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「非科学的な遺伝子組み換え作物論争に終止符を!」- 毎日新聞・小島正美記者に聞く遺伝子組み換え作物

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インターネット上だけにとどまらず、時に大手メディアにおいても、その危険性が叫ばれ、反対論などが展開される「遺伝子組み換え作物」。こうした状況に一石を投じる書籍、「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」が9月5日にエネルギーフォーラムから発売される。本書の出版過程において主導的な役割を務めたのが毎日新聞の記者である小島正美氏だ。小島氏は、当初遺伝子組み換え作物には否定的な立場をとっていたが、現在ではバイアスの強すぎる報道や情報を是正する活動に尽力しており、今回の出版はそうした活動の集大成だという。

小島氏に、自身が考えを変えた理由や、現在の遺伝子組み換えをめぐる報道の問題点について話を聞いた。(取材・文:永田 正行【BLOGOS編集部】)

アメリカの農業の現場を見て考え方が変わった

-最初に、本書を出版された動機を教えてください。

小島正美氏(以下、小島):以前から個人的に、過度に危険だとされている遺伝子組み換え(GM)作物に対する誤解を解きたいと考えていました。そんな時に、アメリカ人が中心になって書いた「The Lowdown on GMOs」という電子ブックと出会い、非常に面白いので翻訳して内容を知ってもらおうと思ったんです。

この本の一部は無料で電子書籍として読めるのですが、読んでみると日本の記者たちが今まで持っていたイメージとの違いもわかってきます。アメリカでは、日本より遺伝子組み換え作物が受け入れられているイメージあるのですが、実際には、トマトに注射器を刺した図などを見せて恐怖を煽っている反対運動があることも電子ブックで分かりました。

こうした状況を踏まえ、日米双方の記者、専門家、生産者の声を紹介する本を出せば、誤解が解けるんじゃないかと考えたんです。

-アメリカでは日本よりも受け入れられているというイメージが確かにありますが、実態は違うのでしょうか。

小島:サンフランシスコ、ロサンゼルスのあるカリフォルニア州やニューヨーク、ワシントンといった都市部ではけっこう市民団体を中心に反対運動がありますね。ただ、組み換え作物を実際に栽培している中西部では,あまり反対はないようです。

-多くの読者は、「遺伝子組み換え作物(GM)」という言葉は聞いたことがあっても、日本における具体的な状況はご存じないと思います。

小島:私自身は組み換え作物の輸入状況などをよく記事で書いてはいますが、それでも6~7割の人はよく知らないというのが現状でしょう。先日、民放のディレクターと話をしていたところ、その方も遺伝子組み換え作物についてよく知りませんでした。

現に日本は非常に多くの遺伝子組み換え作物を輸入しています。例えば、トウモロコシは、年間1440万トン輸入しているのですが、そのうちの約1000万トンが、遺伝子組み換えです。トウモロコシの場合、ほとんどが食用油か家畜のエサ、コーラのような清涼飲料水の甘味料などに使用されます。このように間接的な形で消費しているので、その実態が見えにくいのでしょう。

また、菜種、大豆についても、輸入の7~9割は、遺伝子組み換えになっていて、日本で流通しているのですが、その実態はほとんど知られていません。

-小島さんは、15年程前まで遺伝子組み換え食品に否定的で、そうした論調の記事も執筆しています。それが現在では、「農家の方の選択肢としてあってもよいのではないか」という風に考えを変えています。このようにお考えが変わったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

小島: 2002年に偶然「アメリカで実際の生産の様子を見に行きませんか?」というオファーを受けたことがきっかけでした。

それ以前は、恥ずかしいことに私は「遺伝子組み換え作物が普及しても、農薬は減らないし、収量も増えない」という内容の海外の論文を記事で書いたりしていました。ところが、実際に行ってみたら、現場では私の考えていたこととはまるっきり違うことが起きていました。生産者は口をそろえて「収量は増えます」「農薬も確実に減ります」「殺虫剤をまかなくて済むので、環境にもいいです」と言うのです。

農薬をたくさん撒けば、当然、地下水や川に流れていくこともあります。遺伝子組み換え技術を使えば農薬の量も減るので、川の農薬汚染も以前に比べて減ったという話もその時に聞きました。私が依拠していた論文と異なる現実を目の当たりしたわけですが、記者である以上、事実は事実として伝えなければいけない。自分が見たことを帰国して記事にしました。

-遺伝子組み換え作物に否定的な方々は「その農場だけは偶然そうだったんだ」などと反論するのではないでしょうか。

小島:最初に視察した時は、ネブラスカなど一部の州だけだったのですが、2年後に他の州も含めて、もう一度行ったところ、遺伝子組み換え作物を育てている農場が増えていたんです。実際に、どの生産者に聞いても、間違いなく農薬は減るし、収量は増えるし、環境にも良いんだという答えが返ってくる。一度目は、遺伝子組み換えのシェアが3~4割でしたが、さらに増えていたので「生産者が植えてみて、効果的だったからまた増やしたんだ」と考えました。私自身も最初の1年ぐらいは懐疑的な気持ちもあったのですが、これまでに8回の海外取材をした結果、もはや組み換え作物のメリットは揺るぎないものと考えざるを得ませんでした。

強調したいのは、途上国のアルゼンチン、ブラジル、フィリピンなどでドンドン使用する農家が増えていることです。途上国でも伸びているということは、零細な農家でも大きなメリットがあるということです。これまでに発表された内外の数百の査読付き論文によれば、組み換え作物が収量を上げ、農薬の使用を減らし、世界の食料問題を解決しうる力をもっていることは明白だと言えます。

-収量が増えたとしても、「それは大企業によって自社の商品を使うように操られて、結果的に搾取されているんだ」といった批判もあります。

小島:そうした批判はアメリカ国内でもあったようです。確かに、生産者に聞くと、遺伝子組み換え作物の苗の価格は高いです。しかし、彼らも商売ですから、ずっと損し続けるわけにはいきません。高くても買うということは、その高い値段を上回る収量があったと考えられます。つまり、苗代が高くても使用する生産者が増え続けていくということは、それだけのメリットがあるということです。

私の心の中にも、以前は多少なりとも「農家が巨大企業の操り人形に…」というようなイメージもあったのですが、実際に生産者に会ってみると、そんなことはありませんでした。どの農家に聞いても、「今年はあるメーカーから買ったけど、来年は別の会社から買うかもしれない」という人がいましたし、今でもいます。皆さんが毎回同じメーカーの車を買わなくてもよいのと同じです。

「農家が企業に操られる」と簡単に言う人がいますが、実際には難しいですよ。企業が毎年良いモノを作って出せば、農家は毎年買うでしょうが、ひとたび競合会社がより良いモノを出してくれば、誰だってそちらを選びます。私自身、そういう単純な競争のメリットのことをアメリカに行くまでよく理解していなかったということですね。

-一方で今まで遺伝子組み換え作物に批判的な記事を書いていたときは、市民団体の方などから「よくやった」などと賞賛されていたわけですよね。そうした方たちは、考えを変えられた小島さんに対して、反感を持ったのではないでしょうか。

小島:講演会などで市民団体の方々に、私が見た事実を伝えると誰も反論はしないんですよ。見たことは事実なので、それは理解してくれたと思います。ただ、それでも「大企業がやった動物実験は信用できない」とか「政府が安全だと言っているんだけど、本当にちゃんと動物実験を含めた審査をやっているのかどうか信頼できない」といった反論はいまもありますね。

さらに、一部の学者がやった実験の中には、内臓への障害が出たとか、免疫力が落ちたといったものがありますので、そういう否定的なデータを論拠に反論してくるケースはあります。ただし、そうした否定的な論文は、他の学者の大半から否定されており、学者の間では重みをもったものにはなっていません。STAP細胞がいい例ですが、一時的に注目を集めるものの、最終的に他の科学者によって淘汰される論文というのはたくさんあります。反対する人たちが論拠としている論文には、そういうものが多いですね。
[ PR企画 / 株式会社 エネルギーフォーラム ]

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