2015年08月21日

科学の化けの皮が最後の一枚まで剥がれた調査捕鯨

◇いよいよ崖っぷち! 科学の化けの皮がとうとう最後の一枚まで剥がれた日本の新調査捕鯨

 みなさんはクジラの季節≠チてご存じですか?
 鯨肉の旬? いえいえ。
 国際司法裁判所(ICJ)での調査捕鯨裁判敗訴のA級戦犯ながら、国民をまんまとだまくらかした功績を買われて(?)事務次官にめでたく昇進した本川一善氏は、水産庁長官時代の2010年に国会で堂々と「ミンククジラの刺身は美味いし香りもいい!」とのたまったわけですが、彼ら霞ヶ関や永田町の連中が高級料亭でつつく刺身鯨肉は、季節が反対のはるか南極の海で捕って冷凍庫に放り込んでたもので、旬もへったくれもありゃしません。
 捕鯨問題ウォッチャーの間で使われるクジラの季節≠ニいえば、主に6月前後に開かれる国際捕鯨委員会(IWC)年次会合の時期と、日本が南極海に調査捕鯨船団を送り込み、反捕鯨団体シーシェパード(SSCS)とすったもんだする冬のこと。
 もっとも、IWC総会は、(日本のネトウヨ以外の)誰もが毎年のお祭り騒ぎをバカバカしく感じ始めたり、予算の都合もあって隔年開催となりましたし、南極海上で繰り広げられていたプロレスの方もマンネリ気味だったことから、SSCSがもう手を引くと宣言しましたが。
 今年はその総会の狭間の年にあたり、サンディエゴでIWCの下部組織にあたる科学委員会(IWC-SC)の会合のみが開かれました。そのせいもあって、マスコミの報道も低調。いつも熱心に騒ぎ立てる産経すら、開催前の報道のみで、肝腎の会合の結果については口をつぐんだほどです。この辺りは前々回の記事で取り上げたところ。

 そうはいっても、今年のクジラの季節≠ノはひとつ非常に重大な動きがありました。
 捕鯨ニッポンの敗色がいよいよ決定的になったのです。
 ICJの判決は、さすがに中立性を重んじる国際的な司法の最高権威だけあって、「9割方日本の負け」といった程度。
 今回、そのICJの判決を受ける形で下された、IWC-SCと専門家パネルによる新調査捕鯨計画の評価は、日本側にとって残り1割の理すらも完全に吹き飛ばすものでした。まさに致命的な打撃
 もっとも、それは自ら掘った墓穴であったことも明らかなのですが……。

 まず、国内でこの件がどのように報じられたか見てみましょう。
 産経はせっかく応援してあげたのにシラを切り通したので、パネル報告とSC会合の両報道がそろっている日経と時事の記事のリンクをご紹介。

■調査捕鯨再開へ追加調査 政府、IWC科学委の報告受け  (4/13,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF13H1G_T10C15A4PP8000/
■日本の調査捕鯨再開、IWC委は両論併記 追加調査求める (6/19,日経)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS19H4Z_Z10C15A6EE8000/
■日本の新捕鯨計画「不十分」=IWC専門家会合が指摘 (4/13,時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201504/2015041300819
■日本の調査捕鯨再開に賛否=IWC科学委の評価公表−水産庁 (6/19,時事)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201506/2015061900875

 日本国内のマスコミはどこも、専門家パネルで宿題≠出されたことと、SC会合での「両論併記」を報じています。
 なんだか釈然としませんよね。注意深く読まないと、再提出した宿題≠ヨの評価が「両論併記」だったのかと一般の読者は勘違いしそうです
 しかし、ここでいう両論併記とは、再提出された宿題の評価が○か×かで割れたことを指しているのではありません
 「宿題をこなしてこなかったんだから、当然新しい調査捕鯨なんかやらせられっか!」「宿題は終わってないけど、調査捕鯨はやっていいぞ!」両論なのです。
 AP発の海外メディア報道では、日本の出した宿題≠ノ対する「情報が不十分でまだ追加作業が必要だ」というIWC-SCの結論が、日本のメディアと異なり省略されることなく、しっかり伝えられています(以下のリンクはジャパンタイムズですが)。


But the commission's 2015 Scientific Committee Report found the new proposal "contained insufficient information" for its expert panel to complete a full review and specified the extra work that Japan needed to undertake.(引用)

 なぜそんなとんでもない両論併記があり得るのかって?
 その答えは簡単。「終わってないけどやっていい」と主張しているのはズバリ内輪=A日本側が送り込んだメンバーだから……。

 では、一体具体的にどこが問題だったのでしょうか。
 間に合わなかった宿題≠ノついては、IKA-Netニュース61号の記事中できっちり解説されています。論者は早大客員研究員・真田氏。

■日本の新調査捕鯨計画(NEWREP-A)とIWC科学委員会報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/312-newrep-a-iwc2015

 以下に、最も重要な部分を抜粋しましょう。

 以上のように、日本側が致死的調査・サンプル数の妥当性の評価に必要不可欠な作業に関する勧告と自ら言明している項目についても、全てについて疑問点が提示され、批判が加えられている。これを受けて科学委員会は「ワーキンググループの結論に合意する」とともに、日本の追加説明に示された分析は不完全であり、十分な評価をすることができない」こと、したがって「十分なレビューを行うためにより詳細な情報が必要である」との点で合意している 。41 名の科学委メンバーはこれとは別に共同ステートメントを発表し、日本側がサンプル数評価に必要不可欠なとしている項目についても作業が完了していないのであるから、新調査計画の下で捕獲調査を行うことが正当化させるかについての十分な情報が未だに得られていないことは明白であり、致死的調査が必要だということが証明されておらず、捕獲調査を行わず専門家パネルの勧告で求められていることを実施すべきであると結論付けている。(引用)

 そう……IWC-SCは日本側が要求された課題に応えられなかった、宿題を果たせなかったことを公式文書中ではっきりと認めているのです。明白に合意されているのです。
 日本側が送り込んでいる御用学者達ですら、この点に関しては反論の余地がなかったのです。

 こちらのSC総会前に示された専門家パネル報告の分析もあわせてご参照。

■新調査捕鯨計画専門家パネル報告|IKAN
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities/whaling/307-rwnprc2015-snd

 IWCと水産庁による一次ソースはこちら。水産庁の資料は、SC会合開催前の「宿題ならバッチリやってやるぞ!」宣言──。

■2015 Scientific Committee Report | IWC
https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=5429
■新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP−A)に係る国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会レビュー専門家パネル報告書への対応について|水産庁
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/review1.pdf

 詳細はぜひ記事をお読みいただきたいと思いますが、かいつまんで言うとこんな感じ──

 ホゲイニッポン君は、IWC大学の学生。
 宿題のレポートを提出したところ、教官に「こんなんじゃダメだ。来月までに書き直し!」と言われてしまいました・・
 ホゲイニッポン君は、「こことここを直しゃいいんでしょ? そんなの簡単です。来月までに必ず直してきます!」と、先生に胸を張って約束しました。
 ところが、翌月になってホゲイニッポン君が再提出したレポートは、「なんだ、やると言ってたくせに全然できてないじゃないか。ボツ!」とまたもやダメ出しを食らってしまいました。
 IWC大学の教員の半分はホゲイニッポン君の身内で、これまでずっと彼をエコヒーキしてきたのですが、そんな彼らもこれ以上彼をかばうことはできず、大学の公式の履修記録で「ホゲイニッポン君のレポートはダメダメだった」とはっきり書かれてしまいました・・・
 おしまい。

 まあ、理研を追い出された某カッポウギリケジョも顔負けのありさま。
 日経・時事・NHKほか日本のマスコミは、森下IWC日本政府代表の「誠意をもって対応する」というコメントを、パネル勧告後もSC会合後も度々引用しています。
 これもまさに、記者会見のフラッシュの中、「STAP細胞はあります!」と叫んだ元理研研究員・小保方氏の台詞と同じ重みしかなかったわけです。
 科学を標榜しながら、ここまで科学を愚弄する分野が、日本の御用鯨類学をおいて他にあるでしょうか!?

 日本の公海調査捕鯨はいよいよ崖っぷちにまで追い詰められました。
 厚く塗りたくった真っ白な科学の化粧はすべて剥がれ落ち、地の肌が丸見えになりました。
 下から表れたのは、「ミンクの刺身美味い!」と舌なめずりする、知性の欠片もない突っ張った欲の皮。
 世界はかつてないほど厳しく、かつ冷静に、捕鯨ニッポンを見つめています。SSCS V.S.日本チームのプロレスに煽られることもなく。
 支離滅裂な言い訳はもはや一切通用しません。へべれけになって「日本たたきだ!」と管を巻く酔客じみた捕鯨擁護者以外には。
 永田町の国会議員らがそのレベルだというのは、この国にとって不幸でしかありませんが……。

 せっかくICJが花道を用意してくれたのに……。
 判決前に約束したとおり、国際法を遵守する姿勢を貫いていれば、世界中の市民が日本の潔さを賞賛したでしょうに……。
 いまの北朝鮮、あるいは戦中の日本軍上層部をも髣髴とさせる、面子をすべてに優先する理性を欠いた行動に突っ走り、このうえさらに恥の上塗りを重ねようというのでしょうか?
 東京五輪を前に、わざわざ世界に向かって自ら盛大な逆宣伝をやろうというのでしょうか?
 (一国民としては、調査捕鯨と同じく、一過性のイベントに莫大な税金を注ぎ込んでほしくはないけど。。)

 まだ間に合います。
 今こそ南極海捕鯨からの完全撤退を!!


◇クジラコンプレックス Comming Soon!

 上掲のIKANニュース解説記事も書かれた真田氏と、『解体新書「捕鯨論争」』の編著者、東北大准教授・石井氏の共著。
 クジラ本はこれまで両サイド・外野から山ほど刊行されていますが、ICJ判決について詳細に論じたものはありません。まさに他の追随を許さない捕鯨論争のバイブル。
 この秋発売、すでに各ネット書店で予約も始まっています。要チェック!

■クジラコンプレックス|東京書籍
http://www.tokyo-shoseki.co.jp/books/80925/
posted by カメクジラネコ at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会科学系
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/161982529
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック