三菱商事は28日、東南アジア最大の農産品商社オラム・インターナショナル(シンガポール)と資本・業務提携すると正式発表した。同社が高いシェアを持つコーヒー豆やカカオなどを調達し、世界規模で加工・販売する。大手商社の食糧事業の大型買収はこれまで狙った効果をあげられず、いわば鬼門だ。約1300億円を出資する提携の成算はどこにあるのか。
「オラム(の業績)は市況変動の影響を受けにくい」。同日、三菱商事がアナリスト向けに開いた電話での説明会。提携をまとめた京谷裕執行役員はこう自信をみせた。
オラムの株式の20%を取得する。同社の2014年12月期の連結売上高は約1.8兆円、純利益は約571億円。穀物メジャーの米アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドからカカオ豆事業を買収する資金などを確保するためパートナーを探していたところに、三菱商事が名乗りをあげた。
商社各社は石油、石炭、鉄鉱石など資源・エネルギー事業に依存する収益構造の転換をめざしている。景気などによる価格変動が激しいからだ。非資源分野強化という課題の中で着目したのが需要のブレが小さい食糧だ。
丸紅が米穀物メジャーのガビロンを買収し、三菱商事もノルウェーのサケ養殖・加工大手セルマックを傘下に収めた。だが、いずれも苦戦し、資源・エネルギー事業の落ち込みを補う役割を果たせていない。丸紅は15年3月期にガビロン関連で巨額の減損損失を計上。三菱商事のセルマック事業も天然物の豊漁見込みによる価格下落などで15年4~6月期は50億円の減益要因となった。
今回のオラムとの提携には商社がなめた苦汁を教訓にした節もうかがえる。「オラムは穀物メジャーなどとはひと味違う」(京谷氏)という。
一つは扱う農産物のユニークさだ。オラムは高単価で利幅が大きいコーヒー豆やカカオ、ナッツなどが中心。小麦やサケと違って寡占が進み、オラムの世界シェアはいずれも1~3位だ。取引先にはスイスのネスレなど世界の食品大手が並ぶ。
さらにオラムは創業地のアフリカを含め、世界65カ国で44もの農産品を扱っている。天候不順などで特定の地域や農産物の不作があってもカバーできる収益基盤を持つ。価格競争や作況に左右されにくく、安定して稼げるという読みがある。
三菱商事の傘下には英食品加工・販売大手プリンセスやローソン、提携先にもインドネシア食品流通大手のアルファグループなどもある。小麦など他の製品と違いを打ち出しにくい穀物と違い、オラムのカカオなどを使ってチョコレートやココアなどの嗜好品を手掛けることも可能だ。
オラムの生産・調達力と三菱商事の製造・販売力をあわせ、川上から川下までバリューチェーンを構築する――。肝心なのは、この絵を実際のものにできるかどうかだ。三菱商事はオラムに取締役2人を派遣する。経営に参画するのは、連携の実をあげる難しさを知っているからでもある。
セルマック、オラムと3千億円近い資金を投じた三菱商事。食糧事業を経営安定の礎にするという日本商社の宿願を果たせるか。最大手の力量が試される。
(藤本秀文)
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