新国立競技場:縮小案、決定…総工費1550億円上限
毎日新聞 2015年08月28日 21時30分(最終更新 08月28日 23時45分)
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場について、政府は28日、総工費の上限を1550億円とした新たな整備計画を決めた。20年4月の完成を目指す。先月17日に白紙撤回を表明して1カ月あまり。安倍晋三首相は「従来の案より1000億円以上削減し、大幅なコスト抑制を達成した」と成果を強調する。政府主導の見直し作業は従来計画の基本設計で示された1625億円は「超えられない」と、発表前日までぎりぎりの削減が続けられた。
見直し作業は予想外の事態から始まった。従来計画で公表された総工費は2520億円。しかし、これとは別に追加整備のため131億円が必要だったことが新たに判明したのだ。内訳は芝生の育成施設(16億円)や最寄り駅との間を結ぶ連絡通路(37億円)など計81億円。さらに大会組織委員会が電源の複線化などに費やす50億円。事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は「芝生育成は競技場の完成後に設置するもの。連絡通路も敷地外のため盛り込まなかった。意図的に低くするつもりはなかった」と釈明したが、政府関係者は「五輪に必要な整備。JSCも文部科学省も公表しなかったのはおかしい。これで議論の土台が変わってしまった」とあきれた。
これにより、比較対象の金額は2651億円に膨らんだ。つまり設計・監理などの関連費用(98億円)、開閉式屋根(182億円)など大会後に設置を先送りした工事費299億円を含めると、実質的な総工費は3048億円。イラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏がデザインした従来の旧計画は最後まで3000億円台を下回ることはできなかった。いかに従来の計画がずさんだったか。改めて突きつけられてコスト削減が始まった。
何を削るか、何を残すか。政府関係者は「総工費の数字は毎日動いた」という。最も削減効果が大きかったのは、従来計画の象徴だった「キールアーチ」。これを白紙化して屋根の費用は950億円から238億円に縮小。延べ床面積も22万4500平方メートルから19万4500平方メートルと13%削減した。政府関係者は総工費が「建設業者の言い値だったことも大きかった」と振り返る。
総工費は当初1700億〜1800億円が想定されていたという。しかし、遠藤利明五輪担当相は「国民の理解が得られない」と判断。削減を続け、26日の段階では1640億円までに減らした。最後に手をつけたのが100億円程度の空調施設。真夏の大会のため熱中症対策として要望は強かったが、遠藤氏は27日に安倍首相に報告して、決断した。はじかれた数字は1550億円。「最後は官邸の判断。1625億円は超えてはならない」と文科省幹部。大幅な削減策は何とかまとめたが、乗り越えなければならない課題は多い。【田原和宏、三木陽介、山本浩資】