iOS 9アドブロックの実情
いや~、甘く見ていたかもしれません!
何をって「iOS 9」で搭載されるという広告ブロック機能です。
広告がブロックされること自体は別に構わないんですよ。何が困るってグーグルアナリティクスのタグまで弾かれるっていうではありませんか?!
「iOS 9でアドブロックが実装される」「Google Analyticsのトラッキングもできないらしい」みたいな噂が飛び交っているけれど、具体的にいえば、Safari内において特定のコンテンツをブロックするための機能が提供されるだけだ。クッキーやJavaScriptを含んだ特定コンテンツを停止できるので、結果として広告だろうがGoogle Analyticsだろうが遮断できるのだけど、PC用のブラウザプラグインではあたりまえにできていたこと。
今般、「広告を遮断する機能」と伝えられているのは、iOS 9に内蔵されるウェブブラウザ「Safari」に組み込まれる”Content Blocker"と呼ばれる機能だ。
(中略)
Content Blockerが、”Advertising Blocker”と名付けられていないのは、その名の通りウェブコンテンツ全体に作用するものだからだ。これまでもクッキーやポップアップコンテンツを拒否する機能はあったが、それらに加えて画像、音声、動画などを拒否できる。
ブロックするコンテンツを直接指定するのではなく、ウェブサイトごとに、系統立てて、コンテンツ構造からブロックするコンテンツをプログラミングできる。この機能を使えば、たとえば人気のニュースサイトに埋め込まれた、広告と思われるコンテンツのブロックすることで広告を遮断。そのことにより、データの読み込み時間や通信容量を削減できるというわけだ。
Safariで表示している任意のコンテンツブロックを「プログラミングできる」というのがポイント。逆に言えばそういうプラグインを作成して配布しなければならない。PCの世界にもアドブロックのためのプラグインがあるけど、どこまで普及したのかという話であるし、大抵のアドブロック開発会社はブロック解除のミカジメ料で成立している。
一般層にもアドブロックの知識が届きやすくなった憂鬱
妄想をするのは楽しいけど、実情はそんなところ。ただし、ここまで騒いでしまえば一般層にもアドブロックの知識が届くので、そちらの影響の方が大きいと思われる。PCのブラウザも含めて。
メディアも広告主もマッチポンプでアドブロック設定を誘発したがっているとしか思えない昨今。強いて意図を見出すのであれば構造的にブロックがしにくいてネイティブアドやインフィード広告や事実上のステルスマーケティングの価値を高めるという効果があるけど、あんまり良い方向じゃない。アドブロック開発会社のミカジメ料も値上がりしていくだろう。
アプリ内広告ではAppleが利益を独占できるのでブロック不可
APPLEは広告で利益を取らなくていいから広告を弾く。 GOOGLEを排除して取って代わるというなら代わりを誰かがやらなきゃならない。
APPLEにない検索エンジンの蓄積したデータ。 それを一朝一夕で交代するなんてとても無理、BINGを見りゃあどれだけ難しいかわかる。 GOOGLEに取って代わる……はぁ。 これまでの膨大なノウハウとデータを蓄積した企業を追い落とすのが公式ブラウザのブロック機能……いやいや。
Googleにとって変わることがないのは、まったくその通りなのだけど「広告で利益をとらなくていい」は違っていて、むしろ広告収益にかかるマージンの独占化を目指している。たとえばiOS 9の製品版でリリースされるニュースキュレーションアプリ「News」では広告を表示してAppleがマージンを抜いている。
「Newsアプリに配信して何か得するの?」と思うかもしれませんが、もちろんメリットはあります。Appleが提供しているモバイルアドネットワークの「iAd」が組み込まれており、「News」アプリ内に配信された自分の記事内に自動的に広告が挿入されるんです。この広告のクリックなどによって記事を配信している媒体や個人に広告売上の70%が入ります。もちろん残りの30%はAppleの取り分です。
ほかのアプリ内広告が消されるという話も聞いたことがない。アプリ内広告を表示するためにはAppleを通す必要があり、そこでの売上は確実にAppleの利益になるからブロック可能になるとは思えない。むしろ、どうやってコンテンツから広告利益のマージンを抜いていくかを考えている。
現在のAppleはマージンビジネス
単体でウェブ上で、なんてモノをAPPLEは出さない。 あくまでハードウェアメーカー。 APPLEの囲い込み……檻を嫌うひとらは「ジェイルブレイク」でAPPLEの囲い込みを抜けようとする。
現状のAPPLEの囲い込みはハードウェアで儲けるためではなくてマージンビジネスのためにある。Appleのプラットフォームに広告を出すのもアプリを出すのも、音楽を出すのも、アプリ内での課金にもマージンが必要となる。アプリ内に電子書籍の購入機能をつけるとAppleにマージンを支払う必要があるので、ブラウザで購入してからデータの同期というテイが必要になったり、アプリ内で買うと高くなるぐらいだ。
このKinoppyというアプリは読書アプリですが、アプリ内で電子書籍を買うことができます。つまり読書とストアを兼ねたアプリです。 そうなると紀伊國屋書店は、このアプリ内で売れた書籍に関してはAppleに30%を支払う必要があります。
価格が1000円の書籍でも、自社のサイトで売れれば手取りが1000円なのに、このアプリ内で売れれば手取りが700円になってしまいます。
紀伊國屋書店にとって、これでいいのでしょうか。
ここに落とし穴が。
実は、同じ書籍でも、iPhoneのKinoppyアプリ内のストアでは販売価格が高いんです。
露骨なプラットフォーム戦略
結局のところで、自由なインターネットではマージンがとれないので広告を含んだコンテンツがブロックされてもOKだし、確実にマージンがとれるアプリ内広告ではブロックできるような機能はつけないわけで、プラットフォーム戦略を露骨かつ忠実に実行している。Yahoo! JAPAN も自社に溜め込んだキーワードの販売をしはじめる気がする。
それがよいのか、わるいのかと言われば微妙なところなのだけど、ゲーム機やi-modeなどを筆頭にしてプラットフォームの胴締めになってサードパーティからマージンを抜くスキームは、むしろ日本企業が得意としていたビジネスであって、グローバルなプラットフォームを作れなかった日本の古い企業体質がーって居酒屋トークになっていく。
角川インターネット講座 (11) 進化するプラットフォーム グーグル・アップル・アマゾンを超えて
- 作者: 出井伸之
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日: 2015/07/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る