当たるてなもんでございますが。
この狐がただの狐やなかった。
この辺に年古う住んでおりまして人間にいっぺん仇されると七遍だまして返すという七度狐という悪い悪い狐の頭に当たったさかいたまらん。
額が割れて赤い血がタラタラタラ。
ムクムクッと起き上がった狐。
「悪いやつな。
おのれ〜憎いは2人の旅人。
ようも稲荷のお遣わしたる狐に手傷を負わせたな。
思い知らさん。
今に見よ」。
クルッとひっくり返りますとそのまま姿が見えんようになってしまいます。
そんな事は知りません2人連れの方は…。
「お…おい清やんお前何でそんなとこで考え込んでんねん?」「いや〜ひょっとしたらわしゃな道を間違うたかも分からんと思うてな」。
「しっかりしてえな。
お前は何べんもお伊勢参りしてんねやろ?わしゃ初めてや。
なお前頼りについてきてんのにそんな頼りない事言うてもうたら困るで。
けど道間違うような所はなかったやろ?」。
「さあわしも間違うた覚えはないねやがな見てみぃな。
この目の前にあるこの大きな川。
前来た時にここにこんな川はなかったように思うねやがな。
こりゃひょっとしたら急にできた川かも分からんで」。
「タッあほな事言いないなお前。
川が急にできたりするか?」。
「ああそういう事があんねやてな。
上の方で大雨かなんかが降ってやな堤が切れてダ〜ッとその辺の田んぼや畑が皆水浸しになって川んなるちゅう事があるわい。
うん。
上見ても下見ても橋もなけりゃ渡しのようなもんもない。
こりゃ急にできた川やと思うわ。
いっぺん石放り込んでみぃ」。
「何で石みたいの放り込むねん?」。
「深さを調べんねやな。
石を放り込んでドブンちゅうたら深い。
チャブンちゅうたら浅いな。
浅かったら歩いて渡れん事はなかろう。
いっぺんちょっと石放り込んでみぃ」。
「あそうか。
よっしゃ。
はっ!ちょっと清やんそっち持って」。
「あほかお前は。
そんな岩みたいの持ち上げてどないしようちゅうねん。
もっと小さいんでええねや。
小さいのって…それは馬のフンやそれは。
何をつかむねん。
手ごろな石があるやろ」。
「ああこんなんでええんかいな。
よっしゃほんないっぺん放り込んでみるで。
そ〜れ!」。
「バサバサ」。
「ドブンか?チャブンか?」。
「バサバサいうたで」。
「バサバサってなおかしな音があるかいな」。
「そうかてバサバサいうたがな。
もっと放り込んでみようか。
よ〜っと」。
「ガサガサ」。
「そ〜れ」。
「バサバサ」。
「あかんわ清やん。
なんぼ放り込んでもバサバサガサガサや」。
「ははあ分かった。
こらやっぱり急にできた川やな。
下がこう麦畑になったあんねや。
その上に薄うに水が張ってあるさかいなんぼ放り込んでも下の麦に当たってバサバサガサガサいいよんねや。
これやったら歩いて渡れん事はない。
着物脱げ。
わしのするとおりにしいや。
ええか?まずなこの脱いだ着物を畳んでこの笠ん中に入れんねん。
でこれをな帯でこう胴ぐくりしといてなひっくり返す。
で手拭い持ってるやろ?この手拭いをここへこうくくりつけといてなこの笠ごと頭の上へこうくくりつけてみぃ。
これで着物濡らさいで済むやろ」。
「あなるほどな。
笠ん中へ放り込んでこう帯でくくってひっくり返してで手拭い通して結んどいて笠ごとこうやってこうか?ほんでこうやって着物濡らさいで…」。
「締め過ぎや締め過ぎやお前。
物言われへん。
緩め緩め。
な。
そいからなそこに竹の棒が落ってあるやろ。
そっから2本だけこっち拾といで。
あ〜こっち貸しこっち貸し。
よっこいしょと。
さあお前後ろへ回ってこの竹の端をしっかりと握れ」。
「何でこんなけったいなかっこすんねん?」。
「なんぼお前麦畑というたかてやで間にな溝があったりな小川があったりひょっと野井戸でもあったりしてな落ち込んだら命に関わるさかいなわしがこないして前で足で探り探り前へ進むよってになお前後ろから『深いか深いか?』ちて聞いてくれ。
でわしが『浅いぞ〜』ったらこの竹をグ〜ッと前へ突き出せ。
ほなその分だけわしがこう前へ進むさかいな。
そのかわり『深いぞ〜』ったらグ〜ッと引っ張ってわしの体を止めてくれなあかんぞ。
分かったか?」。
「ああ分かった分かった。
つまり『深いぞ〜』ったらグ〜ッと突き出したらええねやな」。
(笑い)「死んでまうやないかいな。
お前が頼りやさかい頼むで」。
「うん分かってる分かってる。
けど何やな清やん。
こんなかっこして川見てたら絵で見た大井川の川渡りみたいやな」。
「ほんに川幅は広いし大井川みたいやな。
やっ大井川!深〜いか深いか?」。
「浅〜いぞ浅いぞ」。
「深〜いか深いか?」。
「浅〜いぞ浅いぞ」。
「お〜い田野四郎やい。
ちょっと来てみよれ。
旅人が2人裸になってお前とこの麦畑踏み荒らしとるぞあれ」。
(笑い)「あ〜ら何をしとるんじゃな?あれは」。
「ああ大方狐にでもだまされとんのじゃろ。
行て気ぃ付けてやろう。
これ旅の衆何をしとるんじゃ?しっかりせんかい!これ!」。
「深〜いか深いか?」。
「お前ら何を言うとるんじゃお前らは」。
「あらここにあった川どこ行きました?」。
「川みたいなもんどこにもありゃせんがな。
ここは麦畑じゃ。
そう踏み荒らしてもうたらどんならん」。
「いやそやかて今ここに大きな川流れてましたが」。
「ははあお前ら狐に悪さでもせなんだかえ?この辺にはたちの悪〜い狐がいとおるでな」。
「え!そら油断がならんぞ」。
「今更眉毛濡らしたかて遅いわい。
あこっちの方行きゃ街道へ出られるでな早い事行きなされ」。
「えらいすんまへん」。
さあ2人が恥ずかしいもんですからもう着物着るのもそこそこにどんどんどんどんと道をとっていきますとどこでどう道を取り違えましたのか街道へ出られるどころか山道に迷い込んでしまいます。
こっち側は見上げるような高〜い山。
こっち側は切り立ったような深〜い谷。
間を細い道がず〜っと上の方へ続いてる。
もうとっぷりと日の暮れました山道を2人の男がとぼ〜とぼ。
「さあついといで」。
「お…おい。
せ…清やん。
清やん!」。
「何やいな?」。
「お前今度はほんまに道間違うたんと違うか?」。
「ああ今度はどうやら道に迷うたらしいな」。
「お前えらい落ち着いてるなおい。
なあ清やん…。
清やん」。
「おかしな声出しないなお前。
わしゃ別にこんなとこ歩いてても怖い事ないけどなお前のその声が怖いねん声が。
な…何やちゅうねん?」。
「こんな所にや…宿屋あるやろか?」。
「あほな事言いやねん。
こんな山奥にお前宿屋なんかあるかい。
しゃあないな。
今日はお前野宿と覚悟せえ」。
「の…野宿て何や?」。
「野宿知らんのんかいお前。
野に寝るさかいに野宿やがな」。
「あ野に寝るさかい野宿か。
ほな山で寝たら山宿やな」。
「まあまあそういうこっちゃな」。
「ほな鳥なんかあれ皆枝宿やな」。
「まあそういう事やな」。
「ほなそろばんの上で寝たらそろばん宿か?」。
(笑い)「もうそんなしょうもない事言うてんねやあれへんがな」。
「いやもうわいな山宿も野宿も嫌いやねん。
宿屋宿の布団宿にして」。
「それがでけへんさかいこないして歩いてんねやがな。
おっ心配すな。
ちょっと向こう見てみぃ。
明かりがちらちら見えてるやろ?あら山寺か何かやと思うねや。
向こう行て一晩泊めてもらお。
ついといで」。
(戸をたたく音のまね)「こんばんはこんばんは」。
「はいどなた?」。
「お…おい清やん。
ねえ…女の坊さん出てきはったで」。
「『女の坊さん』ちゅうやつがあるかい。
あら尼はんや」。
「へ?」。
「尼はんや」。
「何や?尼はんて」。
「女の坊さんの事を尼とこない言うねや」。
「あ女の坊さんの事尼言うの?ほな男の坊さんは西宮か?」。
「もうそんなあほな事言うてんねやあれへんがな。
え〜わたいら伊勢参りの旅の者でございますねやが道を取り違いまして行き暮れて難渋致しております。
こちらで一晩泊めて頂く訳にはまいりまへんやろか?」。
「まあそれはそれはお困りのご様子で。
人を助けるのは出家の役とか申します。
ささどうぞ。
掛き金も何も掛かってございませんので勝手に開けてお入りを。
そこの桶に水もくんでございます。
足袋脱いで草鞋脱いで足洗うてどうぞこっちお上がりを」。
「おい清やんやっぱりここへ泊めてもらうのやめとこか?」。
「何でやいな?」。
「そうかてあの尼はん難しい事言うてはるで。
足袋脱いで草鞋脱ぐやなんて草鞋脱がんと足袋脱がれへん」。
「しょうもない事言いなっちゅうねん。
黙って上がれ。
えらい無理な事をお願い致しまして」。
「いえいえ何のおもてなしもできませんが。
あのお二方はおなかはすいてやございませんか?」。
「あそれでしたらねちょっとこう小腹のすいてるようなあんばいで」。
「山家の事でこれというごちそうはございませんがそこの鍋に雑炊ぐらいなら炊けてございますが」。
「雑炊!わたいら雑炊好きでんねん。
ええ。
フグ雑炊やとかねクリ雑炊やとかマッタケ雑炊…」。
「そのようなぜいたくなものはございませんが。
今日は当寺の開山のお上人の忌日にあたりますので月にいっぺんずつ炊きますベチョタレ雑炊というのがございます」。
「ベチョタレ雑炊?あんまり聞かん雑炊やなそら。
へえ頂きます」。
「それでしたらそこにお茶碗もお箸も置いてございますのでどうぞ勝手によそうておあがりを」。
「ああさよか。
えらいすんまへん。
ああこの鍋やな。
わっわ〜えらい湯気が上がったあるな。
え〜こういうのはな熱いうちがごっつぉうやさかいな。
うん。
ささお前も勝手についで呼ばれや」。
「へえほな遠慮なしに頂戴致します。
へえ〜熱そうやなこら」。
「んんんんん…ん?」。
「庵主さんちょっとお尋ねしますけど舌の先にザラザラしたもんが残りまんねやがこら一体何でございます?」。
「あそら味噌が切れとりましたので山の赤土が入れてございます」。
「赤土ですかこれ?赤土が食えますか?」。
「あれは体に精をつけますでのう」。
「あ〜さよか。
おい赤土で精つけんねやて。
わしら植木と変わらんなおい」。
(笑い)「んんんん…ん?あの何べんもすんまへん。
この1寸ぐらいに切ってあってかみしめると甘〜い汁が出まんねやがこの藁みたいなもんはこれ何でございます?」。
「あそら藁みたいなもんやない。
藁でございます」。
(笑い)「ああさよか。
言いようもあるもんやな。
藁みたいなもんやのうて藁やねやてこれ。
笑うなあ」。
(笑い)「藁が食えますか?」。
「あれは体をホコホコと温めますでのう」。
「はいはい。
藁食て土食てこれで左官飲んだら腹ん中へ壁が塗れるなおい」。
(笑い)「もし!何やカエルみたいなもんが出てきましたが」。
「まあ出すの忘れとりました。
ダシとるためにイモリが…」。
「イモリ!?おおきにごっつぉはんで」。
「まあ遠慮なさらずにもっとぎょうさん…」。
「いえもう結構です。
ええ。
今のイモリ見た途端にグッとこうおなかが膨れました。
もう結構でございます」。
「まあお口には合いますまい。
また明日になりましたら麦ごはんなど炊いて進ぜましょう。
あの〜それからお泊まり願う早々こんな事お願いして何でございますねやがお二人にちょっとお留守番をお願い致したいんで」。
「留守番!?こんな夜中へどっかお出かけで?」。
「実はこの下の村におさよ後家という金貸しのおばあさんが住んでましてな貧しい人に高い利子でお金を貸し付けては厳しゅう取り立てるあまり評判のええお方やございませなんだんやが今朝方ぽっくりと亡くなりましてな村の者が寄ってお通夜をしとおりましても貸し付けたお金に気が残りますのか棺桶の蓋をはねのけては『金返せ金返せ』と出てきて困るねやそうで。
悪い人でも死にゃ仏。
これから行てありがた〜いお経あげて成仏さしてやりたいと思いますのでちょっとお二人にお留守番を」。
「あんた行くねやったらそんな話せんと行きなはれあんた。
こう見えてもわたいら怖がりでんねや。
こんな寂しい山寺で2人だけで留守番やなんて」。
「いえこの寺も宵の口はこのように寂しゅうございますが夜が更けるとまたにぎやかになりますでのう」。
(笑い)「けったいな寺やなあええ?宵が寂しゅうて夜中…。
分かった。
庵主さんあんさんがまだお若うておきれいなさかいね夜中になったら村から若い者が遊びに来まんねやろ?」。
「いえそのような事はございませんが。
ちょうどこの本堂の裏手が墓場になっておりまして夜が更けると骸骨がぎょうさん出てきて相撲を取って遊びます。
『ハッケヨイ残った。
ガチャガチャガチャガチャ』と音がしてまことににぎやかで」。
「何のにぎやかな事がおますかいなもう。
そんな骸骨の相撲なんか嫌いでんねん」。
「それからもう少々夜が更けて丑三つという頃になりますとなそのご本尊の阿弥陀さんの真裏手が新仏の墓になっておりまして。
これは上の村のお庄屋さんの娘さんがよそへ縁づかはって間なしに亡くなってでございましたがおなかに子どもがあるのをそのままうずめたところ土の温気でどうやらそのややが生まれたような様子。
雨がしとしと降る晩なん…。
あっちょうど降ってまいりました。
このような晩にはその廊下の障子の所へポッと明かりがさしますとなこうややさんを抱かはって。
ねんねんよ〜おねやれや〜とあやして歩かはります。
そらもうほん情があって…」。
「何の情がおますかいなもう。
そんな話聞いたらとても留守番なんかでけしまへん。
なんとか夜伽日延べちゅう事に…」。
「いえ夜伽日延べという訳にはまいりません。
それもあの阿弥陀さんの前のお灯明あの火さえ消さなんだらそのような魔性のものは出てまいりませんのであの火にさえ気を付けといて頂きましたら大丈夫でございます。
ほなちょっと行てまいりますのでよろしゅうお願いを致します」。
「ちょっともし庵主さん行ったらいかん行ったらいかんちゅうのに…お〜い!あ〜行てしもうたがな。
清やんどないしよ?」。
「『どないしよ』ったかてしゃあないやないけえ。
度胸据えな。
それよりもなあのお灯明が消えたらえらいこっちゃさかいなちょっと油の具合見といで」。
「ああせやな。
油が切れたらえらいこっ…。
あっ清やんえらいこっちゃ。
油もうなんぼも入ってへんわ」。
「あかんあかん。
おい。
そこらに油どっくりか何かあるやろ。
ちょっと油足しとけ!油足しとけ!」。
「あせやな。
油足しとかんと。
ああこれやな油どっくりな。
よし。
この油を足しとかんとな。
消えたらえらいこっちゃさかい」。
「ジュジュージュージューパチパチ…」。
「あら?けったいな音するなこれ。
え?」。
「ジュジュージューパチパチパパパーチパーチ」。
「お…おいおかしな音してるでおい。
大丈夫か?」。
「いや何や知らんけどな油足したら火がついたり消えたりすんねん」。
「おいそれほんまに油か?」。
「ちょ…ちょっと待ってやちょっと待ってや。
うんうんうんうん…あこらしゅうゆや」。
「あほ!油にしょうゆ混ぜてどないすんねやお前!」。
「あっあ〜消える消える!あっあ〜ついたついたついた。
あ〜消える消える!あ〜ついたついた。
あ〜消える!あ〜消える!あ〜消えたがなあ」。
「ねんねんよ〜」。
「あ〜出た〜!」。
「今のはわいや」。
「もうあほな事しぃないなもう!わしゃ寿命が縮んだがな」。
さあ2人がワーワーワーワー言うとりますと下の方から5〜6人の人間が手んでに松明を持ちまして何やら重たそうに担げてこっちへ上がってまいります。
「行け行け〜!おいしっかり担げしっかり担げおい。
え?おい明かり持ってる者前へ回って足元照らさんかい。
何のために明かり持ってんねん。
おっここ水たまりあるさかい気ぃ付けよ。
よっこいしょ。
よっしゃこの辺でじんわり下ろせじんわり下ろせ。
どっこいしょっと」。
(戸をたたく音のまね)「こんばんは。
庵主さんいてはりまっか?こんばんは」。
「へ…へえ。
あのねえ庵主さんでしたらね下の村のおさよ後家とかいう人の所に夜伽に行ってはりましてね今お留守でっせ」。
「お留守!?ほれ見てみぃ。
わしが上の道行こうっちゅうのにお前らが下の道がええっちゅうもんやさかいあんばい尼はんとこう入れ違いになってもうたやん。
いやわたいらそのおさよ後家んとこから来た者でんねん。
皆寄って夜伽してましたんやけどもなおばんがまたしても棺桶の蓋はねのけては『金返せ〜金返せ〜』ちゅうて出てきてもうやかましてかなんのでな『まあ一晩早いけどお寺へ持ってこうか』言うて棺桶ここへ持ってきてまんねん。
まあ庵主さんにはまたじきに帰ってもらいますんでなこれちょっとそっち預かっといて」。
「あかんあかんあかんあかん。
そんなもん持ってこんかてこっちは『ねんねんよ〜』やら『ガチャガチャ』やらぎょうさんいてんねやさかいな。
いや置いてってもうたら困んね。
おいちょっと待ってなお〜い。
あ〜行てしもうたがな。
清やんこんなん一つ増えた」。
「もうそっちの隅の方へやっとけ。
隅の方へ」。
さあ2人がガタガタガタガタ震えておりますうちに次第次第に夜が更けてまいります。
夜嵐というやつがゴ〜ビュ〜。
置いてありました棺桶がメリッメリッミシミシミシミシ。
鳴りだしたかと思うとかけてありました縄がバラリ蓋がポ〜ンと飛びますと中から老いさらばえた老婆が白髪振り乱してそれへ指してズ〜ッ!「金返せ金返せ〜!」。
「あ〜出た出た出た!わてらお金お借りした者とは違います。
い…伊勢参りの旅の者」。
「伊勢参りか。
伊勢音頭を歌え」。
「もうそんなもん歌えますかいな。
このさなかに音頭やなんて」。
「歌わねばそこへ行くぞ」。
「あ…来たらあきまへん。
う…歌いますさかいこっち来たらあきまへんで。
よろしいな?お伊勢七度熊野にゃ三度」。
「ヨイヨ〜イ」。
「あんたは黙ってなはれもう。
合いの手はいりまへんねん合いの手は。
愛宕さんにはな〜」。
「お〜い田野四郎。
今度あの旅人石の地蔵さんの前で伊勢音頭歌っとるどありゃ」。
「何じゃまただまされとんのじゃなあれは」。
「あ〜行て気ぃ付けてやろかい。
どれ旅の衆しっかりせんかい。
これ!」。
「ヤートコセー」。
「何が『ヤートコセー』じゃお前ら」。
「あれ?ここにあったお寺どこ行きました?」。
「まだそんな事言うとんのんかい。
ええ?寺みたいなもんどこにもありゃせんがな」。
「いやそうかて今ここに大きな…ああ見てみなはれ。
寺の門があんな所におまっせ」。
「え?おい田野四郎よ。
あれが寺に見えるとよ。
え?狐がムシロ持って立っとんのじゃないかい。
あの悪いド狐また懲らしめてやらないかんのう。
よしお前そっちから回れ。
わしゃこっちから行くでな。
この悪いド狐めが!あ今度はこっちじゃな!このガキゃ!こいつめが!こいつめが!こいつめが!」。
さあ2人のお百姓に追い詰められました狐逃げ場を失うて畑ん中へゴソゴソゴソッ!「よ〜し狐の尾をつかんだぞ!」。
「その尾を離すなよ!」。
「離してたまるかい!」。
さあ狐は逃げようとする。
お百姓は逃がすまいとする。
双方の息の合うた弾みというのは恐ろしいもんで狐の尾がズボ〜ッ!「あ〜尾が抜けた」。
ふっと見ますと畑の大根抜いとりました。
(拍手)え〜桂宗助さんの「七度狐」でございました。
話の途中にお囃子が入ってましたやろ?あの音源はこちらでございます。
下座でございます。
上方落語にはなくてはならない下座囃子。
次の話もたっぷり出てきます。
次の出し物は桂米團治さんの「地獄八景亡者戯」です。
どうぞ。

(拍手)いっぱいのお運びでまことにありがたく御礼を申しております。
今日は米朝の直弟子という特集でございましてね。
まあ米朝が他界してもう3か月ぐらいたってるんですがいまだに取材を受けております。
やはり御曹子は大変なもんでございますけども。
(拍手と笑い)ありがとうございます。
もう本当にすごいですよ。
人間国宝ですから。
ねえ。
まああの皆さんお葬式ご覧になりました?大往生ですね。
何かね「寂しいでしょ?」とかって言われてますけどもう89まで生きてあれだけ大きなお葬式して頂いたら大往生でございますよ。
またあのお葬式合同祭ご覧になった方あるかも分かりませんがまああの〜私中川家の喪主でございます長男でございますから。
でも米朝事務所の方もマネージャーが代表に立ちまして米朝一門代表に2人立ったんです。
ざこばさんの横に月亭可朝さんが立ったんです。
で電話たくさんもらいまして「可朝さんも米朝一門やったんですか?」ってこういう問い合わせ。
実はそうなんでございますよ。
亭号が違いますけれどもね。
あの方は昔先代の染丸さん林家染丸さんのお弟子さんで林家染奴っていってはったんですよ。
でもある事があって破門されはりましてですね…。
(笑い)それでこっちへ回ってきはったんですよ。
中途採用組でございます。
もうざこばさんよりは古いんでだから…内弟子からやったのは筆頭はざこばさんですけどまあ古いから可朝さんも2人並びまして…。
まあ可朝さんのあの挨拶すごかったです。
カンカン帽かぶってしゃべってはるんですよ。
で「米朝師匠三途の川向こう渡ったらマリリン・モンロー歩いてまへんか?ベートーベン歩いてませんか?」。
クスクスクスクス笑いが起こるんですよ。
前から3列目に春風亭小朝さんいてはった。
小朝さんが「ハハハハハ!」って笑いはって。
(笑い)その瞬間あこれは笑ってもいい会なんやな。
えらい盛り上がりまして「ウェ〜ウェ〜」笑てる横で一人ざこばさんだけが「あ〜!」。
(笑い)まあ何があってもお笑いになる訳でございまして。
今日はひとつその米朝が復活させましたネタでございまして。
皆さん方をこれからあの世へお連れ致します。
え〜どうぞ乗り遅れないようについてきて頂きたい。
いずれはあちらへ行く。
一足先にあの世の旅でございまして。
ここにございましたある男よそからサバを1匹もらいましてそれを手料理にして二枚におろしましてね骨つきの方は冷蔵庫にしもて片身をこう作りにしまして食べたところこれにあたりました。
サバというのは足が早い。
フ〜ッと意識が遠のいて再びフッと気が付くと何やら空々寂々とした暗〜い所へ出てまいりました。
前を行く者後から来る者それぞれ額には三角の角防止をつけまして首からはずた袋手には麻幹の杖をつき糸より細い声を上げ…。
「お〜い…。
そこ歩いてはんの伊勢屋のご隠居はんと違いまんの?やっぱりそや。
伊勢屋のご隠居」。
「これはこれは又兵衛さんやないかいな」。
「ご隠居ご機嫌よろしゅうございまんな」。
「こんなとこで会うてあんまり機嫌のええ事はないで」。
「そらそうでしたな。
お変わり…ありすぎますな。
どない言うて挨拶したらええんや分からしまへん」。
「まあ挨拶はええがほんまに妙なとこで会うた」。
「ご隠居私あんさんのお葬式手伝いにあがらしてもうてましたんやで」。
「ああ来てくれてたなあ」。
「『来てくれてたなあ』てなるほど棺桶の隙間から中外をのぞいてはりましたんかいな」。
「そんな事するかいな。
上から下見下ろしてたんや」。
「幽体離脱!」。
「そうやあんな体験初めてや。
フ〜ッと体浮き上がったら自分の遺骸が下に見えてあんねん。
おもろいなあ自分で自分の葬式見るのは。
あの人も来てくれてる。
この人も来てくれてる。
中にはなあ手握って泣いてくれてる人頬ずりまでしてくれてる人あったけどほんまに別れを惜しむんやったら天井見て言うてもらいたいなあ」。
「ハハッそらほんにそうでんな」。
「いやおまはんかて自分の葬式見て分かったやろ?」。
「いや私ね葬式見んとこっち来ましたんやがな。
いやいや〜サバであたってこっち来ましたんやけどその時嫁はん留守で旅行に行ってましたんやへえ。
自分の遺骸をボ〜ッと見続けてるっていうのは寂しいもんです。
もうあほらしなってこっちへ来ましたんや」。
「そらえらい気の毒な事を…」。
「いやいやわたしらもうそんな心残りおまへん」。
「いやいやこっちへ来たら心残りあるやろう」。
「いや〜私そんな…。
一つだけ心残り思い出した」。
「あるやろ?当ててみよか。
分からいで。
一緒になってまだ2年もたたん。
かわいい女房と離れ離れになんの心残りやろ?」。
「それはないわい。
亭主ほっといて旅行行くような女そんなもん心残りやおまへんがな」。
「そんなかわいそうな事言うたりないな。
ほたら何かいなええ?おなかに子どもが宿っててかわいい我が子を見なんだんが心残りか?」。
「いや子どもは気もなかった」。
「ほな何が心残りやねん?」。
「冷蔵庫にしもてた片身のサバ」。
(笑い)「同じ死ぬんやったらあれもきれいに食べてからこっち来たらよかったな思てなあ。
悔しい!」。
「何を言うてんねや。
ここはもっと大きな心残りを皆持ってんねや」。
「でわたいらこれからどこ行きまんねや?」。
「さあさあ閻魔はんの前でお裁きを受けて極楽へ行く者と地獄へ落ちる者振り分けられんねやろな」。
「はあ〜私ね今までよう分かりまへんでしたんやけど地獄ちゅうのはどこにおまんねやろなあ?」。
「大概極楽の裏側いう事になったんねや」。
「はあ〜極楽はどこにおまんねやろなあ?」。
「地獄の表側いう事になったん。
結局分からしまへんねや。
わしも初めて来た。
この人の波についていったら連れてってもらえると思うねや」。
「さよか。
ええお供さしてもらいます」。
「ほな一緒に歩いてくれるか?」。
「へえお供さしてもらいまっせ。
え〜やえらいとこで会いましたなあ」。
さあ話をしたあとず〜っと歩いていった。
後からやってまいりましたんが今度は人数が10人ばかりの団体でございましてね。
真ん中を大手を振って歩いてるのが金持ちの家の若旦那でございます。
もう娑婆でしたい事はし尽くしたという若旦那。
食べたい物は食べ尽くした。
飲みたい物は飲み尽くした。
行きたい所へは行き尽くして遊びたい女とは遊び尽くしたという往年の桂小米朝みたいな男でございましてですね。
(笑い)ここで笑われたら恥ずかしい訳でございますけれども。
もうこの上はあの世へでも行こうやないか。
あの世ツアーが企画されましてほんならお茶屋の内儀さんから芸妓さん舞妓さん一八という幇間までが…。
「若旦那お供しまひょう」。
「ほなまあ何で死のう」。
「あああれしましょう。
フグの肝食べましょうええ。
おいしいいう事は聞いてましたけどあたるの怖さに食べた事ない。
フグの肝を食べましょう」。
フグにフグを買いに行きましてフグに料理してフグに食べてフグにあたってこっちへ来た。
そんなんですさかいいでたちからして変わってますな。
もう黒紋付きの紋はフグの紋所がボンボ〜ン。
おなご連中もフグの紋付きに水菜と根深が裾の方にあしろうてあるという妙ないでたちでやって来るその道中の陽気な事!ほんまに気楽な若旦那のようでございましてね。
今でいうたら月亭八光みたいなもんでございまして。
「はよ来いよ〜!」。
「ちょっと待っとおくんなはれな若旦さん。
そう先先歩いたらあきまへん。
おなご連中きれいに着飾ってまんねん。
先先歩いたらあきまへんがな。
あんたらも早い事おいなはれや」。
「まあ待っとおくんなはれな若旦さんなあ。
そう先先歩かれしまへんがな」。
「若旦さん待っとくんなはれ。
若旦さん待っとくんなはれな」。
これ舞妓さんのビラビラのかんざしが風に揺れてるとこでございます。
「待っとおくんなはれな〜。
もし」。
「おお一八」。
「『一八』やおまへんがなあんた。
ええ?何でそう先先行きはりまんねや?」。
「すまんすまんちょっとな考え事をしてたんや」。
「考え事よろしいやなええ?もうにぎやかにこっちへバ〜ッと来たんやさかい」。
「気楽な男やなあ。
わしゃほんまにこの三途の川向こうへ渡れるかどうか心配やねん」。
「何でだんねん?」。
「娑婆におる時分にな地獄極楽の絵図というのを見た事があんねやああ。
三途の川のたもとにな柳の木が立っててしょう塚の婆奪衣婆という怖い顔をしたおばあさんが亡者の着物を剥ぎ取る絵見た事あんねん。
わしら剥がれてもええけどおなご連中きれいに着飾ってるがな。
ええ?裸にされんの気の毒や。
『地獄の沙汰も金次第』ちゅうやろ。
なんとか着物を着たまま向こう岸まで渡れる手だてないかいなとそれを思案しながら歩いてたんや」。
「ほたら何じゃすかいな。
そのおばんを金の力で『うん』と言わしたらよろしいの?それやったらこの一八がいてるの忘れてもうたら困るがなええ?おばんを金で『うん』と言わすのは私の十八番でっしゃないかいな。
忘れなはったんか?あんた。
一緒に皆で箱根へ行った時ええ?もういろいろ遊びましたがな。
ほいでそこでええ…こんなった。
その子がまた大阪のミナミの子やった言うて。
はあそれでも手ぇ出しはった。
同じミナミで今度別の置き屋の子に手ぇ出しはりましたやろ。
元のなああの置き屋の女将がほっとかしまへんがな。
角出してキ〜ッ乗り込んできて『まあうちの子に恥かかしたな。
手切れ金よこせ慰謝料をよこせ。
どうでも300万円払え』というところを私間に入って150万円で話をつけた。
あの時の手柄買うてもらわんと」。
「ちょっと待ちや。
あの時わし300万払うたで」。
(笑い)「あっ!」。
「『あっ』やあれへんがな。
お前が間に入って150も抜いてたんかいな」。
「こんなとこでバレるとは」。
「おいおい。
しかしお前言うてよかったんや」。
「何ででんねん?」。
「言わなんだらその罪で地獄落ちるとこやったんや。
しゃべったさかい罪消えたんや」。
「え?しゃべったら罪消えまんの?」。
「ああ昔から懺悔というてな口に出してしゃべってしもうたらその身の罪は滅びるとしたあんねや」。
「さよか〜!ほなもう一つあんの言うてしまおかしら」。
(笑い)「まだあんのんかいな?」。
「実はあんた指宿に皆行った時にあんた『金の時計が無くなった金の時計が無くなった』言うてたんなあ。
あれわたいや」。
「お前かいな!一緒になって探し回ってたがな。
どんならん。
あれは改めておまはんに差し上げます」。
「おおきにありがとう。
それから…」。
「まだあんのんかい!もうわしからとったんはもう皆改めておまはんに差し上げます。
はいはいはいはい。
よそでしたんは知らんさかいな」。
「いやよそではしてぇしまへん。
ええ。
もうしやす〜い人に決めてた」。
「どんならんな。
ほなもう財布預けとくさかい話つけてきてんか?」。
「へえちょっと待っとくれやっしゃ。
これが三途の川やろ?う〜ん。
柳の木あるけどおばんいてへん。
ああそこに茶店あるわ。
聞いてみよ。
ちょっとお邪魔します」。
「おいでやすおおきに」。
「いやちょっと話があって来ましたんやけど。
この前流れてる川これ三途の川とかいう川でんな」。
「はあこれがかの有名な三途の川でございますんやわ」。
「柳の木がおまっしゃろ?で私聞いたんですけどしょう塚の婆ちゅうのが亡者の着物を剥ぎ取るっちゅう話を聞いてきましたんやけど今日おばあさんの姿見えしまへん。
今日はおばあさんお休みですかいな?」。
「まああんたしょう塚のおばあさんやなんてあんた古い事ご存じでんなあ。
それあんた戦前の話だっせ」。
(笑い)「戦前ですか?」。
「はあ。
もう終戦からこっち地獄も様変わりしましてなあ。
民主化の波が押し寄せてまいりましたんやがな。
ほなもう着物剥ぎ取られる心配ございません。
もうちょっと行ったらな鬼の船頭が渡し船で渡してもらえますさかい」。
「えらいすんまへんなええ!え〜聞いてまいりました」。
「どやった?」「いやいや聞いてた聞いてた剥ぎ取られる心配ございません。
どうぞこちらへ!わ〜皆見てみなはれ。
大きな船やがな屋形船。
ええ?白木の屋根に漆塗りの屋形船。
霊柩車みたいな船や。
早い事出せよ」。
「亡者の衆か〜!」。
「わ〜鬼は大きい」。
「さあ乗れはよ乗れ。
さあ乗れはよ乗れ」。
乗り前が決まります。
歩み板をば引き上げる。
3間半赤樫の櫂でグッと突くと船は岸を離れます。
深みへ出てまいりますともう櫂ではどうならん。
艫と変わる。
長い長いやつを川ん中へザブ〜ン。
艫臍にガチャリとはめ込んでプッと霧水の一杯も吹いたところで赤松を割ったような腕によりかけこぎ出した。
「ボジョイ!」。
「うわ〜動き出したら風が入ってきて気持ちよろしゅうおまんな」。
「ほんまに涼しい。
いや〜三途の川ってきれいな川や〜」。
「いやほんまや。
こんな透き通って底見えまっしゃやないかい」。
「ほんまやわあ。
道頓堀とえらい違いやがなええ。
いや〜手ぇつけてみよ。
あ〜冷た!あ〜冷た!」。
「こらこらこら!あんまり身ぃ乗り出すな。
はまったら生きるで!」。
「聞きなはったか?『はまったら生きる』て言うてまっせ。
はまりましょか?」。
「あほな事すんな!向こう岸に着いて人数と帳面が合わなんだらまた始末書書かされんならん。
あほな事すんなよ」。
ぼやきながら向こうへ渡しますとえらいにぎやかなとこで。
「えらいにぎやかなとこや。
すんまへん。
ここは何ちゅうとこでんねん?」。
「あんたこれ六道の辻でんがな」。
「これが六道の辻!わ〜道が6本に分かれてますがな。
いや〜にぎやかでっせ。
真ん中に太い道がボ〜ンとまっすぐ続いたある。
この道何でんねん?」。
「まあこれが冥途のメインストリートでございましてなあ。
冥途筋ちぃいいまんねやがな」。
「何です?」。
「冥途筋ちぃいいまんねや」。
「はあ〜突き当たり南海電車でんな」。
「いやいやそれは御堂筋でっしゃろ?こっちは冥途…」。
「あ冥途筋ちぃいいまんの。
いや〜高いビルが…」。
「このごろな冥途もいろんな高いビルが乱立してまんねや」。
「へえ〜!大きなビル建ちましたあれは何でんねん?」。
「あれ一番高いビルでなあべの最上ハルカスいいまんねや」。
(笑い)「あべの最上ハルカス!何やってまんの?」。
「文芸講演会今やってるわ」。
「文芸講演会やて。
あっ看板上がったある。
『本日の出演芥川龍之介』やて!『太宰治有島武郎三島由紀夫』やて。
『テーマ自殺について』や」。
(笑い)「こういうものは娑婆では聞けまへんな」。
「ああほんまに値打ちもんでっせ」。
「あっち見てみなはれ。
大きなビルや。
あれは何でんねや?」。
「あああれはNHKホールや」。
「えっ!?NHKいうたら確か日本放送協会でんな」。
「いやいや南無妙法蓮協会いいまんねや」。
(笑い)「南無妙法蓮協会?何やってまんねや?」。
「まあコンサートようやってますけど大みそかのな『歌合戦』よろしいであそこ。
『黒白歌合戦』最高でっせ」。
「『黒白』ですか?」。
「女黒組男白組。
交代交代歌いまんね。
去年の『黒白』見せたげたかったわ。
黒組のトリは美空ひばりや」。
「えっ!お嬢出ますか?」。
「ああ背中に羽背たろうてな大階段下りてきまんねや。
マイクの前へピタッと立って『不死鳥も死にました』言うて。
・『知らず知らず歩いて来た細く長いこの道』てええ歌やったあの『三途の川の流れのように』という歌。
まあ…あれもう今年はね見逃したらあきまへんで」。
「ああそうでっか。
ええ?あっちの方また野外ステージになってる」。
「ほんまや野外ステージや。
見てみなはれ見てみなはれ。
若い女の子が10人20人やおまへんで。
40人以上踊ってますがな。
あれは何でんねん?」。
「あらYKB48や」。
(笑い)「それも言うならAKBでっしゃろ?秋葉原に集まるオタク系の男の子当て込んで投票さしてセンター決めるアキバ系でっしゃないかい!」。
「それは娑婆の話。
こっちはYKB」。
「YKBって何でんねん?」。
「焼き場系や」。
「焼き場系!?」。
(笑い)「きれいに焼かれたい男の子集まってまんねんがな。
ほな女の子が・『会いたかった会いたかった』男の子が萌え〜」。
「ほんまか!?こないにぎやかやと思わなんだがなええ?あっち提灯ずら〜っと並んでまんな」。
「あああら芝居町や」。
「芝居町いうたら?」。
「いろんな興行やってまんねん」。
「芝居いうたらあんた歌舞伎」。
「歌舞伎てなもんこっちでいっぺん見てみなはれ。
娑婆の歌舞伎もうあほらしいて見てられへん。
もう何しろ名優は皆こっちへ集まってくるんやな」。
「ああ」。
「こないだ蓮華座でやってた『仮名手本忠臣蔵』の通し初代から十二代目までの市川團十郎総出演や」。
「見たかったな〜」。
「そのかわりややこしい。
誰が出ても皆團十郎やねやから」。
(笑い)「なるほどね〜いや〜。
あっちの方は何でんねや?」。
「あら映画館や」。
「映画館?」。
「今日はたまたまな『鉄道員』とな『トラック野郎』2本立てや」。
「『鉄道員』と『トラック野郎』!?」。
「舞台挨拶高倉健と菅原文太や」。
「えっ!あの人らしゃべられへん。
『不器用ですから』言うてますがな」。
「そやさかい急きょ司会が立ったんやがな」。
「司会?あっ『愛川欽也相務め申します』。
早速働いてはるがな。
いや〜。
あっちは何でんねや?」。
「あああっち演芸場や」。
「演芸場?」。
「ああ。
『本日今いくよさん来演』」。
「お〜すごい!」。
(笑い)「つけまつげつけんのに時間かかってはるわ」。
「いや〜え〜。
私落語が好きでんねや」。
「落語もあんねやがな。
こっち見てみなはれ」。
「わっ看板ぎょうさん上がってはるわ。
ええ?『三遊亭圓生独演会』やて。
わ古今亭志ん生志ん朝独演会』『立川談志独演会』やて」。
「あれはドタキャン」。
「え?」。
(笑い)「楽屋口で小さんさんとバッタリ会うてけんか始まりましたんや」。
「まだもめてまんのん?」。
「あそこは根が深いで」。
「私大阪でんねや」。
「大阪…大阪の寄席は長い事なかったんやけどな今から8年前やったかなあ。
『これではあかん寄付募ろう』て寄付でやっと出来ました繁昌亭いうのが出来ますわ」。
「繁昌亭出来…あっ提灯つったある。
『繁昌亭』やて。
わ〜!『半分焼ける亭』と書いて半焼亭」。
(笑い)「験の悪い事言いな」。
「書いてあるがな。
わ〜看板ぎょうさん上がったあるで。
わ〜!『文の家かしく』やて。
『笑福亭松鶴親子会』やて。
『桂文團治桂米朝』。
えっ!?米朝も?」。
「出てまんねんがな。
今までは近日来演や言うてたけど出てまっせ」。
「え〜っ!」。
(笑い)「『近日来演』?」。
「いや〜本日来演や」。
「いや〜こら行かなあかん」。
「ところがもう切符売り切れた」。
「切符売り切れてる?あかん」。
「もうええ。
楽屋から入れてもらお楽屋口から。
開けえ開けえ開けえ。
いてはったいてはった米朝師匠いてはったいてはった。
見てみなはれあの舞台袖で腕組んでしかめっ面して弟子の話を袖から聴いてまっせ。
そういうたら何ですなあ。
あそこは弟子からはよこっち来たから前座に事欠きまへんな。
ぼやいてはりまっせ。
聞いてみまひょか」。
「まあとにかく枝雀は枕が長いなあ」。
(笑い)「また体が座布団からはみ出たあるやないかい。
あの癖まだ直らんのんかいな。
ええ?あ〜米八まだコマ回してんのんかいなええ?うまいの吉朝だけやないかい。
どんならんなあ」。
「すんません。
えらいぼやいてはりまんなあ」。
「おお明やないかい」。
「お父さん」。
(笑い)「お前何でこんなとこ来たんや?」。
「『何で』て成り行きでこうなりましたんやけどもな。
お元気ですか?」。
「いや〜不思議とここへ来たら喉のつかえも通って楽やねん」。
「あ〜そらよろしいな」。
「そやけど明は何でここへ来たんや?」。
「いや〜その前に『明』やとか『小米朝』やとか私もう米團治になって7年なんねやけど。
一回も『米團治』て呼んでもうた事がなかった。
いっぺんぐらい『明』やとか『小米朝』言わんと『米團治』って呼んで下さい」。
「あほ抜かせ!そんな事言うたら先代に申し訳がない。
おまはんはここへ来んのは100年早い。
もっと娑婆で修業せえ」。
(拍手)改めまして本日のゲストは桂すずめさんこと三林京子さんです。
(2人)よろしくお願いします。
今日出演してる2人の噺家ですけど米朝一門の。
どちらか何か思い出というかエピソードございますかな?え〜宗助さん。
あっ宗助君はい。
すぐ上の兄弟子なんですけれどえ〜まあ「米朝師匠はもう口移しの稽古はでけへんさかいにどっかへ行って稽古してくれ」と言うて教えてもらったのが宗助さん。
あっ宗助さんがネタをつけたんですか?はい。
まあ師匠より宗助さんの方が怖かったか分からへん。
ハハハ!ねちねち言わはんの?やっぱり。
いやもう顔がねだんだんもう「はあ〜」って。
え〜!何も言わはらへんのですけど横向いてね「は〜」ため息いうかこう「は〜」。
そんな稽古でしたけどね。
やっぱ師匠に言われてはるから責任も感じてはったんやと思いますよねもちろん。
師匠に教わった事は伝えなあかんと…。
そうそう。
「私はそんなふうに教えてもうてません」みたいな…こういう感じでね。
なるほどね。
いやいやまだまだお話伺いたいんですけどもこのインタビューの続きはまた次回という事で。
引っ張ります。
では今日は「上方落語の会」これでお開きでございます。
ではさよなら。
2015/08/28(金) 15:15〜16:00
NHK総合1・神戸
上方落語の会 ▽「七度狐」桂宗助、「地獄八景亡者戯(前半)」桂米團治[字]

▽「七度狐」桂宗助、「地獄八景亡者戯(前半)」桂米團治▽第353回NHK上方落語の会(27年6月4日)から▽ゲスト:三林京子▽ご案内:小佐田定雄(落語作家)

詳細情報
番組内容
第353回NHK上方落語の会(米朝直弟子の会)から、桂宗助「七度狐」と桂米團治「地獄八景亡者戯(前半)」をお届け▽七度狐:喜六と清八が伊勢参りへの途中、すり鉢を草むらになげたら、そこで寝ていた狐に当たって…▽地獄八景亡者戯(前半):好物のさばを食べて、そのまま空々寂々(くうくうじゃくじゃく)とした世界へやってきてしまった男。様々な者たちの冥土の旅は続くが…▽ゲスト:三林京子、ご案内:小佐田定雄
出演者
【出演】桂宗助,桂米團治,【ゲスト】三林京子,【案内】小佐田定雄
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落語
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漫才

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – トークバラエティ
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸

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